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フランス海軍強襲揚陸艦『ミストラル』 東京港を親善訪問

2008-04-15 17:55:30 | 北大路機関特別企画

■ミストラル日本寄港 日仏国交150周年

 2008年は、日本・フランス国交樹立から150周年を迎える。この一環として、フランス海軍の強襲揚陸艦『ミストラル(L9013 Mistral)』が東京港を親善訪問した。Weblog北大路機関アクセス解析40万突破記念記事は、この『ミストラル』特集である。

Img_3_1  2008年4月8日から13日にかけて、フランス海軍太平洋艦隊司令官のフレデリック・モーリス海軍少将とともに、強襲揚陸艦『ミストラル』、駆逐艦『デュプレクス』が日本を親善訪問(天候の関係で東京入港は9日、『デュプレクス』は横須賀寄港に変更)。海上自衛隊は、第4護衛隊群司令徳丸伸一海将補の指揮する『きりしま』『はまぎり』をホストシップとして派遣した。フランス海軍艦艇の訪日は1961年以降49回を数える。

Img_9950  東京港若洲15号地埠頭に停泊する『ミストラル』と『きりしま』。若洲埠頭に次の艦艇寄港に際しての撮影備忘録としては、近傍の新木場駅の改札口を出たのが0550時。始発バスまで時間があったため、タクシーも見当たらず徒歩にて移動を開始。0613時に到着、徒歩20分強で最初の一枚を撮影した。

Img_9951  徒歩の場合は、新木場駅前交番からみえる千石橋に向かって歩く。間違えて若洲橋方面に行かないように(若洲から埠頭までは立ち入り出来ない、ただし、若洲海浜公園からの撮影についてはデータ不詳)。バスを利用する場合は、最寄のバス停は南千石橋、数百メートル離れて新木場南バス停があり、都営バスにより新木場駅から短時間で展開できる。フェンスが高く、コンパクトデジカメよりもレンズが大きな一眼レフにて撮影する場合は、一段式でもいいので小型脚立があると便利だ。

Img_9975  『ミストラル』は、『ミストラル』級強襲揚陸艦の一番艦で、『ミストラル』は2006年12月に就役。二番艦の『トネル(Tonnerre)』は2007年2月に就役している。全長199㍍、最大幅32㍍。満載排水量は21500㌧。主機はディーゼルエレクトリック方式を採用しており、出力は19040馬力、ポット式推進器二基により速力は19ノットである。

Img_9984  武装は、30㍉単装機銃二基、12.7㍉機銃四基、携帯SAM連装発射器二基。揚陸部隊450名(最大900名)と装甲車両60両(ヘリを搭載しない場合は230両)。2006年のイスラエル南レバノン侵攻に際する国連停戦監視部隊派遣任務にはルクレルク主力戦車も、『ミストラル』により派遣されている。運搬手段はヘリコプター8機、LCM中型揚陸艇(満載排水量150㌧)4隻(LCACの場合2隻)を搭載する。

Img_9988  航空機は8機とされているが、最大で海軍のNH-90もしくは陸軍のピューマ輸送ヘリ20機を搭載可能(車両を搭載しない場合で格納庫にNH-90が16機収容可能とされる)で、CH-53D輸送ヘリやMV-22ティルトローター機6機分の発着スポットを有していることから相応の甲板強度があるとされる。ただ、VSTOL機の運用は考慮されていない(ちなみに仏軍にはVSTOL攻撃機は配備されていない)。

Img_9994  『ミストラル』級は、2000年12月にフランス国防調達総局が二隻を5億6000万ユーロ(6億7470万ドル)でDCN(国有造船所)に発注した。建造は分割方式で行われ、前半分をアルストム・マリンシャンテール・デラトランティーク社が、後半分をDCNブレスト造船所が担当し、これにより建造コストの30%縮減と、大幅な工期短縮が実現した。建造費縮減のために商船規格を採用している。

Img_0033_1  商船規格ということで推進方式は360°旋回のアスルトム社製ポット式推進器“マーメイド”を採用しているため、舵は無い。機動性に優れたポット式推進器とバウスラスターを採用しているが、艦内容積を重視した為上部構造物が大型化し、航行時や接岸作業には強風の影響を受けやすいのではないかという指摘もある。

Img_0062  商船規格ということで、クルーズ船の設計が可能な限り流用されており、このため艦内は自動化が進み乗員は160名に収まっている。また、クルーズ船のキャビン設計と配置を応用したことで、上陸部隊は4~6名個室寝台を利用することが出来、これはフランス陸軍の地上施設よりも居住性に優れているとされる。ただし、クルーズ船の設計を流用したことで、20000㌧以上の揚陸艦としては非効率な輸送能力しか有さないのでは、という指摘もあるようだ。

