野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

尖閣諸島をめぐる日米中関係を分析した研究論文

2012年09月28日 | 研究活動

尖閣諸島の日中紛争は、国際関係論では、どのように分析されるのでしょうか?今日は、最近の1つの研究として、前々回のブログでも取り上げた、テイラー・フレイヴェル氏(MIT)の研究論文を紹介します。論文のタイトルは、"Explaining Stability in the Senkaku (Diaoyu) Islands Dispute" です。日米中の国際共同研究の成果として発表された図書、Getting the Triangle Straight: Managing China-Japan-US Relations (Gerald Curtis, Ryosei Kokubun, and Wang Jisi, eds., Japan Center for International Exchange, 2010)に収められています。

同書は、その日本語版も出版されています。日本語に訳された彼の論文「日米中関係と尖閣諸島(釣魚島)」は、王緝思・ジェラルド・カーティス・国分良成編『日米中トライアングル』岩波書店、2010年所収となっています。



この論文は2年前に発表されたものですから、今回の尖閣諸島の出来事には言及していませんが、この問題に対する洞察と示唆を与えるものだと思います。

やや古いものですが、Erica Strecker Downs and Philip C. Saunders, "Legitimacy and Limits of Nationalism: China and the Diaoyu Islands," International Security, Vol. 23, No. 3 (Winter 1998-1999), pp. 114-146 という論文もあります。残念ながら、この論文の邦訳はありません。

この2本は、関連論文のリストのごく一部ですが、現在、注目されている気鋭の学者の論文と安全保障研究のトップジャーナルに掲載された論文ということで紹介しました。


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日米同盟と尖閣諸島(更新)

2012年09月24日 | 研究活動
尖閣諸島をめぐる日中対立において、「日本は米国との同盟をあてにできない」との記事が、雑誌『フォーブス(ウェブサイト版)』に掲載されました。同記事の日本語訳は、『日本経済新聞』のウェブサイトで読むことができます。

日本と中国で政治経済関係の仕事を行ってきた著者のスティーヴン・ハーナー氏(コンサルタント)は、この記事において、中国がパワーを拡大する一方でアメリカの相対的パワーが衰える東アジアの構造変動は不可逆的であり、こうした戦略的現実が、日米同盟の実効性を弱めていると主張しています。そして、彼は、このため日米同盟は、尖閣諸島をめぐる日中対立を左右するファクターでは、既になくなっていると断言しています。

ハーナー氏は、オーストラリア国立大学のヒュー・ホワイト氏の新著 The China Choice と「アーミテージ・ナイ報告」を記事で引きながら、前者の分析を高く評価する一方で、後者については、「無視されるべく無視されるだろう」とバッサリです。



こうした見解については、さまざまな異見があることでしょうが、東アジアの戦略地図の変化を正面から見据えた、論争的な記事でしたので、あえてブログで紹介した次第です。

他方、日中の国内政治の観点から、この問題を分析する記事もあります。著者は、かつて日米経済摩擦の時に「リヴィジョニスト」として名をはせたクラウド・プレストウィッツ氏です。彼は、『フォーリン・ポリシー』ウェブ版に「第二次大戦はアジアで終わっていなかった」という記事を発表しています。同記事において、プレストウィッツ氏は、こう主張しています。尖閣諸島をめぐる日中の対立は、詰まるところ、内政問題から国民の目をそらそうとする「ナショナリスト」指導者により炊きつけられたものである。米国は、この紛争に何の利益もないので、第三者に任せて、直接かかわるべきではない、と。

もちろん、こうした「陰謀説」に近い分析と大胆な政策提言にも、当然、異論や反論があることと思います。

なお、アジアの海洋領土問題に対するアメリカの政策については、カート・キャンベル国務次官補が、上院外交委員会の公聴会で発言しております。この問題に対する現在のアメリカの姿勢を垣間見ることができます。

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海外の国際政治学者は、尖閣諸島をめぐる日中の対立をどう考えているのか?(更新)

2012年09月22日 | 研究活動
尖閣諸島をめぐる日本と中国の対立が激しくなっています。このことについて、日本国外の著名な国際政治学者は、どう考えているのでしょうか?国際政治の研究者は、学者として、時事問題を分析したり解決策を提示したりする義務を必ずしも負っているわけではありませんが、世界の知性が、東アジアの国際関係を大きく左右する日中関係の悪化について、何らかの見解を述べているのであれば、気になるところです。

最初に、世界トップクラスの政策分析の教育・研究を行っている、ハーバード大学大学院ジョン・F.ケネディ・スクールの2人の国際政治学者、ジョセフ・ナイ氏とスティーヴン・ウォルト氏のコメント記事を紹介します。

