ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『オーケストラ!』

2010-03-03 08:51:39 | 新作映画
(原題:Le concert)



「これは観る前に想像していたのとはまったく違ったね。
本当に映画は観てみなくては分からない」

----そうニャの?
タイトルからして、だれもが心打たれる感動作って気がするけど…。
「もちろん。それはそうだよ。
でも一言で“感動”って言ってもいろいろあるでしょ。
こういう、クラシックがらみのタイトルからして、
もっと生真面目というか、しみじみというか…。
ところが、この映画はそんなクラシックの持つ
平均的イメージではなく、
キャラクターがいずれもバイタリティに富んでいて個性的。
設定自体もユニークだしね。
物語は
元ロシア・ボリショイ交響楽団の指揮者でいまは
同楽団で清掃員をしている主人公アンドレ(アレクセイ・グシュコブ)が
1枚のFAXを目にしたことから始まる。
それは演奏を取りやめたサンフランシスコ交響楽団の代わりに、
パリのプレイエルに出演するオーケストラを探しているというもの。
パッとひらめいた彼は、
昔のオーケストラ仲間を集め、ニセの楽団を結成し、
ボリショイの代表としてこのコンサートに出場するよう動き出す…」

----そりゃあ、ムチャクチャだ。
「そう。この映画は、
そのムチャクチャさが映画の軸になっている。
普通に考えたらあり得ないことばかりだからね。
まず、彼ら元楽団員はアンドレを含め、
30年も“実戦”からは遠ざかっている。
その仲間たちも、
タクシー運転手だったり、蚤の市業者だったり、ポルノ映画の効果音担当だったり。
先方との交渉は、
かつて彼らを廃業に追い込んだバリバリの共産党員。
彼には彼の目論見があって、
どうしてもパリに行きたくて、この交渉役を請け負う。
ニセのパスポート、ニセのビザ、地下の物置からのニセ電話。
そんな彼らの前に難題が続出。
後払いの渡航費なんて持っているはずもない。
まあ、これ以上は言わない方がいいだろうなあ」

----あれ?メラニー・ロランは?
「彼女はアンドレが指名した若手スターのソリスト。
そう、この演奏曲目は
チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。
これは、ブレジネフ政権時代、
アンドレたちが演奏中に演奏を止められた因縁の曲。
さあ、彼がなぜ彼女を選んだのか?
映画はこの謎を抱えたままクライマックスの演奏シーンへ突き進む。
そしてここがポイントなんだけど、
巧みなミスリードもあって、
思わぬ、その謎が、しかも演奏中に明らかになる。
もう、ここはほんとうに滂沱の涙。
まさかこんなポピュラーな曲で涙を流すとは、
自分でも思いもしなかった」

----へぇ~っ。普通に考えると、
アンドレの隠し子って感じだけど…?
「それがね…。
あっ、ヤバいヤバい。
この映画が感動的なのは、
自由を奪われた人々が、
その後の厳しい環境の中、たくましく生きる人々を、
コミカルなタッチを交えて描いていること。
そしてその奥に、何物にも代えがたい
自由と生命の尊厳を歌い上げていることにある。
いやあ、話しているうちに、また観たくなってきたなあ。
そうそう、監督は『約束の旅路』を手掛けたあのラデュ・ミレイハニュだよ」




         (byえいwithフォーン)



フォーンの一言「『オーケストラ!』の『!』は『ブラス!』のヒットにあやかっているのかニャ」身を乗り出す


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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
自由、たくましく生きていく (桃子)
2010-03-03 10:26:03
>自由を奪われた人々が、
>その後の厳しい環境の中、たくましく生きる

もうここでダメ押しされました。
観たいです。
返信する
■桃子さん (えい)
2010-03-04 21:10:16
こんばんは。
ぜひご覧になっていただきたいです。
この映画は、ロシアの過去を問いながら、
そこに“自由”という普遍的問題を提起。
しかも、この現代が直面している
未曾有の不況の中で生きる人々…という
今日的なテーマへも繋がっています。
かと言って、それらを大上段に振りかざすのではなく、
構成、語り口ともに映画としてオモシロい。
拾いものと言っては申しわけないくらいに
素晴らしい時間を体験させていただきました。
返信する
素晴らしかったですね。 (rose_chocolat)
2010-03-23 06:34:34
間違いなく今年のmyベストに入ります。
監督のポリシーにもう心から賛同。

不可抗力によって奪われてしまった幸せを、小さな嘘をつくことによって取り戻す。
それを夢見て生きる人たちに、ただただ感想です。
メラニー・ロランも、凛として媚びることなく、素敵でした。
返信する
↑ 間違えた^^; (rose_chocolat)
2010-03-23 06:39:16
× 感想
○ 感動

そうですよね。 現代の、光の見えない時代だからこそ、
こういう映画に励まされるのかもしれません。
返信する
■rose_chocolatさん (えい)
2010-03-23 21:04:22
こんばんは。

ぼくも3月に観た映画の中では
トップクラスの感動をもたらしてくれた映画でした。
特に、あのヴァイオリン協奏曲。

クレッシェンドが
ここまで巧くハマった映画はなかったです。
返信する
感想しました (にゃむばなな)
2010-05-01 20:47:34
アンヌ=マリーとフィリポフの関係が父娘かと思ってましたが、そんな単純なものではなく、もっと崇高でステキな真実が隠されてあったことが明かされるあのオーケストラシーンは最高でしたね。
返信する
■にゃむばななさん (えい)
2010-05-02 21:04:29
ぼくも、あのミスリードには
まんまとやられました。
あのラストのチャイコフスキー。
いま思い出してもゾクッです。
返信する
大感動です (Kei)
2010-05-11 01:22:14
このタイトルで、こんなに面白い作品とは、予想もしませんでした。

>自由を奪われた人々が、その後の厳しい環境の中、たくましく生きる人々を、
>コミカルなタッチを交えて描いていること。
>そしてその奥に、何物にも代えがたい
>自由と生命の尊厳を歌い上げていることにある。

私もその通りだと思います。
そういう、深いテーマを持ったお話を、
とぼけた、コメディ・タッチで実に楽しく描き、最後は音楽的感動と興奮の大団円になだれ込む…
完璧な出来栄えです。
ラデュ・ミヘイレアニュ監督の作品は、不覚にも私はこれが初めてでした。
監督の過去の作品も見たくなりました。
返信する
Unknown (vic)
2010-09-13 08:53:03
自由を奪われた人達の苦労を、シリアスに重く描かないで
思いきり笑って(バカにしているの?と思うくらい)いるところが良いんですよね。

最後のコンサートに向かう
逆境を乗り越えてきた、したたかで、しぶとい楽団員達
本当に愛すべきメンバーでした。
返信する
■vicさん (えい)
2010-09-16 21:10:20
こんにちは。

これが、旧ソ連のお話というところが
オモシロかったです。
いろんな体制が生まれても、
人間というのは根本的なところで
どの国の人も同じ。
こういう視点って好きです。
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