その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

雅なエロ小説・・・髙樹のぶ子『小説伊勢物語 業平』 (日本経済新聞出版)

2020-09-29 07:30:00 | 

いつもの私の読書嗜好とは異なった小説で、色んな意味で新鮮で楽しい読書体験だった。「伊勢物語」の125の章段を作者が独自に取捨選択し物語化したもの。

まず驚いたのは、伊勢物語がこんなエロ小説だったとは全く知らなかった。業平が容姿端麗な色男だったことは知っていたけど、物語として読んだのは、受験期の古文の勉強で「東下り」の章段に少々触れた程度で、実際に原文も訳も通して読んだことは無い。今とは風習・常識も違うとはいえ、年上の人妻、斎王(さいおう)となった人(伊勢神宮に巫女として奉仕した未婚の内親王)、皇紀になる姫らと次々と交わっていく女性遍歴の描写は実にエロい。性描写もさることながら、その過程の男女の駆け引きは、固唾を飲むような情景描写だった。朝の通勤電車で読んでいて、一人で恥ずかしがっていた。

また何よりも、日本語が美しい。季節、風景、心情の表現が一つ一つ味わい深い。例えば、

「世に憂きこと無ければ、桜花のうつくしさもまた、他の花と何も変わりませぬ。憂きこと在ればこそ、桜花は薄い色に透けて、淡い光の中にても、花弁に神仏を宿らせます。」というような表現は、頭の中にイメージがほわっと広がる。

そして、気持ちは口頭で直接的に表現したり、訴えるのではなく、和歌をもって表せられる雅さ。和歌から発せられる、流れるようなリズム感と豊かな情感は、日本語の美しさ、奥深さに初めて触れたような気がした。

客観的に考えれば、業平やその社交範囲は、当時の日本の上流階級中の上流階級で、その文化は限られたコミュニティでの限られたものであったと思うのだが、自然を愛でる感性は私のような現代を生きる一般日本人にも脈々と残っているのだろう。

実り多い秋の読書となった。


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NHK交響楽団 9⽉公演 東京芸術劇場

2020-09-26 15:50:05 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

朝から草野球+飲み会の後のため完睡。ごめんなさい。

 

NHK交響楽団 9⽉公演 東京芸術劇場
2020年9月19日(土)2:00pm
東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:広上淳一
ヴァイオリン:白井 圭(N響ゲスト・コンサートマスター)*

ウェーベルン(シュウォーツ編)/緩徐楽章(弦楽合奏版)
シュトラウス/歌劇「カプリッチョ」― 六重奏(弦楽合奏版)
シュトラウス/組曲「町人貴族」作品60*

NHK Symphony Orchestra September Concerts at Tokyo Metropolitan Theatre

Saturday, September 19, 2020 2:00p.m.
Tokyo Metropolitan Theatre 

Junichi Hirokami, conductor
Kei Shirai (Guest Concertmaster of NHKSO), violin*

What's New: Conductors and a program to be changed
(NHK Symphony Orchestra September Concerts at
NHK Hall & Tokyo Metropolitan Theatre)


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N響 9⽉公演、下野竜也 指揮、シューマン 交響曲 第4番ほか

2020-09-26 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

2月16日の演奏会(パーヴォ/ブルックナー交響曲第7番ほか)以来、7カ月ぶりのN響コンサートである。当時、まさか次が9月になるなんて全く想像できなかった。決して私のホームグランドとは呼べないサントリーホールだが、ホール内に入ったときは不思議に胸が熱くなった。

下野さんとN響の3曲、1時間ちょっとのショート・コンサートである。観客も座席を一つおきに空けての着席なので、満員時の半分以下だ。それでも、普段ない、奏者入場とともに起こった大きな拍手は、苦境を耐えてきた奏者たちへの敬意・労いとこの場にいる観衆自身の嬉しさが表れたものだった。

1曲目はシューマン「4本のホルンのための小協奏曲」。N響ホルン隊の名手たちが美しいハーモニーを奏でる。うっとりとする美しいアンサンブルに、不本意ながらそのままあちらの世界に行ってしまった。実に勿体ない、悔しい。

