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ボーイング社の経営を揺るがす「737MAX」トラブルと、初期対応の誤算  

2020-01-07 10:26:29 | 航空機
運用開始直後に2件の墜落事故を立て続けに起こし、346名の犠牲者を出して全世界で運用停止となっている「ボーイング737MAX」。 ボーイング社は2020年1月からの生産停止を発表し、12月23日には最高経営責任者(COO)デニス・ミューレンバーグ氏を解任を決めた。 これで運用再開の見通しはまったく立たなくなった。 現在運用停止中の機体は約400機、航空会社への補償額は1兆円を超す見込み。 ここまで追い込まれた最大の要因は、墜落の原因となった構造的欠陥を、「操縦特性補助システム」(MCAS)なる安易な方法で逃げ切ろうとしたボーイング社の経営姿勢にある。

737MAXの胴体は長さを除けば半世紀前の第一世代の頃と大きく変わってない。 さらに遡れば、コスト削減のため1958年就航のボーイング707以来の設計を概ね流用している。 一方、エンジンの方は、燃費改善と高出力を両立させるため口径の大型化が進み、地面とのクリアランスを確保できない旧型の機体は、エンジンの取り付け位置を上方および前方に移動することで問題をクリアーした。 ところがエンジンの取り付け位置を移動した影響で、機首をヘッドアップさせるモーメントが働き、これが失速につながるという重大なトラブルが生じてきた。 さてどうするか? 前述のようにこの時点でボーイング社は判断を誤ったのだ。

正論として考えれば安全対策を優先し、古い胴体に見切りをつけ、大口径エンジンの時代に対応できるような「胴体の設計変更」を選択すべきだったのだ。 ところがボーイングはここでもコスト低減を優先させた。 過去の成功体験が判断を鈍らせたのだ。 対応策として「MCAS」を導入することで問題を解決し、生産に踏み切った。 つまり新たな投資とそれに要する時間を惜しんだのだ。 これに関しては安全のお墨付けである「形式証明」を発行した米連邦航空局「FAA」の責任も重大で、事故後の運航再開に結論を出せない理由も、この辺にあるのではないかと思う。

2件の墜落事故の原因は「MCAS」に取り付けられたセンサーの誤作動が原因だった。 つまり、古い機体に新型のエンジンを載せたために起きたトラブル、これを修正するために考案された苦肉の産物が、尊い人命を奪うことになったのは、皮肉としか言いようがない。 これに携わった多くの関係者の中に、異論をとなえる社員や役員は居なかったのだろうか?。 勿論最後の決断を下すのは解任された「COO」だったが、この重要なポストに座る人は「ベストかどうか?」だけで判断するのではなく、「正しいかどうか?」という高い次元での見識を持たなければならなかった。

現状を見る限り、737MAXの運航再開ができなくなる可能性も決して低くない。 エチオピア機の事故で親族を失ったアメリカの弁護士で社会運動家の「ラルフ・ネーダー」氏は、「737MAXが1960年代に設計した機体に改良を加えたもので、ソフトウエアの問題でなく、エンジンの大型化に伴う構造上の問題である。 ボーイング幹部の辞任を求めるとともに、絶対二度と運航してはならない」と、737NAXの恒久的な運航停止を主張している。 ボーイングには、「777」や「787」など優れた機体や、優秀な技術者も多く、失くしてはならない会社だ。 「仕切りなおす決意」での健闘に期待したい。