その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

開館20周年記念企画に相応しく見応え満点! 「動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」 @府中市美術館

2021-09-26 07:30:00 | 美術展(2012.8~)


 ユニークで興味深い企画展が多く、ちょくちょく足を運んでいる府中市美術館を訪れました。今回のテーマは、「日本は動物の絵の宝庫」として、「かわいい、面白い、美しい……理屈抜きに楽しめる作品が山ほど」ある動物の絵を「西洋の絵とも比べることで、この土壌を育んだ背景や歴史を探ります」(美術展HPより)という内容です。府中市美術館の開館20周年記念の位置づけですが、それにふさわしい見応え満点の展示でした。

 仏教の教えの影響で、動物も人間も同じ命を営む仲間として捉えた日本とキリスト教の教えで神があらゆる動物の頂点に人間を創ったと考えた西洋の発想の違いが、絵画に如実に表れているが良く分かります。涅槃図で描かれた釈迦の臨終を悲しむ動物たちや鳥獣戯画などの日本の絵画に描かれた動物たちには、時代を超えて、親近感がわくし、共感します。動物たちは常に私たち人間は、様々な違いがあるのは自明なのですが、同じ線上の立ち位置の違いにしか過ぎません。

 涅槃図の一つ一つの動物を見ていると時間が経つのを忘れるほどですし、幼児の時の絵本にあったような気もする桂ゆきの動物たち、丸山応挙の文句なしの可愛い犬、徳川家光のミミズクなどなど、動物好きとは決して言えない私でも、ほんわか和む気持ちになりました。

 西洋の動物の絵が全てとは言いませんが、象徴としての意味あいであったり、従うものであったり、愛玩ではあっても人間とは明確な一線が引かれているように見えます。なので、むしろ描かれた動物を見るというよりは、絵そのものを楽しむ感じでした。モローの一角獣やマリヌス・ファン・レイメルスワーレ派、デューラー、ティチィアーノらの絵・版画に描かれた聖ヒエロニムスの絵(ライオンがお供にいる)、フランソワ・ミレーのバターつくりの女(猫がじゃれついている)などが個人的にはお気に入りでしたが、ゴーギャン、ピカソ、シャガール、フジタなど動物も描かれた絵が展示されています。

 そして、この美術館でいつも感心するのが作品解説。作品の見方や背景が分かりやすく、しかも興味を引くように記載されており、実に秀逸。ついつい読み込んでしまいます。実はそれ故に、絵を鑑賞するよりも解説に気が行き過ぎたり、見学時間が想定上に長引くと言ったことになるので、気を付けましょう(笑)。お勧めは、図版を購入して、解説は家でゆっくり読むことでしょうか(決して、美術館関係者ではありません)。

 コロナ禍で美術展にも足が遠のいている今年の前半でしたが、それを挽回するに十分な量と質と満足度があった展示でした。後期に作品も相当数入れ替わるようですので、是非、今一度足を運びたいと思います。自信もってお勧めします。

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初秋の山中湖

2021-09-20 20:18:08 | 旅行 日本

今年は家族状況がバタバタで、複数泊の遠出の旅行は難しいので、8月に続いてまたも山中湖。台風14号明けの素晴らしい晴天でした。午前中は自転車を借りて高原サイクリング。


〈午前中の富士山。空気が新鮮で透明度高い〉

夕刻に恒例の1周ラン。雲がとっても特徴的だったので何枚かスナップを。









2021年9月19日


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N響B定期会員デビュー! N響、鈴木秀美 指揮、ハイドン交響曲第98番ほか

2021-09-18 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


この日は、私にとって記念すべきB定期会員デビューの日です。新入社員のような新鮮な心持ちで、ステージ後方のPセクションのマイシートに着席しました。

指揮はコロナ禍によるピンチヒッターで鈴木秀美氏。N響とは初共演とのことですし、私自身も氏の指揮に接するのは初めてです。古楽を得意とする鈴木氏ならではのバッハ親子とハイドンのプログラムも楽しみ。「バロック、前古典派、そして古典派へという音楽史の流れが、鈴木秀美指揮のN響が奏でる音楽で辿ることができる」作りです(久保田慶一氏のプログラムノートより)。