2曲目のコダーイの「ミゼレーレ」も綺麗な和音を味わえる曲だった。そして、休憩ないまま、シューマンの交響曲第4番。下野さんの端正かつ熱い指揮とN響の精緻なアンサンブルが絶妙に組み合わさった名演だった。聴き込んである曲でないが、耳に馴染みやすいメロディがとても心地よい。

今回はLAエリアでオケの斜め後方からの鑑賞だった。ステージに手が届く様な距離なので、N響の発する音がダイレクトに体にぶつかってくる。何という快感だろう。全身で音楽を受け止めるこの感覚は、どんなにお金をかけたオーディオルームでも味わえまい。これこそ生の音楽を現場で聴く醍醐味だ。きっと、観衆の皆もそう思っているに違いない。終演後の拍手は、とても観客数を半数以下に抑えているとは思えない、大きく、暖かい拍手だった。

この日を皮切りに「演奏会のある日常」が戻ってくるのだろうか?心の底から、それを願ってホールを後にした。

 

NHK交響楽団 9⽉公演 サントリーホール
2020年9月24日(木)7:00pm
サントリーホール 

指揮:下野竜也
ホルン:N響ホルン・セクション
(福川伸陽、今井仁志、勝俣 泰、石山直城)

シューマン/4本のホルンのための小協奏曲 ヘ長調 作品86
コダーイ(下野竜也編)/ミゼレーレ
シューマン/交響曲 第4番 ニ短調 作品120

NHK Symphony Orchestra September Concerts at Suntory Hall
Thursday, September 24, 2020 7:00p.m.
Suntory Hall 

Tatsuya Shimono, conductor
Horn Section of NHKSO, horns

Nobuaki Fukukawa
Hitoshi Imai
Yasushi Katsumata
Naoki Ishiyama

Schumann / Konzertstück for 4 Horns F Major Op. 86
Kodály (Shimono) / Miserere
Schumann / Symphony No. 4 D Minor Op. 120


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エリック・シュミット, ジョナサン・ローゼンバーグ著『1兆ドルコーチ』ダイヤモンド社、2019年

2020-09-23 07:30:00 | 

 アマゾンのビジネス書ジャンルで人気があったので読んでみた。シリコンバレーの伝説のコーチと言われたビル・キャンベル氏の教えを氏のエピソードとともにまとめた一冊である。あのスティーブ・ジョブスやエリック・シュミットらシリコンバレーのそうそうたる起業家・経営者たちのコーチとしてアドバイスを送り、信頼されていた人である。恥ずかしながら私は知らなかった。

 目から鱗という類のアドバイスが書かれているわけではない。どこかのリーダーシップ論にもきっと書いてあるだろうと思われるアドバイスも多い。ただ、実在した人のエピソードとして書かれていると、より親近感やリアリティが湧く。

 ビル・キャンベル氏はもともとコロンビア大学のアメフトのヘッドコーチを務めるなど、スポーツコーチ出身の人だ。だが、スポーツのコーチ・監督の思考や行動は、普段の仕事でのリーダーシップやマネジメントを考える上で、とっても参考になることが多い。スポーツは一定のルールの元で勝つということを目的に存在するチーム・選手が前提なので、実ビジネスの世界ほど複雑系ではない。そのため、よりストレートに分かりやすく教訓が得られるのだ(逆に、単純にビジネスや職場に当てはめることは出来ないこともあるが・・・)。

キャンベル氏の教えの特徴は、徹底的な人間性主義、チーム主義にあることだろう。アメリカのリーダーシップ論としては珍しいほどに、謙虚、信頼や愛といった価値観が語られる。一読に値するコーチ論、リーダーシップ論だと思う。どちらかと言えばウエット系の私の嗜好にもあう。広くビジネスパーソンに一度読んで欲しい一冊である。

 

【目次】
1 ビルならどうするか?-シリコンバレーを築いた「コーチ」の教え
2 マネジャーは肩書きがつくる。リーダーは人がつくるー「人がすべて」という原則
3 「信頼」の非凡な影響力ー「心理的安全性」が潜在能力を引き出す
4 チーム・ファーストーチームを最適化すれば問題は解決する
5 パワー・オブ・ラブービジネスに愛を持ち込め
6 ものさしー成功を測る尺度は何か?


