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「幻覚症状」と、「三文字」の恐怖

2019-03-04 13:15:25 | 健康・病気

タイトルの「幻覚」とは、実在しない知覚の情報を、実在するかのように体験する症状。 実際にないものが見える幻視のほか 幻聴・幻味・幻臭などがあり、「レビー小体型認知症」で多く見られるのが「幻視」。 僕の女房に起きた幻視について具体的な実例を挙げると、数十年前に他界している父親が彼女には実在し、一緒に生活してると思い込んでいるらしく、「姿が見えないけども何処へ行ったんでしょうか?」などと聞いてくる。 「とっくにあの世に行った人だから戻ってこないよ」と答えると、「そんな筈はない、車で出かけるのを見てたんだから」と納得しない。

さらに夕食時になると「なぜ父の分を用意しないのか?」言われ、「死んだ人は食べないのだから心配しなくてもいい」と言い聞かせるが、釈然としない様子。 こんな会話を連日繰り返していると、こちらの頭もおかしくなってくる。 東京から駆けつけた息子も唖然とし、これからは頻繁に来るようにするからと慰めてくれるが、来たところで役に立つわけでもない。 さらに僕が誰なのか釈然としないらしく、僕が在宅してるのに彼女の妹に電話を入れ、そっちに行ってないかと聞いたりする。 それぞれが口には出さないが、「三文字」の病気、つまり「認知症」を疑っていることは間違いなさそう。

しかし僕がこの時点でまだ認知症であることに疑問を持っている理由は、病状があまりに突飛に起きたことに違和感があったから。 しかしその僅かな希望も一瞬にして砕かれた。 整形外科の主治医に、幻覚の原因は最近増量した鎮痛剤の影響ではないのか?と質問すると、「他の原因じゃないですか」の一言でかたずけられたからだ。 とっさに感じたのは、「この人も認知症を疑っている」ということだが、この回答はさすがにこたえた。 しかし落ち込んではいられない、昨年の認知症検査で「未破裂・脳動脈瘤」を見つけてもらった脳神経クリニックに検査を申し込んだ。

東京の大学病院で脳神経外科医として多くの実績を積み、地元に戻って開業したこのクリニックは、MRIなどの設備と多くの専門スタッフを抱える。 「幻覚」の件は伏せての検査診断だったが、結果は認知症予備軍といったところで、日誌を毎日書くことと「認知症予防ドリル」を活用した脳トレーニングを実行するようアドヴァイスを受けた。 次に訪れたのが、かって女房の「未破裂・脳動脈瘤」の手術を執刀してくれた脳神経外科のK医師。 薬の名前を告げるとすぐに「それの影響でしょう、可能な範囲で薬を減らしてみてはどうですか、たぶん症状は改善するはずです」。 

そして驚いたのは、僕と一緒に話の一部始終を聞いていた女房が、帰宅するなり「結果を早く確かめたい」と、朝晩150mgずつ飲んでいた鎮痛剤を一挙にやめてしまったこと。 痛みに耐えられたのは、認知症に対する当人の強い恐怖感が疼痛を抑え込んだとしか思えない。 まさに「痛みは脳が支配している」ことを実感。  はたして,K医師の診断通り10日ほどで症状は嘘のように消えて無くなった。 この顛末を整形の主治医に伝えるべきか迷ったが、考えた末にやめにした。 しかし親しくしている調剤薬局の薬剤師にだけは、事実をそっと伝えておいた。 女房のようなレアケースに役立ってくれればと思ったからだ。 ちなみに薬局で渡す「おくすり説明文書」の注意事項に「幻覚」は記載されていない。