ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『石内尋常高等小学校 花は散れども』

2008-08-09 21:57:37 | 新作映画
----新藤兼人監督ってもう95歳になるの?
そんな高齢でよく映画撮れるね?
「でもプレスを観ると
現場では車椅子で演出しているみたいだね。
数年前、脚本家の桂千穂さんの出版パーティで
そのお姿を拝見したときは
まだ足はご丈夫なようだったけど…」

----チラシとかには
“映画界のピカソ”なんて表現もあったけど…。
「うん。“POPで実験的な構成”の言葉も…。
確かに冒頭、石内尋常高等小学校での授業シーンからして驚かされる。
白塗りで無理矢理(?)若く見せた柄本明扮する市川先生。
その彼が大声を張り上げ、居眠り中の少年・三吉を叱る。
意見を聞かれてハキハキ答える三吉。
田植えの手伝いを徹夜でやったという彼の話を聞き、
これまた大きな声で反省する先生。
以後、ボイスオーバーはまったくなし。
一人ひとりのセリフが終了するのを待って
次のセリフへと進む。
この徹底した手法は
映画に独自のリズムを生むばかりでなく、
人の声に耳を傾けようという、
新藤監督のメッセージともとれたな」

----あれっ?この映画は柄本明が主演ニャの?
てっきり豊川悦司かと思っていた。
「そこがまたこの映画のオモシロいところ。
この教室の生徒の一人に良人という級長がいる。
生活苦が原因で母が自殺してしまった後、
彼はこっそりと転校してしまう

----ニャるほど。
豊川悦司が演じるのはその良人の成長した姿というわけだ。
「そういうこと。
さて、30年後。
良人は東京で売れない脚本家に。
そこに、いまでは村の収入役となった三吉が
市川先生の定年を祝おうと、
連絡を入れてくる。
それを機に、久しぶりに石内の地を踏む良人。
そこでかつての小学生たちの自己紹介が始まるわけだけど、
これがもう暗い暗い。
人生を狂わせた戦争への
怨みに満ちた呪詛の言葉ばかりが並ぶ。
2回も夫を戦争で奪われたと自らの運命を呪う里子(根岸季衣)、
原爆被爆の痕があまりにも惨い芳夫(大杉漣)、
他にもリリィや角替和枝などが同窓生に扮している」

---えっ、豊川悦司とは年が離れすぎていない?
「そうなんだよ。
なにせ柄本明扮する市川先生の奥さんに川上麻衣子、
で、良人をずっと思い続ける同級生・みどり役が大竹しのぶなんだから、
もう、これは冗談としか思えないキャスティング。
でも、ここに新藤監督のこの映画に対する
製作スタンスが窺える」

----つまりリアリズムではないということだニャ。
「そう、これは監督のフィクションを交えた自叙伝。
おそらく自分の記憶の中のイメージを映像化したんだと思う。
そう考えると、柄本明の白塗りも少し納得いく。
これには『田園に死す』という寺山修司監督の前例もあるからね。
でも、やはり刮目すべきは大杉漣の原爆の痕。
新藤監督はかねてより
原爆投下直後のヒロシマを描きたいと
強い願望を持っていた。
この大杉漣の凄まじいケロイドを見て思ったね。
もし、それが実現すれば
これは日本映画師を揺るがす
とてつもない問題作が生まれるだろうと…」

----ふうむ。
それは感傷をまったく排した作品になりそうだね。
「思い起こせば新藤監督は
いわゆる安っぽいヒューマニズムでくくれるような監督ではない。
この映画にも、男と女の性を絡めた
ブラックな毒が含まれている」

----枯淡の境地に行くような監督ではないということだニャ。

           (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「前売り鑑賞券は950円だってニャあ」ぱっちり

※95歳の日本最高齢監督に敬意を表してのことらしい度

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