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久しぶりの軽井沢

2020-09-21 07:32:21 | 旅行 日本
 20年ぶりぐらいに軽井沢に行ってきた。以前は、ご縁があって破格の安さで泊めて頂ける宿があったので、ほぼ毎年、GWや夏休みに長期滞在していたのだが、その宿がなくなって以来、足が遠のいていた。
 秋の四連休ということで、町は人と車であふれかえってたので、ホテルでビールと読書に専念した。私としては珍しいリゾートホテルの宿泊で、とっても贅沢な気分。





唯一の外出は早朝のジョギング。靄の籠る軽井沢は昼間の喧騒が嘘のようである。年月をほとんど感じさせない街並みや風景が嬉しかった。








やっぱり軽井沢は良いところであることを再認識。

9月21日

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東京の「坂」特集(東京・早朝寺社巡りラン 付録)

2020-09-19 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

東京に坂が多いことは自明だが、今回、お茶の水、上野界隈の早朝ランで、改めて色んな坂があるものだと実感した。

水道橋のホテルを出て、駿河台の台地を上る。駿河台は、もう何十年も前だが某予備校に1年間通ったのでそれなりに知っているはずなのだが、こんなところに階段があったなんて知らなかった。途中で踊り場があって緩やかな「女坂」ともっと急な「男坂」がある。


〈女坂〉


〈男坂 確かにこっちのが急勾配である〉

お茶の水の駅前の交差点を通過する際に、設置されていた観光板を読んで驚いた。お茶の水駅の北側には神田川が流れ、深い谷のようになっているが、「古くは北側の本郷台(湯島台)と南側の駿河台が一続きで「神田山」と呼ばれていたが、2代将軍徳川秀忠の時代に、水害防止用の神田川放水路と江戸城の外堀を兼ねて東西方向に掘割が作られ、現在のような渓谷風の地形が形成された」(Wikiより)とのことである。この谷間は人手でつくられたものだったのか・・・


〈この地形は人工的なものだったとは・・・〉

その本郷台(湯島台)の上に神田明神は建っているが、ここにも「(明神)男坂」と「(明神)女坂」があった。続いて訪れた湯島天神もやっぱり高台に位置している。ここも「男坂」と「女坂」。こんな半径2-3kの中に何個の「男坂」と「女坂」があるのだろう。


〈神田明神の東側〉


〈湯島天神の横の男坂〉


〈湯島天神横の女坂〉

根津神社の脇にはエス坂という奇妙な名前の坂があった(写真は撮ってない)。この近辺に住んでいた森鴎外がこの坂を小説『青年』で描いており、その小説にちなんでS坂と呼ばれるとのこと。さらに進み、東大に向かうところにも素適な名前の坂が。「異人坂」と言って、昔、坂上に東大のお雇い外国人教師の官舎があったらしい。日本の医学の発展に貢献したドイツ人ベルツも住んでいたという。


〈異人坂〉

お茶の水近辺に戻って改めて気をつけて見ると、周りは坂だらけだった。もう一つ一つ写真撮るのも面倒くさくなったので止めてしまったが、印象に残ったのをあと一つだけ。「幽霊坂」。「坂の両側は大木が繁って、人通りも少なく、淋しい道であったので、俗に幽霊坂と呼ばれました。」とのことである。


〈幽霊坂〉

東京の町としての歴史は400年程度だが、土地には様々な歴史が刻み込まれている。こんな楽しい観光ランニングができるところはあまりない。


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東京・早朝寺社巡りラン(水道橋→ニコライ堂→神田明神→湯島天神→根津神社→水道橋)

2020-09-15 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

 お盆時にソロGo Around Tokyoなるものを企画し、水道橋駅近くのホテルに宿泊した。その際、早朝東京寺社巡りランなるものをやってみた。

 6時すぎに、水道橋を出発。駿河台の坂を上って、お茶の水駅側のニコライ堂を外から見学。そこから聖橋を渡って、湯島聖堂を右手に見ながら、神田明神に向かう。


〈ニコライ堂〉


〈聖橋から〉

 

 神田明神には、昔は職場の商売繁盛祈願で毎年仕事始めの日訪れていたのだが、いつの間にかそんな会社の風習は無くなってしまったので、久しぶり。丁度、朝のラジオ体操の時間で、地域の人が集まっていた。


〈神田明神 隨神門〉

 


〈ご神殿前でのラジオ体操〉

 

