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ヒューマンエラー防止とメタ認知力(保存用)

2016-09-13 | ヒューマンエラー
-------------------------- 行待武生監修 「ヒューマンエラー防止のためのヒューマンファクターズ」 テクノシステム刊  5章 ヒューマンエラー防止方法 7節 メタ認知力をつける  

7.1 メタ認知力とは    

人間には、自分で自分のことを知り、それをコントロールする力がある。

メタ認知力と呼ばれている。なお、メタ(meta)とは、何かを越えて、何かと付随して、何かのあとに、を意味する接頭語である。  

メタ認知とは、したがって、「認知についての認知力」ということになる。たとえて言うなら、頭の中にもう一人の自分(homunculus)がいて、自分のことを監視し、コントロールする力が、メタ認知力である。  メタ認知力は、おおきく2つからなっている。

 一つは、「自分の心を知る力、すなわち、自己モニタリングである。これもさらに次の3つの領域からなっている。
1)自分は何を知っていて何を知らないかを知る(知識についてのメタ認知)  「首相の自宅の電話番号をあなたは知っていますか」と問われたら、ただちに「知りません」と答える。知らないということを知っている、漢文調に言うなら「知不知(知らざるを知る)」からこそ、電話帳を調べたり、電話局に尋ねたりすることになる。
2)自分は何ができて何ができないか。あるいはどこまでできるかを知る(能力についてのメタ認知)  目の前にある試験問題を解こうとするときに、「これはダメだ」「これならなんとか解けそう」という勘のようなものが働く。あるいは、この仕事なら、制限時間内にほぼ100%できるという推測ができる。これがあるから、無謀な試みも抑制され、できそうにないときは、あらかじめ人に助けを求めることもできる。
3)自分の今現在の心の働きがどうなっているか(認知状態についてのメタ認知)  眠くなってきたとか、集中力が途切れてきたとかといった認識である。これがないと、居眠りをしてしまったり、注意低下の状態で仕事をして、へたをすると事故を起こしてしまうことになる。    

もう一つは、自分の心と行動を制御する力、すなわち、自己コントロール力である。
4)目標遂行と認知状態に応じた対処方略を選ぶ(方略選択についてのメタ認知)  眠ってはいけないときに眠くなったらどうしたらよいかは、経験的に知っている。集中力が落ちてきたら、小休憩をとればよいことも知っている。あるいは、いろいろの対処方略が考えられるときに、一番よさそうなものを選択することもできる。 5)対処方略を実行し評価し訂正する(行為の実行と評価についてのメタ認知)  自分がこうしたいという方向に自分のしていることが向いているかをチェックし、まずければ訂正のための行為をすることになる。  メタ認知がいつも十全に働いていれば、エラー、事故もまず起きないが、ロボットではない人間にとって、それは不可能である。


7.2 メタ認知とエラー、事故  

メタ認知がいつも完璧には働いてはくれるとは限らない。さまざまな形で心のメタ認知不全が発生する。ここにエラー、事故の種がまかれることになる。  なぜメタ認知が完璧には働らかないかというと、そもそも、メタ認知力が十分に備わっていないということが、まずある。  メタ認知力は、それぞれの領域の知識の量と比例している。たとえば、「人間はどんなときにエラーをおかしやすいか」を知識として知っていれば、そのような場面に直面したときに、自分なりに自分の行動や思考をモニタリングができる。あるいは、知識が少ないと、知識に関するメタ認知の働き、つまり、何を知っていて何を知らないかが分からないことがある。かくして、知識不足のまま仕事をしてエラー、事故となる。  本章では、人間はどんなときにどんなエラーをおかすかを知識として知ってもらうことによって、メタ認知力を高めてもらうこともねらいの一つであるが、これを主なねらいとすると、エラーの心理学の話になってしまう。それはそれで非常に大切ではあるが、限られた紙幅では十分ではない。引用・参考文献を参照していただくことになる。  本章では、次に述べるもう一つのメタ認知力向上の方策のほうに主眼を置くことになる。  メタ認知が働かないもう一つのケースは、仮にメタ認知力が十分に備わっていても、状況が、一時的にではあるがメタ認知を働かせなくさせてしまうケースである。  頭がパニックになってしまっているときとか、勉強やゲームに熱中してしまっているときである。こんな時には、いわばホムンクルスの出番がないのである。  こうした極端な事態を想定してのメタ認知力の向上は、警察や消防や軍隊ならともかく日常的な仕事を持っている人々には無理である。ごく日常的な事態を想定してメタ認知力そのものを高める方策もある。それをエラー、事故防止の観点から考えてみたいというのが、本章の趣旨である。  最初に、自己モニタリング力を高めるにはどうするか、次に自己コントロールする力を高めるにはどうするかを考えてみる。

