チェロ弾きの哲学ノート

徒然に日々想い浮かんだ断片を書きます。

ブックハンター「食と健康の一億年史」

2018-09-16 15:00:01 | Weblog

 172. 食と健康の一億年史  (スティーブン・レ著 2017年10月)

    100Million Years of Food  by Stephen Le  Copyright©2016

 この本の全体像をつかむために、「おわりに」(食べ方と生き方のルール)から、読んでいきましょう。

 『 本書「食と健康の一億年史」のおもな目的は、人の健康の科学的研究に進化生物学の視点を付与し、さらに過去の人々や現代の人々がどのように食べ、暮らしているかについての調査を加えて、我々人類は何を食べ、どう生きるべきかをのべることにある。

 執筆にあたっては、さまざまなライフスタイルや食べ物についての大量の資料を、科学的なものも裏付けの乏しいものも含めてじっくり読み込んだ。

 多くの人々は、遺伝子や住んでいる場所が決定する異なる特性をもっているが、それでもほとんどすべての人にあてはまる、食と健康に関する次のようないくつかの普遍的な真理がある。

 1.よく歩く

 肥満や糖尿病など食物に関連する疾病を防ぐもっとも効果的な方法として一般に推奨されているのは、毎日の運動と自分で食事を制限することだが、この忠告を裏付ける科学的研究も歴史的事実も存在しない。

 激しい運動は空腹感を増し、怪我につながることもある。それに自分でカロリー制限するには超人的な克己力が必要で、おそらく自然なことではない。

 むしろ一番大切なことは、最後の章で紹介したアーミッシュがしているように、祖先のように歩くことを心がけ、毎日2時間、それが無理なら可能な範囲で歩き、座るのは最長でも一日三時間にすることだ。

 歩くのにお金がかからず、特別な器具も不要で、夏の日差しのある時間帯なら日光/ビタミンDを浴びる効果がある。やる気を持続させるために、一緒に歩く仲間を見つけたり万歩計を買うのもいい。

 スマートフォンに無料アプリダウンロードして、一日に何歩歩いたかを記録することもできる。わたしの場合は、二時間歩くとおおよそ1万四千歩となり、現代人に推奨されている一万歩をやや上回る。

 また、毎日二時間歩くのが習慣になってくると、気分も上がってくるのがわかるだろう。ここで一言。一日二時間の目標ゆっくり達成すればいい。最初の数ヵ月はあせらず、必要な持久力がついてくるまでは、短い距離を歩くのがいいだろう。

 水のボトルや買い物袋などのちょっとした重りを両手に持つことによって、上半身にはほどよく適度な負荷をかけることもできる。

 時間がなくて一日2時間も歩けないという人は、できる範囲で徒歩や自転車での移動、適度な運動を行ない、テレビの前でじっとしている時間を減らすことが、賢いやり方だ。最新のデスク・トレッドミルを使えば、オフイスや図書館で歩きながら本を読んだり、タイプを打ったりできる。

 2. アルコールは適量を

 医療の専門家の間では、一般に飲酒のメリットを否定する意見が多い。大量の飲酒は肝臓を損傷し、メタボリックシンドロームのリスクを高め、非業の死を遂げる確率を高める可能性があるからだ。

 しかし、適量であれば—ー男性は一日コップ二杯、女性はコップ一杯ーーアルコールは野菜、果物、魚を含む他のどの食物よりも心臓疾患を緩和し全般的な致死率を下げる効果は高い。

 とは言え、飲酒効果がもたらされるのはおもに先進国で暮らす四十歳以上の人々で、というのも発展途上国では心臓疾患よりも感染症が主な死因になりがちで、また四十歳以下の人々にとって心臓疾患は問題ではなく、アルコールはむしろ、事故や殺人、自殺などの若者にありがちなリスクを高める可能性がある。

 3. 若いときは肉乳製品は控えめに

 肉についての現代の栄養学の主流のアドバイスは、控えめに、だ。一方、低炭水化物ダイエットの提唱者たちは、肉を控えるという考え方に異論を唱え、でんぷん食品は人を太らせ心臓の健康を脅かす者であり、したがってよりよい体重管理と全身的な健康のためには肉をたっぷり食べるべきだと主張する。

 どちらの考え方もある意味真実だ。若い人に関しては、肉や乳製品はインスリン様成長因子ー1などのホルモンの働きで早期の全身的な成長を促進し、ある種のガンのリスクファクターとなるため、摂取を控えめにすべきだ。

