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【くらま】日本DDH物語 《第十一回》S-2艦載哨戒機導入と国産23000t型対潜空母研究

2017-04-29 22:41:33 | 先端軍事テクノロジー
■海上自衛隊S-2艦上哨戒機導入
 鹿屋航空基地エアーメモリアル鹿屋2017が明日開催されますが、鹿屋基地広報館には多数の航空機が展示されています、散策しますと、S-2艦上哨戒機という特異な航空機が並んでいるのを見つける事が出来るでしょう。

 海上自衛隊が対潜航空母艦として基準排水量23000t、ヘリコプター18機と固定翼哨戒機6機を運用する実質的な対潜空母が、構想されたことがあります。これまで紹介しました基準排水量8000t程度の全通飛行甲板型護衛艦とは桁違いで、実際に基準排水量8000tの対潜空母研究では建造費の見積もり研究が為されていましたが、こちらは構想止まりです。

 23000t型対潜空母、現在運用されていますヘリコプター搭載護衛艦いずも型が19500t型護衛艦として建造されていますので、基準排水量では対潜空母構想は護衛艦いずも型を上回るものでした。構想止まりではあるのですが、幾つか防衛政策と重ねて見ますと、類推の域は出ないものの、防衛政策の点と線は可能性は空想止まりでない事に気付かされます。

 空母艦載機を海上自衛隊が導入していた、一つはこのS-2艦上哨戒機という装備品の導入に挙げられます。S-2艦上哨戒機は1952年にアメリカのグラマン社が開発した空母艦載機で、全長13.26mと自重8.3tの小型哨戒機です。P-2V対潜哨戒機は全長27.95mあり自重22.6tと、機体規模はかなり違います。P-2Vも性能は不十分であった訳ではありません。

 P-2V哨戒機は当時アメリカ海軍でも最新鋭の機体で、海上自衛隊は草創期に第二次大戦中のアベンジャー艦上攻撃機を改修したTBM対潜哨戒機の代替として最新鋭のP-2V供与を要請、実現したものです。調達数は64機と比較的多く、S-2艦上哨戒機はP-2V対潜哨戒機の数量不足を補う為でも、性能不足を補う為でもない二機種目の導入となっていました。

 S-2艦上哨戒機は空母艦載機として開発された小型対潜哨戒機で、海上自衛隊はアメリカ海軍第21対潜飛行隊へ訓練派遣隊を展開させ、特筆すべき点として海上自衛隊操縦要員による空母艦上発着艦や艦上整備作業等の研修を実施しました。勿論、S-2機体そのものの研修も並行して実施され、ノースアイランド海軍航空基地において器材実教育が行われました。

 艦上哨戒機という設計上、航空母艦の陸上基地よりははるかに小型の格納庫に多数を装備する以上小型化が求められますが、次期探知装置MADやAPS-38水上捜索レーダーとソノブイ16本を小型の機体へ格納しており、レーダーとMADは胴体引き込み式でソノブイはエンジン周辺に分散搭載する苦肉の策が用いられていますが、性能は充分有しています。

 海上自衛隊はS-2艦上哨戒機をどのように運用したのかと問われれば、実際のところ運用構想自体に航空母艦からの運用はほぼ考えられていませんでした。海上自衛隊にはP-2V対潜哨戒機という非常に有力で行動半径の大きな哨戒機が配備されていますが、それでは海上自衛隊はP-2Vに加えS-2艦上哨戒機をどのような運用を構想し導入したのでしょうか。

 空母艦載機という特性上、沿岸部での重要水道の哨戒にP-2V対潜哨戒機では大型過ぎ、HSS-2対潜哨戒ヘリコプターでは進出時間が大きく要する海域での運用に特化しS-2を運用しています。実際、沖縄返還前の南端であった大隅海峡や豊後水道に近い鹿屋航空基地、津軽海峡睨む八戸航空基地、そして紀伊水道に近い徳島航空基地へ配備されています。

 エセックス級対潜空母プリンストン艦上で運用教育を実施し、海上自衛隊要員による空母艦上発着訓練も実施していましたので、確かに航空母艦での運用は考慮の内に入っていたのかもしれませんが、あくまで沿岸用です。実用性は相応に高く、海上自衛隊は後年、S-2の旧式化に併せ国産MU-2を原型とする沿岸用新型小型哨戒機の研究を実施しています。

北大路機関:はるな くらま
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