北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

戦闘機国産技術存続の道② ハリアーが日本の防衛産業を救う 

2009-08-11 23:07:23 | 防衛・安全保障

◆F-35Bの代替としてハリアーをライセンス生産

 空戦フォークランド ハリアー英国を救う、A・プライスらがフォークランド紛争におけるハリアー攻撃機の活躍を記したもので、日本では江畑謙介氏が翻訳し邦訳版が出ている。今回は、これとは無関係に、ハリアーが日本の防衛産業を救う、という特集。

Img_0198  前回、航空自衛隊のF-2が生産終了となれば、自動的に数年内で日本から戦闘機の生産基盤が失われ、結果、既に配備されている戦闘機の整備基盤も危機に曝される、という問題認識を提示した。また、この解決策として提示されている武器輸出三原則の緩和による海外市場の開拓について、少なくとも対艦攻撃を最重要視する能力要求の下で開発されたF-2を、絶対的に必要とする国は無い、とも記した。

Img_3163   他方で、海上自衛隊の標的機としてでも、生産が継続されるならば、最大で二年、生産を延長することができ、“その場を凌ぐ”事が可能となる。本日の論点は、その“その場を凌いだ”後について。航空自衛隊次期戦闘機選定が難航している中で、ハリアーという名前を挙げたのだが、別に、ハリアーをF-4の後継として採用せよ、というわけではない。

Img_9862 ハリアーのような航続距離が短い亜音速機は、日本の防空、特に防衛大綱で保有できる戦闘機数が非常に限られている中で長大な日本列島の防空を担う航空自衛隊には、適した機体ではない。では、AV-8Bハリアー、この生産が終了した垂直離着陸が可能な攻撃機が日本の防衛産業を救うと記した背景について、どういう考えがあるのか論述したい。

Img_2930  ハリアーを、日本でライセンス生産するのだ。前述のとおり、既に生産が終了したハリアーは、垂直離着陸や短距離離発着が可能な航空機ということで、特に通常の固定翼機を運用できない全通飛行甲板を有する各国の軽空母や、米海軍の強襲揚陸艦などから、ハリアーは運用することが可能となっている。

Img_9851  ハリアーⅡ+は、F/A-18Aと同等のレーダーを搭載することから中距離空対空ミサイルの運用能力を有し、米軍では、艦隊防空は海軍の空母艦載機とイージス艦が担当しているためハリアーには防空能力は重視されていないものの、イギリス海軍やスペイン海軍、イタリア海軍では、ハリアーは、重要な艦隊防空戦力として、軽空母から運用されている。

Img_8194  可能性として、特に海上自衛隊ではハリアーへの需要はあるかもしれない。一部で言われているように、P-3C哨戒機が固定翼哨戒機XP-1に1:1で代替される訳で無いとすれば防衛大綱に定めた海上自衛隊の作戦機定数に余裕が生じてくる。この枠にハリアーを充当すれば、大綱上は二個航空隊所要20機程度の調達は可能であろう。

Img_7535  運用成果を以て、防衛大綱の海上自衛隊作戦機定数の増加も含め、相応のハリアー航空隊を新編する、という選択肢は検討されてしかるべきではないだろうか。ハリアーであれば、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦での運用も、もちろん、ひゅうが型は艦砲に代えて全通飛行甲板を有する護衛艦なので、課題に期待は禁物であるが、甲板強度の強化など、必要な点は幾つか踏まえれば、不可能ではない。

Img_8392  海上自衛隊へのハリアー導入は、80年代にも検討されており、1986年から1987年にかけて防衛庁で開かれた洋上防空体制研究会では、VTOL機搭載護衛艦(DDV)として、ハリアーの搭載が研究されたという。導入が検討されていたイージス艦のSM-2艦対空ミサイルの射程外から波状攻撃を試みる長距離爆撃機への対処として、ハリアーの導入が検討されたとのことだが、実現したのはイージス艦のみであったとの旨、世界の艦船誌通巻710号に掲載されている。

Img_8326  他方で、既にハリアーを運用している海軍や海兵隊の視点としては、ハリアーは亜音速機であり、加えて基本設計は1960年と古いことから、現在、国際共同開発中のF-35統合戦闘攻撃機計画において、B型を垂直離着陸型として設計、ハリアーの後継として艦載機用に導入する予定となっている。

Img_8374  F-35は、超音速飛行が可能である上に、ステルス性も兼ね備えており、垂直離着陸が可能なF-35Bは、空軍用のF-35Aや空母艦載機用のF-35Cと比べて、垂直離着陸用のエンジンを搭載していることから航続距離の低下や構造重量の過大、さらに構造の複雑化による整備負担の増大などの難点を抱えているものの、総合的にはハリアーを上回る機体となっている。こうして、後継機の開発が明確化していることからハリアーの生産は終了した。

Img_9305  しかし、ハリアーには、幾つかの需要と、そしてライセンス生産を実施する意義はある。なぜ、他の機体ではなくハリアーなのか、これについては、次回、掲載したい。また、果たして、ハリアーのライセンス生産は、日本国内で行う事が可能なのかについても、過去に、これと類似の事例があり、その提示も含め、次回、より踏み込んで検証したい。

HARUNA

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