ナイ氏の分析と提言は、プロジェクト・シンジケートのウェブサイトで読むことができます。

ウォルト氏の見解は、『フォーリン・ポリシー』ウェブサイト上のブログに掲載されています。

両方とも英文記事ですが、ナイ氏もウォルト氏も、平易かつ明晰な英文で書いていますので、読みやすいです。お読みいただければ分かりますが、両氏の意見は、それぞれ異なっています。その主な理由は、思考のベースになる理論がそれぞれ異なることにあるのでしょう。なお、世界が直面する問題の解決における、国際政治学者の役割については、ウォルト氏が、エール大学の紀要にエッセーを寄稿していますので、このテーマに興味のある方は、参考にして下さい。

次に、中国関連の領土問題を専門にする、マサチューセッツ工科大学(MIT)のテイラー・フレイヴェル氏の分析を紹介します(MITは、自然科学系の大学というイメージが強いですが、同大学の安全保障研究は、かなり充実しています)。フレイヴェル氏は新進気鋭の学者であり、中国がかかえる領土問題に関する著書も出版しています。彼は自身のブログで、尖閣諸島に対する中国側の姿勢を海洋法の視点から分析しています。



海外で活躍する数少ない日本人の国際政治学者の1人である川剛氏(サイモン・フレイザー大学)は、日中の主要なアクター間の相互作用に着目して、尖閣諸島の問題を分析しています。川氏の論考は「カナダアジア太平洋協会」のウェブサイトで読むことができます。

ナイ氏やウォルト氏、フレイヴェル氏、川氏の議論に関心のある方は、直接、上記のサイトにアクセスして、記事をお読みいただければと思います。

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国際学科40周年記念シンポジウムのお知らせ

2012年09月21日 | 教育活動
私が所属する東海大学国際学科は、今年で設立40周年になります。これを記念して、国際学科では、シンポジウム「世界とつながって生きる―グローバル・シティズンシップの教育をめざして―」を開催いたします。日時は、10月8日(月・祝)、場所は東海大学湘南キャンパス松前記念講堂(野球場左上のピンクの建物表示)です。もちろん、入場無料です。

当日は、13:30から、講師にリヒテルズ直子氏をお招きして、講演会「ヨーロッパの若者とグローバル・シティズンシップの教育」を開催いたします。その後、14:30からは、国際学科の学生たちの「国内外プロジェクト活動」発表を行います。在日外国人の子どもたちを集めた「マルチカルチャー・キャンプ」ルワンダ内戦・虐殺後の和解と共生に取り組むプロジェクトなど、多彩な活動報告にご期待ください。17:00からは、懇親会になります。

皆さまのご参加をお待ちしております!

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拡大するネット無料大学と日本の大学

2012年09月20日 | 教育活動
インターネット上で世界レベルの大学授業を無料で提供するコーセラに、新しく17大学が参加します。コロンビア大学やブラウン大学、オハイオ州立大学といった全米の著名な大学に加え、今回は、アメリカ以外の大学の参入が目立ちます。私が数年前に在籍していた、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学やオーストラリアのメルボルン大学、そしてアジアからは、香港科学技術大学(Hong Kong University of Science and Technology)が加わります。提供される授業は、自然科学系のものが目立ちます。

これでコーセラの提携大学は、33大学になりました。アッと言う間の規模の拡大です。もっとも、その理由は、考えてみれば明らかでしょう。世界の人材マーケットで競争している大学が、世界中から注目されているコーセラに参入しようとするのは、むしろ当然なのかもしれません。おそらく、この流れは今後も続くでしょうから、コーセラのプログラムは、ますます充実したものになるでしょう。世界の高等教育の動向には、本当に驚かされますね。

なお、アジアからコーセラに初参入する香港科学技術大学は、日本での知名度がそれほど高いわけではありませんが、トムソン・ロイターのTimes Higher Education World University Rankings 2011-2012 では、アジアで7位、世界でも62位につけています。QS 世界大学ランキングでは、アジアで1位、世界全体でも33位に入ります。文字通り、世界屈指の大学です。

トムソン・ロイターのランキングにおいて、実は、日本の2つの大学が、香港科学技術大学より上位にあります(ただし、QSランキングでは、両大学は、アジアでトップの香港科技大学より下位になり、それぞれはアジアで8位と10位です)。両大学とも国際化を標榜しているようですが、残念ながら、いずれの大学名もコーセラの新規参入大学のリストにはありませんでした…。少し寂しいですね。前々回のブログで、日本の大学の国際化について、ある論文を紹介しながら、思うところを少し書きましたが、コーセラに日本の大学から授業が提供されないこと自体、国際化の低迷を象徴しているのかもしれません。

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