木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

適用違憲に関する芦部三類型の分析

2011-08-25 14:02:17 | Q&A 憲法判断の方法
Jiro様より、以下のご質問を頂きました。

芦辺先生の適用違憲の3類型

①合憲限定解釈が不可能である場合に法令を当該事件に適用するのは違憲である事例
②合憲限定解釈が可能であるにもかかわらず、法令の執行者が違憲的に適用したその適用行為が違憲である事例
③法令そのものは合憲でも、その執行者が人権を侵害するようなかたちで解釈適用した場合に、その解釈適用が違憲である事例

について、①の場合は、先生がブログでご指摘されている事例ですので、違憲の要素を抽出した上で一部違憲、
場合によっては法文違憲の処理をし事例に適用する。

②の場合は、法令を合憲限定解釈した上で、その法令を事例に適用し違法や無罪の処理をする(わざわざ違憲と言う必要はない)。

③の場合は、違憲審査が終了した無傷な法令を事例に適用し違法や無罪の処理をする(わざわざ違憲と言う必要はない)。

この理解でよろしいでしょうか?②と③が不安です…。



 ご質問、ありがとうございます。
 まず、①はその通りです。

1 ②合憲限定解釈について

 次に②です。合憲限定解釈の処理とは、ごくごく厳密にいうと

 法令の持っている意味うち
 「この処分をしてもよいし、しなくてもよい」という部分を無効にする
 部分無効の処理です。

 (そういう意味では、法令の部分無効の一類型であり、
  一部違憲と厳密には区別する必要はない、だといってよく、
  また、
  「わざわざ違憲」という必要はないですが、
  いいたければ、
  「この法令のこの処分を基礎づけ得る部分は違憲」とかと言ってもよいです。)

 (ちなみに、
  「この法令のこの処分を基礎づけている部分は違憲」が、私の言う部分違憲ですね。)


 このため、合憲限定解釈は、
 してもしなくてもいい解釈ではなく、しなくてはいけない解釈であり、
 わざわざ限定しない解釈をすれば、それは法令の解釈の限界を超える解釈になる、
 とお考えください。

 このため、②の場合には、おっしゃる通りの処理で構いません。

 芦部先生は、部分無効の概念を「適用違憲」という言葉で表現されており、
 合憲限定解釈は厳密には部分無効の例なので、
 芦部体系の中で、②の事例が「適用違憲=部分無効」の中に置かれるのは、
 まさに、体系的思考の帰結と、いうわけです。

2 ③法令そのものは合憲でも・・・。

 そして、③です。

 例えば、それ自体は合憲である住居侵入罪を、
     特定の表現を弾圧するために差別的な形で適用した
     なんて、ケース(立川ビラ事案を悪化させたようなケース)が想定されます。


 「法令は合憲」というのは、
 要するに、法文違憲ではない=合憲的適用例が一つ以上あることが明らか、ということです。

 それが違憲的に適用されたら・・・というのが、③の事例。

 こういう事例では、そうした適用の仕方が、
 法令の文言に反しているなら、おっしゃる通り違法と処理します。

 しかし、法令の文言がそうした適用を排除するようなものでない場合、
 例えば、上の事案で問題の刑法130条の文言には、差別的に適用してはいけないという文言はありません。

 こういう場合は、合憲限定解釈か一部違憲の処理をするしかない、ということになります。

 要するに、③のケースは①のケースと大差ないのですが、

 ①は、
 第三者所有物の例のように、
 その事案で処分をしなければならないことが明らかな文言であるため、
 合憲限定解釈をすべきかどうかを検討する必要のないケース。

 ③は、
 立川ビラ事件のように、
 処分をしないように法令を解釈できるかどうかが不明で、
 合憲限定解釈をすべきか、一部無効にすべきかを、検討する必要のあるケース。

 と、こういうことになるはずです。

うーん、しっくりこないなぁ、ということ
ありましたらお知らせください。

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33 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Jiro)
2011-08-26 10:46:43
ご回答ありがとうございます。

②のケースで、「この法令のこの処分を基礎づけ得る部分は違憲」とは、合憲限定解釈が違憲部分の除去方法であり、その判断過程を厳密に表現するとこのような評価になるということでしょうか。
すなわち、「この法令のこの処分を基礎づけ得る部分は違憲」だから、…のように合憲限定解釈する、ということになると理解してよろしいでしょうか。(適用行為が違憲なのではなく、合憲限定解釈の中で違憲という評価をする)

