野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

『国際学のすすめ』第4版が完成しました

2013年10月22日 | 教育活動
国際学のテキスト『国際学のすすめ』の第4版が、東海大学出版会より刊行されました。私は、2003年の初版から、編集幹事を務めています。学術出版が厳しき折、10年間で改訂を3回もできたことは、編集幹事として、また執筆者の1人として、素直に嬉しく思います。本書の読者の皆さま、大学等の教育機関で教科書や参考書として使用して下さった先生方に、あらためて御礼申し上げます。



今回の改訂にあたりましては、第3版にはなかった新しい章を加えました。東海大学国際学科に非常勤講師として来ていただいている、本多美樹氏(早稲田大学助教)には「平和構築」、金慶珠氏(本学科准教授)には「メディアリテラシー」について、分かりやすく解説して頂きました。

アメリカと中東に関する章は、全面改定になりました。アメリカについては、国際学科の卒業生である和田龍太氏(三井物産戦略研究所研究員)が、「オバマ米政権のアジア太平洋政策」のタイトルで、米国の対外政策をアジア太平洋地域の情勢に関連づけながら、詳しく説明しています。中東に関する章も、岩坂政充氏(本学非常勤講師)が、「『中東』という視角」として、「中東」の定義から「アラブの春」まで、複雑な中東情勢を平易にひも解いています。

その他の大半の章も、前回の第3版が出版された2008年以後の国際学の動向や国際情勢の変化を反映するための加筆修正を行っています。なお、私自身の執筆担当は、書き下ろした「まえがき」、部分的な加筆修正を行った「国家と安全保障―軍事力の役割をどう考えるか―」と「あとがき」です。

国際学のみならず、グローバル化する世界の動向に関心がる方には、本書を手にとって御一読いただければ幸いです。





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無料オンライン大学における安全保障の授業

2013年10月18日 | 教育活動
とうとう日本でも、無料のオンライン大学授業が本格的に始まることになりました。名称は、JMOOC(ジェー・ムーク)です。国内の著名な大学が、日本語で授業をウェブ上で提供します。コーセラ、エディックス(両方とも英語での授業が大半)の日本語版というところでしょうか。

ところで、オンライン無料大学の本家ともいえるedx(エディックス)では、国際政治関係の授業が充実してきました。たとえば、国際人権論(International Human Rights)とか、グローバリゼーションの勝者と敗者(Globalization's Winners and Losers)などです。とりわけ、私の目を引いたのが「入門・アメリカの安全保障、戦略、報道に対する主な挑戦(Central Callenges of American Security, Strategy and the Press: An Introduction)」です。

この授業を提供する教育機関は、ハーバード大学ジョン・F.ケネディ行政大学院です。講師は、政策決定論の重鎮、グレアム・アリソン氏と『ニューヨーク・タイムズ』紙のエース記者、デーヴィッド・サンガー氏ほか、という豪華な布陣です。

とりあえず、授業の「イントロダクション(ガイダンス)」のビデオを見たのですが、およそ、日本の大学の安全保障関係の授業では、チョッと考えられないような内容でした。授業で取り上げるテーマは、たとえば、「シリアを攻撃するか否か」といった、国家の重大な政策決定に直結する政治外交・軍事問題であり、授業のキーワードも、「戦略的思考(strategic thinkings)」や「アメリカの国益(America's national interests)」といったものです。授業は、事例研究や政策提言が主要な部分を占めており、しかも、そこで戦略や安全保障の概念や理論的枠組み、分析のスキルを修得して、アメリカの対外政策決定の処方箋に活かすという、高度な要求も受講者には課せられています。

要するに、この授業では、たんに政策論争を行うのではなく、具体的な近年の事例を研究することにより、学生は政策決定の分析スキルや複雑な相互作用を学ぶのです。

このような授業内容の善し悪しは、ブログの読者の判断にお任せします。ただ、1つ言えることは、ハーバードもそうですが、多くの世界有数の大学では、日本の大学の学部や大学院では、とても扱えないような安全保障や戦略関連のトピックや分析手法を当然のように学生に教育している事実があるということです。

