木村草太の力戦憲法

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3月25日MARRIAGE FOR ALL JAPAN集会

2021-03-25 20:28:16 | 憲法一般
2021年3月25日 MARRIAGE FOR ALL JAPAN
第3回マリフォー国会 にて 3月17日の札幌地裁同性婚判決を解説しました。
集会の様子は、こちらで全編ご覧いただけます。
(私の解説は41:00~53:07)

その時の原稿を公開します。
今日のおひるは、日比谷公園で読み上げの練習をして、うろうろしながら最終校正をしてました。
皆さまの参考にしていただければ幸いです。

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1 はじめに
少し堅苦しい話から始めます。
憲法14条1項には2つの内容があります。
一つ目は、不合理な区別をしてはいけないという平等権の保障。
もう一つは、類型に向けられた否定的な評価、つまり差別の禁止です。

私は、数年前まで、婚姻という制度に強い思い入れがなかったこと、
欧米と異なり、日本には伝統的に同性愛行為を処罰する法律がなかったことから、
同性婚の問題は、婚姻の個々の効果の区別の合理性で検討すればよいと考えていました。

しかし、
「憲法24条は同性婚禁止条項」と読むことに固執する人をたくさん見てきました。
24条を同性婚に適用する解釈は、
直接適用か類推適用かはともかく、十分可能だし、少なくとも同性婚禁止解釈はありえません。

今回の判決も、24条同性婚禁止説などとっておらず、
被告国ですらそのような主張はしていません。

専門家がそう言っても、地裁判決が出ても、頑なに同性婚禁止解釈に固執する人々を見て、
これは、あまりに不合理で、
同性婚の問題は差別問題として扱わざるを得ないと考えるに至りました。

今回の判決について、ここ数日、
「判決は同性婚禁止説をとった」とか、
「判決によれば、憲法が祝福を与えたのは異性婚だけで、同性婚に祝福を与えていない。」とか、「判決は同性愛者には婚姻の効果のほんの一部だけ与えておけばそれでよいと言っている」
といった趣旨の言説に触れた人は多いのではないでしょうか。

これは、判決を台無しにする言説です。
こういう言葉に触れて傷ついた人がいるかもしれません。
しかし、同性婚を法制化しようという人は多く、若い世代では、圧倒的多数です。
自信をもって、判決の内容を正しく理解しましょう。

2 判決の解説
さて、判決の解説です。4つのポイントがあります。

(1)憲法24条について
第一のポイントは、憲法24条です。
この憲法の文言自体は、異性婚の男女平等をうたっています。
また、婚姻において、当事者特に女性の意思の尊重も定めています。
判決は、「文理解釈」、つまり、文言に着目し自然に読めば、
「憲法24条は、同性婚について何も言っていない」と言います。

「何も言っていない」は同性婚の禁止ではありません。
表現の自由を保障する憲法21条は「営業の自由について何も言っていません」が、
これが営業の禁止を含まないのと一緒です。

では、24条を同性婚に適用することはできないのでしょうか?

もちろんできます。
「憲法に『Aに権利を保障する』と書いてあるけど、
 Bにもその権利を保障しないと不合理だ」
という場合はありえます。

この場合、法律家は、まず、Aの概念を広げて、Bを含めることを考えます。
例えば、憲法22条の「職業選択の自由」の保障は、
文言上は職業の「選択」ですが、ここには職業の「継続」も含むと解釈されています。
憲法24条にも、「両性」・「夫婦」とは男男・女女の同性カップルも含むという説明は、
十分成り立つでしょう。

また、類推適用という手法もあります。
今回の判決の論評の中で、
「同性婚を認めないのが憲法14条違反なら、
 異性婚のことしか書いてない憲法24条も憲法14条違反じゃないか」と言っているものがありました。
無茶苦茶言っているように見えますが、補助線としてはいいセン、いっています。
実は、私も意見書を書きながら、同じようなことを考えました。

憲法の条文が不合理な区別をしているように見える場合の正解は
違憲無効ではなく、類推適用です。

実は、当の14条自体が不平等です。
この条文の文言は法の下に平等なのは「国民」だとしています。
でも、アメリカ人とカナダ人で不合理に区別したり、外国人を差別したりしていいわけはありません。
なので、最高裁判例は、憲法14条が外国人にも類推適用されると言っています。