7.3 自己モニタリング力を高める    
自分の心を知るには、内省をすることになる。内省は、心理学の中では、その扱いが面倒なものの一つである。やや余談じみた話になるが、内省をめぐって何があったかについて一言。  1879年に実験心理学の研究室を作り、現代心理学の嚆矢(こうし)とされているW.ブントは、実験室の中で周到に準備した刺激を知覚させたときの心の動きを子細に内省報告させることによって心理データを収集した。これは内観法と呼ばれた。  その後、被験者に内省の仕方を訓練してから実験をする「組織的内観法」なども考案されたが、行動主義の勢いに押されて、内観法は、ほぼ半世紀にわたり、心理学の技法からは追放されてしまった。  半世紀がたって、行動主義に代わって、頭の中の高次の精神過程に目を向けるべしとする認知主義が台頭してきた。その中で、頭の中で今起こっていることをそのまま報告させたデータを使った分析(プロトコロ分析)が使われるのようになり、再び、「内省」が復活してきた。ただし、内観法は、課題が終ってから遡及的に心で起こったことを振り返るのに対して、プロトコル分析では課題をしながら心の動きをオンラインで(その時その場で)発話するので、まったく同じではないが、心に中に目を向ける点では共通している。  いずれにしても、小学校高学年くらいから人間には、その巧拙はあるにしても、自分で自分の心を内省してそれを言語報告する能力がある。それを心理学のデータとしてどのように利用するかはさておいて、

ここでは、エラー、事故を防ぐことを念頭において、メタ認知力をつけるために、内省をどのようにしたらよいかを考えてみる。

●内省の習慣をつける  
性格的なところもあるので、誰もがいつでもというわけにはいかないが、自分の心を内省する習慣をつけることが第一である。そのためには、心の日記のようなものを付けさせることが一番であるが、業務日誌などに、内省報告的な項目を用意しておくようなやり方もある。いずれにしても、書かせることによって、より深い内省に導くことができる。  とりわけ、エラー、事故のリスクが高いところでは、内省の習慣は必須である。この中には、予想されるエラー、事故へ思いはせることも含まれる。いわば、バーチャルKYTの習慣づけである。

●ヒヤリハット体験を活かす  
内省ができない、あるいは内省習慣のない人でも、インシデント(ヒヤリハット)やアクシデント(事故)を体験したときは、自分がなぜ、どうしてとなるはずである。  それを報告させるときに、ここでも、内省を促す項目やチェックリストを用意するとよい。言うまでもないが、自分の心だけの問題としてしまわないために、状況分析(5W1H)は必須であるが、それに加えて次のようなチェックリストの項目を用意することになる。  ・エラーのタイプ(「うっかりミス」か「思い込み」か「記憶違  いか)  ・エラーにつながった自分の側の原因    注意(レベルは コントロールできていたか)    状況認識(見聞き落とし、見聞き間違いなど)    判断(妥当性 情報の量と質)    行為(省略 やらずもがな 時間遅れやはやとちり)  ある看護学校では、自分でヒヤリハット体験を経験する事態を作り、そのときの自分の感じたこと、思ったことを報告させる訓練、いわば、プロトコロ・ベースの内省訓練を試みている。オンラインの発話が難しければ、ビデオ録画しておいてから事後的に、ビデオを見ながら「あの時、何を考えていたか」を問うようなやり方も効果的である。