 一方、六十五歳以上にとっては、肉を多く食べることはおそらくよいことだ。肉ががんの形成を促すには長い時間がかかり、先進国の高齢者にとっての本当のリスクファクターは体調不良や消耗を原因とするもので、肉を食べることによってそれを緩和できる可能性があるからだ。

 若者には、よく食べ、よく運動させ、年をとったらどちらも控えめにするのがいい、とよく言われるが、まったく間違いだ。むしろ若者には肉や乳製品は控えめにするよう教え、六十五歳以上の人たちは肉を存分に楽しめばいいと伝えるべきだ。

 4. 伝統食(祖先が食べていたものを)食べる

 マイケル・ポーラン、ダフネ・ミラー博士、サリー・ファロン・モレルなどのフードライターが推奨しているのはどれも一種の伝統食だが、主要な栄養学者のほとんどが、脂肪やコレステロール、および塩分を適度の含むことの多い伝統食には懐疑的だ。

 しかし何を食べ、何を避けるべきかとくよくよ考えるよりも、一番確実な伝統食を食べさせることだ。伝統食は何世紀もかけて形作られたもので、健康によい食物の組み合わせや美味しく感じられる食材の取り合わせが考慮されていて無理なく続けられる。

 わたしたちの先祖は肉の蓄えが底をつく事態に直面して、栄養バランスのいい、美味しくて健康的な料理法の数々を考え出した。それに、何百年、何千年のその地域特性の食事を続けることを通して、そこで暮らす人々の身体は徐々にその食事に適応してきた。

 たとえばヨーロッパや東アジアの場合はでんぷんを分解する酵素を、日本では海藻を分解する酵素を、そして北欧、アフリカや中東、遊牧民族やインド北部では乳を分解する酵素を獲得してきた。

 乳製品にあまり縁のない地域の人々にとっては、高濃度のカルシウムは前立線がんのリスクファクターとなりうる。あなたの祖先がでんぷんや乳製品を大量に摂っていなかったなら、あなたもとるべきではない。祖先が食べていたものを食べる。それだけはぜひ覚えておいてほしい。

 5. 持続可能なやり方で食べる

 残念なことに、安い魚や肉を食べることによって、わたしたちは環境汚染や植皮の荒廃などの環境的代償を結果的に将来の世代に支払わせている。

 この困った状況を回避する最善の方法は、自分たちが暮らす環境に適応した植物や動物をもっと食べるようにし、自国の環境に適さない外国産の植物や動物への依存を減らすことだ。

 世界中の多くの地域に、かっては食べられていたが後の世代が食べるのを厭(いと)うようになった植物や動物が豊富に残っている。

 北米では、ドングリやシカ、クマ、ヘラジカ、ビーバー、魚、水鳥、そして昆虫が価値ある栄養源となってきたが、ヨーロッパから移住してきた人々がそれらの食品を嫌ったりその存在を忘れたりした。

 オーストラリアでも、移民の子孫たちがカンガルーに同様のジレンマを感じている。また昆虫はほとんどの先進国で、またいくつかの発展途上の地域でも嫌悪されている。残念なことだ。

 野生の植物や動物は一般に栄養的によりよい選択肢であり——たとえば、自然の食物はオメガ6脂肪酸に比べてオメガ3脂肪酸を多く含んでいるーー環境保護的にもより持続可能な食物だから。

 さらに、野生の動物は、農場で飼育されているライバルに比べて間違いなくずっと幸福で、自然体の生き物だ。

 6. 自分の肌のタイプが必要とするだけの日光を浴びる

 人類の先祖は長年にわたって日光を浴びてきた。そのことを何よりも明らかに示す証拠は、人の身体が日光を肌に浴びることによって、適量のビタミンDを合成するようにできていることだ。もちろん日を浴びることは皮膚がんを誘発するリスクもある。

 だから週末だけ外で日焼けしたり、日焼けブースに行ったりするのではなく、一年を通して、あるいは一週間を通して、偏りなく日を浴びるようにするのが最善の方法で、そうすると日焼けしやすい肌タイプの人は、保護効果のある自然な日焼けをすることができる。

 また肌の色が白い人は強い日差しを浴びることに十分注意すべきである(北欧の人々が良い例だ)、一方黒い肌の人は必要なだけ日光を浴びるべきだ。

 日差しを浴びることには、乳がんをはじめとするさまざまな種類のがんのリスクを引き下げる効果があるとおもわれる。ビタミンDの錠剤を飲んだりビタミンDを多く含む食物を食べたりしても、大きな効果は望めない。

 人間の身体がどのくらいの量のビタミンDを必要とするのか、さらにはビタミンDが日光浴がもたらしす主な利益であるのかどうかさえも、科学的に明らかになっていないからだ。さらに、ビタミンDを摂取しすぎることによって、前立線がんや結腸がんなどのリスクを高める可能性もある。