憲法24条を同性婚に類推適用することもできるはずです。
しかし、札幌地裁判決はそこまでは踏み込みませんでした。
ここは、これからの裁判、憲法学説の重要な争点になります。

(2)憲法14条1項について
第二のポイントは、憲法14条です。
判決は、民法・戸籍法の異性婚と同性婚の区別は不合理で違憲だと結論しました。

もちろん、異性婚と同性婚にはどうしても生じてしまう違いがあります。
ただし、判決は、
婚姻は身分行為で、契約や遺言では代替できないし、
「異性愛者と同性愛者の違いは、
人の意思によって選択・変更し得ない性的指向の差異しかなく、
いかなる性的指向を有する者であっても、
享有し得る法的利益に差異はない」と言っています。

判決は、同性婚と異性婚の要件・効果、制度の名称などは原則として同じでなければならず、
区別していいのは、どうしても区別する必要がある場合だけ、
という方向で書かれています。

ちなみに、判決は、14条論の根拠として、
「憲法24条が異性婚を保護していることから、
婚姻できることは、憲法で保護されるくらい重要な利益だ」とも言います。
憲法24条が14条を通じて間接適用されたとも言えます。

ですから、原告のみなさん、安心してください。
判決によれば、同性婚も、異性婚と同じように
「憲法に根拠を持つ、憲法に祝福された婚姻」です。

(3)婚姻制度の立法裁量
第三のポイントは、立法裁量です。
判決は婚姻制度について立法裁量があると言っています。

立法裁量とは、立法上の合憲な選択肢の幅のことを言います。

立法裁量の強調は、同性婚を立法しなくていいという意味ではありません。
判決によれば、同性婚を認めないのは違憲だから、合憲な選択肢ではありません。

同性婚を、二級の婚姻と位置付け、別制度とすることにも否定的です。
アメリカでは、黒人奴隷が解放されたあと、平等な権利を与えられましたが、
黒人用と白人用で、学校や公共施設が分けられる差別が継続しました。
悪名高い「分離すれど平等」です。
同性婚を二級の婚姻と位置付けるために、婚姻と別制度で立法するのは、
判決を前提とすれば合憲な選択肢ではなく、立法裁量を逸脱します。

判決が「立法裁量」を強調するのは、婚姻制度にはいろいろな選択肢があるからです。

婚姻制度について、ものすごくラディカルな人は、
「じゃあ異性婚も含め婚姻制度を解体し、全部契約にしよう」と言います。
それはそれで平等でしょう。

婚姻制度を続けるにしても、配偶者の相続分をどのくらいにするのか。
同居義務を必須にするかどうか。合憲な選択肢はいろいろあります。

裁判所は、それに関する国会の判断を尊重するために立法裁量を強調しているのです。
同性婚を貶めるための立法裁量など認めてはいません。

(4)異性婚との違い
第四のポイントが異性婚との違いです。
札幌地裁判決は、同性婚と異性婚は原則平等としつつ、
完全に同じにしないといけないとは言っていません。

議論になりそうなのが、親子関係に関する効果です。
現在の民法には、婚姻中の女性が出産した場合、
その子は、夫の子どもだと推定する「嫡出推定」という規定があります。

同性婚に嫡出推定の効果を及ぼすのは当然として、
「子の誕生に関わった他の人物との関係をどうするのか」は丁寧に検討する必要がありそう。

少し専門的な話をすると、この制度は、
配偶者の子どもの「親になる意思」を重視する傾向にあり、
生物学的な親との関係は考慮しないという制度もあり得ます。

他方で、子どもからしたら「自分の出自を知りたい」というのも大事な権利の一つです。
当事者の合意等を条件に、出産に協力した人について公的に記録を残す制度を整備することも考えられますが、秘密を守りたい当事者の意思の尊重も慎重に検討する必要があります。
私には、この点はいまのところ落としどころが分かりません。
当事者の話をたくさん聞いてほしいです。

まずは嫡出推定の平等適用だけでスタートしてもいいかもしれません。

3 おわりに
以上が判決の4つのポイントでした。おわりに、幾つか印象と展望を述べます。

憲法判断では、「理由は分からんが結論はこんなもん」、みたいな判決をよく見ます。
しかし、今回の判決は、理由がよく分かります。
緻密な論証のできる学究肌の裁判官の方が書かれたという印象が強いです。