●心を記述する語彙(心理学用語)、知識を豊富にする  
誰もが自分の心を語る語彙はそれなりに持っている。たとえば、自分の今の感情状態を語ることができる。あるいは、事故を起こしてしまったときの注意の状態がどうなっていたかを語ることができる。  これは、誰もがそれに内省力を持った「心理学者」だからである。しかし、この素人心理学学者は、認識が浅くてあいまい、世間的な常識に囚われるなど必ずしも、自分の心を適切に知ることができるわけではない。  それをより適切で深いものにするためには、心理学の語彙、知識を持つことである。 7.4 自己コントロール力をつける  前述したように、自己コントロール力には、「目標遂行と認知状態に応じた対処方略を選ぶこと(方略選択についてのメタ認知)」と、「対処方略を実行し評価し訂正する(行為の実行と評価についてのメタ認知)」の2つの局面がある。  この2つの局面は、PDS(計画-実行-評価)のサイクルの中に位置づけられるのは自明である。つまり、方略選択についてのメタ認知はP段階で、行為の実行と評価についてのメタ認知はD段階とS段階で問題とされることになる。  ここでは、PDSサイクルは、外部に設定される仕事の使命の制約の中で行なわれるので、それを加えた、図1のような図式の中で、自己コントロール力を高めることを考えてみることにする。 使命(外部目標)     使命の取り違え   計画(方略選択)      思い込みエラー    実行       うっかりミス     評価        確認ミス 図1 外部目標からPDSサイクルまでで    発生するエラー 7.4.1 使命の取り違えエラーを防ぐ  使命の取り違えエラーとは、仕事上をする際に、外部に設定されている使命を取り違えて、自分なりに目標を設定してしまうことによるエラーである。  たとえば、安全を担保とした上で時間決め配達という使命が設定 されているにもかかわらず、安全を無視して時間決め配達を優先させてしまって交通事故を起こしてしまったというようなケースである。  使命の取り違えエラーは、自分なり積極的に状況と関わったために起こることが多い。つまり、エラーの創造的な色合いがあるだけに、扱いが面倒である。

●安全に関する使命を絶えず点検する  
日本の組織では、とりわけ、使命が十分に明示的に表現されていない場合が多い。「そんなことを言わなくとわかっているはず」という状況で仕事をすることが多い。そんな状況では、少なくとも、安全に関しては、自分なりに内部目標としてきちんとその位置づけをして、具体的な状況の中で絶えず点検する必要がある。点検の観点としては、次の2点が重要である。

●仕事上の使命と葛藤させない  
「時間決め配達」は顧客サービスという仕事上の使命であるが、交通渋滞でその時間に間にあいそうもない状況になったとき、安全の関する使命との葛藤状態が心の中に発生する。このとき、安全がサービスより上の使命であることをきちんと内部目標として意識できることがエラー、事故防止には大切となってくる。

●自己顕示は厳禁  
人間には、自己を表現したいという自己顕示欲求がある。厳格なマニュアル(手順)---使命の具体化されたもの---に従って仕事をするようになっていても、自分ならその手順通りしなくともうまくできるとの思いを持つことがあある。どりわけ、仕事に習熟してくると、そうした思いが強くなる。そこにエラー、事故の芽が育まれる。「ベテランになる直前が危ない」との現場の経験則は、このあたりのことを言っているのであろう。 7.4.2 思い込みエラーを防ぐ  使命と内部目標とが適切に対応していても、誤った状況認識のために、内部目標を達成するために誤った計画を立ててしまったときに起こるのが、思い込みエラーである。  たとえば、安全を担保した上で時間決め配達をすることはきちんと認識できていたが、はじめての配達ルートだったため、方角を間違えて反対方向へ行ってしまった、というようなケースである。  思い込みが起こるのは、次のような時である。 ・情報が多すぎたり、逆に少なすぎたりして、十分な情報処理がで きない時(何が何やらわけがわからないような時) ・状況の中に自分の既有の知識で解釈ができるような情報がある時  思い込みはそのすべてがエラー、事故につながるわけではない。見込みで運転した方角に目的地があることもある。そのときは、「してやったり」となる。しかし、しばしば、反対方向に行ってしまうエラーをおかすこともある。そうならないための自己コントロールとしては、次の3つが考えられる。 図2 思い込みエラーの起こるまで

●知識を豊富にしておく  
安全と仕事に関する知識を豊富にしておけば、何が何やらわけがわからない状態にはならなくて済む。また、解釈の妥当性も保証される。  なお、ここで「知識を豊富に」とは、量が多いということに加えて、知識をより高度にしておくことも意味している。ただ知っているだけではなく、その知識が多彩な形で使えるようにしておくことである。   表1 知識の高度化

●あえて判断停止(エポケ)をする  
思い込みはエラーにつながるリスクがあるので、あえて、状況の解釈を一時的に保留することもあってよい。できれば、現場から一時的に離れてみるのもよい。ただし、これは、その間に事態がどんどん悪いほうに進行してしまう恐れがあるときには使えない。

