父が茶屋に入って行くと、残っていた男の人はやれやれと溜め息を吐きました。緊張が緩んだのでしょう。
蛍さんに、
「じゃあ何処にも行かないで、ここでおじさんと一緒にお父さんを待っていようね。」
と言うと、ベロベロバーとか、ひょっとこ、とか言って、口をとがらせて見せたり、非常に面白い顔をして見せてくれたりするのでした。
「ははははは、いやあ可笑しいねぇ。ははははは、あら可笑しいわ。」
そんな自分を見た第三者の反応なども面白おかしく口真似などして、如何にも愉快だという雰囲気を作り上げてくれました。
こんな風に、暫く山門の所で男の人が蛍さんをあやしていると、先ほど最初に本堂を見に行った男の人がバタバタと帰って来ました。
酷く慌てています。蛍さんを気にしてちらちら見ながら大変ですと言うと、そこにいた男の人の耳元に何やら囁きました。
兎に角こちらへ来てくださいと、蛍さんから離れた場所まで男の人を連れていくと、2人でひそひそと話を始めました。
「何と本堂の中に人がいました。子供です。男の子と女の子です。女の子はあの子です。」
そう言って、蛍さんの方を見て手でそっと彼女の方を示しました。
えっと、話を聞いた男の人は驚きました。子供まで、あの人の子供まで2人いるというのかい。そう言うと、はてさてと、
これは困った事になったものだと考え込んでしまいました。
こんな年端も行かない子供のスパイという者がいるだろうか、そう呟くと、今来た男の人が、
「いや、幼くてもくノ一の様に修業を積んでいるのかもしれません。」
内心冗談めいて、表情など全く変えずに真面目に意見を言います。
「うーん、そう言う事が、…無きにしも非ずかなぁ。」
意見をわれた男の人は、そう言って顎をしごきながら俯いて考え込み、ふと目を上げてそう言った男の人の真面目な顔の表情の中で、目だけが笑っている事に気付きました。
それで一寸眉をしかめて、
「君の今の言葉は冗談だね。」
と言うと、本堂から来た男の人はクスリと笑うと、分かりましたか、と、目の前の男の人から顔を背けて、ぷっくくくと笑いだすのでした。
「いやぁ、申し訳ありません。笑い事ではありませんでしたね。」
そう笑っていた男の人は言って、真面目に考え込んでいた男の人に謝ると、
「それより、何処に空間と時間の繋ぎ目が出来ているのか早く探さないと。」
と言うのでした。
「えっ?時間もかね。」
蛍さんと居た男の人は驚くと同時に、それは深刻な事態だと、事の急を悟るのでした。
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