次に、国側の主張は、わけがわからないものが多く、
担当者の方々も、同性婚を否定する理由が分からなくて困っていると感じました。

世論調査の傾向を見れば、国の担当者の人の多くが同性婚に否定的とは考えられません。
そもそも、同性婚を立法していない責任は国会にあり、
政府の担当者は仕事で最善を尽くしているだけと思います。
そのお仕事には敬意を示したいと思います。

そして、今回の判決は、
他の同性婚訴訟の弁護団、国側の担当者の方々、
訴訟をあずかる裁判官の皆さんに大きなプレッシャーになると思います。
その緊張は半端なものではないでしょう。
しかし、私の尊敬する、ある将棋の棋士の方はこういっています。
「勝負事で、本当に怖いのは無気力だ。
無気力になるより、プレッシャーと緊張感がある方がよほどよい」

ぜひ、良い結果と判決を出してください。

さて、最後に一言。
原告側で、意見書を出しておいてナンですが、
私も日本国を構成する国民の一人、つまり、被告の一員です。
そこで、被告にご助言させていただきます。

この訴訟で国側が圧勝する方法が一つだけあります。
それは、国会で同性婚を立法することです。

同性婚が立法されれば、原告と国の対立は、ほぼ消滅します。
マリフォーを応援する全ての国会議員の先生方の努力に強く期待しましょう。

動画内での発言について

2021-03-23 16:41:10 | お知らせ
こちらの動画における私の解説・発言・他の出演者の方の反応です。

17:00から25:00ああたりまで木村による判決の解説。

「24条は同性婚禁止規定」との主張に対して、判決(18P)は、24条は「異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではない」と言っている。つまり、同性婚とは関係のない条文、ということだ。
中には、この個所を見て、「憲法24条は同性婚を禁止していると判決が言っている」と誤った解説を故意に流布している人がいる。しかし、それは明確な誤りなので、しっかりと読み直してほしい。

24条が関係ないとなると、平等権(14条)の問題になる。
まず問題となるのは、異性愛者と同性愛者との間に区別があるかどうか。
国の側は、同性愛者も異性となら婚姻できるので区別はない、と主張した。
しかし判決は、「異性愛者のカップルは、婚姻することにより婚姻によって生じる法的効果を享受するか、婚姻せずそのような法的効果を受けないかを選択することができるが、同性愛者のカップルは、婚姻を欲したとしても婚姻することができず、婚姻によって生じる法的効果を享受することはできない。そうすると、異性愛者と同性愛者との間には、上記の点で区別取り扱いがあるということができる」と判断した。

次に問題となるのが、何を平等にしなければならないのか。
同性婚では自然生殖ができないので、異性婚と全く同じ効果としてよいのかについて議論がある。したがって、婚姻の効果ごとに丁寧に見ていく必要がある。
同居義務・扶養義務等は、婚姻ではなく、当事者による通常の契約でも設定できるので、同性婚に認める必要はない、との議論があり、国も、そうした主張をしていた。
判決は、婚姻が身分行為であることを指摘したうえで、「婚姻と契約や遺言は、その目的や法的効果が異なるものといえるから、契約や遺言によって個別の債権債務関係を発生させられることは、婚姻によって生じる法的効果の代替となりうるものとはいえず、被告の蒸気主張は、採用することができない」とし、そのうえで、違憲の判断をした。

この部分について、「判決は、同性婚を認めないのが違憲だといったのではなく、婚姻のいくつかの効果を認めないのが違憲だといっただけだ」と解説をする人もいるが、それは判決をよく読んでいないと言ってよい。
なぜなら、判決は婚姻が身分行為であって、契約や遺言では代替できないと指摘しており、「身分行為としての婚姻」を前提とした同居義務・相続等を設定しなければ違憲だと明確に言っている。「同性婚を認めなければ違憲だ」と言った判決として読むのが正しい。
ただ、子どものこと等を考えると、完全に同じ効果にしてよいかは議論の余地があるので、「婚姻の全部の効果の享受を平等にしなければいけないか否かは」については、留保するとの立場をとっている。

