古希からの田舎暮らし

古希近くなってから都市近郊に小さな家を建てて移り住む。田舎にとけこんでゆく日々の暮らしぶりをお伝えします。

動物児童文学  『千子の夏休み』 (4)

2011年08月20日 04時44分09秒 | 古希からの田舎暮らし 80歳から
           『千子の夏休み』  (4)

「日本にいなかったアライグマが、どうしてすみついたか。みなさん、しってますね。そう、テレビのアニメを見て、アライグマを飼う人がふえたからです。では、あのうた、うたえますか」
 スクリーンにアニメがうつった。
 野原がひろがり、少年とアライグマが、じてんしゃにのってはしり、草はらを、ころげまわっている。
 おんがくがながれた。
 荒井さんは、「ハイディハイディリトゥラスコー」と英語でなにかうたいはじめ、「ヒアラスコー」と声をかけた。すると、おじさんやおばさんたちが、スクリーンのことばを見て、声をそろえてうたいはじめた。
  
    しろつめくさの はながさいたら
    さあ いこう ラスカル
    ろくがつのかぜが わたるみちを
    ロックリバーへ とおのりしよう
    かみさま ありがとう
    ぼくに ともだちをくれて
    ラスカルに あわせてくれて
    ラスカルに あわせてくれて
    ありがとう ぼくのともだち    
    ラスカルに あわせてくれて

 荒井さん、水田さん、光さん、千子のおとうさんおかあさん、それに村のおじさんおばさんたちも、おとながみんな、大きな声でうたっている。
 なつかしそうに うたっている人。
 なみだぐんで うたっている人。
 顔が かがやいている。
 へやの空気が、いっぺんにかわった。
 千子はびっくりした。ほかの子どもたちも、わけがわからなくて、きょとんとしている。おじいさんやおばあさんたちは、なんでうたなんかうたうんだ、という顔をしている。
 荒井さんは、千子やゲンや村の子どもたちの顔を見ていった。
「ふしぎでしょ。ふだんえらそうにしているおとなが、子どものアニメのうたを、大きな声でうたうなんて。じつは、いまから30年まえ、『あらいぐま・ラスカル』というテレビアニメが、放送されました。11さいの少年が、アライグマの子どもをひろって、そだてるおはなしでした。一年間、まいしゅう放送されて、ぼくたち日本の子どもは、日曜日のよる、このアニメを見るのが、とてもたのしみでした」
 おじいさんたちが、声をあげた。
「あのテレビがよくなかった。あれで、子どもがアライグマを飼うようになった」
「アライグマを、日本につれてきて、売ったやつがわるい」
「アライグマは凶暴だからって、にがしたやつがわるい」
「ちょっとまってください。だれがわるかったかを、いまになってはなしあっても、しかたありません。もう日本にすみついてしまったのです。
 ではどうすればいいか。つかまえて、へらすしかありません。100匹のアライグマがいるとして、まいとし、半分ずつつかまえれば、9年後にはゼロになります。いまからそとに出て、捕獲器のつかいかたをせつめいします」
 公民館の倉庫のまえには、じょうぶな金あみでつくった捕獲器が、ならべてあった。
 どんなところにおくのがいいか、えさはなにがいいか、のらねこやたぬきがはいったらどうするか、荒井さんはわかりやすくせつめいしてくれた。
 公民館のまえに車がとまり、見たことのないおばさんが、つかつかとやってきた。
「わたしは、日本アライグマ友の会の、佐藤澄子といいます。みなさん、アライグマを捕獲器でつかまえようとしていますが、つかまったアライグマは、どうなるかしっていますか」
 荒井さんは、こまったような顔で、よそを見ている。佐藤というおばさんは、そばにたっていた千子の顔をのぞきこんで、いった。
「おじょうちゃん、アライグマはつかまったらどうされるか、しってるの」
 千子はくびをふった。
「みなさん、アライグマはころされるのですよ。なんにもわるいことをしていないのに」
「スイカを食いあらされたぞ」
「特産品のブドウをやられた」
 佐藤さんは一歩まえに出て、みんなを見まわしてから、えんぜつをはじめた。
「みなさん、きいてください。アライグマのあかちゃんは、カナダの森でのびのびとくらしていました。ある日、こわいおじさんにつかまえられて、日本につれてこられました。アライグマは、お店で売られ、子どもに飼われ、ちょっとひっかいたからってたたかれ、野山にすてられました。アライグマは、イタズラしてやろう、わるいことをしてやろう、なんてかんがえていません。つれてこられた日本で、ひっしに生きているだけです。そんなアライグマを、みなさんは、つかまえて、ころしてしまうのですか」
 佐藤さんのけんまくに、みんなだまってきいているだけだ。
「アライグマは、いまでは日本にすみついています。アライグマを、ぜつめつさせることは、もうできません。だったら、しぜんにまかせたらいいじゃありませんか。がいこくからきたどうぶつは、アライグマだけではありません。それがふえて、日本をせんりょうしてしまいましたか。
 畑でつくるものを食べられてこまるなら、電線のさくをすればいいじゃありませんか。人間の食べものをとって食べるのは、アライグマだけじゃないでしょ。アライグマは、ねこやいぬとおなじ、いのちあるどうぶつです。人間のつごうで、ころさないでください」
 それだけいうと、佐藤さんはさっさと車にもどって、行ってしまった。
 あっけにとられて見ていた人たちが、がやがやしゃべりはじめた。
 水田さんが、荒井さんにきいた。
「あの佐藤さんをしっているんですか」
「ええ、アライグマをころすな、と役所にこられることがあります」 
 荒井さんは、村の人たちにむかっていった。
「たしかにアライグマは、くるしまないように安楽死のしょぶんをします。それはやさいやくだものをつくって食べる人間には、しかたのないことです。でも、畑をあらされたことのない人に、なかなかわかってもらえないのが、ざんねんです」
 荒井さんは、アライグマが捕獲器にかかったら、ぜったいに自分ではこんではいけない、かならずれんらくしてください、とつけくわえた。
 千子のおじいさんは、捕獲器をかりようともうしこんだけど、じゅんばんまちになった。
 
