月刊 きのこ人

【ゲッカン・キノコビト】キノコ栽培しながらキノコ撮影を趣味とする、きのこ人のキノコな日常

『きのこの100不思議』

2012-01-31 12:49:25 | キノコ本
『きのこの100不思議』  日本林業技術協会 編

私が学生のころには書店の自然科学のコーナーでけっこう幅をきかせていた「100不思議シリーズ」の一冊。

何のことはない、いろんな人たちの持ち寄った見開き2ページ分のコラムを100コ寄せ集めたという、いくぶん投げやりながらも多彩な(悪くいえばゴチャゴチャな)内容。

社団法人が編集者(現 一般社団法人日本森林技術協会)ということで、原稿を依頼された人々が、森林総研や国立大の研究者など、相当に官公庁寄りではあるのだが、さすがにこれだけ人数がいるので(一人で複数書いてる人がいるので80人くらい)、かなりいろんな話が読める。メインはやっぱりキノコの生態や変わったキノコの紹介、それに栽培キノコや毒キノコ、薬用キノコなんかのエピソード。中にはオオキノコムシの研究やキノコの方言の地域性なんかの話もあっておもしろい。たまにアカデミック(マニアック?)過ぎてよくわからんのが混じってるけど。

今じゃ飯沢耕太郎さんが頑張ってるけど、文系方面からのアプローチが多ければ、もっと多様にできたと思う。ただ、それだとますます雑多でわけわかんなくなってしまうので(本屋のどこを探せばいいのか分からなくなる)、とりあえずこれでいいと思うよ、ウン。

三洋電機の研究者でヤコウタケの研究してる人がいたのには笑った。缶詰会社の取締役が次代のマッシュルーム工場について熱く語ってたりするのもいい。もっと民間の人ばかりを集めて同じような本をこさえてみたいなー。かなり面白い本になるかもしれん。


『ヤマケイポケットガイド15 きのこ』

2012-01-26 00:24:59 | キノコ本
『ヤマケイポケットガイド15 きのこ』  小宮山勝司

写真図鑑のヒットを連発してきた山と渓谷社の人気シリーズ『ヤマケイポケットガイド』の一冊。

手のひらサイズの携帯図鑑にはきれいなキノコ写真が収められており、さらに生育場所や発生時期、形の特徴などを箇条書きにしてあるきのこデータ、くわえておなじみ小宮山さんのソフトで要を得た解説文が添えられている。

構成は、発生場所別(シイ・カシ林、カラマツ林など)になっていて、キノコ狩りにはもってこい。箇条書きのデータが使い勝手がよい上に写真のレベルが高く、見ているだけでも楽しい。

スペースの都合上、掲載種が約220種と物足りないのと、字が細かくて読むのが少しつらいのがタマに傷だけど、数多あるコンパクト図鑑の中では傑作の部類に入るだろう。このサイズの制約の中でよくぞやった、という感じ。内容を別にしても、このサイズ、厚み、重さ、装丁の配色バランスまで含め、持っていてなんとも気持ちがよくて絶妙なのだな、これが。

ちなみにこの写真のは2000年発行の旧バージョンのもので、現在は2010年に発行された新装版『新ヤマケイポケットガイド10 きのこ』が出回っている。ところがこの新装版というのが、この旧バージョンのより大幅にダサい装丁で。しかも紙質が変わって厚みも重さも半分近くに。「コンパクトになって使いやすい」って?

違う、それは違うんだ!

ああ、せっかくのパーフェクト持ち心地が……ちょーっと責任者さん、出て来てくんないかなー。

『ライカ伝』

2012-01-21 20:57:55 | キノコ本
『ライカ伝』上・下巻  川崎ゆきお

個性の強い(アクの強い?)漫画家を集め、勇名をはせたマイナー漫画雑誌『ガロ』においてさえ、なおマイナーをきわめた漫画家・川崎ゆきおによる、えー、ファンタジー?SF?空想戦記モノ。

ストーリー:近代的な兵器を中核にした強大な武力をもって覇権を握っていた「ライカ帝国」の大王が凶弾に倒れた。彼のカリスマ性によってひとつに保たれていた帝国はにわかに団結を失い、同盟関係にある大国「ニホン国」の思惑もからんで、一触即発の状況に陥る。
一方、重傷を負ったまま行方不明となった大王だが、奇跡的な生還を果たすも国政にはもどらず、隠遁していた。彼の関心は、今やただひとつの疑問に集中していたのだ……『すべての人間にとっての母なる存在「神」は本当に実在するのか?』彼は隠密裏に少数の部下を集め、神が居ると伝わる北の砂漠の果てへと向かう……

時代も場所もよくわからないところで繰り広げられるスケールのでかいストーリーで、架空の世界地図や各国の勢力関係、さらに大まかな歴史の流れまで別紙にまとめてくっつけられている凝りよう。ただひとつ、大きな問題が……

