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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【初春討論】いま自主防衛力を問う:前篇・・・日米安全保障条約と沖縄基地問題の深層にして原点

2017-01-03 22:00:01 | 北大路機関特別企画
■日本の平和を日本の国民が守る
 初春討論、としまして数回に分けて討議する問題としまして、“いま自主防衛力を問う”という安全保障問題の原点を考える命題を提示してみました。

 新しい一年が始まりましたが、一年の初めに考えてみたいのは、昨年末に様々な論争を巻き起こしました在日米軍に関する問題への一つの視点です。具体的には普天間飛行場移設問題が国論の一部を分断する印象が顕在化している点についてですが、これを最終的に解決すべく、独自防衛力、というものを整備し代替する事は不可能なのか関心が湧きます。

 アメリカに依存しない自己完結型の防衛力を整備してこそ、沖縄県の米軍基地負担軽減やアメリカからの在日米軍政治牽制への圧力へ対応出来、憲法問題についても必要な防衛力を整備した上で専守防衛か地域安定かを正面から向かい合う事が出来る、この視点に依拠して、まず、在日米軍の戦力を自衛隊により置き換える選択肢を真剣に考えてみましょう。

 岩国海兵航空団、普天間航空基地への部隊派遣を個なっているのは岩国海兵航空団である訳ですが、MV-22可動翼機による緊急展開能力やCH-53E重輸送ヘリコプターによる重装備揚陸能力とAV-8攻撃機、間もなくF-35B戦闘機へ代替される航空打撃力から構成されています。この空輸能力と航空打撃力を自衛隊で置き換える試算を示しますと以下の通り。

 第2ヘリコプター団としてCH-47輸送ヘリコプター32機及びUH-60JA多用途ヘリコプター10機を増勢し、西部方面隊管内へ配置、海兵航空団へ依存しない空中機動基盤を構築し、併せて近年の課題であり戦闘ヘリコプター後継選定については、AH-64E乃至AH-1Z戦闘ヘリコプター等既存運用基盤との整合性を有する機体の90機取得を迅速に実施する。

 在日米軍の中で突出しているのは航空戦力です。嘉手納基地のF-15戦闘機50機、厚木基地の空母艦載機F/A-18E戦闘機等50機、三沢基地のF-16戦闘機40機、岩国基地のF/A-18戦闘機やAV-8攻撃機等30機、実に170機の航空戦力が我が国へ展開しています。これを航空自衛隊が4個航空団160機を航空方面隊へ各1個航空団の増設で代替できるでしょう。

 日米安全保障条約そのものを否定するわけではなく、有事の際には集団的自衛権行使による日米共同作戦を前提としますので、在日米軍の航空戦力は初動戦力でしかありません、しかし、初動を自国のみで防衛できる体制を構築し、更なる増強戦力を受け入れる基地容量の余裕さえあれば、戦闘機4個航空団の自衛隊増勢により初動を支える事が可能となる。

 無論、米軍は戦力投射能力として機動展開を支える膨大な空輸能力や日本国内の多数の弾薬庫や燃料備蓄施設と装備品事前集積等により支えられている部分があり。この程度で正面装備を置き換える事は出来たとして米軍の日本におけるポテンシャルと極東地域におけるプレゼンスを代替する事は出来ません、ただ、初動対処能力は置き換えられるでしょう。

 平和憲法を否定するわけではありませんので、専守防衛は堅持します。故に日本本土有事の際に増勢する170機の戦闘機と現防衛大綱の戦闘機定数280機を併せた450機の戦闘機を動員して一挙に敵航空戦力や軍港産業施設等策源地攻撃により叩き潰す選択肢は執れず、当然ながら専守防衛施策の下では主力となるのは陸上防衛力となる点は変わりありません。

 ただ、これまで長く提示しています陸上防衛改編案、広域師団案として装甲機動旅団と航空機動旅団という戦車を持つ第11旅団型の旅団と方面航空部隊を移管し機動運用に充てる第12旅団型の旅団を組み合わせる部隊の必要性、を長く提示してきましたが、陸上防衛に関してはこの水準で充分であり、上記ヘリコプター団新編に加え、必要な装甲戦闘車及び軽装甲車両を充足するだけで対応は可能でしょう。

 この陸上防衛力ですが、一点、在日米軍に依存しない前提で在沖米軍第31海兵遠征群と第3海兵師団を那覇第15旅団では代替できず、第15旅団を広域師団型の部隊へ拡大改編し沖縄県と鹿児島県島嶼部へ航空機動旅団隷下連隊を配置し、装甲機動旅団を沖縄本島へ展開、その上で九州沖縄へ第31海兵遠征群を置き換える中央即応集団型部隊が必要です。

 第七艦隊の代替ですが、寄港を受け入れるという前提と共に、第15駆逐隊や空母ロナルドレーガンの代替について、護衛艦隊を増強し、新しい八八艦隊構想、としまして繰り返し提示しています、四個護衛隊群隷下八個護衛隊全てへのヘリコプター搭載護衛艦の配備と、F-35B戦闘機のような能力をもつ艦上固定翼哨戒機を搭載する事で一部代替可能となる。

 シーレーン防衛には数が必要となりますが、この部分を第15駆逐隊の代替へ、計画が進む3000t級のコンパクト護衛艦を現在の自衛艦隊直轄二桁護衛隊へ充当する計画、20隻程度の建造計画により補え、例えば二桁護衛隊の護衛艦を支援可能なバートレップ補給用航空機と僚艦防空能力を持つ多目的支援艦等を旗艦に充てれば護衛隊群の補完も可能でしょう。

 戦闘機160機の増勢、輸送ヘリコプター等40機の増強、その上で現在の防衛力を着実に近代化し装備の更新を行う。戦闘機やヘリコプターの耐用年数を30年とすれば戦闘機450機の勢力維持には最低限毎年15機の調達、一中期防あたり75機を量産すればよい、財政面で非常に難しいですが全く不可能かと問われれば、財政面での問題は政治の問題であり、しかしこの場合は、これを支持する国民合意があれば乗り越えられ、加えて経済的な視点からも可能です。

 必要な人員増勢、第15旅団の師団化と新たな西部方面即応集団の新編に9000名規模の増勢が必要となりますが、元々広域師団構想は陸上自衛隊を10万名規模の10万9000名へ縮小する施策として提示したものですので、第15旅団の師団化と西部方面即応集団新編や航空部隊と支援部隊などを含めても陸上防衛力は12万4000名程度、これも不可能ではありません。

 最大の障壁は広く定着した国民の誤解です、即ち、日本は弱小国なので独自防衛は不可能、と最初から米軍に全て依存し、専守防衛と言い換えた本土決戦主義の刹那的な防衛政策に特化している点です。選択肢として、例えばGDP1.5%程度の費用を防衛費に充て、安全保障政策と防衛政策を国家戦略として防衛力整備を行う事で、独自防衛は可能であり沖縄米軍基地負担へ向かい合う施策でしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (1)
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