●自分の思いを口に出す  
思い込みは、自分でその良し悪しを判断できない。というより、良い解釈だと信じているからこそ思い込みなのである。そこで、自分の思いを口だしてみることで、自らがそれに気づく、あるいは、周囲の人に間違いを指摘してもらう機会を作るのである。 7.4.3 うっかりミスを防ぐ  うっかりミスは、実行段階で起こる、目標(やろうとしたこと)とのズレである。やるべきことをやり忘れる(省略エラー)、やらずもがなのことをしてしまう(実行エラー)とがある。  その背景には、認知機能(知覚、記憶、思考・判断)のコントロール不全があるが、さらにその源にあって強く影響しているのは、注意のコントロール不全である。逆に言うなら、注意がきちんとコントロールできていれば、うっかりミスは発生しない。そこで、ここでは、注意の自己コントロールに焦点を当ててみる。 注意資源---->認知機能------->実行(うっかりミス)  選択     知覚       省略エラー  配分     記憶           持続     思考・判断    実行エラー 図2 うっかりミスの背景にあるもの  注意資源の管理には、選択(何に)と配分(どれだけ)と持続(どれくらいの長さ)の3つがある。いずれも、自己コントロールできる部分(注意の能動的側面)と、できない部分(注意の受動的側面)とがある。  たとえば、次のようになる。 ・選択   「できる」 ラジオの音声に耳を傾ける  「できない」  大音響のするほうを向く ・配分  「できる」 運転中の携帯電話では運転のほうにより注意を配分  「できない」 携帯の重要な要件に注意が不可避的に配分される ・持続  「できる」  眠くなってきたので喝を入れて注意を持続する  「できない」  同じ作業を長時間すると注意が持続しない  注意の自己コントロールを考えるときには、当然、「できる」側面に着目することになる。

●積極的よそ見を心がける(「選択」)  
「美人 多し よそ見をするな」という交通標語を道路脇で見つけたことがある。美人を求めて注意をあちこちさまよさせるのは積極的よそ見である。人混みの中で美人に注意をとらわれるのは、消極的よそ見である。  いずれも、過度のよそ見は危険である。とりわけ、消極的よそ見は、自己コントロールができないので、その危険度は高い。  しかし、積極的なよそ見は、自己コントロールのもとでの注意配分なので、安全のためにはむしろ奨励される。それは、注意が自己コントロールできるていることの証しを自覚するためでもあるし、さらに、安全をおびやかすものの存在を見つけることができるかもしれないからである。  車の運転でのミラーなどによる周辺観察が、まさに積極的よそ見の典型である。

●管理用の注意を3割残しておく(「配分」)  
注意を集中すれば仕事の能率も精度もあがる。短期記憶のパワーがアップするからである。  ただし、注意資源のすべてを仕事の遂行に費やしてしまうと、資源管理ができなくなり、資源がなくなったことにも気がつかない。さらには、仕事そのものへの過剰集中状態になってしまい、視野狭窄も起こる。  そこで、注意のすべてを一つに集中するのではなく、3割程度は、残しておいて、それを注意自身の管理用に使うのである。たとえば、仕事が順調に進行しているか、次に何をするか、安全は守られているか、疲れていないかなどなどにも注意を配るようにするのである。

●休憩の自己管理をする(「持続」)   
長時間一つのことに注意を向けていれば、だんだん注意力が低下してくる。休憩を入れると、注意が再び回復していくる。  このように、注意は、補給されたり、消費されたり、といったイメージで考えるとわかりやすい。注意は「資源」と呼ばれるゆえんである。  管理用の注意が用意されていれば、注意の枯渇が検出できる。そして、自発的な休憩を取れせることになる。しかし、管理用の注意さえも枯渇してしまうような事態さえありうるので、強制的な休憩管理をすることもあってよい。   7.4.4 確認ミスを防ぐ  PDSサイクルの評価の段階での確認ミスを防ぐための自己コントロールの話である。もっぱら、うっかりミスの確認ミスを取り上げることになる。  なぜなら、思い込みエラーは、計画段階で誤った目標を設定してしまうので、実行結果は、その誤った目標との関係で評価されてしまうからである。それは、確認すればするほど、思い込みエラーの世界に入り込んでしまうパラドックスに直面することになる。したがって、思い込みエラーの自己確認による訂正は考えられない。  さて、うっかりミスは、それをおかした瞬間にエラーとわかるものと、事態がしばらく進行しないとわからないものとがある。たとえば、ブレーキとアクセルの踏み間違えは、車の動きでただちにミスがわかる。ワープロの同音類義の誤字は、あとあとからの別の人の校正でによってようやく検出されることが多い。  エラーをすることが事態をただちに変えるところでは、エラーが起これば、それはただちに検出されるので、確認ミスは不要である。 そこでの問題は、むしろ、一瞬の不注意が引き起こした好ましくない事態の検出(確認)が事故につながらないように、すばやい訂正行為ができるかどうかである。あわてたための不適切な訂正行為がさらに事態を悪化させるようなケースもありうるので、事は簡単ではないが、ここでは、触れない。  確認ミスが起こるのは、もう一つのほうの、実時間ではなかなかミスの検出ができないほうである。確認ミスが事態を回復不能のところまで進行させてしまうだけに、ことはやっかいである。

