新 ・ 渓 飲 渓 食 時 々 釣 り

魚止滝のずっと手前で竿をほっぽり
ザックの中身をガサガサまさぐる男の日記

乗り鉄ひとり旅も楽しんでいます

大人になったら、したいこと ・・・ 五能線~新青森

2011-01-22 10:51:50 | 旅行、食い歩き

大人になっても、したいこと ・・・ いつまでも童心を忘れず、旅に出ていたい。

 

  

東能代行始発電車はすでにホームに入っておりました。 荷物を車内に置きまだ暗闇に包まれた駅前の風景を眺めていると、さみしさが込み上げてきました。 尾野旅館のおかあさんがむすんでくれたおにぎりを頬張ります。 ・・・ちょっとご飯がゆるいって・・・ 思いながらも夢中で食べてしまいました。 必ずまたおじゃまします。

電車は定刻通りに発車。 少しすると夜が明け、そこにはずっと憧れていた五能線の車窓からのぞむ風景がひろがっておりました。 言葉では表現しきれぬほどの感動を、今僕は味わっております。

   

  

  

  

降りつもる雪 雪 雪 また雪よ

津軽には七つの雪が降るとか

こな雪 つぶ雪 わた雪 ざらめ雪

みず雪 かた雪 春待つ氷雪

この景色にはこの詩が一番似合います。 全席指定のリゾート列車も人気の路線ですが、各駅ごとの風情や風景をのんびりと楽しめる普通列車こそ五能線本来の魅力ではないでしょうか。 

海岸線沿いから離れ田園風景に変わると終点の東能代はもうすぐです。 ひとり旅の終わりが近づいています。

  

相々傘の落書きなんて、何年ぶりかに見ました。 特急つがる1号に乗り換える間、東能代駅周辺をぶらぶらしました。 駅待合所の水槽にハタハタがいまいた。 

 

つがる1号からの風景は今回の旅の中で一番雪深いものでした。 そうだ、僕の旅はまだまだ終わってはいないのだ。

 

 

 

大鰐温泉駅で途中下車。 3時間後のつがる51号指定席を予約し改札を出ます。 鰐.comという日帰り温泉に寄ると、なんと昨日の鯵ヶ沢の露店風呂でもお会いした東京の方が入浴しておりました。 偶然過ぎる再会に二人で大爆笑。 それからいろいろな話をしました。 2年前に奥様を亡くされたこの方を元気づけてくれたのがひとり旅だそうです。 三陸鉄道、新潟から佐渡ヶ島、函館と東日本のいろいろな場所を旅したことを聞かせていただきました。 風呂上がりに駅前食堂で一緒に昼飯を食べました。 その方は大鰐ラーメンを注文しましたが、モヤシがたくさん入ったただのラーメンでした。 「鰐肉のチャーシューが入ってるのかと思ったのに、ガックシ!」 とビールを美味そうに飲んでおりました。 僕は大辛味噌ラーメンにしてよかった。 大鰐温泉駅は吹雪に見舞われておりました。 雪を見に来るひとり旅の最後にふさわしい、それは素晴らしい吹雪でありました。 

もしも妻に先立たれたら、こんなにも素敵な笑顔を取り戻すことが僕には出来るのだろうか ・・・ 帰りの電車の中でずっとそんなことを考えていました。 

大人になったら、したいこと ・・・ 平凡でいいから、やっぱり妻といつまでも元気で楽しい日々を送りたい。  

 

ひとり旅の終点は新青森駅でした。 お土産屋と食事処しかない、本当にな~~~んもない東北新幹線の終着駅でありました。 

 

おしまい。

 


大人になったら、したいこと ・・・ 鯵ヶ沢一泊編

2011-01-21 13:03:00 | 旅行、食い歩き

大人になったら、したいこと ・・・ 知らない街を歩いてみたい。 どこか遠くにいきたいな。

鯵ヶ沢駅前は、ちょっとだけひらけた想像通りの駅前でした。 まずは尾野旅館さんに顔を出します。 部屋に案内され荷をほどくとホッとします。 襖、窓と開くのにコツとチカラを要するほどに新しくはない、どこか懐かしい建物です。 以前もこんな旅館に宿泊したことを思い出します。 あれは北海道の弟子屈という温泉街の片隅にあった菅野旅館という名前でした。 薬剤師の友人J君と道東は野付半島を旅した際、明日はどこに泊るかの議論から遡ります ・・・ 「俺、ジンギスカン食えるところがいい」 「ガイドブックで調べてみよう・・・お、弟子屈と言う町はジンギスカンも有名みたいだよ」 「おお、歓楽色の強い町とも書いてあるぞ」 「いいねぇ~」 「菅野旅館ってジンギスカン自慢の宿なんだって」 「菅野・・・カンノ・・・カンノウ・・・官能・・・ここにするべ!」 と言うことで弟子屈に決定したものの、当時の北海道は国鉄民営化の影響により道内の鉄道路線はズタズタに分断だれ、最寄りの標津駅までは出たものの、廃線後の駅前に残ったものはそのままの駅舎とトロッコだけ。 以前流行った “小さな恋のメロディー” という映画を思い出します。 主人公のマーク・レスターとトレイシー・ハイドがトロッコを漕いでどこかに行っちゃうラストシーンだったと思いますが、J君と二人でトロッコ漕ぐのは気持ち悪いので、駅前食堂に入りおばちゃんに行き方を聞くことにしました。 「バスも一日何便しかないし、タクシーでいくしかないよ」 とのこと。 ちなみにトロッコなどで言ったら熊に食われちゃうよとの助言もいただきました。 タクシーは高価だし、しょうがないのでJ君にヒッチハイクをさせることにしたものの、このJ君はちょっと根暗な男でしてとまってくれる車などまったくありません。 諦めかけた時にやっと反応してくれたのがサニートラックのハンターさん。 荷台はさばいたばかりの鹿の血だらけ。 しかしいまさら断る訳にもいかず・・・ 結局はスニーカーを血だらけにしながらなんとか目的地近くまで送っていただいた ・・・・・・ そんな20数年前の記憶がよみがえるような、懐かしさを思い出させてくれる尾野旅館でありました。 

 

 

さて、 せっかくなのでブサかわいい犬の “わさお君” に会いに行きましょう。 商店街を抜けると海に出ました。 この道をまっすぐ行けばわさお君がいるはずです。 いかし、この道が滅茶苦茶怖かった。 歩道は除雪された雪に埋まり車道の端っこをなんとか歩くもトラックの往来が多いこの海沿いの国道、吹雪も強まり、吹き飛ばされそうになるぐらいに強く冷たい海風、時折大きなクラクションに脅かされ、心身ともにへろへろ状態でやっとたどり着いた一軒のイカ焼き屋さん。 ・・・やった、着いた・・・ まずわさお君の居場所を尋ねます。 「あんりゃ、あんたわさおに会いに来だのかい」 「は、はぁ、」 「わさおなら、もっと先の店だぁ」 「はにゃ・・・」 「ご苦労なこっちゃ、まあ中さ入って温まれ」 せっかくなので店内でイカ焼きを食べることにしました。 これが想像以上に美味くてびっくり! なんだか嬉しくなっちゃってワンカップとビールで長居させてもらうことにしました。 「どっから来だ?」 「・・・東京」 「そりゃ遠いな、おばちゃん東京はテレビでしか見たこどねえぞ」 「へぇ、」 「東京ってったら新宿だべ?新宿さ眠らない街っで言うけど、眠らねば眠くならねのか?」 「よくわかんない、」 おばあちゃんが出てきました。 「東京は振り込め詐欺で有名な街だぁ、あんだは騙すほうか?騙されるほうか?」 「よくわかんないけど、僕は騙す側ではありません」 「そっが、ばあちゃん安心しだぁ~」 冷たい水仕事でおばあちゃんの手は真っ赤です。 炭バチの横で温められた湯に手を浸すと、「ふぅ、」とため息をもらします。 写真を撮ってあげると言うと、「写真は魂吸いとられっがら嫌だぁ」 と断るわりにはカメラを向けると嬉しそうな笑顔を作ってくれたおばちゃんとおばあちゃん、この岩谷商店もこの旅で心に残るお店になりました。 

わさお君の店では乾鱈を3本購入しました。 わさお君はこの3月に映画化される有名な犬です。 主演は薬師丸ひろ子さん。 夏場のロケは熱くてわさお君の機嫌がすこぶる悪かったそうです。 そんなわさお君は・・・やっぱりブサかわいい犬でした。 時々噛みつくから気をつけれと店のおばちゃんに注意されてから写真を撮らさせてもらいました。 会えてちょっと感激しちゃいました。

冬はたずねる人もなく 白い灯台ただひとつ 耐えてしのんで船乗りが 行方たずねる目をはらす

北の岬は今もなお 忘れられない 忘れられない おもいで岬

  

  

わさお君も、犬も猫もこんな厳しい土地で元気に生きているのです。

 

夕食前に近くの温泉に浸かりました。 露店風呂で一緒になった方に、「昨日は本八戸にいませんでしたか?」 と尋ねられます。 聞けばこのお方も大人の休日倶楽部パスを利用し昨日は本八戸に宿泊されたそうです。 「みろく横丁をふらふらされてましたよね?」 「はい、でもあまり良い店にはあたりませんでした」 「わたしも同じです。せんべい汁が美味いと聞いていたのに、たいしたことなかったです」 別の方が話に参加されます。 「わたしも本八戸にいたんですよ。目当てにしていた居酒屋が定休日で、結局は美味しいものにありつけませんでした」 どちらの方も東京からだそうで、五十路男の行動は似ているねと三人で笑ってしまいました。 しょっぱい湯でとても温まる良い温泉でした。 

 

旅館に帰るとさっそく夕飯です。 部屋食だったのでゆっくりと美味しいものを味わうことが出来ました。 ホヤとカキの酢の物だけで二合はいけました。 青森は本当になんでも美味しいところです。

 

 

寝る前に部屋からの景色を写真におさめました。 シャッタースピードを長めに設定したり、強制フラッシュで舞い落ちる雪を強調したり、野良猫も撮ってあげたり ・・・ 

夜は吹雪の音におびえ、トイレ行くのも怖かった、ひとりぼっちのさみしくも楽しい鯵ヶ沢の夜でありました。  

  

 

も一回続く


大人になったら、したいこと ・・・ 陸奥湊~鯵ヶ沢編

2011-01-20 13:15:50 | 旅行、食い歩き

大人になったら、したいこと ・・・ 見出し画像のような女性と二人っきりでお風呂に入ってみたい。

ひとり旅二日目は四時半に起床です。 暗闇に包まれたままの本八戸の街の路面はガチガチに凍結しておりました。 その中を新聞配達のおばちゃんが自転車で走り過ぎて行きました。 すごい!

 

本八戸駅には僕独りぼっちでしたが、5時46分発の始発電車にはぽつりぽつりと乗客が乗っておりました。 さみしくもどこか温かい、ひとり旅には似合った雰囲気の車内でした。 

  

JR八戸線でふたつ先の陸奥湊まで朝市を見に行きました。 荷物を運ぶ軽トラック、スーパーカブ、自転車、リヤカーなどで駅前はすでに活気に溢れております。 鮮魚や珍味、加工品、裸電球の下で真っ赤に冷えきった手をこすりながらモンペ姿のおばあちゃんが店頭に商品を並べています。 僕の顔には “なんも買わないの” と書いてあるらしくどの店からも声すら掛けてもらえません。 「お前はぬるい男だな」と叱られているような、そんな気がしました。 

  

叱られても腹は減るのです。 みなと食堂は朝市の並びにありました。 あまり時間もなく醤油ラーメンを注文。 煮干し系のやさしい出汁と細麺が身に沁みる美味さです。 僕と同世代ぐらいでしょうか、穏やかで明るい人柄の店主が話し掛けてくれました。 「陸奥湊駅前朝市はあまり観光客に知られていないから誰にも声は掛けないんだよ」 ちょっとホッとした気分になりました。 「昨日はどちらから?」 「本八戸ですが、日曜は閉まってるお店が多くて、街はずれの食堂に入りました」 「あそこは有名な老舗だよ。おばちゃんが豪快な人で、 常連客が酔っ払い過ぎると頭ぶん殴って、『二度とぐるな!』って怒鳴って追い出すんだ。 でもみんなまた呑みたいから3日後にはこっそり戻ってイイヒトを装うんだよ・・・でも普段はやさしいおばちゃんだよ・・・」 このみなと食堂は午後3時までの営業だそうです。 次にこの地を訪れる時は、お昼はこのみなと食堂で美味い魚を堪能し、夜は天竜食堂でほろ酔い、そしてあそこの食堂で〆るコースを密かに想像する僕なのでありました。 

 

 

八戸駅まで戻る車内から朝陽を拝むことが出来ました。 八戸からゆるキャラの可愛い青い森鉄道に乗りました。 通勤通学時間と重なり、しかも横一列のシートだったので残念ながら徐々に雪深くなる車窓の風景を楽しむことは出来ませんでしたが、かなりそそられる路線ではありました。 八戸~新青森区間は東北新幹線を使えばビュンと一気に時間短縮出来るのですが、気ままなひとり旅には、やっぱりローカル線が似合うのです。 野辺地駅は日本最古の鉄道防雪林が鉄道記念物に指定された駅だそうです。 凄いことなのかどうかはわかりませんが、興味のある方には凄いことなのでしょう。 凄いと思えば凄いと思えるほどに雪深い風景ではありました。 凄い!

 

 

車窓に海の風景が見えてくると、有名な浅虫温泉はもうすぐです。 この駅からはたくさんの観光客が乗り込み、終点の青森駅まで車内は混雑しました。 青森では1時間ほど時間に余裕があったので改札を抜け周辺を散策しました。 札幌に住んでいた幼い頃にはこの青森から幾度も青函連絡船に乗った記憶があります。 あのころの港はもっと寂れており、でも風情があったような記憶が残っております。 今では綺麗な港に変貌しなんとなく思い出が薄まったような淋しさを覚えてしまいました。 船内食堂のカレーライスが品切れでふてくされた僕は何も食べなかったのだと当時の話を父から聞かされたことがあります。 とうさん、今では酒こそあればふてくされない僕にまで成長していますよ。 駅に戻ると東北新幹線はシステムトラブルのため運転を見合わせていました。 やっぱり青い森鉄道を選んで正解でした。 まだまだ甘いぜ東北新幹線! 

 

10時04分発急行つがる4号は全席指定です。 確実に座れるのは楽ではありますが、僕にはどうにも情緒がわきませんでした。 車内販売もない急行なんて、クリープを入れないコーヒーみたいなものだぜ。

40分ちょっとで弘前に到着。 ここからがこの旅一番楽しみにしているローカル線の始まりなのです。 11時14分、当駅始発の五能線は数人だけの乗車客を乗せて発車。 もうワクワクしちゃってたまりません。 もの凄い吹雪で車窓からの風景が奪われてしまいます。 それでも僕のワクワクは止まりません。 ウイスキーをちびりちびりやりながらゴットンゴットン車両の揺れを楽しみます。 僕は今憧れの五能線に乗っているのだと思うと楽しくて仕方がないのです。 これが五十路男だと誰が思ってくれるのでしょうか。 

  

鶴泊という駅でほろりとする場面を見ました。 電車に乗り込んだ女の子にずっと手を振っているおばあちゃんの姿をホームに見ました。 ほっかむりにも衣服にも雪が纏っているおばあちゃんの姿を見ました。 電車が動きだしても振り続ける手をやめないおばあちゃんを見ました。 きっとお孫さんなのでしょう、電車の中からおばあちゃんに小さな手を振り続ける女の子の目が真っ赤になっているのを見ました。 まったくの他人なのに、訳もわからず僕はもらい泣きをしてしまいました。

「もうすぐ五所川原だべ」 「スルメはどこで買うんだべ?」 「電車ん中で売ってんべ」 「ホントか?」 「知らん。ながったら他人の食っちまえばいいべ」 「んだな、」 「でよ、オナゴばっかでツアー組んで来てる客が多いらしいぞ」 「ホントか?」 「ああ、津軽鉄道の知り合いが言っっとった」 「狙いはいぐつぐらいのオナゴにすっべ?」 「んだな、いっても60までだなや」 「んだな、」 「んだ、んだ、」  ふたつ離れた席のジイサマ4人衆の会話です。 どうやらストーブ列車に乗り込むようです。 いくつになっても男は男なんだべなぁ~と思ったら、なんだか嬉しくなっちゃいました。 頑張れジイサマ衆♪  しかし、ひとり旅というものは他人の会話についつい耳を傾けてしまうものなんですね。

 

 

 

五所川原に到着するとすべての乗客が降りてしまいました。 ストーブ列車の人気はもの凄いもので、残ったのは本当に僕一人だけ。 車掌から、函館からの特急白鳥が悪天候のため遅れているためこの車両は40~50分ほど遅れて発車予定ですとの車内放送がありました。 これもローカル線の醍醐味とばかり荷物を車内に残したまま五所川原駅の改札を出ます。 駅前にそそられる食堂がありました。 平凡食堂・・・なんて 素朴な名前の食堂でしょう、次回のターゲットは間違いなくこの店だべさ。 駅内にデカイ顔の人がいました。 きっと有名な祭りの何かなんでしょうが、あまりにもデカイ顔なので憎たらしくなりました。 電車はまだ動きません。 このまま運休にならなければずっととまっていても良いぐらいに、僕は今ひとり旅を楽しんでおります。 ちなみに五能線は正式にはこの五所川原~東能代間をいいます。 駅売店でビールと角ハイボールを買いちびちびやっていると少し眠くなりました。 電車が動き出すとパッと目が覚める僕に今、『仕事』 という二文字はまったく浮かんできません。 津軽の雪景色をしばらく楽しむと、やかて海の景色がはじまり、まもなくして今日の宿泊地である鯵ヶ沢に到着しました。 

 

まだ続く


大人になったら、したいこと ・・・ 盛岡~八戸編 

2011-01-20 09:13:16 | 旅行、食い歩き

JR東日本 大人の休日倶楽部のポスターを見た時から、五十路になったらひとり東北を旅しようと心にあたためておりました。

 

 

9時22分、はやて13号は定刻通り盛岡駅に到着。 ホームに降り立つと関東地方とはまったく違う尖った寒さに指がしびれます。 IGRいわて銀河鉄道に乗り換えると、雪深い風景、いわき山の大きさに圧倒されました。 いよいよひとり旅が始まったのだと実感する瞬間でした。 実際には目時駅から青い森鉄道の管轄区となるのですが、乗り換えもなく乗車客も少ないままに僕はカメラ片手に客席を右左前後と移動するのでありました。 

 

 

八戸駅は近代的な駅でした。 雪は少ないけど凍結した路面が怖いのです。 ユートリー八戸地域地場産業振興センターには華やかな天覧山車が飾ってあり観光客は我先にと撮影していましたが、僕は山車の横っちょにある鯛をかじったサルにばかり気を取られておりました。

 

 

