北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【初春討論】いま自主防衛力を問う:後篇・・・戦争備える在日米軍備蓄と国家決意支える国民合意

2017-01-05 21:18:27 | 北大路機関特別企画
■国民理解と国民合意が必要
 自主防衛力の整備とは、米軍のポテンシャルを置き換えて初めて可能となる命題ですが、この為には膨大な予算と備蓄が必要であり、一見無駄とも思われる備えへの国民理解と、この政策を継続的に進める国民合意が不可欠といえるでしょう。

 在日米軍のポテンシャルは大きく分けて三つ、一つは日本へ駐留する空母航空団や空母任務群と三個航空団の航空戦力や海兵師団の強力な戦力、二つ目は緊急展開能力を持ち有事の際に周辺地域へ日本国憲法に縛られず即応展開し紛争拡大を阻止する戦力投射能力、三つ目は横浜や相模原と広や沖縄に備蓄される膨大な戦時用事前集積品とその管理能力です。自主防衛力を整備し、その上で米軍に頼らない防衛政策を展開するならば、この部分を行わなければなりません、不可能かと問われれば第二次大戦前までは実際に行えていましたので、不可能とは言い切れません。

 アメリカ軍はどのくらいの部隊を日本においているのか。在日米軍部隊、航空戦力では空軍の三沢基地第36戦闘航空団のF-16戦闘機40機と横田基地第374空輸航空団のC-130輸送機20機に嘉手納基地第18航空団のF-15戦闘機50機とE-3早期警戒管制機3機。海軍航空部隊が厚木基地第5空母航空団のF/A-18C/E戦闘機50機とE-2C早期警戒機5機。海兵航空部隊が岩国航空基地のF/A-18C/AV-8等20機、です。

 在日米海軍部隊は横須賀基地第7艦隊のロナルドレーガン空母任務群が原子力空母1隻とミサイル巡洋艦及びミサイル駆逐艦8隻、佐世保基地ボノムリシャール揚陸任務群が強襲揚陸艦1隻とドック型揚陸艦4隻、日本へは機雷戦艦艇や事前集積艦等も前方展開していまして、更に横浜ノースドックと呉へ陸軍輸送揚陸艦や上陸用両用舟艇が配備されている。

 日本が独自防衛力を整備する場合、こういった各種装備であれば、勿論原子力空母は一隻だけ建造しても意味がありません、即ち一隻だけ建造した場合は、その空母が重整備とナチる際に手元に動く空母が何もなくなってしまうし、一隻に全て集中した場合其の一世kが損傷した場合打つ手なしとなってしまうので、一隻の機能を分ける必要があるという事ですが、この他、乗員規模などから装備する事は難しく、仮に実施するならば英仏のような中型空母を二隻程度に分けるか、ヘリコプター搭載護衛艦へ艦載機を分散配備する事となるでしょうけれども、現在の経済力からは増強して維持する事も不可能ではない。

 緊急展開能力を持ち有事の際に周辺地域へ日本国憲法に縛られず即応展開し紛争拡大を阻止する戦力投射能力、自衛隊にこの能力は整備する事は十分可能であるのですが、現行憲法の下で整備した能力を実際に運用する事が可能かと問われますと、専守防衛の枠外となりかねません。専守防衛とは本土決戦主義、国土を戦場としない選択肢が元々ありません。当方が毎回気になるのは、戦争反対など叫ぶのは簡単ですが、戦争の方から自分の前までくる場合はどうすればよいのでしょうか、戦争反対で降伏したとして、現在の日本政府が崩壊し平和憲法が廃止され、傀儡政権が徴兵制を採った場合はどうするのでしょうか、この点の国民的合意が、そもそもなされていないように思えてなりません。

 閑話休題、現行憲法のままでは、国土を戦場とする覚悟の下で国民一人一人が自宅の前を最前線として徹底抗戦する覚悟が必要となりますが、実情として財産権や生存権など憲法は平和主義とそれ以外すべての人権を秤にかけた場合を想定しておらず、憲法の番人である最高裁判所はこの命題を統治行為論、として、政治問題、主権者が選ぶ政府へ判断を委ねています。

 日米安全保障条約は、国家の戦力投射と紛争の拡大阻止という国民の平和的生存権維持への責務を同盟国へ依存する事としており、この部分を是正しなければ、専守防衛という本土決戦主義のまま国民は平和憲法を教条主義的に守る事で平和的生存権を得られない厳しい現実の前に放り出される事となりかねません、すると現状では米軍頼りとなってしまう。

