北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

準備稿:巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える⑭ 仮設住宅備蓄と市街戦訓練充実

2012-08-20 01:06:20 | 防災・災害派遣

◆防衛にも重要な市街地戦闘への慣熟との両立

 東日本大震災発災後にも明示した内容ですが、仮設住宅についての一考察です。しかし、時間が無いので本命を延期して急遽記事を考えたのだけれども結局長くなってしまった、何故だろう。

Eimg_2547 仮設住宅、現在はH鋼を組み合わせ、例えば東京駅改装工事現場前のものでは五階建てのプレハブ事務所が設置されています。総務省などが防災用に取得したプレハブ建物を陸上自衛隊が市街地訓練用に管理する、という事で平時から大量に備蓄し、大規模災害時など有事の際に放出する、という方式は不可能でしょうか。

Eimg_0689 陸上自衛隊は2000年代の十年間に市街戦訓練の充実を提示し従来の野戦から近接戦闘能力強化を主眼とした訓練体系への転換を行いました。しかし、基礎体力はありつつも長距離行軍が不得手で陣地構築の穴掘りが出来ないという隊員が増えるなど問題点が露呈することに。

Eimg_2361 結局のところ陸上戦闘は基本的に野戦であり、野戦での戦闘の末に市街地戦闘というものがあるわけであり、加えて野戦の延長線上、野戦に用いる技術の応用として市街地での近接戦闘能力というものがある、として野戦重視の従来訓練体系へと戻されることとなりました。

Eimg_1160 しかし、市街地戦闘での能力が現在の自衛隊へ不用であるのかと問われたならば、これは間違いであると考えます。市街地は特殊な戦場であり彼我混交に通信途絶と火力行使困難地域、民生被害に地域封鎖が困難、等など必要な技能というものが非常に大きいということ。

Eimg_2421 この困難はあるものの、我が国の人口密集地域は市街地であり、この困難さを乗り越えてこそ、少数部隊での市街地の守備、少数部隊での市街地奪還と残敵掃討、結果我が国を守り切る根底になるのだと考えます。専守防衛のスウェーデン軍やスイス軍も市街地戦闘の研究と訓練を重視しているのがこの根拠というところ。

Eimg_2963 入り組んだ街路は大部隊の行動を制約すると共に少数の威力を最大限発揮することとなりますし、火力拠点としての戦車の重要性を強調する半面、対戦車火器の威力が最大限発揮できる特異な戦場で、狙撃手や施設部隊との協力、市街地の防御と攻勢に関する技術は蓄積しておかないという手はないでしょう。

Eimg_3594 一方で、この種の訓練は実動訓練を行わなければ中々修得が出来ません。東富士演習場には我が国最大の市街地訓練場として150×200mの訓練場が設営され、市街地を模した11棟の建物が並んでおり、本格的な訓練が出来るとのことですが、11棟では基本的な訓練、動作の訓練くらいしかできません。

Eimg_6041 そこで仮設住宅を事前備蓄し訓練への活用です。東日本大震災では30000戸の仮設住宅が必要とされました。もちろん、必要な資材の調達に時間を要したことから、仮設住宅不足は大問題となりましたが、南海トラフ地震に際しても同様の問題が生じてくるでしょう。予め仮設住宅を確保する、ということは、もちろん移動の手間はかかるのですが復旧復興計画の目途に大きく寄与するはずです。

Eimg_4283 併せて、臨時飛行場機能の高速道路隣接地域への確保の必要性を過去の特集記事で提示しましたが、臨時飛行場付近でなくとも、例えば前進物資集積拠点などを自治体との協議で選定しておき、災害派遣初期の段階では自衛隊展開拠点として、併せてその後に仮設住宅建築地域として使う方策も取れるのでは、と考えました。

Eimg_6687 市街地訓練に話を戻せば、もちろん突発状況へ対応する市街地射撃訓練場を除いて、行動訓練を行う訓練場では基本的に実弾は用いません。空包を用いた訓練を行うのですから、ある程度周辺環境への配慮は通常の演習場と区別して考えることが出来ます。つまり、新規に市街戦訓練場を配置することは難しくないということ。

Eimg_7368 近年では東京マルイ製エアソフトガンを市街地訓練に用いているとのこと。海外製ですがA&KからMINIMIが比較的安価で出ているのですが、防衛装備品という事で威力に一定の緩和を行った12.7mm機銃などを特注することが出来たらば、空包を用いずとも近接戦闘訓練を行うことも可能となるでしょう。これが柔軟性というもの。もっとも、訓練であまり凹みを造らない脳にしなければならないのですけれども。

Eimg_7294 どの程度の仮設住宅を事前備蓄するか、というところは、総務省との協議により決められるべきですが、プレハブ方式であれば組み立てや移動が容易であり、市街地の形状を適宜変更して戦闘訓練を行うことが可能となります。これは言い換えれば、民生協力として仮設住宅配置支援を行うことも出来ることにも。

Eimg_6470_1 災害派遣に際しては、例えば避難所が機能している期間は自衛隊が一種の戦力快復センターとして使用し、避難所の仮設住宅転換の際に災害派遣任務を完了する部隊がそのまま仮設住宅入居者へと移管する、受け渡す、という形での運用方法も、ありえるのかもしれません。

Eimg_4530 仮設住宅問題は考えなければならない問題であり、加えて市街地訓練能力の強化を併せて実施、平時備蓄と平時運用に設営への慣熟化を自衛隊に期待できる、という意味でも一応検討するべき課題ではないでしょうか、想定する必要数の一割程度であっても、全国数カ所に分散し配置し、民間の仮設住宅量産体制確立まで対応する、という方式は意味があるように思います。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする