その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

ヘビーな一冊: 湊かなえ『告白』(双葉社、2008)

2021-03-30 07:30:10 | 

単行本の発行は2008年だから10年以上前の作品。家人によると、かなり有名なミステリーとのことで、映画化もされている。確かに、読み始めたら止まらない。冷や汗流れ、背筋が寒くなる読書体験だった。

中学校のプールで水死した幼児の死を巡って、子どもの母親である女教師、犯人である二人の生徒、そして夫々の家族が絡んでいく。事件を通じて、人間の弱さや身勝手さ、愛が描かれる。

登場人物が皆、ギリギリのところに追い込まれていく。ストーリーの吸引力に感服する一方で、「嫌なところを突いてくるなあ~」とページをめくる手は、決して勢い良いものとはならなかった。怖いもの見たさ的に躊躇する気持ちとともに一気に読み進めた形である。そして幸せに終わる人はどこにもいない。

直樹の動機など一部腑に落ちない点もなくはない。でも、久しぶりに読んだヘビーなミステリーだった。得た教訓は、他人を理解した気になってはいけないということだ。人は他人の思惑や理解の及ばないところで考え行動する。そうした「学び」もあり、本書は「エンタメ小説」を越えている。映画も観てみたい。

 

 


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兼安 暁『イラスト&図解でわかるDX(デジタルトランスフォーメーション)』(彩流社、2019)

2021-03-26 07:30:03 | 

一見すると、「イラスト&図解でわかる」と言ったタイトルや「第1章 DXとは何か」で始まる章立ては、ビジネス実用書によくあるカテゴリー入門書のようだが、中身は入門書でも実用書でもない。

解説されるトピックスの射程が広く情報量が多いので、入門者は消化しきれない可能性がある。具体的なDX導入手法や活用方法が解説してあるわけではないので実用書でもない。一方で、単なるDXビジネスや技術の表層的な解説だけなく、そのDXの本質的な意味合いや対応策まで触れられているので、読者は読みながらじっくりと考えることも求められる。読みごたえ満載だが、なかなか向き合い方が難しい本である。「教養書」と思って読むのが良さそうだ。

個人的には、これから発展する産業としてスぺ―シャル・ウエブ(空間ウェブ)産業なるものが出現しつつあるという情報は新しかった。スぺ―シャル・ウェブとは、現実世界に仮想空間を重ね合わせることができる(ミラーワールド)サービス、プラットフォーム、コンテンツを提供する産業とのことだ。ふわっと宙に浮いたような話に聞こえなくもないが、米国のマジック・リープ社など具体的にプラットフォームを構想している企業や、プラットフォーム上でのアプリについては実験段階に入っている企業もあるという。

最後の2章(7、8章)は、筆者の思いを述べた章だが、エッジがたっていて興味深い。例えば、DXが変えた既存のゲーム・ルールとして、1)資金調達の方法が変わった、2)すべては無料になっていく、3)日本を市場としていたら生き残れない、4)雇用の終焉が触れられている。私の勤め先や産業にとって、DXで変わったルール、これから変わるかもしれないルールってなんだろうと考えた。

個人に対するキャリアのアドイスもユニークだ。1)好きを追求する、2)できると信じる、3)様々な経験をする、4)空想力を豊かにする、5)不労所得を踏み出す方法を追求する、の5点。やや抽象的すぎるのと、シリコンバレーの匂いが強いので日本人の心性に合うかどうかは疑問なところはある。だが、このアンマッチが日本のDXの遅れの原因ともい言えるだろう。

一貫した筆者の主張は、DXが指数関数的な変化を生み、既存のビジネス・産業を淘汰していく。企業も個人もその波にしっかり乗って、変わっていかなくては滅びるよ、ということだ。目新しい主張ではないが、本書の幅広い事例に触れることで、よりリアリティを持って変化が感じ取れる。事例の深みには欲求不満も残るところもあるが、自分のDXについての認識枠組みが一回り大きくできた一冊だった。

【目次】

第1章 DXとは何か
第2章 デジタル技術が生み出したビジネスモデル
第3章 今後、注目すべき基盤テクノロジー
第4章 ディストラプトされる産業
第5章 これから発展する産業
第6章 変化の本質
第7章 個人・個人のDX生き残り策


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映画《最高の人生の見つけ方》監督:ロブ・ライナー、2007年

2021-03-21 07:30:22 | 映画

余命半年と宣告されたら、残された期間に自分は何をするのだろうか?自分のバケットリスト(「死ぬまでにやりたいリスト」、映画での訳は「棺桶リスト」)には何を入れるだろうか?本編を観ると、きっと誰もが考えさせられる問いだろう。

病院で相部屋となった二人の癌患者がバケットリストをもとに、残された時間を一緒に世界を旅し、最高の人生ラストステージを過ごす物語。途中には、夫々の過去や価値観の違いからの衝突も起こるが、最高の友となって人生の終幕を迎える。珍しさはない展開かもしれないが、よっぽどの天邪鬼でなければ、人生の価値についてしんみり考える良い機会になる。優れたヒューマンドラマだ。

主役の大物俳優ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンの二人の存在感が抜群である。ありがちなお涙頂戴映画になってないのはこの二人に負うところが大きい。老人になっても残る男の子供っぽさと、人生の歩みで刻んできた年輪の重みの両方が如何なく表現されている。名優というはこういうものだなと感じ入る。

さて、ペンを持って自分のバケットリストを作ってみようか。

 

監督       ロブ・ライナー

出演       ジャック・ニコルソン, モーガン・フリーマン, ショーン・ヘイズ


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関係者の努力が滲む公演 新国立オペラ ワーグナー〈ワルキューレ〉/指揮 大野和士

2021-03-15 07:30:02 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

2月中旬に指揮者が飯守さんから大野さんへ変更、主要キャストも総入れ替え(ヴォータンを除いて外国人から日本人に)、ジークムントにいたっては未定で、3月頭に日本人歌手二人による代替えが発表された。コロナ禍でもあり致し方ないし、裏での劇場関係者の努力は想像に余りある。とは言っても、ワーグナーの4時間を超えるオペラが急場しのぎで演じられるのかと心配半分、火事場のバカ力が発揮されるのではと期待半分で、初日に新国立劇場へでかけた。

結果としては、各出演者の緊張感が伺われる熱量高い公演で、関係者の頑張りが賞賛される内容だった。歌手陣では、ジークリンデを代役で演じた小林厚子さん、ブリュンヒルデの池田香織さんの演技、歌唱の好演が印象的だった。また、フリッカ役の藤村実穂子さんはキャラの強さが際立っていて、舞台に確固たるアクセントをつけていた。

ジークムントは1幕が村上敏明さん、2幕は秋谷直之さんが演じたが、秋谷さんは声量・声質ともに聴きごたえたっぷりで、急な代役とは思えない安定感だった。1幕は、クラウス・フロリアン・フォークト、ロバート・ディーン・スミス、サイモン・オニールなどの名だたる歌手を演奏会方式で聴いているだけに、比較してはいけないのだろうけど、物足りない感じは残った。

ピットに入った東響は、金管に首を傾げる時が幾つかあったが、大野さんの厳格なリードの元、メリハリと緩急ある演奏で、ワーグナーのスケール感ある音楽を堪能させてくれた。

ゲッツ・フリードリヒさんの演出は、1,2幕は舞台上に斜めに設置した大きな赤いボードが場の中心として展開し、空間の広がりが表現されていた。3幕は一転雰囲気変わって、クラブの床のようなピカピカしたモダンなステージで戸惑ったが、ラストシーンのブリュンヒルデが山中で火に囲われるシーンを見て、こういう落ちなのかと得心がいった。特に不満はないが、個人的な好みとは言い難ったのは事実。

全体的には、ワーグナーの世界にたっぷりと浸れる公演で十分に楽しめた。準備期間も短かったことが想像されるので、これから回を重ねると更に質が高まっていくだろう。

2020/2021シーズン
楽劇「ニーベルングの指環」第1日
『ワルキューレ』/リヒャルト・ワーグナー

"Der Ring des Nibelungen" Erster Tag 
Die Walküre / Richard WAGNER

全3幕〈ドイツ語上演/日本語及び英語字幕付〉

2021年4月11日
オペラパレス
予定上演時間:約5時間10分(第Ⅰ幕65分 休憩40分 第Ⅱ幕95分 休憩35分 第Ⅲ幕75分)

スタッフ

指揮:大野和士
演出:ゲッツ・フリードリヒ
美術・衣裳:ゴットフリート・ピルツ
照明:キンモ・ルスケラ

キャスト

ジークムント:(第1幕)村上敏明ジークムント(第2幕)秋谷直之
フンディング:長谷川 顯
ヴォータン:ミヒャエル・クプファー=ラデツキー
ジークリンデ:小林厚子
ブリュンヒルデ:池田香織
フリッカ:藤村実穂子
ゲルヒルデ:佐藤路子
オルトリンデ:増田のり子
ヴァルトラウテ:増田弥生
シュヴェルトライテ:中島郁子
ヘルムヴィーゲ:平井香織
ジークルーネ:小泉詠子
グリムゲルデ:金子美香
ロスヴァイセ:田村由貴絵

管弦楽:東京交響楽団

 

2020/2021 SEASON

Music by Richard WAGNER
Music Drama in 3 Acts
Sung in German with English and Japanese surtitles

OPERA PALACE

A Production of the Finnish National Opera
Cooperation: Richard-Wagner-Gesellshaft Japan

CREATIVE TEAM

Conductor: ONO Kazushi (March 11, 14, 17, 20) / JOYA Masahiro (March 23)
Production: Götz FRIEDRICH
Set and Costume Design: Gottfried PILZ
Lighting Design: Kimmo RUSKELA

CAST

Siegmund: MURAKAMI Toshiaki (Act 1), AKITANI Naoyuki (Act 2)
Hunding: HASEGAWA Akira
Wotan: Michael KUPFER-RADECKY
Sieglinde: KOBAYASHI Atsuko
Brünnhilde: IKEDA Kaori
Fricka: FUJIMURA Mihoko
Gerhilde: SATO Michiko
Ortlinde: MASUDA Noriko
Waltraute: MASUDA Yayoi
Schwertleite: NAKAJIMA Ikuko
Helmwige: HIRAI Kaori
Siegrune: KOIZUMI Eiko
Grimgerde: KANEKO Mika
Rossweisse: TAMURA Yukie

Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra


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これは超お勧め! 『キンキーブーツ』 松竹ブロードウェイシネマ

2021-03-12 07:30:36 | 映画

イギリスの田舎町で代々続いた家族経営の紳士靴工場が舞台。父の急死で急きょ、社長を継いだ若社長が経営危機で工場閉鎖やむなしに追い込まれる中、ロンドンでのゲイとの出会いをきっかけに、女装趣味男性向きブーツの開発・製造で起死回生の一手を打つというお話。サクセスストーリーというよりも、LGBTQといった自分らしさの発揮という真面目なメッセージが織り込まれている。

ミュージカル版は全曲シンディー・ローパーの作曲ということで一度是非観てみたかった。今回、ブロードウエイのライブ映像を上映するとの情報を得て、二子玉川まで遠征した。

いやー、本当に楽しく、元気がでるミュージカルである。歌よし、役者よし、舞台よし、テンポよし、笑いありで非の打ち所がない、良い意味で完璧に計算されたエンターテイメント。2時間15分があっという間に過ぎてしまった。

主役のローラ役マット・ヘンリーの演技、歌、踊りが素晴らしい。ローラのキャラと組み合わさって、スクリーンからあふれんばかりのオーラだ。ぐいぐい引きつけられる。

私がとりわけ好みだったのは、ローラの女装趣味男性友達たちの踊りや振る舞い。実に、美しいし、身のこなしが洗練されている。映像の良さで、ダンスの時にも(劇場ではおそらくそこまで見えないであろう)指先までもその表現が楽しめる。ため息が出るほどだ。

歌はどれもノリノリで、体が自然に動きだすような音楽ばかり。当たり前だが、その出演者の歌唱も良くて、こりゃあ劇場に居たら凄い盛り上がり間違いなしだ。時折映し出される劇場の観衆たちが羨ましい。ブロードウエイかウエストエンド行きたいなあ~

ミュージカル入門者にも抵抗感なく入れる作品であること間違いないので、万人に自信をもってお勧めしたい。これ見てつまらんと思う人は、きっとLGBTQを「生産性が低い」とか放言する一部の自民党議員ぐらいだろう。

 

【キャスト】

ローラ役:マット・ヘンリー
チャーリー・プライス役:キリアン・ドネリー
ローレン役:ナタリー・マックイーン
ドン役:ショーン・ニーダム
ニコラ役:コーデリア・ファーンワース
ジョージ役:アントニー・リード

【制作】

■脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
■音楽/作詞:シンディ・ローパー
■演出/振付:ジェリー・ミッチェル
■セットデザイン:デイヴィッド・ロックウェル
■衣装デザイン:グレッグ・バーンズ
■照明デザイン:ケネス・ポズナー
■音響デザイン:ジョン・シヴァース
■ヘアデザイン:ジョシュ・マルケット
■プロデューサー(舞台版):ダリル・ロス ハル・ルフティグ
■監督(シネマ版):ブレット・サリヴァン
■プロデューサー(シネマ版):ダリル・ロス ハル・ルフティグ オースティン・ショウ
■エグゼクティブ・プロデューサー (BroadwayHD):スチュアート・レーン&ボニー・カムリー


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ジャレド・ダイアモンド、 ポール・クルーグマン 他著、大野和基 編『コロナ後の世界』(文春新書、2020)

2021-03-09 07:30:23 | 

国際的に著名な識者たちが、コロナ禍が与えた社会・経済・人に対する影響、そして今後の未来について語った一冊。インタビューのまとめ本なので、平易で分かりやすい反面、読者に深い思考を求めるつくりではない。また、本書はコロナ前に企画されていたようで、「コロナ後の世界」という本のタイトルとは違って、自説の紹介が中心の人もいる。

いわゆる欧米識者の見方を知識として広く浅く知るには良い。だが、この問題はまさに世界的な視野で考える必要があるので、本書のスコープ外ではあるが、非西欧の価値観でこの現実はどう分析できるのかを知りたくなる。

備忘も兼ねて、つまみ食い的に、各論者の主な主張をまとめると以下の通り。

ジャレド・ダイヤモンド:

人口減、高齢化、不景気の日本を救うのは、定年制の廃止、移民の受け入れ、女性の開放。更に重要なのは隣国、中国・韓国との関係改善。次の世代のために、我々は「投票」を通じて政治をまともなものしていくことが大切。

マックス・テグマーク:

パンデミックとの戦いは情報戦であり、AIによる接触履歴の取得・分析への活用や、ワクチンや新薬開発への応用が可能となる。一方で、AIと軍事の組み合わせは大きなリスクとなる。また、世界の経済的格差を広げる可能性もある。

人間の知能を超える「汎用型」AIは1回の失敗が核戦争を引き起こすなどの惨事を招くなる可能性もあり、安全工学や危機管理が大切。ポジティブなビジョン、お互いの国境を尊重し、多くのいいアイディアを共有できるグローバルな協定を作るなどにより、AIを素晴らしいテクノロジーにしていく必要がある。

リンダ・グラットン:

ロック・ダウンにより、デジタル・スキルの向上や新しい生活様式が広まるというメリットもあった。今の平均寿命が延びるこれからの世の中では、スキル、人間関係と言った「生産性資産」、肉体的・精神的な健康などの「活力資産」、様々な環境変化に対応する「変身資産」の3つの無形資産が大切になる。更にポストコロナ時代には、透明性、共同創造、忍耐力、平静さの四要素が大切となってくる。長寿化により、家庭の在り方も変わり、女性の社会新進出は必至。日本はその点、古い価値観に囚われており男性と企業は意識改革が必要である。

スティーブン・ピンカー:

新型コロナにより世界は悪くなり、未来は暗いという認識が広まっている。これらの背景には、ネガティブなニュースばかりを流すジャナーリズム、データの理解不足、インターネットのフィルターバブルらがある。データを理解することで人間が落ち入りやすい「認知バイアス」を回避しなくてはいけない。人間は科学や理性を大切にして、危機を乗り越え進歩をしてきた。これからも楽観主義にたって立って生きていくべきである。

スコット・ギャロウェイ:

キャッシュを貯めこんでいたGAFAがコロナ禍で益々攻勢を強めている。公共サービス化し、独占的な市場支配力を強め、新興企業の市場開拓余地やイノベーションを狭めている。更に「怒り」による「つながり」で社会の分断も引き越している。政府の規制が強まるだろうが、決定打にはなりにくい。GAFAと中国のIT企業の2強の世界となっていくことが予想されるが、我々はGAFAに頼った社会・生活について今一度見直し、用心深くなる必要がある。

ポール・クルーグマン:

コロナ禍による景気後退で、一時的な経済のこん睡状態に陥っている。迷わず、各国の中央銀行は強力な金融緩和策(バズーカ砲)を打つべき。コロナについては、経済活動再開よりも、まずは国際協力体制を築いて封じ込めるのが大切。コロナが終息してもリセッションは続き、経済の回復は時間がかかるだろう。日本はアベノミクスと消費税増税と言いう矛盾した経済政策で失敗したが、新型コロナ対策では大胆な財政支出を決断する必要がある。


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両@リベ大学長『本当の自由を手に入れるお金の大学』 (朝日新聞社出版、2020)

2021-03-06 07:30:00 | 

著者のYouTubeチャネル「リベラルアーツ大学(通称:リベ大)」を遅ればせながら今年1月から視聴しはじめた。YouTubeはアクセス数狙いのYouTuberのマイナスイメージが強かったので、距離を置いていたのだが、「リベ大」で見方が大きく変わった。

「リベ大」では、お金への向き合い方をベースに、テーマは仕事論、人生論にまで及び、人が資本主義社会で生きていくうえで絶対に必要なのに、学校では殆ど教えない知識・スキルを分かりやすく説明してくれる。「こんな優良コンテンツが無料で聞けるのか~」と目から鱗が取れる感覚だった。本書はその「リベ大」のノウハウ、エッセンスをイラスト一杯の書籍にまとめたものだ。

本書のお勧めポイントをいくつか紹介すると・・・。

お金にまつわる力を、「貯める」「稼ぐ」「増やす」「守る」「使う」の5つの力で説明する。個別に「貯める」を解説する本、「稼ぐ」を説く本、「増やす」を教える本はたくさんあるが、これらの力を全体像で示すものは見たことが無い。まさにお金のライフサイクルマネジメントだ。このフレームワークを学ぶことで、お金と向きあう基本的姿勢が身につく。

個人的には、本書ではページはあまり割かれていないが、お金を「使う力」も有意義な人生を送るためにとっても大切な「力」であることを気づかせてくれたことは感謝だ。

また、それぞれ5つの力として説明される考え方・ノウハウは基本的だが重要なものばかり。本質が解説されると言える。

例えば、保険。保険とは、自分の人生のリスクを金銭的にどうコントロールするかということ。リスクが発生する確率(高い・低い)と発生した際の損失の大きさ(大・小)で作るマトリックスのセグメントごとに対処法が異なっていて、保険は「発生する確率は低いが、損失が大きい」セグメントに備えるものであるべきである。その視点で考えると必要な民間保険は、火災保険、対人・対物の自動車保険、掛け捨ての死亡保険の3つであり、あとは健康保険などの公的制度を最大限活用し、浮いた掛け金は貯金・投資する方が良い。言われてみれば、当たり前のことなのだが、今の自分は終身型生命保険、ガン保険、介護共済、地震保険・・・大した勉強もせずいくつの保険に入っているのだろう~。

