チェロ弾きの哲学ノート

徒然に日々想い浮かんだ断片を書きます。

シュレデンガーの考察

2012-06-27 08:34:19 | 哲学

1. はじめに
 1.1 シュレデンガーの考察

 宇宙全体や物質の基本的な運動が、大局的にはエントロピーの増大に向かっているのは良く知られている。 どんな物質も放っておけば無秩序な状態に向かい、周囲の環境と区別がつかなくなっていく。

 ところが地球上の生命活動は、これとまったく逆の現象が起こっているように見える。 生命は生物体として熱力学の原理に逆走するかのように秩序をつくり、これを維持させたり、代謝させているのだから、無秩序すなわちエントロピーの増大を拒否しているようなのだ。

 生物もやがては死ぬのだから、大きくいえば熱死を迎えることになる。しかし、生命体は個体として、生命活動をしている間、ずっとエントロピーを減らし、なんとか秩序を維持しようとしているようなのである。これをいいかえれば、生命はエントロピーに逆走しているということである。そればかりか、たいていの生物は独特の生殖活動をして次の世代にその大半の仕組みを継続させている。

 個体は次々に、熱死を迎えても、たとえば種や属というくくりでみると、多くの種や属は、時空間をまたいで、エントロピーに逆走している。これはやはり、生命はエントロピーに逆走しているといわざるをえない。

 たったこれだけのことだが、この指摘は生物というシステムの本質を突いていた。そしてエルウィン・シュレディンガーという才能が恐るべき洞察力の持ち主である。本書は、シュレディンガーの連続講演の主旨「生きている生物体の空間的境界の内部でおこる時空間的な現象は、物理学と化学によってどのように説明できるか」というものだった。

 シュレディンガーがこの主旨に挑戦した理由はあきらかである。それまで生命活動の秘密を物理学が言及できたことは、ただの一度もなかった。生物が物質で構成されていることは、解っているにもかかわらず、構成要素も物質だし、遺伝子も物質であるにもかかわらず、その物質のふるまいを記述すべき物理学は、生命の秘密にはまったく言及できないままだった。(松岡正剛 シュレディンガー「生命とは何か」の読書日記より)

一個体の生命体がエントロピーに逆走し、生物の種としてエントロピーに逆走し、地球上の生命体の食物連鎖と共生によってエントロピーに逆走して、熱帯雨林やサンゴ礁による生物多様性の世界を形成している。地球上の水、土壌、すべての生命体を、炭素や窒素、水素、酸素は循環しながら、エントロピーに逆走している。(第1回)


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