 7. 安全な菌や寄生虫に感染する

 花粉症や食物アレルギー、その他のよくある免疫系疾患に罹っている人は、あまり日差しを浴びてないことと、およそ百年前に始まった大掛かりな衛生キャンペーンが原因だと考えていい。

 人類の祖先は細菌やウィルス、そしてたくさんの小さな無脊椎動物に常にさらされながら進化してきたため、ヒトの免疫システムは寄生生物に感染することによって適切な反応を調整できるようになった。

 美しい歯並びには硬い食べ物が、足には地面を連続的に踏み続けることが、目の発達には豊富な自然光が必要なのと同じだ。しかし寄生生物を甘くみてはいけない。

 多くの寄生生物がわたしたちの命を終わらせることができ、喜んでそうしようとするからだ。例えば、マラリアは年間六十六万人の人々の命を奪っていて、これは近年のエボラ出血熱の大流行による死者数をはるかに上回る。

 わたしたちがやるべきことは、寄生生物にさらされる機会を十分もって免疫システムの適正な発達を促し、一方で予防接種を受けてない大人や子どもが原因の疾病の大流行を避けることだ。

 8. 料理は低温で

 牛の肋肉が焼かれて、厚切りのサケがローストされ、一切れのベーコンが火であぶられ、豆腐が、ソテーされるとき、メイラード反応と呼ばれる化学過程が生じて料理には美味しい焦げ目ができる。

 けれども、脂肪分の多い、あるいは高タンパク質の食物を高温で調理するとAGEs(終末糖化産物)が生成される。AGEsは体内でも自然に生成されているが、体内を循環するAGEsの濃度は加工食品を食べることによって上昇する可能性がある。

 AGEsはいたずら者のティーンエイジャーのように、細胞受容体と架橋結合によって結びつき、体のタンパク質の形態や機能を変化させ、酸化損傷や炎症を引き起こして大混乱を巻き起こすことが多い。

 AGEsの考えられる健康への有害な影響としては、動脈硬化、貧血症、アルツハイマー病、白内障、肝硬変、骨粗鬆症、筋肉硬直、握力低下、歩くスピードの低下、肝臓病、1型、2型糖尿病、そして期待余命の短さなどがある。

 AGEsの濃度は調理法によって大きく変わる。生の食物は、AGEsがもっとも少ない。昔ながらの低温調理法(茹でる、蒸す、炊く)はAGEs濃度をわずかに上昇させる。

 高温による水を使わない調理法(直火焼き、オーブンで焼く、揚げる、グリルで焼く)と食品加工によって、AGEsの生成量は最大限に高まる。

 有害なAGEsはハンバーガーやソフトドリンク、クラッカー、クッキー、プレッツェル、ドーナツ、パイ、パルメザンチーズ、パンケーキ、ワッフル、その他の加工食品にも非常に多く含まれる。

 9. 忘れないで:流行のダイエットは効果がない

 食は、わたしたちの生活様式の中で簡単に変えられる数少ないものの一つであり、食が健康の基礎を作ると一般に考えられている——つまり「あなたは食べたものでできている」と。

 だから、肥満や糖尿病、ガンなどの健康問題への応急処置として、多種多様な奇跡のダイエット法や「スーパーフード」にみなが惹きつけられるのも無理はない。

 しかし、肉をたくさん食べても、乳製品を増やしても、野菜や果物中心にしても、生で食べることを心がけても、脂肪を減らしても、その他のどんな食事法に従っても、慢性病から解放された例はほとんどない。

 応急的な食事法が存在しない理由は二つある。① 人の身体はさまざまな種類の食べもを食べることによって成長するようにできてる。時の試練を経た伝統食がまさにそれだ。

 ② 慢性病おもな原因は身体的な生活様式の崩壊で、とくに運動不足が問題だ。だから運動不足を補おうとして食事法を変えても望む結果が得られることはほとんどない。

 最後に一言。適切な食べ物を食べ、よく歩き、あとのことは自分の身体にまかせておけばいい。 』(「おわりに」より

 目次を見ていきます。

 (1)昆虫を食べないなんて (2)ドリアンが落ちる季節(ドングリやドリアンを食べてきた) (3)肉は性欲を高める (4)魚は健康にいいけれど (5)でんぷんの帝国 (6)万能薬—―水・アルコール/乳製品 (7)盗人の真実—―感染症・寄生虫 (8)二度沖縄戦(加工食品などの文化のせめぎ合い) (9)食物の未来

 以上です。(第171回)