腹が減り、駅前をふらふら歩きます。 今回の旅では食堂、居酒屋の下調べは一切していません。 食べログなど美味しい店をインターネットで検索できるサイトもありますが、この旅では直感で店を選ぶことに決めていたのです。 東横インの脇にあった天竜食堂の雰囲気が気に入り暖簾をくぐると、僕好みの空間がひろがっていました。 客は僕一人だけ、気楽に昼酒を楽しめそうです。 お通しの烏賊の塩辛が滅茶苦茶に美味い。 感じの良いおばちゃんが、「このお猪口は百年以上も前のもので、二づしが残っでないんだよ。混み合っでいる時にこのお猪口がないとお酒を飲まね常連客だっているぐらいなんだ」と説明をしてくれます。 なるほど、熱めの燗酒がやたらと美味く感じます。 刺し盛りを注文すると、「今年はヤリが不漁だっだんだよ。例年ならばこの時期にはもうヤリは獲れないんだけど昨日あがっだのがあるがら出してあげるね。 あどは〆サバとまぐろでいいかい?ウチは港と繋がっでるから美味しい魚が入るんだよ」と、おかわりの燗酒を運んでくれます。 「烏賊の盛り方は荒波を意識しでるんだよ。〆サバは酸っぱさを押さえでるから七味だけで味わってごらん」  ヤリはポキポキ新鮮そのもので絡みつくようなまったりとした甘さ。 〆サバは脂が乗って確かに醤油など付けず七味のピリ辛さだけで楽しむ方が美味い。 まぐろは赤身の上品なねっとり感がたまらないほど、どれも美味過ぎるほどに美味い。 「陸奥湊の八鶴が一番美味しい酒だけど、冷やで呑んでみるがい?」 コップに三分の一ほど注がれた酒を味わいます。 「うん、これはまだ発酵途上の清々しい味がするね」 「わがるかい?これは元旦搾りちゅうてまだ16日目の酒なんだよ。んだばこっち呑んでみるがい?」 「これは味が馴染んでいるね。アルコール臭さがまったく感じない真面目なお酒の味がする」 「んだ、ここの酒造は米と麹さだげで作っだ酒なんだよ。最後にとっておきの酒さ呑ませであげる」 「わぁ~、こりゃすごい酒だ。吟醸香が力強くて、それでいて嫌味な香りも味もまったくしないし、濃厚なのにくどくなく、本当に綺麗な味としか言いようのない酒だね。もしかして、古酒かな?」 「あんだ凄いね、その通りだよ、ごれは三年物でごごでしが呑めない貴重な酒なんだよ。普段は出さねけどあんだには呑ませであげだくなっだんだ」 おばちゃんの話は続きます、「この八鶴さんどは特別な信頼関係がねば上等な酒ば仕入れでぎねんだ。この酒は保存方法もちゃんどしてねば酒の味が悪ぐなっちまう。だがら新聞紙で光ば遮っで冷凍保存しでやらねば大切な味が壊れてしまうんだ・・・で、あんだどっから来なさっだ?」 「神奈川のふ・・・江の島のほうです」 「へぇ~、そりゃ遠くから来なさっだね。東北新幹線の開通は嬉しいね。江の島はわも45年前修学旅行で行っだよ。鎌倉の鶴岡八幡さんも行っだし、小田原もまわっだ」 「僕の地元だね」 「小田原は道路っこのこっぢもむごうもどごでも蒲鉾の呼び込みがすごがったんだよ。この前さ親戚が小田原蒲鉾お土産にぐれだげど、なんか化学薬品の味ばっがしでちっとも美味しぐながったよ」  おばちゃんの話はまだ続きます。 「あんだ俳優さんみだいにハンサムだね。うちの息子は障害もっで生まれちまっだから・・・でも、この前やっど二十歳をむかえられたんだよ・・・・・・」  地元の常連客がちらほらと店を賑わいはじめます。チャーシューメンを注文する方が多く、僕も便乗しようと思いきやメニューにあったウニらーめんが気になり注文。 やさしい塩味とウニの風味に懐かしさを覚えます。 ・・・そうだ、この味はオヤジの好きだったいちご煮に似ている・・・ 思わずめがしらが熱くなりました。 が、ネギ抜きで頼んだはずのウニらーめんにはたくさんのネギが浮いていたので泣かずにすみました。 そんな、八戸での最初の宴でありました。

 