つづいて、神田明神から湯島天神へ。湯島天神は実は全く初めてで、想像よりこじんまりとしたものだった。ただ、落ち着いた風情は、個人的にとても気に入った。



〈表鳥居(東京都指定有形文化財) 寛文7年(1667)同8年の刻銘がある〉

 

 湯島天神の次は、根津神社を目指す。途中、上野の不忍池の畔を走るが、水面一面に生える蓮の葉や所々に咲いている花の風景が、日本離れした珍しいものに感じられる。


〈不忍池〉

 

根津神社は学生の頃に彼女と名物のつつじを見に来て以来だ。広く落ち着いた境内が良い。ラジオ体操上がりの母親連れられた子供たちが境内で遊んでいる姿も微笑ましい。

 


〈楼門 国の重要文化財〉

 


〈社殿も国の重要文化財〉

 


〈千本鳥居〉

 

復路では、途中、東大のキャンパス横に沿って走りながら、水道橋駅まで戻った。手元のフィトネストラッカーによると丁度10KGoogle Mapでは8k強)。東京ならではの坂も多く(坂については別記事で紹介したい)ランとしても面白いし、東京の歴史・風情を感じながら走れるとっても楽しいコースだった。


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ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 @国立西洋美術館

2020-09-12 07:30:00 | 美術展(2012.8~)

 新型コロナウイルスの対応で会期が変更されたロンドン・ナショナル・ギャラリー展に行ってきました。春には展覧会そのものの中止を覚悟していただけに、本当にうれしい開催です。まずは、関係者の方々に大感謝。

 個人的にナショナルギャラリーは、ロンドン駐在時に通勤ルート上にあったし、入場無料(訪問による寄付受付はあり)かつ金曜日は夜9時まで開館していたこともあって、何度も足を運んだので思い出がいっぱい詰まっています。なので、この東京出張美術展は何よりも楽しみにしていました。

  どの作品も初来日と言う、ルネッサンスから印象派に至るまでの作品60余りが展示されています。時間指定制のためか、コロナで外出を控えている方が多いためか、理由は分かりませんが、金曜用夕刻の時間帯はゆっくり、ゆったりと思い思いに鑑賞できる素晴らしい環境でした。

  入場すると最初にルネサンス絵画のコーナーが。クリヴェッリ《聖エミディウスを伴う受胎告知》を始め、力作が並びます。ここの10枚程度でも、もう満足と思うぐらい。オランダ絵画のコーナーのレンブラントの自画像も久しぶりの再会です。レンブラントのたくさんの自画像の中でも、この絶頂期の自身を描いた1枚はひときわ自信にあふれていて力強い。また、ターナーの《ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス》も久しぶりでしたが、日本語の解説を読んで、以前は見過ごしていた細部にも目が届き、こんなものがこんなところに描かれていたのかと感心。ナショナルギャラリーでも私の大好きなイギリス風景画家のコンスタブルの絵も1枚「レイノルズの墓標」があったのも嬉しかった。そして、最後には、ゴッホの「ひまわり」が。ナショナルギャラリーの中に居ると、あまりにも傑作が多すぎて、「ひまわり」でさえあまり目立たたないのですが、今回はじっくり鑑賞でき、その絵具使いや迫力を堪能しました。

 あえて言うと、60数枚でルネッサンス以降の西洋美術史を概観するということで精選はされているのでしょうが、つまみ食い的な印象は残ります。もう少しテーマを絞って、集中的に深く見せる展示もあるのかなと思いましたが、幅広くエッセンスを楽しんでもらうという点では、こうした展示の方が良いのかもしれません。

 足しげく通った身からすると、「まだまだ、ナショナルギャラリーこんなもんじゃないよ」という思いはありますが、こうしてロンドンにある美術品を鑑賞できるだけでも素晴らしい。このコロナ騒ぎ何時になったら安定するのか、また今度ナショナルギャラリーに行けるのは何時なのか、といった思いが錯綜しながら、美術館を後にしました。

〈構成〉
第1章 イタリア・ルネサンス絵画 の収集
第2章 オランダ絵画の黄金時代
第3章 ヴァン・ダイクと イギリス肖像画
第4章 グランド・ツアー
第5章 スペイン絵画の発見
第6章 風景画とピクチャレスク
第7章 イギリスにおける フランス近代美術受容


