青森駅まで送っていただく。どこか新沼謙治さんに似た穏やかな優しいご主人だった。宿も八甲田の雪景色も忘れられない思い出になりました。
青森駅前で今夜のつまみを物色後、ビュープラザで盛岡までの新幹線指定席を予約。 よし、これで準備万端だ。出発まで心置きなくおさない食堂を楽しもう。今日こそは貝ひもと帆立フライで朝酒なのだ。〆は何にしようかな?焼干しラーメンも評判みたいだしカレーライスもいいなあ。いやまて、たまにはカツ丼も食べたいな。でも玉ネギ抜きの注文は恥ずかしいからやっぱやめとこう・・・でも、定休日だった。こうなったら盛岡まで何も食べないぞ、食べないといったら食べないもん、ふんだ。
盛岡に到着するも、ちょうど半端な時間だったのでそのまま花巻駅へ。この駅には仕事の師匠から教わった食堂がある。食堂といってもタダの食堂ではない、今は懐かしいデパート大食堂なのだ。必ず最上階にあってずらりと並べられたショーケースのメニューから何を食べようかを選ぶのが楽しみだった。子供達はフルーツパフェと口のまわりにケチャップベトベトナポリタン、ママはマカロニグラタンかオムライスを迷いパパは欲張ってラーメンとカレーライス、おじいちゃんが握り寿司でおばあちゃんはざるそばとお稲荷さんのセット、そんな統一性のないメニューも楽しめたのがデパート大食堂なのだ。マルカンデパートまで歩きながら、僕は何を食べようか考えていた。せっかくだからフルーツパフェは食べたいし、あとは、あとは・・・そうだ!今の気分はミックスフライランチだ!・・・しかし到着すると、それはそれはもの凄い行列だった。僕はメシごときで並ぶのが嫌いだ。ましてやイイ歳のオヤジがひとり夢中でパフェなど食ってる図柄など気持ち悪すぎる。こうなったら宿まで何も食べないぞ、食べないといったら食べないもん、ふんだ。
宿の送迎バスを待っていると地元親友のM氏が現れた。日程も宿も合わせたのは、互いのひとり旅自慢を話したかったからに相違はない。
宿はさほどの山奥ではなかった。バスから降りた客のほとんどが高級感漂う旅館部へと流れるが、僕らが向かったのは趣きある佇まいの自炊部のほうだ。大沢温泉旅館はその利用目的で旅館部と自炊部を選べるのだ。この温泉はなんでも1200年ほど前に坂上田村麻呂が発見した湯だそうだ。うむ、聞いたことはある人だ。僕は授業で『サカガミタムラマロ』と読んで恥をかいた記憶がある。
入口には大きな古時計と郵便受け、帳場のような受付、自炊の食材も土産物もそろう売店、磨き抜かれ輝いだぎしぎし廊下は迷路のようにどこまでも続き、自炊用調理場を抜け階段を上ったその先に僕の部屋はあった。障子をあけると雪に化粧された対面の山肌、川面、水車小屋・・・ここも昭和のまんまだ。
くつろぐが先に腹が減った。夕飯までは我慢できそうにないのでさっそく一杯ひっかるるとしよう。青森で調達したのはウニ焼きと筋子。まずは筋子に食らいつくが・・・ま、まじゅい、きゃらい、くちゃい、おいちくない・・・安さにつられ思わず買ってしまったのが失敗だった。捨てるのはもったいないので一気食いで無理やり腹におさめたが、口の中のヌルヌルと臭いゲップにしばらく悩まされてしまった。みなさんは筋子を恵方巻きのように食べるのはやめましょうね。 それにしても落ち付く部屋だ。やっぱ日本の冬はコタツでねえべかねえ~
この大沢温泉には食事処『やはぎ』が併設されている。かっこよく言えばオーベルジュ、かっこわるく言えば自炊部なのに自炊しなくてもいい大衆食堂付き温泉宿なのだ。定食も一品料理も種類が豊富でしかも安く居酒屋使いも出来る。こんな便利な宿で親友と酒は楽しい。楽しいが地元ではいつも面を突き合わして呑んでいるので新鮮さは、ない。ゲソ揚げ、餃子、サラダ、豚串を注文・・・ほほお、ウマい。ウマいと酒がすすむ。
M氏は昨日、岩木山麓の嶽温泉に泊った。残念ながら混浴露天風呂は豪雪のため入れなかったようだが、白濁の内湯だけでもかなり満足した様子だ。僕はと言えば、「宿にこんな可愛い娘ちゃんがいたんだぜ」とデジカメのディスプレイを見せつけると、「むむう、この娘は一等賞!次はここに決定!」と唸っていた。ちなみにM氏のさっきまでの一等賞は、山田べに子ちゃんだ。知らぬ男は・・・もうオヤジだと思うぞ。
〆は盛り蕎麦だ。温泉宿の食堂だと侮ってはいけない、十割の田舎蕎麦は風味も喉越しも良く大根のしぼり汁まで付いてくる本格派だ。恐るべし食事処『やはぎ』