そして、プログラム自身の興味深さに加えて、演奏の素晴らしさが掛け合わさって、実に充実した演奏会でした。冒頭のバッハの組曲第3番は、自宅でもCDで時々聴く曲ですが、生で聴くのは音の肌触りまでが感じられてCDとは全然違いますね。時には優しく、時にはゴツゴツとも感じられる質感がダイレクトに伝わってきます。コンサートマスター白井さんのヴァイオリンの美音が良く聴こえること。至福の時間でした。

続く、大バッハの次男C. P. E. バッハの2曲は(きっと)初めて聴く曲。お父さんの音楽と似ているのかと思ったら、ずっと激しく、スケールも大きいのが驚きでした。シンフォニアのニ長調は管楽器も入って、立派な「『古典派』の交響曲」(プログラム解説)でした。

後半のハイドンの交響曲は第2楽章の美しさが愁眉。プログラムには〈ジュピター〉の第2楽章との類似性から「亡きモーツァルトへの「レクイエム」であると推測されることがある」と書かれていましたが、そうとしか聴こえませんでした。

全曲を通じて、古楽のスペシャリストによる意思に満ちた指揮にN響がプロアクティブに応えた名演奏でした。私としても、B定期会員デビューを祝福して頂いているようで、とっても満ち足りた気分。これから毎月、このシート、お世話になります!

ところで、10月はブロムシュテッド翁3本立てなのですが、来日は大丈夫なのでしょうか。発表があるまで、期待と不安が入り混じった毎日になりそうです。


第1937回 定期公演 Bプログラム
2021年9月16日(木)開場 6:20pm 開演 7:00pm
サントリーホール

バッハ/組曲 第3番 ニ長調 BWV1068
C. P. E. バッハ/シンフォニア 変ロ長調※
C. P. E. バッハ/シンフォニア ニ長調※
ハイドン/交響曲 第98番 変ロ長調 Hob. I-98

指揮:鈴木秀美

No. 1937 Subscription (Program B)
Thursday, September 16, 2021 7:00p.m. (Doors open at 6:20p.m.)
Suntory Hall

Bach / Suite No. 3 D Major BWV1068
C. P. E. Bach / Sinfonia B-flat Major *
C. P. E. Bach / Sinfonia D Major *
Haydn / Symphony No. 98 B-flat Major Hob. I-98

Hidemi Suzuki, conductor

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帝国書院編集部 編集『旅に出たくなる地図 日本 20版』(2020)

2021-09-15 07:30:07 | 


コロナ禍で旅に出られず息が詰まる日々が続いて、もう1年半以上になる。そんな中で、私の「旅」の友として、妄想を掻き立ててくれているのが本書だ。

いわゆる地図帳なのだが、旅仕様に出来ているのがポイントだ。通常の地図帳には記されていない観光地のイラスト、名所の一言コメント、テーマごとの特集ページなどなど、旅好きには、「あそこも行きたい、ここも行きたい」と眺めているだけで涎が出てしまう。

コロナによるステイホームの中、頭の中でせめてヴァーチャル・ツアーを思い購入し、とっても楽しんでいるのだが、本書で欲求不満が解消されているのか、かえってフラストレーションが溜まってくるのか、だんだん分からなくなってきた。

全国くまなく見ていると、改めて、東海地方より東・北はこれまでの旅行で結構カバーされているけど、大阪から西は圧倒的に行ったことが無いところが多いということが分かる。特に、山陰、四国、九州は未踏の地がたくさんある。

一日も早く、コロナが落ち着き、旅が楽しめる日が戻ってきて欲しい。その時期が来るまで、本書を眺め倒すことにする。

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パーヴォ、N響/シーズン開幕を飾るバルトークプログラム

2021-09-11 20:54:09 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)
いよいよ、N響21‐22シーズンの幕開けです。今シーズンの定期は一部衣替えで、Cプログラムは休憩なしの60‐80分のプログラムにリニューアルです。

パーヴォが主任指揮者として最後のシーズンとなるにも関わらず、緊急事態宣言の最中で果たして来日可能なのかとっても気になっていましたが、無事、予定通りの登壇。嬉しい限りです。

