野口和彦(県女)のブログへようこそ

研究や教育等の記事を書いています。掲載内容は個人的見解であり、群馬県立女子大学の立場や意見を代表するものではありません。

ネオクラシカル・リアリズム

2016年08月24日 | 研究活動
ネオクラシカル・リアリズムの理論構築や検証方法、今後の課題などをまとめた学術書 Neoclassical Realist Theory of International Politics (Oxford University Press, 2016) は、よくまとまっていると思いました。著者は、Norrin M. Ripsman(コンコーディア大学)、Jeffrey W. Tariaferro(フレッチャースクール)、Steven E. Lobell(ユタ大学)であり、彼らは一連の編著 Neoclassical Realism, the State, and Foreign Policy (Cambridge U. P., 2009); The Challenge of Grand Strategy (Cambridge U. P., 2012) を世に問うことなどにより、一貫してネオクラシカル・リアリズムの研究に取り組んできました。

国際関係研究における「パラダイム」や「主義(イズム)」は、何かと批判にさらされますが、私は、いまだに重要であると思っています。彼らの言葉を借りれば、「パラダイムによるアプローチは、われわれが国際政治のダイナミックスやその規則性を全体論的な方法で理解する手助けになり得る…有用な政策に通じる経験的研究を活性化することもできる」(Neoclassical Realist Theory of International Politics, p. 8)からです。



ネオクラシカル・リアリズムは、システム要因と国内要因を1つの理論に組み入れるものです。こうした理論化の試みは、過去に何度も試みられましたが、本書の成果は他の研究より画期的かもしれません。なぜならば、彼らの試みに問題はあるにせよ、簡潔性(parsimony)をあまり損なうことなく、両方の変数を理論に組み込んでいるからです。しかも、説明する範囲が広いので、説明力(explanatory power)が高いと言えそうです。

Neoclassical Realist Theory of International Politics はコンパクトですが、中身の濃い学術書です。とりわけ、国際関係のグランドセオリーに興味がある方には、間違いなく読むに値する良書です。

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定性分析と定量分析の対話

2016年08月15日 | 研究活動
社会科学の方法論の素晴らしい文献を読了しました。ゲイリー・ガーツ、ジェイムズ・マホニー(西川賢・今井真士訳)『社会科学のパラダイム論争―2つの文化の物語―』勁草書房、2015年です。



邦訳の原著 A Tale of Two Cultures: Qualitative and Quantitative Research in the Social Sciences は、2012年の刊行直後から注目しており、直ぐに購入しました。この原著は、私が参加している勉強家のリーディング候補になったのですが、そのときは結局、別の文献を読むことになってしまいました。そのため、同書はパラパラと目を通す程度で、本格的に読む機会を失ったままでした。



幸い、昨年に邦訳が出版されましたので、前期の授業と採点が終わった今年夏、『社会科学のパラダイム論争』を丁寧に読むことができました。私の率直な読後感は、社会科学の方法における定量的アプローチと定性的アプローチのそれぞれの特徴や両者の違いが、分かりやすく明瞭に説明されており、秀逸な学術文献であるというものです。それぞれの方法にまとわりついていた「モヤモヤしたもの」が取り払わて、視界(理解)がスッキリとしたような気持ちです。

著者が主張するように、定量分析者と定性分析者が相互に対話することの大切さは、全くその通りでしょう。他方、その対話が上手くいかないこともしばしばです。統計分析などにより大規模な母集団における特定の変数の効果を推定し、事例過程分析などにより特定の事例に見られた特定の結果を説明したものが、「矛盾をきたすことなく、2つの全く異なる一連の知見を内包した分析結果」(邦訳、258ページ)になるのが、おそらく著者が理想とするゴールなのでしょう。しかし、私の専門分野である「国際関係論」においては、前者を後者で検証すると否定的な研究結果になったり、逆に、後者の説明(仮説)を前者の方法で検定すると、これまた否定的な結論になることがよくあります。

こうした同じ事象を異なる方法で分析した際、「矛盾をきたす結果」が導かれた場合、われわれはどうすればよいのでしょうか。その答えは、残念ながら、本書に見つけることができませんでした。定量文化と定性文化の対話の先には、長い道がありそうです。

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環境科学と国際関係

2016年08月11日 | 教育活動
地球環境問題は、今や国際関係や外交政策の最も重要な争点といえます。当然、国際関係論やそれに付随する科目でも、地球環境問題を取り上げるようになりました。もちろん、私も授業では、地球環境問題とりわけ「気候変動」や「地球温暖化」に言及することがあります。

とはいえ、「環境科学」の知識については、不安がありました。何しろ、こうした自然科学の分野は、高等学校卒業以降は、ほとんど本格的に勉強したことがないのですから。ですので、「環境科学」は、早いうちにキチンと勉強しなければいけないと、ここ数年間、ずーっと思っていました。もちろん、これまで環境問題を扱った国際関係の文献は、いくつも読みました。しかし、これで「環境科学」の基礎を体系的に理解できたわけではありません。

何とかしなければ…。そう切実に思っていたところ、環境科学の素晴らしい入門書に出会いました。藤倉良・藤倉まなみ編『文系のための環境科学入門(新版)』有斐閣、2016年です。



本書は、まさしく「タイトルに偽りなし」の内容です!第1に、説明が分かりやすい。ジャーゴン(難解な専門用語)や数式などを使わずに、地球温暖化などの環境問題を丁寧かつコンパクトに解説しています。第2に、データの使い方がうまいと思いました。本書では、データが多すぎず少なすぎず、読者の理解を促すのに効果がありそうな要所要所に、必要なものが提示されています。

たとえば、温室効果は、このように説明されています。

「地球にまったく大気がなく温室効果が存在しない場合を想定し…地表面の温度を計算すると、平均温度は-18℃にしかならない。実際には15℃なので、計算値より33℃高い。この差が温室効果の『総量』である」(182ページ)。

地球温暖化対策が進まないことの説明も秀逸です。

「科学的に不確実であり、理解しにくく、被害の実感がなく、対策の決定打がないということで、市民は何となく不安になるかもしれないが、生活に痛みを伴う施策を指示しようという気持ちにも至らない。不安感が高まらないので、政治家も自分の人気を下げることになりかねない対策をあえて実行しようとはしない」(190-191ページ)。

われわれが普通に会話で使う日常言語で、地球温暖化対策の難しさを見事に言い当てています。

地球温暖化の将来シナリオについては、不確実性から逃れられないとしながらも、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のシナリオを通して、われわれが実感しやすい未来予想の1つを示しています。

「IPCCの悲観的なシナリオが現実のものとなると、今世紀末…東京では…1年の3分の1近くの最高気温が30℃を超えることになる」(194ページ)。

そうなるとスキーシーズンは、ほんのわずかな期間になってしまいそうです…。


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