夕飯後、M氏の部屋でだらだら呑んでから露天風呂をゆっくり楽しむ。ここは混浴で観なくても良いお客様が入湯されていた。どこもかしこも昭和な宿の、夜は更けた。
朝食もやはぎでいただく。ああ、あああ、100円で納豆が 棚に置いてある、ああ、6人組のおばちゃん軍団のみんな取りやがった、ああ、あのご夫婦も、ああ、あの人もこの人も、ああ、なくなっちゃった、と思ったらまた追加された、ああ、ついにはM氏まで、ああ、不憫だ、あああ、ああああ、ああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「ほんじゃ、帰ったら反省会な!」とM氏と別れ北上駅へ向かう。ここには白鳥の飛来地がある。交番で場所を聞くと、「あそこのまっすぐな通りの三つ目の信号を左折しすぐに右折したらまたすぐ左折ししばらく行くと交差点があってそこは曲がらずにその先を右折しふたつ目の角を左折、国道に出てずっといくと目立つ看板があってそこを右折すると運動公園と学校があってその道沿いにある沼に飛来している・・・はずだ」と丁寧に説明してくれたが、出来れば地図が欲しかった。
知らぬ土地の風景には新しい感動がある。橋の上からの眺めは素晴らしく、素晴らし過ぎてどこを何回曲がったのか忘れてしまった。なぜに地図をくれなんだかなあ?
なんとか国道に出た。凍結して歩きにくい歩道がず------------------lっと続いた。不安に思いやっと向こうから来た女学生二人を呼びとめる。「ああ、あそこならこの道をず------------------lっと行って大きな看板のトコ右に行くと、すぐです」 お礼を言って別れる際の二人の会話がなお不安にさせる。「あんなんでわかるかあ?」「大人なら、わかっぺ!」・・・たどり着けないと、僕は子供に格下げになるようだ。
この頃から体の一部に違和感を感じる・・・やばい、アイツが覚醒しやがった・・・やがて違和感は痛みにかわった。それでもず------------------lっと行くと、やっと見つけた看板は、とってもちっちゃくて目立たないものだった。ちなみにもうひとりだけおばちゃんに聞いてみると、「あそこなら、そこ右曲がって、次の角っこ左に行って、ふたつ目の角っこも左に行くとまたこの道に出るから、そしたらあとはまっすぐ行けばいいんだよ~」と教えてくれた。それなら曲がらないで真っすぐとなんで教えてくれないのか僕は首を傾げてしまった。北上の人はず------------------lっと行くのとウソとやたらに曲がるのが好きな人たちだ。でも教えてくれてありがとうございました。
白鳥の飛来地に到着したのは出発してから1時間半後のことだった。到着したら路線バスが通過していったので最初から乗れば良かったと思った。おかげで体の一部は歩くたびに擦れまくり今まさに噴火寸前まで追いやられている。
白鳥の写真を撮影していると、ついに“その時”が来てしまった。おパンツの中でヌルヌルのイヤな汁が肌を伝って垂れ流れるこの不気味な感触はなった人にしかわからない。粉瘤君よ、なにも今噴火しなくたっていいではないか!僕がどれほどまでにこのひとり旅を楽しみにしていたのか君には解らないのか?このままでは旅の思い出=粉瘤君になってしまう!しかも君はいつだって決まった場所から噴火しやがる。なぜこの部位に君は現れる?右のオシリと左のオシリが擦れ合うその真ん中の谷間に流れる膿の溶岩!ああ、気持ち悪い、早くなんとかせねば、ああ、あそこにコンビニがある、トイレトイレトイレトイレ、ああ、あああ、良かった、おパンツには若干沁みてはいるもののズボンまでには達していない、まさにギリギリのセーフだ。お尻の溶岩をテイッシュで丁寧にふき取る、それは昨日無理に食らった筋子を口の中で咀嚼しゲゲゲっと吐いたそれにそっくりだ、ああ、自分から出た汁とはいえ気持ちが悪過ぎる、そうだ、まずは治療だ、オロナイン軟膏を持ってて良かった、しかし、旅先のコンビニでおパンツを履き替えるなんて初体験だ、なんて情けない自分だ、帰りは路線バスで帰ろう、本当は仙台で下車し横丁にある渋い酒場でひとり旅の反省会などするつもりだったが、もういやだ、早くオウチに帰りたい、ああ、不憫だ、あああ、ああああ、ああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
でも、せめて仙台で牛タンは食べて帰ろう。
最後まで読んでくださり、ありがとうです。
おしめー