この人の漫画、本当にヘタで。デッサンは狂いまくり。ネームはヘロヘロ。私でも描けそう。よくこれで漫画家を志したもんだなー。キングギドラに折りたたみ傘で立ち向かうほど無謀だと思う。画の下手さで日本随一といわれる蛭子さんも真っ青だね(どうやら仲良しのようだけど)。

タイトルでもわかるように、けっこうコアなカメラマニアらしく、国や地名にカメラメーカーの名なんかが使われてるけど、それはさておき。

この神様ってのが、キノコの形をしておりまして。っていうか、キノコで。このキノコと大王の会話の中で、世界の謎が解かれるんだけど、不相応に大きいと思っていた話の規模が、ここでさらにスケールアップ!そーいうお話だったのか!ということに。画はアレだけどストーリーは妙にいいんだな、これが。けっこー好き。



ちょっと入手が難しい漫画だけど、そこまでして手に入れるもんじゃないのもまた事実。

『家守綺譚』(いえもりきたん)

2012-01-16 22:23:16 | キノコ本
『家守綺譚』 梨木香歩

≪以下引用≫

 さて松茸である。
 まだ学生の頃、友人と連れ立って松江まで行く途中、丹波の友人の実家で松茸狩りをしたことがある。松茸狩りはそれ以来だが、吉田山を散策中にそれとおぼしきものを発見、匂いもたぶん間違いなかろう、というので食うてみたら違っていた。そのときは一両日の腹痛だけですんだが、あれは猛毒の何とかいう茸で、松茸とは似ても似つかないではないか、しかも腹痛だけですんだとは、ずいぶん野蛮な内臓であると、菌類が専門の友人から馬鹿にされた。それ以降茸の判別には多少自信を失っている。しかし和尚がああもしっかり裏山に出ていると断言したのだから、まあ、間違いなかろう。たとえ間違えたにしても、食べる段になって和尚がそれは違うと云ってくれるだろう。
 松茸というのはこういうところに生えるのだ、とゴローに云って聞かせながら、足先で赤松の根方の、腐葉土の積もったところなどを掘ってみせる。すると黒っぽく丸い、明らかにきのこの仲間ではあるのだが、松茸とはとても言えない何かが飛び出してくる。茶色い粉など吹きながら。
これは松茸、ではない。念のため、ゴローに断っておく。ゴローは最初から興味はなさそうにしていたのだが、ふいっとそばを離れると、どこかに消えてしまった。仕方がない、こうなれば自力で何とか、と目を皿のようにして辺りを見ていると、今行ったはずのゴローが帰ってくる。一匹ではない。連れがいる。犬ではない。人のようだ。尼さんだ。なんだか足元がふらついている。

 ――具合でも悪いのですか。
 思わず声を掛ける。
 ――苦しいのです。吐き気がして。頭が割れんばかり。
 ――大丈夫ですか。
 おろおろして思わずそう云ってしまったが、馬鹿なことを云っていると自分でも思った。見るからに大丈夫ではないし、本人もそう訴えているのに。

≪引用終了≫

梨木香歩。はじめてこの人の文章を目にした時、「こんなにきれいな文章を書ける人がいるんだ」と衝撃をうけたのを覚えている。それ以降、さほど多くない読書量の中で、新しくいくらかの作家さんの文章に触れてもきたけど、その印象はいまだ変わらない。すなわち、梨木香歩よりきれいな文体を持つ人に会ったことはない。もっとも、今の私にはこの文章は純度が高すぎて、一度にたくさん読むのがしんどいのだけど。えーと、酸素濃度がめちゃめちゃ高い空気を吸い続けるようなイメージで。

『家守綺譚』は明治か大正あたりの時代の京都のはずれ(たぶん山科あたり)を舞台にした小説。書生上がりの貧乏作家・綿貫は、とある一軒家の守りとして、そこに仮住まいをすることになる。ある雨の夜、掛け軸の中から今は亡き親友が訪ねてきて……というお話。数ページずつの小さな章建てになっていて、それぞれの章に草花の名が冠されている。それぞれの話はその草花が鍵になるという、植物に造詣の深い作者ならではの構成。作中でカッパやら狸やら、もののけの類が出てきても、ごく自然に受け入れられてしまう雰囲気が心地よい。

引用したのは『ホトトギス』の章。松茸のほかにキノコが2種類登場していて、それを想像してみるのがおもしろい。

間違えて食ったのはカキシメジ?でも似ても似つかないで猛毒なんだったらコテングタケモドキも範囲内かも……とか、松林にある黒っぽくて半地中の腹菌ってなんだろう、ああ、でも落ち葉に隠れてただけかもしんないから、どの線もあるな……とか。

