大人になったら、したいこと ・・・ 見出し画像のような女性と二人っきりでお風呂に入ってみたい。
ひとり旅二日目は四時半に起床です。 暗闇に包まれたままの本八戸の街の路面はガチガチに凍結しておりました。 その中を新聞配達のおばちゃんが自転車で走り過ぎて行きました。 すごい!
本八戸駅には僕独りぼっちでしたが、5時46分発の始発電車にはぽつりぽつりと乗客が乗っておりました。 さみしくもどこか温かい、ひとり旅には似合った雰囲気の車内でした。
JR八戸線でふたつ先の陸奥湊まで朝市を見に行きました。 荷物を運ぶ軽トラック、スーパーカブ、自転車、リヤカーなどで駅前はすでに活気に溢れております。 鮮魚や珍味、加工品、裸電球の下で真っ赤に冷えきった手をこすりながらモンペ姿のおばあちゃんが店頭に商品を並べています。 僕の顔には “なんも買わないの” と書いてあるらしくどの店からも声すら掛けてもらえません。 「お前はぬるい男だな」と叱られているような、そんな気がしました。
叱られても腹は減るのです。 みなと食堂は朝市の並びにありました。 あまり時間もなく醤油ラーメンを注文。 煮干し系のやさしい出汁と細麺が身に沁みる美味さです。 僕と同世代ぐらいでしょうか、穏やかで明るい人柄の店主が話し掛けてくれました。 「陸奥湊駅前朝市はあまり観光客に知られていないから誰にも声は掛けないんだよ」 ちょっとホッとした気分になりました。 「昨日はどちらから?」 「本八戸ですが、日曜は閉まってるお店が多くて、街はずれの食堂に入りました」 「あそこは有名な老舗だよ。おばちゃんが豪快な人で、 常連客が酔っ払い過ぎると頭ぶん殴って、『二度とぐるな!』って怒鳴って追い出すんだ。 でもみんなまた呑みたいから3日後にはこっそり戻ってイイヒトを装うんだよ・・・でも普段はやさしいおばちゃんだよ・・・」 このみなと食堂は午後3時までの営業だそうです。 次にこの地を訪れる時は、お昼はこのみなと食堂で美味い魚を堪能し、夜は天竜食堂でほろ酔い、そしてあそこの食堂で〆るコースを密かに想像する僕なのでありました。
八戸駅まで戻る車内から朝陽を拝むことが出来ました。 八戸からゆるキャラの可愛い青い森鉄道に乗りました。 通勤通学時間と重なり、しかも横一列のシートだったので残念ながら徐々に雪深くなる車窓の風景を楽しむことは出来ませんでしたが、かなりそそられる路線ではありました。 八戸~新青森区間は東北新幹線を使えばビュンと一気に時間短縮出来るのですが、気ままなひとり旅には、やっぱりローカル線が似合うのです。 野辺地駅は日本最古の鉄道防雪林が鉄道記念物に指定された駅だそうです。 凄いことなのかどうかはわかりませんが、興味のある方には凄いことなのでしょう。 凄いと思えば凄いと思えるほどに雪深い風景ではありました。 凄い!
車窓に海の風景が見えてくると、有名な浅虫温泉はもうすぐです。 この駅からはたくさんの観光客が乗り込み、終点の青森駅まで車内は混雑しました。 青森では1時間ほど時間に余裕があったので改札を抜け周辺を散策しました。 札幌に住んでいた幼い頃にはこの青森から幾度も青函連絡船に乗った記憶があります。 あのころの港はもっと寂れており、でも風情があったような記憶が残っております。 今では綺麗な港に変貌しなんとなく思い出が薄まったような淋しさを覚えてしまいました。 船内食堂のカレーライスが品切れでふてくされた僕は何も食べなかったのだと当時の話を父から聞かされたことがあります。 とうさん、今では酒こそあればふてくされない僕にまで成長していますよ。 駅に戻ると東北新幹線はシステムトラブルのため運転を見合わせていました。 やっぱり青い森鉄道を選んで正解でした。 まだまだ甘いぜ東北新幹線!
10時04分発急行つがる4号は全席指定です。 確実に座れるのは楽ではありますが、僕にはどうにも情緒がわきませんでした。 車内販売もない急行なんて、クリープを入れないコーヒーみたいなものだぜ。
40分ちょっとで弘前に到着。 ここからがこの旅一番楽しみにしているローカル線の始まりなのです。 11時14分、当駅始発の五能線は数人だけの乗車客を乗せて発車。 もうワクワクしちゃってたまりません。 もの凄い吹雪で車窓からの風景が奪われてしまいます。 それでも僕のワクワクは止まりません。 ウイスキーをちびりちびりやりながらゴットンゴットン車両の揺れを楽しみます。 僕は今憧れの五能線に乗っているのだと思うと楽しくて仕方がないのです。 これが五十路男だと誰が思ってくれるのでしょうか。
鶴泊という駅でほろりとする場面を見ました。 電車に乗り込んだ女の子にずっと手を振っているおばあちゃんの姿をホームに見ました。 ほっかむりにも衣服にも雪が纏っているおばあちゃんの姿を見ました。 電車が動きだしても振り続ける手をやめないおばあちゃんを見ました。 きっとお孫さんなのでしょう、電車の中からおばあちゃんに小さな手を振り続ける女の子の目が真っ赤になっているのを見ました。 まったくの他人なのに、訳もわからず僕はもらい泣きをしてしまいました。
「もうすぐ五所川原だべ」 「スルメはどこで買うんだべ?」 「電車ん中で売ってんべ」 「ホントか?」 「知らん。ながったら他人の食っちまえばいいべ」 「んだな、」 「でよ、オナゴばっかでツアー組んで来てる客が多いらしいぞ」 「ホントか?」 「ああ、津軽鉄道の知り合いが言っっとった」 「狙いはいぐつぐらいのオナゴにすっべ?」 「んだな、いっても60までだなや」 「んだな、」 「んだ、んだ、」 ふたつ離れた席のジイサマ4人衆の会話です。 どうやらストーブ列車に乗り込むようです。 いくつになっても男は男なんだべなぁ~と思ったら、なんだか嬉しくなっちゃいました。 頑張れジイサマ衆♪ しかし、ひとり旅というものは他人の会話についつい耳を傾けてしまうものなんですね。
五所川原に到着するとすべての乗客が降りてしまいました。 ストーブ列車の人気はもの凄いもので、残ったのは本当に僕一人だけ。 車掌から、函館からの特急白鳥が悪天候のため遅れているためこの車両は40~50分ほど遅れて発車予定ですとの車内放送がありました。 これもローカル線の醍醐味とばかり荷物を車内に残したまま五所川原駅の改札を出ます。 駅前にそそられる食堂がありました。 平凡食堂・・・なんて 素朴な名前の食堂でしょう、次回のターゲットは間違いなくこの店だべさ。 駅内にデカイ顔の人がいました。 きっと有名な祭りの何かなんでしょうが、あまりにもデカイ顔なので憎たらしくなりました。 電車はまだ動きません。 このまま運休にならなければずっととまっていても良いぐらいに、僕は今ひとり旅を楽しんでおります。 ちなみに五能線は正式にはこの五所川原~東能代間をいいます。 駅売店でビールと角ハイボールを買いちびちびやっていると少し眠くなりました。 電車が動き出すとパッと目が覚める僕に今、『仕事』 という二文字はまったく浮かんできません。 津軽の雪景色をしばらく楽しむと、やかて海の景色がはじまり、まもなくして今日の宿泊地である鯵ヶ沢に到着しました。
まだ続く