その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

宮本常一『忘れられた日本人』(岩波文庫、1984)

2024-05-06 09:41:54 | 

日本史関連の本を読んでいると、いろいろなところで参照される民俗学者宮本常一さんの代表作を読んでみた。

いや~面白い。日本の民俗誌として、裏日本史として、「物語」として・・・。

改めて、表の「歴史」と言うのは文字になって、「権力」を持った人によって、記録されて、残されて、伝えられるということがよくわかる。でも、本書にあるような残されない歴史の方が、大多数であり、その時々の実情だということに気づかされる。

近代における日本の都市化されていない地域での日本人の生活、風俗、性への向き合い方などなど、逞しさや奔放さ(いい加減さ)、真面目さなどなど人間や社会の多様性、複雑性を本を通じて疑似体験できる。

30代の時にリーダーシップ研修か何かで、内村鑑三の『代表的日本人』(西郷隆盛や上杉鷹山などの伝記サマリー)を読んだが、その対極を行く本だ。研修の目的(きっと、立派な過去の日本人にリーダーシップの在り方を学ぶというようなものだったと思う)にはそぐわないだろうが、日本や日本人についての思考・理解を深めるには、本書の方がずっと深みのある読書ができて、思考が深まる(ただ、本書がリーダーシップ研修に取り上げられるとはありえないだろう)。

表題が示すように、本書に記述された日本人、生活、風習といったものは、どんどん忘れられていくのだろう。そうした無形文化を記録し、伝えて行く仕事の大切さに気付き、生涯を捧げた筆者の偉大さにも感服だ。

 

〈目次〉
対馬にて
村の寄りあい
名倉談義
子供をさがす
女の世間
土佐源氏
土佐寺川夜話
梶田富五郎翁
私の祖父
世間師(一)
世間師(二)
文字をもつ伝承者(一)
文字をもつ伝承者(二)
あとがき


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