*『死の淵を見た男』著者 門田隆将 を複数回に分け紹介します。40回目の紹介
『死の淵を見た男』著者 門田隆将
「その時、もう完全にダメだと思ったんですよ。椅子に座っていられなくてね。椅子をどけて、机の下で、座禅じゃないけど、胡坐をかいて机に背を向けて座ったんです。終わりだっていうか、あとはもう、それこそ神様、仏さまに任せるしかねぇっていうのがあってね」
それは、吉田にとって極限の場面だった。こいつならいっしょに死んでくれる、こいつも死んでくれるだろう、とそれぞれの顔を吉田は思い浮かべていた。「死」という言葉が何度も吉田の口から出た。それは、「日本」を守るために戦う男のぎりぎりの姿だった。(本文より)
吉田昌郎、菅直人、斑目春樹・・・当事者たちが赤裸々に語った「原子力事故」驚愕の真実。
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**『死の淵を見た男』著書の紹介
第14章 行方不明40名!
「大丈夫か!」 P228~
ドーーーーン
それは、陸上自衛隊中央特殊防護隊隊長の岩熊真司・一等陸佐(49)がジープの助手席から降りようとした、まさにその時だった。3月14日午前11分、福島第一原発の2号機と3号機の間でのことだ。
「!」
声を出す間もなかった。突然の凄まじい音と爆風によって、自分たちの乗っている車が浮き上がったのか、それとも自分自身の身体が浮き上がったのか、岩熊にはわからなかった。
痛烈な衝撃とともに、周囲は一瞬にしてグレー一色となった。
視界はまったくきかない。恐怖を潜ませたような灰色の世界で、聞いたことのない”音”が彼らを包み込んでいた。それは、うえから何かが落ちてくる音である。
岩隈は、それが瓦礫が落下してくる音であることに気がついた。いや、瓦礫が「襲ってくる」音といった方がが正確かもしれない。爆発で吹き飛ばされた破片や瓦礫が、岩熊たちを目がけて、次々と降り注いでいた。
「長かったですね。どのくらいあったでしょうか。本当は何秒とか、何十秒とかなんでしょうが、自分には、何分もあったように感じました。ドカン、ドカンという音もしました。落ちてきた瓦礫にあたって、フロントガラスが割れました。その空いたところから、さらに瓦礫が入ってきました。コンクリートの破片やいろんなものが入ってきたので、大きなものに当たったら、危なかったと思います」
岩熊たちは自衛官である。とっさに自分の身を守る基本動作をとっていた。
「身体をできるだけ低く、小さくするのが基本です。それでしたに潜り込みました。私は助手席に、(運転していた)部下は運転席に下に入りました。なかなか”音”がやまないので、どこまでが爆風だったのか、どこからが瓦礫が降ってきた音なのかわからない感じでした」
助手席に岩熊は、爆風が右から襲ってきたので、なんとか助かった。だが、運転席は、右側のガラスが爆発と共に吹き飛んでいた。
「大丈夫か!」
「大丈夫です!」
幸いに部下も無事のようだ。お互い下に潜り込んだまま、2人はそう声をかけあった。
まさか到着早々、こんなことになるとは・・・。
(「第14章 行方不明40名!」は、次回に続く)
※続き『死の淵を見た男』~吉田昌郎と福島第一原発の500日~は、
2016/4/11(月)22:00に投稿予定です。
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