『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  889

2016-10-16 16:19:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、酒と肴、まだあるかな。足らなきゃ持ってくるぞ』
 『いや、充分だ。お前が足りないのじゃないのか。いや、俺は満腹している』
 『よしっ!話を続ける。このクマエ(クマエは、現在のイタリアのナポリの北西にギリシアの植民地として最初に開かれた植民市である。この植民市で使われたギリシア文字の一種のクマエ文字からラテン文字が派生したといわれている)の北西で大河が海に流れ込んでいるところがあるらしい。噂ではこの大河のほとりに肥沃の沃野が広がっていると聞いている。ギリシア本土みたいに岩だらけということがないらしい。国を統治する者の言い分は、土地からの収穫が国を富ませるということであり、国を興す者にとって、第一に考えねばならないことである。俺の勘だが、パリヌルス、俺の今言ったことを忘れるでない。いいな』
 テカリオンは、そのように言ってパリヌルスの目を穴が開くのではないかと思われるくらいにじい~っと見つめた。
 『俺の予感だ!いつもお前と会う時に思うのだが、いつかお前と別れねばならない日が来る。そのような日が来ることを肝に銘じている。出立したら海路をさまようことがあるかもしれぬが、行く先を間違えるでないぞ』
 『テカリオン、どうして、そのような予感を察知するのか?俺にはとんと見当がつかない』
 『なあ~、パリヌルス、知らっぱくれるな、少しばかり深く考えれば解ることだ。統領がこのクレタに見切りをつける日が、そう遠くはない。そのあたりを見込んでの資金作りが新艇の建造にあると見た。また、今まで手掛けた事業、パンの事業、魚関連の事業、造船事業など、このクレタに残る者たちへの統領の配慮、心遣いだ。これは、ここだけでのお前と俺だけの話だ。絶対に口外してはならない、解るな、いいな!統領から指図あるまではな』
 『そうか、俺の質問の意図がお前に分かったか。うその下手な俺が思いやられる』
 『俺に質問するお前の目の色、輝きで察しがつく』
 『そこまで、統領の考えが及んでいるとは思わないのだが』
 『解ったか、理を詰めて考えれば、それくらいのことに察しがつく。考えれば解ることなのだ。先の見える奴と見えない奴との差だ。そして、国家を考えられる者と国家を考えられない者との差でもある。俺は、明言できる!統領アヱネアスの起こす国家は1000年は続くぞ!それのできる奴が統領の子孫に必ず出てくる!パリヌルス、アヱネアス統領についていけ!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  888  

2016-10-16 08:06:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『俺のこのたびの航海か、今度の航海は、へスペリアの南岸の各所を目指してシチリアの手前まで出かけてきたのだが、向こうも天候不順がここ数年続いているようだな。食糧事情がよくない。それに比べて、西アジアの南部地方は豊作と言えないがまずまずといったところだ。西アジアの内陸部も天候不順が続いているそうだが不作続きではない。地下資源の採掘が人々を潤している。トロイの東、アストリア地方も地下資源、金、銅の類、それにヒッタイトの鉄が状況がいいらしい。どうも、不逞の輩は、そのあたりの風聞を耳にしての民の移動とみている』
 『そのような事情があるのか。奴らの目はクレタを見ていないな。クレタはそのような島なのか』
 『パリヌルス、クレタは、奴らにとって、おいしい魅力のある島ではない。クレタは、農耕生産物、畜産物、そのうえ、地下資源が豊富と言えない。また、島の東部地区は森林も伐りつくして木材は枯渇状態だ。サントリーニの火山爆発の影響を受けて、野草も貧弱、見ての通り牛もいない島ではないか。隆盛を極めた文明も廃れにかかっている。さきが思いやられる島なのだ』
 『言われてみれば、うなづける。国家興隆の大計を建てるに最適の土地ではないと感じている』
 『俺が他人から聞いている風聞ではだな、ヘスペリアの中部地帯は、文明度の高い、トロイ、クレタ、シュメール、メソポタミア、エジプトに比べて、未開の地と言っていいくらいのところらしい。これからという未来を考えたら、国を興すのに最低の条件を整えやすいと考えられる』
 『テカリオン、何故だ?そのように西のことについて調べたのか?』
 『ちょっとな、カルタゴについて興味を持ったのだ。カルタゴは、ギリシア人が植民して、都市国家を形成して、結構長い、そのカルタゴに興味があったのだが、風向き、海荒れで行きそびれたわけだ。シチリアにもギリシア人の都市国家があって、行きたかったわけだが、自然の状況変化にさえぎられたということだ。この辺り、へスペリアの南岸には、ギリシア人中心の都市国家が開かれているのだ。このシチリアからへスペリアの西岸を北上したところに、クマエというところがあるらしい、そのあたりまでにいくつかの都市国家が開かれていると耳にしている。そのクマエなるところから以北には植民地が存在していないと聞いている。状況は定かに知るところではない』
 テカリオンは、ここまで話してひと息ついた。