宿泊地の本八戸へ着いたころには酔いが回っておりました。 ビジネスホテルにチェックインすると風呂に入り夜の宴に備えます。 盛岡に住む古い友人のI10君から電話をもらいました。 時間があったら一緒に飲もうと誘っていましたが残念ながら今夜は夜勤とのこと。 東京に出てくる機会があったら会おうと約束しました。 若い奥さんとは仲良くしているのか聞こうとも思いましたが、今年は盛岡冷麺が届かなかったので奥さんの体調でも悪いのか? もしかしたら良い知らせが届くのか・・・ ちょっと心配ではあります。 

 

夜の街は気温がぐっと下がっておりました。 路面は凍結し注意して歩かないとスッテンコロリンは必至です。 本八戸には飲み屋の並ぶ横丁街がたくさんありますが、残念ながら日曜は閉まっている店ばかりです。 みろく横丁にはたくさんの明りが灯っていたので一軒ずつ覗きながら入る店を決めます。 賑わっている店が多いので迷ってしまいますが、これもひとり旅の楽しみです。 しかし残念ながら入った店は好みの店とは程遠く冷燻サバと熱燗一本のみで早々に店を出ました。 どうもこの界隈は観光客目当ての店が多いようです。 

 

賑わいのない街のはずれに食堂がありました。 外に掛けられたメニューを見てびっくり! 中華そば200円、カレーライス300円・・・ 安過ぎる、しかしそそられる、どうする俺・・・ など迷うことなく横開きの入口を開いた瞬間、そこにいらした酔っ払いど真ん中の地元オヤジ様衆の視線が僕に集中します。 5対1の完全アウェイ状態、ここ怖い、どどどうする俺・・・ ここは早めに退散出来るようカレーライスを注文。 「キャ、キャレイライスひとつください・・・」 思わず声が裏返ってしまいましたが、温かく反応してくれたお店のおばちゃんの態度にほっと一安心。 山盛りのカレーライスを頬張りながら ・・・何故に俺は青森まで来て夜にカレーライスを食べているのだ?  これでいいのか俺、しかしメニューには酒も肴もなんもないし、でも地元オヤジ様衆はみんな呑んでいるし・・・ 勇気を出してお酒を注文してみましたら、衆のおひとり様がコップ酒を運んでくださいました。 「この辺の人?」 「いえ、・・・東京です」 「おおぉ~!東京!」 衆の皆様が僕を興味深く観察します。 「俺も東京行っだごどあるぞ」 「俺もある」 「俺は10年前だ」 「へえぇ~、おめ最近の話でねか」 「おおよ、日暮里や神田、西川口は詳しいだ」 ・・・西川口は・・・とも言えず、「良いところばかり行かれましたね」 と僕。 「んだ、今度はスカイタワーに行ぐづもりだ」 「だひゃ、おめスカイタワーじゃなぐっでスカイツリーだぞ、なあ東京の人」 「は、はあ、まあ、どちらでも・・・」と僕。 「俺は行っだこどねけど、東京っで人ごみすごいみでだな」 「あったりめえだ、八戸の4.5倍ぐらいはすごいだ」 「ひぇえ~、んだが?」 「んだ、」 ・・・いや、100倍以上だと・・・ とも言いえずコップ酒をちびりやりながら、少しずつ場の雰囲気に馴染んできた僕。  「んで旅行だか?」 「はあ、」 「あれか、東北新幹線か?」 「はあ、」 「東北新幹線の恩恵はすごいな」 「んだ、」 「はあ、」 「明日はどご行ぐ?」 「はあ、鯵ヶ沢です」 「あっじさ日本海側は寒いぞ、今夜はよっぐ温まっで行げよ」 「はあ、どうも、」 「バッカコケ、今夜あだだまっでも明日には冷えぢまうって」 「うっせえな、んなごど言葉のアヤだぁ~」  

白子の天ぷらを差し入れてくださったこのお店のことを僕は将来忘れられないでしょう。 思い出とド緊張をくださった皆さん、ありがとうございました。

 

続く