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「早期からの緩和ケア」を考える

2020-10-03 05:53:35 | 健康・病気
「痛みには、どうにも耐え難い痛みがある。 こんな時は大声で喚き散らすほうが楽になる」。 明治を代表する文学者「正岡子規」の言葉を、NHK深夜便「絶望名言」の再放送で聞いた。 子規は肺結核で何度か大喀血し、その後結核菌が脊髄に転移し脊髄カリエスを発症している。 数度の手術でも病状は好転せず、やがて臀部や背中に穴が開き膿が流れ出るようになり、激しい苦痛に耐えながら、明治35年34歳の生涯を終えた。 今年新盆を迎えた僕の友人は肺がんで、手術・抗がん剤治療・多臓器転移と、2年半の闘病の末亡くなった。 奥さんの話を聞くうちに、この10年「治療」というハード面は進歩したものの、「緩和ケア」というソフト面の遅れを何とかしないと、安心して死を迎えられないなと思った。

「緩和ケア」は体の痛みは勿論、精神面や社会的な苦痛も含めて多岐にわたり対応する仕組み。 1990年に「WHO」が「病名を患者に告げた時点から治療と並行して緩和ケアを行うべき」との見解を示している。 写真家で、2017年に血液のがん「多発性骨髄腫」を発症し、余命3年の宣告を受けた「幡野広志」氏が、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医の「西 智広」氏との対談で次のように語っている。「例えば、癌の疑いがあると言われて、そこから確定診断のつくまでの数週間って、とてつもない不安に襲われるわけですよ。で、癌と診断されて、そこから先どのくらいで立ち直れるかは人それぞれですけど、そういったときに『死にたい』という気持ちが襲ってくるんですよね。」

しからば現在の医療現場で、早い段階からのケアができるかとなると、治療の多くを担当医が担っている現状では物理的に不可能だし、医療報酬もつかない患者との対話などに時間を割いてくれるかどうか疑問だ。 かっては外科医が麻酔医を兼務して手術を行っていたが、独立した麻酔医との分業体制ができてからは、外科医が手術に専念でき、精度の高い麻酔管理が確立された。 緩和ケアに関しても麻酔と同様、基幹病院に専門医が配置され、質の高いケアを受けられる日が来るのだろうか?。 この問題に関して前述の西氏が、自身の著書「だから、もう眠らせてほしい」の中で「早期からの緩和ケア外来」について次のように説明している」。

「これは他の病院で抗がん剤治療を行っている人に対して、緩和ケアだけ当院で受けられるようにする仕組みだ。 僕が専門とする緩和ケアは、一般的に『終末期医療』のイメージが強く、余命が本当に短くなってから最後に受けるケアと思われがちだ。 しかし最近の研究では抗がん剤治療と並行して緩和ケアも受けることで、患者の生活の質が上がることが示されている。 この10年,アメリカやヨーロッパでは、抗がん剤治療と、緩和ケアをどのように組み合わせていくのが良いか?議論が盛んになされている。 これを受けて日本でも徐々に、緩和ケアを早期から受けられるようにする仕組みが全国的に整ってきている」。

「坊さんは縁起が悪いからと、死んでからじゃないと会わせてくれないが、牧師は神に召される前から病床に来てくれる。 そして患者の不安や胸の内を聞いてくれ、死に対しての心構えや死後の世界についての話などをしてくれる」。 そう言って二度目の脳腫瘍の手術前にキリスト教に改宗し、穏やかな死を迎えた僕の友人が居る。 キリスト教の世界では牧師がメンタルケアの一端を担っており、宗教心を持つことで患者は精神的に強くなれることを教えられた。 仏教の葬儀では僧侶から辟易するほど長い講話を聞かされるが、これなどケアの方にうまく転用できないものだろうか?。