gacco広報部 カルロス安川です。
エピローグ)
いよいよ3月24日に上智大学のgacco講座「大航海時代の日本」が開講されます。
おそらく歴史の教科書で私たちは「大航海時代」、「フランシスコ・ザビエル」、「キリシタン大名」、「南蛮」などの言葉に触れ、何となく感覚的にこの時代を皮相的ではあるが捉えているかもしれません。
また日本史と世界史をややもすると個別に学んできたこともあり、英国の歴史家トインビーのような比較文明論的なアプローチ視点に慣れていない人も多く、日本を含め同時代の世界を横軸で捉える機会がなかったかもしれません。
上智大学の「大航海時代の日本」というタイトルに接した時に、まず思ったことはグローバルな視点から日本を照射する、あるいは同時代の西洋で起こっていたルネサンス・ヒューマニズム文化が日本の歴史にどう影響したかといった文化邂逅を、イエズス会の視点から語ってくれる講座であると大いに興味を持ちました。
本ブログでははなはだ主観的であることをお許しいただき、、この時代のエッセンスを上智大学キリシタン文庫所蔵の貴重な史料にも触れながら眺めていきたいと思います。
批評家ロラン・バルトのロヨラ分析)
久しぶりにフランスの哲学者・批評家ロラン・バルトの書籍を手に取ってみました。
彼の記号論的なアプローチに学生時代は惹かれ、「零度のエクリチュール」「テクストの快楽」「恋愛のディスクール・断章」などを貪り読んだ青い記憶があります。
そんな彼の知的冒険の航路の中に「サド・フーリエ・ロヨラ」という作品があります。
呪われた作家サド、稀有のユートピア思想家フーリエ、イエズス会の聖人ロヨラ、背徳と幻視と霊性を象徴する、この三人の“近代人”の共有するものは何かを言語学、記号学からバルトは説いていきます。
特にイエズス会の創始者ロヨラに関しては、後進の指導のためにまとめた瞑想の指導書である「霊操」について、バルトはイメージとしての「映像言語」という記号文化で解読しました。
イエズス会というのはロヨラが1522年からスペイン・マンレサの洞窟で黙想していたときのヴィジョンに胚胎したものです。このヴィジョンから「映像言語」として福音伝道を体系化していくことにこそ、イエズス会の活動の本質があったのかもしれません。
ヨーロッパの伝統である修道士の古い修行生活様式を捨ててまで、苛酷な世界への啓蒙の徒となった彼らイエズス会士の行動力と伝播力には彼らの「映像言語」がもしかしたら鍵を握っているかもしれません。
上智大学のキリシタン文庫)
16~17世紀の「大航海時代」。それは、日本の戦国時代の歴史が、ヨーロッパのルネサンス・ヒューマニズム文化の歴史に「接続された」注目すべき時代であります。この接続に大きな役割を果たしたのがイエズス会の布教活動であり、彼らが残した文化的なコンテクストです。
彼らは日本を始め世界中にコレジヨ(高等教育施設)、セミナリヨ(初等教育機関/神学校)や病院(豊後府内病院)を設立するとともに、出版などの活字印刷の文化を日本へもたらしました。
上智大学のキリシタン文庫には貴重な国内外のキリシタン学関係史料が蒐集されており、この中に、『グレゴリウス13世肖像画』(KBMs:9)図―1という銅版画があります。
無断転載禁止
このたび貴重な画像を上智大学より提供していただきました。
16世紀末にマルコ・アントニオ・チャッピによって製作された、第226代ローマ教皇グレゴリウス13世(在位1572-1585)の肖像の銅版画です。
周囲には在位中に日本をはじめ世界各地に設立したコレジヨやセミナリヨが描かれています。また本講座の第4週では特にキリシタン版の歴史にスポットを当てています。
キリシタン版とは、日本初の金属活字印刷で、16世紀末から 17世紀初めにかけて活版印刷で出版された欧文,和文の書物であり、朱墨二色刷り・楽譜印刷を含むものであります。こちらもキリシタン文庫にある貴重な印刷本をご提供いただきました。
■『サカラメンタ提要』(JL-1605-KB30-29-24)図―2
無断転載禁止
1605年に長崎にて印刷されたキリシタン版の一種であり、カトリックの典礼を執り行う固有な儀式の趣旨や次第、祈りや教えを収めた定式書であり、式文を黒色、説明文を朱色と二色刷りした活字印刷本です。
日本初のカトリックの典礼書であり、西洋式楽譜印刷本でもあります。
これはヨーロッパで作らせた行草体仮名漢字活字を和紙に組版・印刷し、ついには独自の活字鋳造に至るものです。こうして眺めているとイエズス会の布教活動は様々なツール、ロール、そしてルールを日本含め世界に提供しているように思えます。
これこそがバルトの説くロヨラの、そしてイエズス会の「映像言語」の体系なのかもしれません。
最後に)
以上は断片的に本講座の魅力を語ったことにすぎず、第2週の「大友宗麟」や第3週のA.ヴァリニャーノについても触れたいところですが、それは受講してからの知的探求の旅までとっておきたいと思います。
それにしてもイエズス会というこのアクティブなソサエティをもう一度読み解きたい、そう思わせる講座であり開講が楽しみです。
上智大学 「大航海時代の日本」:日欧文化交流の歴史(ヒストリア)
◆ 《 2015年3月24日開講 》