 在日米軍の基地施設へ依存する状況は憲法上の平和主義を国民の平和的生存権に優先した結果であり、祈るような平和主義を掲げてこれまで国家の繁栄を謳歌する、この厳しい現実の中、専守防衛政策下、万一の抑止力均衡破綻を契機とした本土への直接攻撃に際し、少しでも国民の生命持参を守る事が出来るよう政府は防衛力を整備してきましたしだい。

 戦力投射能力については、選択肢は二つあり、教条的平和主義から平和的生存権重視の憲法へ改正するか、若しくは現行憲法の枠内において可能となる戦力投射の在り方を非常事態法制として整備する、というものです。民主国家としては前者が妥当ですが、国民が支持するのであれば後者という選択肢も不可能ではなく、国民の民意が決める事の一つです。

 戦時用事前集積品の横浜や相模原と広や沖縄に備蓄と管理能力、在日米軍が日本本土へ備蓄する戦時用物資は膨大なものとなります、西太平洋における有事に備えたものですが、在日米軍は西太平洋における最大の拠点であり、ここを日本が置換えるには膨大な物資集積を自衛隊が行わなければなりません、万一に備えるものですがこの負担は非常に大きい。

 横須賀艦隊物資支援センターFISCは横須賀の16倉庫と2冷凍倉庫に125燃料タンクを有しています、これだけでも膨大な備蓄ですが、隷下に、鶴見燃料施設と小柴燃料施設、支所として八戸燃料施設と佐世保の赤崎施設に庵崎施設と横瀬施設、沖縄燃料施設が艦隊燃料を保管、在日米海軍の燃料貯蔵量は1100万バーレルに達し、全て即座に使用可能です。日本国内の国家石油備蓄は確かに多く、この燃料貯蔵量を考えれば1100万バーレルは僅かなものとも言えますが、軍用として手元に置いている量と考えますと、横須賀のみで燃料タンク125、有事に備えるとは非常に負担が大きくなる。

 在日米軍弾薬庫は、広弾薬庫、川上弾薬庫、秋月弾薬庫の三箇所に陸軍第83武器大隊が大量の弾薬を保管しています。佐世保弾薬補給所、針尾島弾薬集積所、は佐世保海軍CFASが管理する海軍及び海兵隊用弾薬庫でこの二箇所の備蓄量だけでも4万トンに達します。嘉手納弾薬庫と辺野古弾薬庫は空軍第18弾薬群が管理し在沖米軍施設で二番目に広い。

 有事の際の兵站施設は、首都圏の横浜・横田・横須賀三角地帯とこの中心に位置する陸軍相模原総合補給処により主軸を構成しており、平時から日本人従業員中心の1000名規模に上る管理要員による保管と管理に装備整備を行う相模原総合補給処と空輸拠点横田や資材搬入ターミナルとしての横浜があり施設はJR横浜線と国道16号線で太く結ばれています。勿論、第二次大戦中の旧日本軍が転用した国内交通網に比べれば微々たるものですが、現代の交通量を考えますと有事に米軍が戦略道路としてこれだけの輸送力を想定している、この点を忘れてはなりません。

 現代戦も物資の大量消費により戦線が維持されるものです。この為、米軍は西太平洋最大の拠点を日本国内へ配置し、維持しています。例えば輸送車両などは事前集積線という自動車貨物船に上船させ洋上を遊弋、数百両の車両を点検し維持するのですが、耐用年数を超えればその車両群は下手をすれば工場から車両デポを経由して事前集積線に乗った以外ほとんど動かさないまま、そのまま廃棄することとなります。米軍のポテンシャルを省くという事は、日本が地域安定化へ責務を果たす必要があるのですが、万一の際大量に使用する資材物資装備を大量に管理し整備、使用されなければ期限切れと共に全て廃棄するという認識が要る。

 万一の際に備えるとは聞こえの良い言葉ですが、本当に万一の際の必要な大量の物資を最大限備蓄するために平時から大量の費用を支出し、廃棄する際に無駄な支出であったとしても備えのためであるため仕方がない、という合意、財務当局や納税者の理解を得られる体制、これも自主防衛力の為に必要なものとなります。云わば、自主防衛力とは、有事、という単語を防衛当局者と政治家が認識する問題領域であるものの、この必要性と現実性を納税者である国民が共有できて、初めて可能となるのかもしれません。そしてもう一つ、国家の決意を国民が支える事で初めて可能となるのですが、その為には日本国が国民と共有する“正義”の定義というものを持つ必要がありますが、この点はまた機会を改めて考える事としましょう。

北大路機関:はるな くらま
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