ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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不毛な議論を克服するために

2006年02月25日 | カ行
(2001年04月25日発行)

 (2001年)04月18日の朝日新聞の声欄に次の投書が載りました。編集部で付けたのであろう題は「実態見ぬまま教師への批判」となっていました。投書者は主婦のM氏で、東京都杉並区となっていました。

・・政治家が、声高に教師批判をすることが多くなったと感じます。先ごろのテレビで、大臣経験者の自民党代議士は「怠けている教師もいらっしゃる」と言い、教師の海外旅行についても触れていました。

 私は子育てをしながら26年間勤めた元教員です。子供が理解しているか考えながら教材研究をしたり、子供と汗を流したりしながら、自分と子供の成長を願いつつ仕事をしてきました。今まで出会ったどの教師も、毎日忙しく仕事をしていました。

 会期中なのに国会に来ない議員、日本の実習船が米国の原潜に衝突されたと聞かされてもゴルフを続けている首相は「怠けている」と批判されても当然です。教師を批判する代議士は、これらの身近な方々を批判しているのでしょうか。

 海外旅行で見聞を広げることもありましたが、もちろん自費でした。官房機密費から多額のせんべつをもらい、「海外視察」に行くのとは違います。教科書の採択を、教員から遠ざけようとする動きがありますが、実態を知らないまま教員を批判するより、政治家は自ら律すべきだと強く思います。・・

 こういう議論は時々見かけますが、これは本当に不毛な議論だと思います。なぜなら、全体としての統計的な事柄が問題になっている時に、「自分はこうだ」と個別的な事例を出して反論しているからです。

 Mさんは多分立派な教師だったのでしょうが、もし「今まで出会ったどの教師も、毎日忙しく仕事をしていました」となると、少し経験の範囲が狭すぎるのではないかと思います。さぼり教師は厳然として存在していますし、お粗末授業もかなり沢山あります。これは小→中→高校から、更に大学に行けば行くほどひどくなっていると思います。

 これは政治家に向かって「お前の方こそどうなのだ」と言い返して済む事ではないと思います。政治家にもいろいろな人がいます。教師にもいろいろな人がいます。そして、昨今、教育の問題を考える中で、教師の教育活動なり授業なりを評価しようという傾向が強まっているのだと思います。

 もちろん政治家についてもその政治活動をしっかりと監視し評価しなければならないと思います。しかし、それを理由にして教師に対する監視と評価を否定してよいことにはならないと思います。

 既に学校の側からも反応が出てきています。生徒による授業評価とか、あるいは教員同士でお互いの授業を見せ合い批評し合うといったことが少しずつ出てきているようです。

 先日の NHKの「日本の宿題」シリーズ「学校」でも、校長のイニシアチブで、互いの授業を見せ合い批評し合う授業を1年間に 100回もやっている小学校とか、生徒による授業評価を取り入れた中学校が紹介されていました。

 大学でも互いの授業を見せ合うとか、あるいは京都大学の或る授業のように、1年間の全ての授業を公開し検討し合うことを目的とした研究授業も行われるようになってきているようです。

 これらはむしろ一応はきちんとした授業が行われているのだが、それを更に改善するための取り組みと言えるかもしれません。それに対して、やはりいわゆる「さぼり教師」や「お粗末授業」も沢山あるのも事実でして、そういう困った教員を再度研修してもらうとか、場合によっては辞めてもらうという事も出てきているようです。

 このMさんもまさかこういう事を知らない訳ではないと思います。これを知らないとしたら余りにも世間知らずすぎると思います。ですから、問題は政治家がどうかではなくて、教員の現状は「全体としては」どうなのか、それを「全体として」高めていくにはどうしたらよいかということだと思います。どこにでも個別的には立派な人も低劣な人もいるのは当たり前です。それを出しても話しは進まないと思います。

 私が経験から推測したところでは、大学の教員は2割が精神異常、6割が学力低下教員、1割5分が普通の人で、最後の5パーセントが優秀な人です。理工系の事は分かりませんが、多分同じでしょう。少なくとも、私の関係している哲学とドイツ語についてはそう言えます。

 世の中で活躍している教授はこの最高の5パーセントの人がほとんどですから、世の中の人は「大学の先生は偉い」と思うのかもしれません。しかし、残りの95パーセントは以上の通りで、大学生なら大体感づいている事だと思います。余りにも当たり前になっていて、問題にするのも馬鹿馬鹿しいと思っているようなので、問題にならないだけだと思います。

 しかし、このような状態を放置しておいていいということにはやはりならないでしょう。どうしたらよいのでしょうか。昨年からは一部の学生が「学生による授業評価を制度にする運動」を始めたようです。少しずつ成果は出ているようです。私は大学オンブズと学校オンブズを提案しています。

 しかし、多くの人は、誰かがやってくれないかな、と思っているようです。これではよくならないでしょう。国民は自分に相応しい政府しか持つことはできないとかいう言葉があるようです。同じように、国民は自分に相応しい教育しか受けられないのだと思います。