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櫻田著『大学入試担当教員のぶっちゃけ話』読後感

2013年10月16日 | 教育活動
今、私立大学は、AO入試や推薦系各種入試の「シーズン」真っ只中です。日本の大学入試の多様化は、大学教員の入試業務を飛躍的に増加させると同時に、大学の教育のありかたそのものに、大きな問いを投げかけています。こうした大学入試がもたらす現状と課題を分かりやすく解説するハンディな図書が、櫻田大造『大学入試担当教員のぶっちゃけ話』中央公論新社(新書ラクレ)、2013年です。櫻田氏は、以前にも大学内情ものである『大学教員採用・人事のカラクリ』を上梓しており、こちらも上記書と同様に、興味深く拝読しました。



志願者の適性をテストする方法が増えれば、入学してくる学生が多様化するのは当然のことでしょう。とりわけ、多くの大学で教員を悩ませている問題の1つは、学生の基礎学力のバラつきです。同書には、ベネッセ調査を引用するかたちで、学力差の問題がこう書かれています。

「推薦・AO入試で大学に受かった1~4年生……(の)約半数が1日1時間未満しか勉強せず、2割は受験対策すらしていない!……(他方)一般入試組で1日時間未満しか勉強しない層は……16%に9%と少なかったことからも、一般入試組と推薦・AO組の基礎学力面での差異が入学後に大きく出る可能性もある」(54ページ)。

おそらく、この指摘は概して正しいと思います。ただし、一般入試で相応の競争率を確保できる大学ではそうかもしれませんが、推薦系入試でも一般入試でも志願者の「全入」か、もしくは、それに近い大学では、両入試組の基礎学力は、ほどんどかわらないかもしれません。

さらに、櫻田氏は、こうした基礎学力のバラつきの問題を入学後の教育で解決する方法の1つとして、以下のように提言しています。

「英語圏に数年済んだことがある英検準1級レヴェルの帰国子女とbe動詞と一般動詞の区別がつかない新入生をひとまとめにして……英語科目を開講することは……不幸な結果しかもたらさないだろう。……TOEICやTOEFLなどを入学式直後に受験させ、その結果を基にして能力別クラスを編成する(べきである)」(248ページ)。

この提案も、至極、当然の指摘のように受け取れます。確かに、こうした英語クラス分けが、入学後の英語教育の効果を飛躍的に向上させる大学もあるでしょう。櫻田氏は、その例としてICU(国際基督教大学)を示唆しています。その反面、彼の処方箋には大きな矛盾があります。それは、TOEICやTOEFLは、be動詞と一般動詞の区別さえつかない入学生やそれに近い基礎英語力しかない学生にとって難しすぎるので(とくに後者!)、点数に有意な差が出にくいということです。その結果、このレベルの英語力の学生が多ければ多いほど、クラス編成には役立たなくなります。さらに言えば、そもそも1時間未満しか勉強していない学生や受験対策さえしていない学生が、入学直後に突然、いままで経験したことのない数時間の難解な英語の試験に、どれだけ耐えられるものでしょうか。

つまり、このような英語能力別編成の方式は、ICUなど1部の大学にしか当てはまらないと言うことでしょう。もっとも、櫻田氏は「TOEICやTOEFLなど」と言っていますので、それぞれの大学の実情にあった英語試験によるクラス編成試験を行えばよいのかもしれません(ただし、大学で実用できる中学レベルの英語力のバラつきを測定できる試験としては、何があるでしょうか)。

『大学入試担当教員のぶっちゃけ話』は、大学教員の1人として「フムフム」と頷きながら読める部分が大半でしたが、ここで書いたような「アレ」と疑問に感じるところもあったというのが、率直な同書の読後感です。

なお、このブログの内容は、私の本務校とは一切、関係がないことを断わっておきます。

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