Img_0036_1  艦内には、スポーツジムやバーの他、クルーズ船の名残として安全用の手摺も船内通路全ての取り付けられている。海上自衛隊のイージス艦『きりしま』。本艦と『ミストラル』をみると、無論、ミサイル護衛艦と強襲揚陸艦という根本的な相違があるのは当然としても、それ以上になにか異なる印象を受ける。

Img_0042_1  統合電機推進艦である本艦の推進方式は、ディーゼルエレクトリック方式が採用されており、ディーゼル発電機で発電し、推進器を作動させる方式である。ポット推進とともに、クルーズ船に多く用いられている方式で、速力はあまり重視されていない為、19ノットに抑えられている。たほう、こうしたコスト低減により、ドック型揚陸艦『フードル』級の二倍以上の大型艦でありながら、建造費は三割ほど安価に収めることが出来たとのこと。

Img_0070  『ミストラル』級は、揚陸指揮艦としての昨日も重視されており、艦自体の指揮通信能力充実はもとより、作戦指揮スペースとして1000?を確保しており、更に医療施設も800?を確保している。医療施設は、手術室二箇所と病床55床が設置されており、必要に応じて増強可能だ。

Img_0041_1  エレベータは、航空機用一基、車両用一基が上部甲板と艦内を結んでおり、航空機用エレベータは、艦尾部分に、車両用エレベータは艦橋後方に設置されている。ドック部分は、注水方式のウェルドックが採用されており、57㍍×15.4㍍のウェルドックが配置されている。『ミストラル』級は『フードル』級ドック型揚陸艦(満載排水量12400㌧)の三番艦四番艦計画に代えて導入された経緯があり、ウェルドック機能は、こうした背景から盛り込まれたものと思われる。

Img_0048_1  フランス海軍の両用戦艦艇は、この『ミストラル』級2隻、『フードル』級ドック型揚陸艦2隻、ビーチング方式の戦車揚陸艦『シャンプレーン』級(満載排水量1580㌧)4隻、CDIC級(満載排水量750㌧)やEDIC級などの揚陸艇19隻から成る。また、1991年の湾岸戦争では『クレマンソー』級航空母艦(現在は退役)が陸上部隊や車両を輸送したが、現行の原子力空母『シャルル・ド・ゴール』(満載排水量42000㌧)も必要に応じて兵員輸送能力を付与させ、任務に充当する。

Img_0056_1  このほか、フランス海軍の両用作戦能力を支える艦として、ヘリコプター巡洋艦として建造され、練習巡洋艦に当てられている『ジャンヌダルク』は1964年に建造された古い艦ながら、有事の際には10機という有力なヘリコプター運用能力を活かして、強襲揚陸艦用途に充てられる。1960年代に整備された『ウラガン』級ドック型揚陸艦(満載排水量8500㌧)は除籍されたようだ。

Img_0062_1  近年では、いわゆるヘリコプター空母(軽空母)に陸上部隊の輸送能力を付与した戦略投射艦の整備が進められており、1970年代に米海軍が制海艦構想(のちに中止)が各国に与えた影響に基づく、いわゆる軽空母とは一世代進んだ艦船の整備が進められており、イギリスの『オーシャン』(21758㌧)や先日就役したイタリア海軍の『カブール』(満載排水量27100㌧)、韓国海軍の『独島』(満載排水量19000㌧)に加え、スペインやオーストラリアでも27000㌧クラスのドックを有する強襲揚陸艦の整備計画が進められている。

Img_0068_1  近年、攻撃力に特化し航続力や個艦防衛能力に限界を来たしているミサイル艇の代替としてドイツ海軍はヘリ運用能力を盛り込んだブラウンシュヴァイク級コルベット(1662㌧)の建造をすすめ、米海軍では燃料費や建造費高騰に頭を悩ませつつも,ミサイルフリゲイトなどの代替と大型艦の補完して速力50ノット、イージスシステムも搭載可能な沿海域戦闘艦『フリーダム』級・『インディペンデンス』級の建造を進めている。

Img_0071_1  各国の大型水上艦計画をみても、仏伊共同のホライズン級やイギリスのデアリング級など多機能レーダーを搭載した高性能な水上艦が計画される中で、コスト高騰に悩み、オランダではフリゲイトの代替としてフリゲイトよりも大型の航洋哨戒艦が計画され、デンマークのアプサロン級多用途支援艦のように、輸送艦とミサイルフリゲイトの中間のような艦も誕生してきている。いわば、低コストに重点を置きつつ、冷戦時代の対潜対空対水上戦闘能力重視から現代のテロとの戦いや海洋権益保護、国際人道支援との併用に耐える、艦艇の多機能化時代に移行しているともいえる。横須賀や佐世保の米海軍艦艇や海上自衛隊艦艇だけでは、これを示す事例はみることはできないものの、今回訪日した『ミストラル』の独特の艦容は、日本にその潮流を示すMistral(季節風)のようにも思えてくる次第だ。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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