コロナ禍における当局のご指導ということで、今日はステージの登場の仕方がイレギュラー。最初に管メンバーが登場、続いてパーヴォとコンマスのマロさん、そして最後に弦メンバーが現れます。そして、パーヴォの前で音合わせ。このスタイルが、感染予防にどういう効果があるのかは全く分かりませんでしたが、ちょっと珍しいものを観ました。

公演は、バルトークからの2曲。「中国の役人」、「協奏曲」ともに「さすがパーヴォ・N響の最強コンビ!」と唸らせられる圧巻のパフォーマンスでした。バルトークって苦手意識があったのですが、そう感じるとことが少しもなかったどころか、もっとこれから聴いていきたいと思うほどで、今日は一つのきっかけになるかもしれません。

「中国の役人」はパントマイム用に作曲されただけあってドラマティックな音楽です。ストーリーと舞台での表現が自然と想像され、頭の中で音楽と重ね合わせられます。パントマイム付きで是非一度視聴したいものです。N響の演奏は、個人技とアンサンブルが絶妙にミックスしたものでした。特に、管セクションの音色には耳をそばだてました。あえて言うと、美しい演奏過ぎていて、もっとドロドロし、欲にまみれた雰囲気があってもいいかとは感じたほどです。

「協奏曲」は過去に聴いた覚えがないのですが、「クラシック」的な音楽で、更に聴きやすかった。ここでも、第2楽章のファゴットから始まる各楽器ごとの二重奏など、美しすぎると言っても過言でない演奏がこれでもかというぐらい展開されました。管弦のコンビネーションも素晴らしく、パーヴォ、N響コンビの今の実力はもちろんのこと、今後のポテンシャルさせも感じさせるものでした。ラスト・シーズンがもったいない!退場はオケ・メンバーが退出後に、パーヴォとマロさんが連れ立って、拍手に包まれながら退場。完璧なシーズン開幕戦でした。

「2つのプログラムで演奏時間が延べ60分は、少々物足りないんではないか?」と一抹の不安が開演前はあったのですが、全くの杞憂でしたね。2つの聴きごたえたっぷりの重量級の作品を揃えたプログラムでお腹一杯。むしろ、週末と言えども何かと用だくさんな現代の人々のスタイルには、こうしたやり方が時流に合っているのかもしれません。

PS 今シーズンのCプログラムは、開演45分前(13:15)から室内楽のプレ・プチ・コンサートがあったのだが、すっかり失念していて、到着した13:40では既に終了済。次回は是非、早めに来て聴いてみます。


第1936回 定期公演 池袋Cプログラム
2021年9月11日(土)開場 1:00pm 開演 2:00pm(休憩なし)
東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:パーヴォ・ヤルヴィ

バルトーク/組曲「中国の不思議な役人」
バルトーク/管弦楽のための協奏曲

No. 1936 Subscription (Ikebukuro
Program C)
Saturday, September 11, 2021 2:00p.m. (Doors open at 1:00p.m.)
Tokyo Metropolitan Theatre

Paavo Järvi, conductor

Bartók / "The Miraculous Mandarin," suite
Bartók / Concerto for Orchestra


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映画 「新聞記者」(監督 藤井道人、2019)

2021-09-10 07:30:45 | 映画


官邸の不正疑惑を巡って、内閣情報調査室に出向中の若きエリート外務官僚と疑惑を追いかける女性新聞記者のやり取りが描かれる社会派ドラマ。安倍内閣のモリ・カケ問題を彷彿させるタイムリーな題材だ。

第43回日本アカデミー賞において、作品賞、主演男優賞、主演女優賞を獲得した作品でもあり、業界での評価は高かったようだが、残念ながら私のストライクゾーンからは外れていた。善人、悪人が明確な人物設定、リアリティに欠ける内閣情報室のオフィス、メッセージがあいまいなラストシーンを初め、コンセプト・ディテールの両方で気になってしまうところが多々あった。ストーリー自体には引き込まれるところあるのだが、いろんなところが気になってしまい、投入しきれない欲求不満が終始残った。現実は、人はもっと複雑だし、社会も泥臭いのだが、その点が表現しきれてない印象である。