●確認の大切さを認識する  
確認ミス以前の問題として、確認行為をしないということがまずある。  うっかりミスの起こる確率は、非常に低い。したがって、確認の必要性を実感することはほとんどない。いつも間違えがない状況が続く。そんな中で、いかに確認行為を「習慣として」作り込んでいくかである。  ルーチン的な仕事であれば、確認のための行為を手順の一つに入れて、それをしないと次へすすめないような仕掛け(インターロック)を作り込めばよい。  しかし、すべて行為において、その確認を自己コントロールのもとに置くことは不可能である。確認行為の大切さを認識し、必要なところでの確認をする行為を促すことである。そのためにするべきことは、「どんなところで確認行為が必要か」「どんな確認行為をすればよいか」を知識として持ち、実践してみることであろう。

●確認行為を意識化する  
「習慣として」作り込まれた確認行為も、習慣になってしまうと確認行為はしていても、実際の確認はしていないということになることがある。  仕事に慣れていないときには、一つの要素動作をしては確認しての繰り返しを意識的に行なっている。ところが、次第に仕事に習熟してくると、確認行為も含めていくつかの要素動作が、あたかも、一つの行為であるかのようになってくる。行為のマクロ化である。 図 習熟に伴うPDSサイクルのマクロ化  行為がマクロ化してしまうと、たとえば、指さし呼称のような確認行為も自動化してしまい、実際には確認をしていないのに確認行為だけはするというようなことが起こりがちである。確認ミスの発生である。  マクロ化してしまった確認行為の形骸化を防ぐにはどうするか。  意識化させて確認を実際にさせることがポイントであるが、自動化してしまっている一連の行為系列の一箇所だけを意識化するのは極めて難しい。  一つの方策としては、確認が事故に直結するところでは、確認行為の直前に、一連の行為を中断する個所(ホールドポイント)をあえて入れておく(手順化しておく)ことで、確認行為の意識化をはかるのも有効である。  さらに、確認行為そのものをやや複雑にしておいて、意識化する機会を増やすのも一計である。「指さし」に加えて「呼称」も、さらに、「スイッチ押し」までさせる。あるいは、「よし」の呼称を、「よいか」と疑問形にしてみる()など。 7.5 おわりにーーー古典的精神論に代えて  メタ認知力を付ける話しをしてきた。これは、いわゆる精神論と同根の話しである。違いは、次の2点にある。 表2 エラー防止のための従来の精神論的な提言  一つは、従来の精神論ーー古典的精神論ーーが、それを実行しようとしても、あまりに漠然としていて、具体的な行為としてどうしてよいかが検討がつかなかったのに対して、本章でのメタ認知力の話しは、かなり具体的な行為としての実践をガイドするものとなっている点である。  2つは、古典的精神論が、サイエンスの裏付けのないものであったのに対して、メタ認知力の話しは、認知心理学的な知見の裏付けがある点である。  しかし、古典的精神論もメタ認知力の話しも、ともすると、エラー、事故を人の問題に還元してしまいがちである。幅広く、エラー、事故を検討する視点を失わせがちになる。  それは、本意ではない。あくまで、エラー、事故の問題を考えるためのごく限定された一つの視点に過ぎないとの認識をきちんと持った上で、それでも、エラー、事故のフロント・エンドで自己コントロール不全によるエラー,事故で法的な責任を負わされる(業務上過失)ようなことを少しでも減らすことができればとの思いで書いてみたのものである。   さらに、メタ認知力を発揮できるような外的な状況の設計ということもある。たとえば、表示によって自己モニタリングを促す、インターロック(締め出し)によって自己コントロールを支援する、といった安全工学上の配慮である。本稿は、そんなときの参考になることもあるはずとの思いもある。  

参考文献 海保博之 1996「ワードマップ ヒューマンエラー」(新曜社) 海保博之 2001「失敗を”まーいいか”にする心の訓練」(小学館文庫) 海保博之 1996「人はなぜ誤るのか」(福村出版) 海保博之 2002「ヒューマンエラー防止学」(中央労働災害防止協会「働く人の安全と健康」、2002、3、1月号ー8月号)


 

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