キノコは動物でもなく植物でもない境界線上の存在なので、人間界ともののけ界、ないし、あっちの世界?との境界が曖昧なこの物語の世界観にふさわしいんでしょうな。

まあストーリーとかはさておいても、私が惚れこんだのは、この文章の「音」の流れの気持ちよさなので、そういう視点で引用文をもう一度読んでみてくださいーな。めっぽう朗読向けなのであります。

『センセイの鞄』

2012-01-08 21:47:06 | キノコ本
『センセイの鞄』 川上弘美

≪以下引用≫

「ツキコさん、その魚は生きがよさそうだ」
「ちょっと蠅がたかってますよ」
「蠅はたかるものです」
「センセイ、そこの鶏、買わないんですか」
「一羽まるごとありますね。羽根をむしるのが難儀だ」
 
 勝手なことを言いあいながら、店をひやかした。露店はどんどん密になってくる。軒をぎっしりとつらね、呼び込みの口上を競いあっている。
 おかあちゃん、このにんじん、おいしそうだよ。子供が買い物籠を提げた母親に向かって言っている。おまえ、にんじん嫌いなんじゃなかったの。母親が驚いたように聞く。だって、このにんじん、なんかおいしそうなんだもん。子供は利発そうな口調で答える。ぼうやよくわかるね、うまいんだよっ、この店の野菜は。店の主人が声をはりあげる。

「うまいんでしょうかね、あのにんじん」センセイは真剣ににんじんを観察している。
「普通のにんじんに見えますけど」
「ふうむ」
 
 センセイのパナマ帽が少しはすになっている。人波に押されるようにして歩いた。ときおりセンセイの姿が人に隠れて見えなくなった。そこだけはいつも見えているパナマ帽のてっぺんを頼りに、センセイを捜した。センセイのほうはわたしがいるかいないかにはぜんぜん頓着しない。犬が電柱ごとに止まってしまうように、気になる露店の前に来ると、すぐさまセンセイも立ち止まってしまう。
さきほどの母子連れが茸の露店の前に佇んでいた。センセイも母子のうしろに佇む。
 かあちゃん、このキヌガサタケ、おいしそうだよ。おまえ、キヌガサタケ嫌いなんじゃなかったの。だってこのキヌガサタケ、なんかおいしそうなんだもん。母子は同じことを言い合っていた。

「サクラだったんですね」センセイは嬉しそうに言った。
「母子連れっていうのが、ちょっとした工夫でしょうかね」
「キヌガサタケってのは、やりすぎです」
「はあ」
「マイタケくらいにしておいたほうがいい」

≪引用終了≫


……とらえどころのないほんわりとした中に、時おり妖しさ、怖さが見え隠れしたりする独特の文体を持つ川上弘美のベストセラー。四十路手前の「ツキコ」さんと、その高校時代の教師で、どっからどう見ても正真正銘おじいさんの「センセイ」。師弟のような酒飲み友達のような恋人のような…という奇妙な間柄のふたりが、ほぼ四六時中酔っぱらいつつ、すっとぼけた掛け合いをしながら時を重ねていく。

ここに「キノコ狩」の話が入っていて、けっこう密度が濃いのでそれもおもしろいのだけど、それとは別に露店の市を二人で歩く話「ひよこ」の一節にインパクトがあるので引用してみた。……キヌガサタケ売ってるってすごいな、というか、茸の露店ってこういう場所に普通あるか?これ日本?

もっとも、この作者の場合、本人が酔っぱらったまま文章書いてんじゃないかと思われるフシがあるばかりか、ラリってんじゃないかと疑いたくなるような幻覚の描写もしばしば出てくるので、冷静なツッコミはなんら意味をなさない。本書の「キノコ狩」の話では、まさしく毒キノコを食べる話題になって、キノコ汁食べて酒飲んで干しベニテングタケ?噛んで、あげくに最後わけわからなくなっている。

キノコ作家の最右翼に認定してよいのではなかろーか。

よお兄弟

2012-01-01 00:51:13 | キノコ創作
よお兄弟   作:鳥居コデルマ

よお兄弟 あんた変わってるな
よお兄弟 あんたが変わってるのさ

なんだいその頭 鳩でも飼う気なの
どうだいそのお腹 子どもが生まれるな
なんだいそのチョッキ どこかで拾ったの
どうだいその帽子 ピエロのお出ましか

なにひとつ同じじゃない 笑えるくらいに
そうさだから兄弟 今日も酒がうまいな

よお兄弟 あんた大したヤツだ
よお兄弟 あんた大したヤツさ



明けましておめでとうございます
新しい一年が明けてしまいました

心機一転ってわけでもないけど
一念発起ってわけでもないけど

何とはなしに新鮮な面持ちになれる
ちょっとばかし嬉しいじゃありませんか

この一年が皆さんにとって
実り多きものでありますように