「働く女子の運命」 濱口桂一郎(文春新書)
今でこそ男女共同参画社会の実現が目標となり、雇用面でも男女雇用機会均等法が施行されているが、少し前までは女性は労働力の主要な担い手とは考えられていなかった。
明治以降の日本で、長いあいだ女性は短期雇用が当然とされていた。我が国の特徴とされていた終身雇用制度は、家計を支えている男性を前提にしている。女性が社会で働くことは、昔は修養としての意味もあり、結婚すれば退職するのが一般的であった。
「職場の花」や「寿退社」という言葉が普通に用いられていた。この仕組みは我が国の社会構造や家族制度に深く根ざしており、変化してきているとはいっても、いまでも女性が定年まで男性と同様のキャリア形成を図ることは簡単ではない。
本書はこうした観点から女性の労働について考察している。私のようなリタイア組よりも、今働いている人びとに読んでもらいたい本である。
それはそれとして、本書の中で或るエピソードが語られており、遠い記憶の彼方にあった疑問が氷解した。
私がまだ青年期に差し掛かる前の話である。新聞や雑誌等のマスコミでは、女性会社員のことを「BG」と呼んでいた。ビジネスマンに対するビジネスガールである。私は、実社会では洒落た呼び方をするものだと納得していた。
それがある時期から一斉に「BG」という言葉が消え、「OL」という用語が出て来た。最初は意味が分からず、記事の前後関係で「BG」と同じことだと理解した。オフィスレディの略語だと知ったのは、しばらく後になってからである。
当時、私はどうして「BG」が使用されなくなったのか不思議であった。ささやかな私の疑問は時間が経つにつれて風化していき、「OL」という言葉を当然のごとく受け入れていった。
その疑問が本書で解けたのである。
「BG」(ビジネスガール)は和製英語で、1950年代末から1960年代にかけて短期勤続の女子事務員を指す言葉として流行ったそうである。ところが東京オリンピックを翌年に控えた1963年に、BGとは英語で売春婦を意味するという噂が広まり、NHKが言葉の使用を取り止める。
そして或る女性週刊誌が、オリンピックで来日する外国人の誤解を防ぐため、この単語を使わないよう提案し誌上で代替語を公募する。そこで選ばれたのが、同じく和製英語の「OL」(オフィスレディ)だったのである。
高度経済成長の総仕上げでもあり、世界に一流国として認知されるオリンピックを前に、国際的な世間体を憚ったのであろう。少々いじましくもある。
本書を読んで偶然にも答えが見つかり、すっきりとした気持ちになった。しかしこのエピソードには、『よほどの高齢者でなければ今どき「BG」なんて言葉を知っている人はいないでしょう』という文が続いている。
化石になったような気分で面白くない。
ビジネスガール・・・まだ使えそうですよね(^^)
みんなのブログからきました。
よろしくお願いします!