木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

適用違憲または処分違憲(まとめ)

2011-10-28 12:22:40 | 憲法学 憲法判断の方法
さて、昨日に引き続き、今度は
「適用違憲」または「処分違憲」という概念についてまとめます。

さて、
<処分審査1>と<処分審査2>は、内容が異なる審査であり、
その帰結も、異なります。


1 <処分審査1>の帰結

まず、<処分審査1>の結果、
法令に違憲部分があることが判明したとします。

 <処分審査1の帰結1>
 この場合、合憲限定解釈でその部分を除去できないなら
 可分の意味の一部の違憲とします。
 (これはいわゆる芦部第一類型です)

 <処分審査1の帰結2>
 他方、合憲限定解釈でその部分を除去できるなら、
 合憲限定解釈をします。
(これはいわゆる芦部第二類型です)

この二つの処理を併せて「適用違憲」ないし「処分違憲」という場合があり、
他方、
前者(1-1)だけを「適用違憲」ないし「処分違憲」という場合があります。
(用語法としては1-1だけを適用違憲・処分違憲とするのが一般的です)


2 <処分審査2>の帰結

さて、これに対し、<処分審査2>の結果、
処分が法令の要件を充たさなかったとします。
この場合、処分は、違法ということになります。
違法な処分は、根拠法なき処分の一種であり、違憲ともいえます。

このような<処分審査2の帰結>を、
「適用違憲」ないし「処分違憲」という場合もあります。



3 芦部第三類型の理解の仕方

もっとも、この「処分違憲」は、
「法令は合憲だけど、処分は違憲」という状況を表す言葉として
使われることもあります。
(いわゆる芦部第三類型です)

問題は、
前段:「法令は合憲だけど」と
後段:「処分は違憲」という言葉の意味です。

第一の理解は、
前段を「法文全体は違憲ではないけど」という意味でとり、
後段を「この処分を基礎づける部分は違憲」という理解をするもの。

第二の理解は、
前段を「この法令に違憲部分はないけれど」
   (この法令を適用して得られる処分に違憲なものはないけれど)ととり、
後段を「この処分は法令の要件を充たしていないから違憲」と理解するもの。

第一の理解は、芦部第三類型を
法文違憲審査(=法文に合憲的適用例があるかどうか)を
クリアした法文(=合憲的適用例を一つでも挙げられた法文)について
その処分に適用される部分の無効が認定された場合として理解するものです。

この理解は、<処分審査1の帰結1>の一種といえるでしょう。

これに対し、
第二の理解は、<処分審査2>の帰結を表現しているものです。

芦部先生の記述からは、
第一の理解、第二の理解のどちらが正しいのか良くわかりません。
芦部理解も、両方の理解が拮抗しています。

私の立場は、だったら芦部第三類型は、さらに二つに分かれる
と理解しとけばいいだろう、という立場です。



というわけで、整理すると「処分違憲」と呼ばれるものには
次の四種類があります。

A型 処分審査1の帰結としてその処分を基礎づける法令の一部が違憲
   (芦部第一類型)
B型 処分審査1の帰結として合憲限定解釈
   (芦部第二類型)
C型 処分審査2の帰結として処分が根拠法要件を充たさない
   (芦部第三類型第二理解)
D型 合憲的適用部分があるので法文全体が違憲ではないが、
   その処分を基礎づける部分は違憲(A型の一種)
   (芦部第三類型第一理解)


 (芦部先生は、
  「第三者所有物没収事件は、第一類型にも第三類型にも分類できる」
  おっしゃっています。
  これは、D型(芦部第三類型第一理解)が、A型の一種だからですね)

と、いうわけで、私の議論は、芦部説と齟齬をきたさないわけなのです。
はい。
このことは、自分自身ではそれほど強く意識していなかったのですが、
やはり、孫弟子ということになるのでしょう。わはは。

・・・。
様々なご指摘を頂き、まことにありがとうございました。



4 「処分だけが違憲」論

さて、このように整理してくると、従来の通説(芦部説)に依拠する限り、
その処分を基礎づける法令は合憲だが、
その処分は違憲だ、という違憲合法論的な処理はあり得ない
ということになります。

A型もB型も、その処分を基礎づけている法令の一部は除去されています。
C型は、その処分が根拠法の要件を充たしていないので、違憲違法型。
D型も、その処分を基礎づけている部分は違憲になっている。

さて、ところで、今回議論を進めているうちに、
やっぱり、根拠法合憲・処分違憲っていう事例はあるでしょう、
というご指摘を、複数の方から頂きました。

そして、そうしたご指摘をされる方は、

「だって、法令合憲・処分違法という概念がないと、
 違憲が、立法府ではなく、行政府に帰責される場合に
 責任の所在があいまいになるではないか?」

という問題意識をお持ちだ、ということも分かりました。

そこで、次回は、この点に対し、私なりの反論をさせて頂こうと思います。
結論を先取りし一言で書いておくと、

 「法的責任は、法人格に帰属する」という法学の大原則に
 戻って考えてみて下さいよ!

ということになります。
ではでは、また次回お会いいたしましょう。




補足 用語法の問題

ここで、補足いたしますが、
「適用審査」「処分審査」という言葉と、
「適用違憲」「適用審査」という言葉は、
<処分審査1>を「適用審査」、その帰結を「適用違憲」といい、
他方、
<処分審査2>を「処分審査」といって、使い分ける論者もいます。

他方、これを区別せずに同じ意味の言葉として
使う人も多いです。
(私は、<処分審査2>を違憲立法審査の一種ではないと
 考えているので、これを「処分審査」と呼ぶことは
 不適切だと思っていますが、
 ここはまぁ、ある程度好みの問題でしょう)

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
処分審査2について (T・K)
2011-11-19 19:28:18
すみません、1つ質問させてください。

処分審査2についてなのですが、処分審査2はまず、法令の憲法適合性を判断する(これが処分審査1でまちがいないですか?)。
そして、問題となっている法令の要件事実に、司法事実をあてはめていくという理解をしました。

私の理解ですと、これは処分審査1を先生の「憲法の急所」(p31~)に記述がある処分審査や法令審査に該当し、処分審査2ではp38の「当該事例の処理」に当たるのではないかと思いました。

処分審査というのは、その処分を基礎づけている法令、という意味であると理解しています。

とすると、処分審査2は「事例の処理」の部分でしか、使わないということになると思いました。

私の理解のどの部分に間違いがあるのでしょうか?
お忙しいとは思いますが、よろしくお願いします。
返信する
>T・Kさま (kimkimlr)
2011-11-19 20:54:16
おっしゃる通りです。

この記事にいう処分審査2というのは、
要するに、法令審査や処分審査1をして
違憲部分が発見され、それが除去された場合の
「事例の処理」のことで、
私は、これを憲法判断の一類型と位置付ける
必要はないと思っています。

なので、『急所』では、この処分審査2が
「事例の処理」という用語で表現されているのですよ。

ではでは。
返信する

コメントを投稿