③のケースの「法令そのものは合憲でも」とは、法文違憲審査をクリアしたことを意味するのですね。そうすると、法令の文言がその適用を排除していない場合に、合憲限定解釈や一部違憲の問題が残ることがわかります。
私は、「法令そのものは合憲でも」を法令審査をクリアしたこと(あらゆる適用例で合憲である)を想定していたので混乱していました。しかし、よく考えてみると、法令審査をクリアしたのに違憲だという主張は、法令審査を失敗しているということですね。
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>Jiroさま (kimkimlr)
2011-08-26 11:55:34
②のタイプの場合を厳密にいうと、
まず、違憲処分を基礎づけうる部分を無効にする部分無効の処理。
次に、部分無効を前提にすると、いわゆる合憲限定解釈相当の解釈をするしかない。
だから、そう解釈する。

ということになるのでしょう。

③の理解はOKだと思います。

ではでは、また^-^>
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誤植ですか? (とお)
2011-08-26 16:03:15
細かいところですが,急所P102のQ9の一行目「Y県教育委員会の本件方針は,目的の正当性及び…」の「正当性」は『重要性』ではないでしょうか。
なぜなら、Q6で適法性審査基準を「重要な目的」と設定したからです。

先生のブログは憲法の勉強に大変役に立っております。直接,先生と議論でき大変ありがたいです。またコメントさせてください。

失礼します。
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>とおさま (kimkimlr)
2011-08-26 18:33:00
こんにちは^-^>

ご連絡いただいた点ですが、
問題2では、
そもそも目的が正当でない(から当然重要でもない)し、
そうでないとしても必要性が欠ける、
という議論の組み立てなので、
「正当性」と表現しているのだと思います。

厳密に書くなら、「正当性がないために、
当然重要性が欠け、また、必要性もない」
とすべきかもしれません。

ただ、そこまでの流れの関係で
正当性という表現を採用しました。

ではでは^-^>
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処分違憲について (ロメオ)
2011-08-26 20:03:38
法律が全く無傷としか解しようがない処分違憲も存在するようにおもえるのですが‥
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>ロメオさま (kimkimlr)
2011-08-26 20:47:02
どんな場合ですか?
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処分違憲について (ロメオ)
2011-08-26 22:55:25
愛媛玉ぐし訴訟判決が純粋な処分違憲だと思いました。
立川判決も純粋な処分違憲だと思っていたのですが、「急所」を読んで刑法130条に傷が無くもないかなと考えました。しかし、傷があるとすれば130条にも名誉毀損のように「ノ2」の規定を儲ける必要があることにはならないかなと

もっとよく考えてからにしようと思いましたが、拙速な投稿ですみません m(__)m
よろしくお願いいたします\(__)

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ロメオさま (kimkimlr)
2011-08-26 23:25:12
こんにちは。
どうもありがとうございます。

立川の事案を違憲と考えるなら、
確かに刑法130条ノ2を設けるべきでしょう。

また愛媛玉ぐしの事案は、
地方自治法上の知事の権限規定に基づく公金支出が問題となったものです。
自治法148条の知事の権限規定は、
きわめて広範かつ抽象的なもので、あの手の支出を禁じる文言はありません。

なので、愛媛の判決は、自治法148条の部分無効を前提にしたものだと考えざるを得ないでしょう。

あらゆる行政機関の行為には、法律の根拠がなくてはならず、
もし違憲な行政機関の行為があれば、
それを基礎づけている法律が無効になります。

処分それ自体が違憲といえるのは、
根拠法がない場合に限られるでしょう。

こんなかんじでどですか^-^>
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処分違憲について (ロメオ)
2011-08-27 10:29:21
明快で分かりやすいお答えありがとうございますm(__)m

同じような質問で申し訳ないのですが

○この場合、処分の基礎となっている法律も無効だと言うのは法律も「違憲」と言うことでしょうか?
それとも、処分違憲とは法律は合憲にもかかわらずと言う場合だから、法律は無効だけど違憲ではないのですか(?_?)
○法律は悪くなくて処分行為が専ら悪いと考えることは出来ないのでしょうか?
憲法に照して執行者に対しある法律の適用を差し控えさせることを期待してもよい場合があるのではないかと思います。
法律が無傷ではいけないのでしょうか(?_?)

重ね重ねすみません\(__)先生、よろしくお願いいたしますm(__)m
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Unknown (Jiro)
2011-08-27 12:40:29
ロメオさん。

"処分違憲と処分審査"(http://blog.goo.ne.jp/kimkimlr/e/4c22ddcf63d26c94412352b437c19c77
に木村先生のご回答が書かれております。

でしゃばってすみません。
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