 8月12日のあさ、千子が顔をあらっていたら、とめちきさんが死んだ、とゲンがしらせにきた。光さんはいろいろ用事があるので、モルモットのせわをしてほしいとたのまれたいとう。
 なにかてつだいをしたいと、おじいさんも千子についてとめきちさんの家に行った。とめきちさんの家には、村の人が五人きて、あまどをあけ、へやとにわをかたづけて、そうじしていた。ゲンと千子はうらにまわって、モルモットの小屋をそうじした。モルモットが1匹死んでいたので、はかにうめて、花をそなえた。
 えさのやさいと水をやっていると、光さんと千子のおじいさんがうらにまわってきて、しばらくモルモットを見ていた。
 おじいさんが、モルモットにはなしかけた。
「とめきちさんは、やすらかな顔をしておられた。おまえたちには、25年もせわをしてもらったことが、わかるかのう」
 光さんは、なにもいわないで、モルモットをたしかめるように、1匹ずつ見ていた。
  
 つぎの日、とめきちさんのそうしきにあつまった人たちに、光さんはおれいをいった。
「とめきちの身内といえば、まごのわたしだけです。わたしは、中学校をそつぎょうして、23年まえにこの村をはなれてから、一度もかえってきませんでした。村のみなさんに、おせわになりっぱなしでした。きょうも、とめきちをおくりに来ていただいて、きっとよろこんでいると思います。ありがとうございました」
 れいきゅう車が出てしまうと、ゲンと千子は家のうらにまわって、モルモットのせわをした。モルモットをそとに出してだんボールばこに入れ、鉄のさんを水であらってきれいにした。あたらしいわらを、たっぷりしいた。
 えさばこや水入れをあらって、小屋の金あみのくものすをはらった。
 千子は、小屋をきれいにしながら、モルモットはどうなるのだろう、モルモットはどうなるのだろう、と思っていた。ゲンもそれをかんがえているのだろうが、だまったまま、そうじをしていた。
 そうじがおわると、モルモットを1匹ずつりょう手でだきあげ、顔を見てから、小屋に入れた。32匹いた。
 ゲンが、とめきちさんにもらったモルモットをさんぽさせたいといった。千子はゲンのうちに行き、二人は1匹ずつモルモットをだいて、池のふちをまわって、クローバーのしまにつれていった。2匹はいまもなかよしで、草の上におろすと、頭をくっつけるようにして、クローバーを食べた。
 14日のおぼんの一日を、千子は家でおじいさんとおばあさん、おとうさんとおかあさんとすごした。ゲンがよびにくるのではないかと、一日中気になったが、ゲンはこなかった。
 千子は、あさってのあさ、おとうさんおかあさんといっしょに、まちにかえることになった。
 あしたは、自分からゲンの家に行って、いっしょにモルモットを見に行こう、と千子は思った。
 15日のあさ、ふくや本をかばんにつめていると、ゲンがやってきた。
「モルモットの小屋でなんかあったみたい。光さんと水田さん、それにしらないおじさんが、小屋のほうで、はなしてるのが見えた」
「ゲンちゃん、行ってみようか」
「それが、子どもはきたらだめって。光さんから、ばあちゃんにでんわがあったんや」
「だって、わたし、あしたかえるのに。きょうはモルモット見たい」
「そりゃ、ぼくも気なるけど。またばあちゃんにきいてもらうからまっといて」
 千子は、むねがざわざわした。
 

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