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航空専門誌の文林堂『航空ファン』&『世界の傑作機』公式ブログ

F-15Jの垂直尾翼

2010-07-22 15:00:23 | BLOG×記事


9月号の特集取材で福岡県の航空自衛隊築城基地に出かけた際、
正門を入って左側にあるグラウンドの隅に建てられたF-15Jの
垂直尾翼のモニュメントを見かけました。

この垂直尾翼、2008年9月11日に山口県沖で墜落したF-15J(72-8883)のもので、
墜落した現場の海上に浮いていたものを回収、事故調査の後に事故の教訓と
パイロットの生還を感謝する意味で飾られたものです。

事故は高度1万メートルを飛行中にエンジン温度が
制限値の1,000度を超えたと計器が警告、エンジンを再始動しても温度は下がらず、
エンジン出力を絞って飛行したものの墜落にいたったもので、
パイロットは軽傷を負いましたがイジェクトして無事でした。

取材中、事故の当該機を操縦していたパイロットとも会うことができましたが、
当時まだ経験も少なかったこのパイロットも、
現在は第304飛行隊の屋台骨を支える中堅。

当時を振り返り「事故のことは2ちゃんなどでかなり叩かれました。
『機体のこと何も知らないんだろ』とか『よく基地に帰ってこれたもんだ』とか。
マジで凹みましたよ…」と話してくれましたが、
事故調査委員会の「発電機の故障か発電機と計器をつなぐ線のショートで供給電圧が下がり
計器類が正常に作動しなかったと考えられるが、その原因は特定できなかった」
との最終調査結果を見ても、コックピットでパイロットができる対処は
ほとんどなかったことが理解できます。

そんな状況でも、異常の予兆が出てからのこのパイロットの対応は
教科書どおりともいえる的確なもので、部内では
非常に高い評価を受けていると聞いたことがあります。
もちろんとても高価な機体を失うことは損失ですが、
若くして訓練どおりの冷静な対応をでき生還したことは、
いたましい航空事故が発生することもあるなかで、評価すべきことだと思います
(現場復帰も迅速だったそうです)。

航空機に限らず、ほとんどの事故はなんらかのミスが
不幸にも重なって起きるのは間違いのないこと。
航空機事故の場合そのミスがパイロットのエラーであるとは限りませんが、
実際の事故を見ていくと、意外と“ベテラン”と呼ばれるような人たちが
引き起こしていることも少なくありません。

人間誰しも「慣れ」から注意や確認がおろそかになってしまったりするわけで、
実際事故が発生してからの対応にしても、やはり基本に忠実に対処することが、
被害を最小限に食い止めることなのだということでしょう。
私たちも身近なところで事故やトラブルを起こさないよう、
「慣れ」には注意しないといけませんね。

余談ですが、このパイロットが「マジで凹みましたよ…」
と語ってくれたことを第304飛行隊のある後輩パイロットに話すと
「いや、あの人はそんなんで凹むようなキャラじゃないですよ!」とニヤリ。
そしてこう続けました。「それがファイターパイロットです!」

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3 コメント

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Unknown (phantom_jpn)
2010-07-29 08:36:48
2ちゃんねらーは所詮素人の集まりですからそんなモンなんですよね~。
元地元の事故で、テレビのニュースで尾翼の一部が海に浮いているの見た記憶があります。
残念ながら事故というものは決して無くなりませんが、冷静に対応することで被害を最小限にとどめることができます。この記事はそのことがよくわかるエピソードですね。
返信する
事故についても公正、冷静に (編集部)
2010-07-29 11:39:27
>phantom_jpnさん
コメントありがとうございます。
インターネットというのは便利なツールですが、やはり顔の見えない、相互コミュニケーションのない(実際にはありますが、それは無視できうるものです)メディアなので、無責任な発言などが目立つのも事実、なかなか難しいものです。私などは航空ファンの評価が怖いので、2ちゃんは見ないようにしています(苦笑)。
事故については本文中でも触れているとおり、不幸にして複数の要因が絡み合って発生してしまうケースがほとんど。ただしそれはちょっとしたことで防げたり、被害を最小限にすることができます。ですから初心を忘れないこと、そして事故原因を究明してその後に役立てることは大切なのですが、報道などでも航空機事故となると、調査結果も待たずに「運用態勢の不備か」「パイロットが無理をしたのでは」などと勇み足の悪者探しが始まってしまうのも残念ですよね。私たちも身の回りの小さなことでも、やはり基本に忠実に、ということを忘れないようにしないといけませんね!
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Unknown (phantom_jpn)
2010-07-29 18:21:51
事故は「慣れ」からくる「おごり」「慢心」から来ることがほとんどだと思います。
私もいつも注意はしてますが、ついつい注意力不足でポカをやってしまいます。
事故に対するメディア(特にテレビ)の報道姿勢にはいつも疑問を持ってしまいます。事故は客観的事実に基づき検証されるべきで、ホンの一握りの情報でわかるものではないと思います。何かとすぐに結論を導きたがるあの姿勢はいつも不快に思っています。

私も1982年からの読者ですが(一部中断もありますが)航空ファンは写真も綺麗ですし、記事も事実を冷静に伝えてあり好きです。
ちなみに一番最初に買ったものは末巻に「F16バーズ」の写真特集が有る記事でした。
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