本書ではあまり触れられていないのがとっても残念なので、YouTubeを視聴してほしいのだが、著者が常に強調しているのは「人生における目的や価値観」だ。同じインデックス・ファンドに投資するにしても、その目的が違えば、その対処方法(投資の仕方・量や回収の仕方などなど)は全然違ってくる。お金に向き合うことということは、自分・人生に向き合うことなのである。

個人的には、本書は辞書、ガイドブック的に一家に一冊必携。併せてYouTubeの視聴を是非お勧めしたい。


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寅さんの故郷を訪れる 葛飾柴又/帝釈天

2021-03-02 07:30:15 | 日記 (2012.8~)

葛飾柴又近くを訪れる用があったので、用を済ませた後、寅さん縁の地を散策した。30年ぶりぐらい、2回目の訪問だ。

寅さんファンなら一度は訪れる柴又。見どころは多いが、帝釈天の参道、帝釈天、江戸川の土手散歩は外せない。

参道は観光地化された感じもするが下町情緒を残していて、お店を覗いてのそぞろ歩きが楽しい。緊急事態宣言中とは思えない賑いだ。普段はもっとすごい人出なのだろう。昭和の駄菓子屋を彷彿させる店に入ると、駄菓子の棚や昔のおもちゃが所狭しと並んでいる。奥には現役のピンボール・マシンが置いてあり歓喜。参道に戻って、やっぱり草団子をということで、食べようとするが、おいちゃん・おばちゃんのとらやのような団子屋さんがいくつかあって、店選びに迷う。草団子を買って、ベンチに腰かけ食す団子が草っぽくて美味しいこと。

映画で感じるイメージよりも短い参道の終点には帝釈天がある。寅さんが産湯をつかったお寺だ。境内はさほど大きくはないが、笠智衆の御前様が鐘を突き、佐藤蛾次郎の源ちゃんが掃除をしている場所かと思うと感慨深い。ひょっこり現れるではないかと探してしまう。

「男はつらいよ」では出てきた記憶は無いのだが、敷地の右奥の入口から、帝釈天の大庭園と帝釈堂彫刻ギャラリーが鑑賞できる(入園料400円)。大庭園は渡り廊下を巡りながら様々な角度で整った日本庭園が眺められる。参道や境内の賑やかさはどこに行ってしまったのかと思うほど、静かで落ち着いた空間だ。そして、隣接する帝釈堂彫刻ギャラリーは圧巻。大正時代から昭和初期に作成されたもので、法華経の説話の諸エピソードが彫り込んである。その見事さに見とれてしまう。帝釈天に来たら、ここは外さない方が良い。

 

お寺を出て、寅さんがよく日向ぼっこしている江戸川の土手に出る。土手の手前には、葛飾柴又寅さん記念館・山田洋次ミュージアムや大正・昭和初期の旧邸である山本邸などの観光スポットもある。今回は時間の関係で残念ながら素通りし、江戸川の土手の散歩に時間を使った。さくらが自転車で通ったり、寅さんが昼寝するシーンを回想しつつ、映画のロケにはぴったりのような春を感じる日差しの中、白球を追いかけるユニホーム姿の少年たちを眺め、映画そのままの雰囲気を楽しんだ。

2時間ちょっとのプチ観光であったが、フルコースなら丸1日楽しくのんびりとした時間を過ごすことができるだろう。寅さんファンは是非とも。

2021年2月20日

コメント (2)
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