秀逸だと思ったのは、若手エリート官僚を演じる松坂桃李の演技。先日観た「蜜蜂と遠雷」でも良かったと思ったが、表情、仕草で語り表現できる役者だ。

多くの支持を受けている映画なので、単に私の好みと違っていたということだと思う。


新聞記者
監督 藤井道人
脚本 詩森ろば、高石明彦、藤井道人
原案 望月衣塑子「新聞記者」、河村光庸
製作 高石明彦
製作総指揮 河村光庸、岡本東郎
出演者 松坂桃李
シム・ウンギョン
本田翼
岡山天音
郭智博
長田成哉 ほか

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夏明け早々幸先よし 東響 東京オペラシティ・シリーズ/指揮:下野竜也/シューマン 交響曲第2番ほか

2021-09-05 07:30:28 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


7月上旬以来、ほぼ2か月ぶりのコンサート。いよいよ秋の演奏会シーズンの始まりである。コロナウイルスの感染が一向に収まらない中で、来日音楽家の変更は当面避けられそうにないが、演奏会に行けるだけでも良しとせねばならないだろう。

本日のプログラムもコロナ影響で指揮者・独奏者ともに変更になったが、充実のプログラム、出演者の熱演で、「代演上等!」と胸張って言える感動的公演であった。

冒頭のフォーレ、組曲「ペレアスとメリザンド」からその神秘的な音楽に酔う。美しい弦のアンサンブル、木管陣の柔らかな調べが極上だった。

続く、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番。代演で登場した奥井紫麻さんは初見の方で、17歳の若手である。プロフィールを見るとすでに国際的な経験も数多く積んでいるよう。薄空色のドレスに身を包んで登場し、17歳らしい初々しさはあるものの、とっても落ち着いているように見えた。演奏はとっても安定していて、清々しく、軽快。オケとのコンビネーションもばっちりで、モーツァルトの音楽の楽しさを最大限に味あわせてくれた。

後半のシューマンの交響曲2番は実演に接するのはきっと初めて。下野さんが振るシューマンは、昨年来N響で交響曲3番、4番を聴いていて好印象だったので、今回も期待大。そして、まさに熱量高い演奏で、興奮の30分だった。下野さんの指揮はシューマンの音楽の構造を丁寧に示してくれて聴きやすい。弦は聴き慣れているN響とも一味違ったダイナミックな熱演だったし、管楽器の音色も美しく、うっとり。ティンパニーの連打も効果的で印象深かった。

終演後は今日も多いとは言えない観衆(オペラシティ・シリーズは何故かお客さん少な目で勿体ないのである)から暖かく、盛大な拍手が寄せられ、私も負けじと拍手を送った。


東京オペラシティシリーズ 第123回
Tokyo Opera City Series No.123
東京オペラシティコンサートホール
2021年09月04日(土)14:00 開演

指揮:下野竜也
ピアノ:奥井 紫麻

フォーレ:組曲「ペレアスとメリザンド」
モーツァルト: ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488
シューマン:交響曲第2番 ハ長調 op.61


Tokyo Opera City Series No.123
Sat. 4th Sep 2021, 2:00 p.m.
Tokyo Opera City Concert Hall

Conductor : Tatsuya Shimono
Piano : Shio Okui

Fauré : Pelléas et Mélisande
Mozart : Piano Concerto No.23 in A major K.488
Schumann : Symphony No.2 in C major op.61

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ニコ・ニコルソン、佐藤眞一 『マンガ 認知症』 (ちくま新書,2020)

2021-09-01 07:30:38 | 


カウンセリングや心理学を実務家兼大学教員として生業にしている友人のお勧めで手に取った。

半分マンガ、半分文章による解説の構成となっている。「何度注意してもお米を大量に炊いてしまうのは何故?」、「家にいるのに「帰りたい」というのはなぜ?」、「排泄に失敗してしまうのはなぜ?」といった章立てで、認知症の事例を紹介しつつ、「本人がなぜこういう行動にでるのか?」という本人の心の仕組みを理解することを主眼とする。このアプローチをとることで、介護する人も少しでも楽になるという。

マンガが状況をよく捉えてとってもリアルで、かつユーモアにあふれるので、面白く分かりやすい。小学生から中学生までの数年間、認知症となった同居の祖母のケアに、家族全員が苦労した私個人の体験ともだぶって、こんなアプローチを当時知っていたら、もう少しは救われたかもと思った。
認知症自体の治療を説いたものではないが、知る、理解するということの大切さを強く教えてくれる一冊だ。

お勧めです。

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