46:30あたり
立法・政治の専門家ではないので、今後の立法・政治がどのようにしていくべきかについてはわからない。
憲法学の専門家としては、こうした訴訟をどんどん進めていくべきと考える。
昨日、とくに午前中の段階では、「画期的な判決が出た」と盛り上がっていたが、午後になり、この判決を前提にした議論がされるようになると、「この判決では不十分だ」という声が上がってくるようになった。それは健全だろうと思う。
例えば、24条についての踏み込みが浅い部分もある。この条文は、異性間の婚姻を法制度として保護することを定めているため、もしも、異性婚について法的保護を与えなければ、憲法24条違反となる。
「Aに権利を与える」と書いてあるときには、「Aと同じような人にも同じ権利を与えるべきだ」と、条文の類推適用をすることがある。例えば、憲法14条は、国民だけでなく、外国人にも類推適用だれている。あるいは、憲法31条は、刑罰だけでなく、行政手続きにも類推適用されている。
このことからすれば、同性婚にも憲法24条を類推適用する、という議論が成り立つ。原告はこれを主張したが、退けられた。
ただし、憲法14条を論じる際に、「婚姻によって生じる法的効果を享受する利益は、それが異性間のものであれば、憲法24条がその実現のための婚姻を制度として保障していることからすると、異性愛者にとって重要な法的利益であるということができる。異性愛者と同性愛者の差異は、性的志向が異なることのみであり、かつ、性的志向は人の意思によって選択・変更できるものではないことに照らせば、異性愛者と同性愛者との間で、婚姻によって生じる法的効果を享受する利益の価値に差異があるとする理由はなく、そのような法的利益は、同性愛者であっても、異性愛者であっても、等しく享有し得るものと解するのが相当である」という。
今回の判決について、「憲法24条は関係ないと言っている」とだけ言う人は、判決のこの部分を読んでいないのだろう。この判決は、「憲法24条を類推適用する」とは言っていないものの、憲法14条を通じて類推適用するかのような記述になっている。今回の地裁判決によって、控訴審で、憲法24条類推適用を主張していく基盤ができたとも考えられる。

53:40あたり
みたらし加奈氏が、ツイッター等で「同性婚を認めさせたいのであれば憲法24条を改正すべきでは」との意見があること、テロップにて「○○が、違憲はミスリードと発言していましたが、それについての解説も、お時間があればお願いしたいです。」との質問があること紹介した上で、「木村さん、憲法改正は必要なのでしょうか」と問う。
木村:「同性婚を法制化するためにということですよね」
みたらし:「はい」
木村:「少なくとも今回の判決を前提とする限りは、全く必要性がないというふうになりますので、判決文を読んだことがある人であればそういう結論になりますし、故意にデマを流そうと確信をもって差別している人は、そういうことは言わないでしょうね。ということで、その基準でぜひいろんな人のツイートとか発言を見てもらえればと思います」
みたらし:「違憲はミスリードの件についてはどう思われますか」
木村:「はい、えーっと、私が今示した基準だと、差別でしゃべっているか、判決を読んでしゃべっているか、どちらだと思いますか」
(木村註・聞き取るとこういっていますが、文脈上明らかなように「判決を読んでないで」の言い間違いです。)
みたらし:「差別でしゃべっている気がします」
木村:「そういうことになるでしょうね」
みたらし:「ありがとうございます」
木村:「差別をするときに、人間は事実を無視します。なので、いくら事実を言っても変えませんし、どんどん実際の判決文と違うことを言うと思います。」
他の参加者:「素敵、素敵。その通り」
      拍手の音。
木村:「私は平等権の専門家であると同時に、差別されない権利の専門家でもありますので」
みたらし:「はっきり言っていただけて、すごく心強いです」
須田:「すみません。今の憲法改正が必要かどうかというところで、誤解がやっぱり皆さんにあるようなので、一点だけ訂正を、訂正というか、きちんとわかっていてほしいのは、今回の訴訟で国は一度も、同性婚は憲法で禁止されているという主張をしていないんです。裁判所が認めなかったではなくて、被告国が一度もしていないんです。それなのに、憲法改正しないと違憲になるっていうのは、『えっと、どっから出た話ですか?』っていう感じなので、木村先生おっしゃる通り、差別的意図を感じるなとは思います」

松岡氏から、憲法24条を改正するのがわかりやすいという主張について、見解を求められ、おおむね次のように答える。
憲法24条には、憲法24条固有の価値があり、これを削ると、婚姻における男女の平等という価値が削られる可能性がある。
もしも、同性愛者の婚姻の権利を憲法に書きたいのであれば、別の条文として用意すべき。その思いが本気なのであれば、早く、条文案を提示すればよい。

1:09:52あたり
最後に
原告の皆さんのお話を聞いて、長い時間苦しんでおられたことが分かった。
賠償金もとることを目指すという趣旨の控訴・上告を支持する。