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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上自衛隊最先任上級曹長制度は定着するか

2007-01-28 15:39:28 | 防衛・安全保障

■制度検証中の最先任上級曹長制度

 陸上自衛隊では、2006年4月1日より、陸上幕僚監部、中部方面隊において、最先任上級曹長制度の制度検証を実施している。幹部に昇進せずとも曹士を率いる曹長の昇進をさせ、任官したての幹部を補佐する制度は出来ないものか、ということで試験的に導入された制度である。

Img_6782 指揮は将校(幹部)が行うが、戦闘を行うのはいつの時代も兵士(曹士)である。さて、『ワンス・アンド・フォーエヴァー“WE WERE SOLDIERS”』という、ヴェトナム戦争を描いた映画があった。第七航空騎兵連隊が遭遇した“イアドランの戦い”を取り扱った作品で、ヴェトナム戦争の実話を扱った作品としては最も秀逸なものであったが、作品中にメル・ギブソン扮する連隊長のハル・ムーア中佐とともにその傍らで的確な助言と部隊の指揮鼓舞を行い、45口径拳銃を片手に任務完遂に大きな功績を挙げたプライムリー上級曹長の役割も印象的に描かれていた。

Img_2219  閑話休題、写真は第二教育団付の最先任上級曹長、青い腕章が眩しい。この最先任上級曹長制度とは、アメリカ軍の司令部付最上級曹長にあたる、いわば下士官の長というべき存在で、これは陸上自衛隊においても1981年に階級として曹長を設置して以来、その必要性が論議されていたものである。旧軍時代から極めて狭き門ながら下士官の将校への昇進制度を導入していたが、この制度は自衛隊にも継承され、防衛大学校や一般幹部候補生以外にも部内から3尉へ昇進する制度がある。

Img_2286_1  しかしながら、海千山千の経験を積もうとも、曹士から試験をパスして幹部となれば、防衛大学校や一般幹部候補生を経て任官した3尉と階級の上では同じ扱いとなる(ただし、B、U、Iというように防衛大学校、一般大学、部内選出は区別される)。教育隊において三ヶ月間の前期教育、その修了後に職種毎の後期教育が行われ、更に陸曹教育では73課目400時限を六ヶ月間で修了、更に経験を積み部内選出として合格し、その後BOCとして3尉に必要な教育を受けている。

Img_0355_1  これだけの経験を積んだ部内選出の幹部も、一概に同じように扱われるのは勿体無い、ということで特に米軍などでは将校に昇進せずとも司令部付最上級曹長制度が創設され、大隊付上級曹長などが創設、特に統合参謀長に直接意見を述べられる参謀総長付最上級曹長制度までが創設され、兵士や下士官を最も知る曹長として、部隊の円滑な運用に寄与している。このように、幹部に昇進せずとも昇進できるよう考えられた制度が、アメリカの司令部付最上級曹長の導入である。

Img_2236  新しく制度検証しているのは、陸上自衛隊最先任上級曹長、中部方面隊最先任上級曹長、師団最先任上級曹長、旅団最先任上級曹長、指揮官将補最先任上級曹長、指揮官1佐職及び2佐職最先任上級曹長で、腕章を装備している。従って、方面隊、師団、旅団、団、連隊、群、大隊、隊(これは師団、旅団改編により創設された特科隊、施設隊などを示し、隷下に戦闘基幹部隊である中隊は有さないが、中隊よりも上級部隊とされている)の司令部付隊や本部管理中隊に配置される。

Img_0390  階級は基本的に准尉であるから階級では幹部よりも下という扱いにはなるが、司令部付隊に直属しており、指揮官に付き添う形で指揮命令に意見することもでき、特に部隊把握や、戦闘能力を曹士の視点から助言することが出来る。特に、一つの部隊に勤務している期間が十年二十年となれば、空気一つ、隊員の顔色一つで状況を判断でき、特に指揮幕僚課程(CGS)を経て上級幹部へ経験を積むべく二年に一度の転勤が常態となる指揮官を的確に補佐することが可能である。

Img_0816  さて、海上自衛隊では旧海軍から伝統的に先任伍長という制度がある。旧陸軍の下士官としての伍長とは全く異なり、兵曹長(陸軍では下士官扱いであったが海軍では准士官扱い、つまり旧軍の海軍兵曹長は陸軍の准尉にあたる)野中から選抜された、いわば軍艦(自衛艦)における兵士、下士官(曹士)の代表を意味し、巡検などでは副長とともに先任伍長は艦内の状況を点検する。艦長を含め幹部自衛官は数年おきに転勤があるが基本的に転勤の無い先任海曹から最先任の者があたる。

Img_1240  先任伍長と聞いて馴染みの無い方は防衛白書や自衛隊関連の書籍をめくってみればわかるのだが、先任伍長という階級は海上自衛隊には無く、従って制度的に継続されているものであり、言い換えれば名誉職というものであるが、考えれば先任海曹というものも階級としてではなく、一種の名誉職としてではあるものの、何分旧海軍以来の伝統があり、特に一隻をひとつの集団として戦う艦艇にあっては、必要かつ、合理的な教育システムであったのだろう。

Img_2675  写真は、海上自衛隊阪神基地の先任伍長室。

 護衛艦などの艦艇における先任伍長の扱いは、幹部に準じており、科員室とは別に先任海曹室という内装も幹部室に準じた部屋が用意されており、幹部を補佐し、艦内の士気を鼓舞、規律を徹底し、また団結の強化を行う重要な位置を占めている。特に、シーマンシップ育成に先任伍長の責務は重く、海上自衛隊の艦艇が世界で最も清潔で、規律が行き届いていると海外メディアに評価されるのもここにある。

Img_9735_1_1  先任伍長といえば映画は散々であったが原作は面白かった『亡国のイージス』でも大きく扱われたことを思い出すが、先任伍長の護衛艦における役割や、その地位、幹部との関係などに興味をもたれた方は原作の方の『亡国のイージス』を読まれれば、護衛艦を熟知した先任伍長と北朝鮮工作員の戦いを通じて、海上自衛隊の先任伍長制度をじっくりと知ることが出来よう(映画の方は『戦国自衛隊1549』でいわれているように幕僚監部広報室と制作陣の確執が作品の出来に影響したことは想像に難くない)。

Img_4547  さて、海上自衛隊の先任伍長制度やアメリカ軍の司令部付最上級曹長制度に準じた制度が試験的に導入され、制度としての検討が為されているが、幹部の命令を末端に届かせる様々な可能性を有するこの制度が全陸上自衛隊に採用されることを期待したい。

HARUNA

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