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劉 慈欣 (著),大森 望 (訳)ほか 『三体』(早川書房、2019)

2020-09-09 07:30:00 | 

読書好きの友人のお勧めで読んでみた。「三体運動」を題材に、人類と地球外生命体との接触を描いたスケールの大きな中国発のSF小説。アマゾンによると「アジア圏の作品として初のヒューゴー賞長篇部門に輝いた、現代中国最大のヒット作」とのことである。図書館でリクエストしたのだが、廻って来るのに半年かかったので、日本でも相当の人気のようである。

最近こうした宇宙スケールで物事を考えたりしたことが無かったので、新鮮で刺激的な一冊だった。私自身、毎日毎日、様々な自然、社会、人間環境等に影響を受けて生きているが、宇宙の時空の中では、塵にすらならない小さなことである。本小説の題材やストーリーには直接は関係しないものの、自分自身の「存在」について振り返えさせられる。

中国の文革期を出発点とし現代ではあるが時代設定不明な舞台設定、各登場人物の強い個性、ストーリー展開の巧みさ、物理学・宇宙学の応用、人類社会への問題提起等、エンターテイメントだけでなく知的な好奇心も刺激される。読者によって色んな読み方ができるだろう。

ただ、物理学の知識・理解が欠落している自分に果たしてどこまで本書の理論的なところが理解できているのかは全くもって自信がない(というか分かってないと思う)。なので、どこまで本書の科学的記載が正確なのかがわからない。

原作の単行本発刊が2008年。英語版が2014年に出て、2015年にヒューゴー賞を受賞し、日本語訳の出版は昨年の2019年である。ユヴァル・ノア・ハラリ氏の『サピエンス全史』、『ホモ・デウス』を読んだ際も、原著から英訳を経て日本語訳に辿り着くまで数年かかっているのにかなりがっかりしたのだが、本書はエンターテイメント小説とは言え、グローバライゼーションが進んだこの現代世界において、こうした優れた世界的ベストセラーの知見に触れるのに数年も遅れるというのはかなり残念なことだ。これからの世の中、英語、中国語で直接の情報に触れていく努力が必須だと思う。

本書は「三体」三部作の第一作とのことである。本作は、先日、Netflixが映画化するとの報に接したが、さすがNetflixだ。まずは、予約済みの二作目が廻って来るのを気長に待つことにする。


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夏の東京史跡巡り(最終回) 湯島聖堂

2020-09-06 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

夏休みの最後の東京史跡訪問は、お茶の水にある湯島聖堂。一度行ってみたいと思っていたのですが、なかなか訪れる機会がありませんでしたので、東京三昧のこの夏休みにやっと決行。

湯島聖堂は、元禄3年(1690年)に、徳川五代将軍綱吉がこの地に孔子廟を建て、幕府の教育担当の林家も引っ越しし、儒学の振興を図るために創建したものです。聖堂とは孔子の寛政年間には、あの昌平坂学問所として幕府直轄の学問所となったところです。明治以降、ここには文部省、博物館、東京師範学校及びその附属学校、東京女子師範学校及びその附属学校が一時同居していたこともあるとのことで、これらを総合してか、入口近くには「日本の学校教育発祥の地」との碑があります。


〈仰高門〉

仰高門をくぐり林の中を進むと、都会のど真ん中とは思えない静寂な空間が存在していました。この夏休みに訪れたところはどこも似たようなものでしたが、こちらも私以外に訪問客はゼロ。

正面横には、孔子様の像が立っています(Wikiによると世界で一番(背が)高い)らしい)。

そして、本丸とも言える大成殿へ。入徳門、杏壇門をくぐって大成殿の敷地に入るとその威厳ある建物とそれらに囲まれた静謐な世界に包まれ、背筋が伸びるような感覚になります。まさに「聖地」ですね。


〈入徳門〉


〈杏壇門〉


〈大成殿〉

ただ、ちょっとがっかりだったのは、大成殿らの建物自体は鉄筋コンクリート作りで、歴史的・時間的な重みを感ずることができなかったこと。材質の違いというのは如実に素人にも分かってしまうので、様式は江戸時代そのままであっても、どうしても醸し出される雰囲気はもう一歩なこところはあります。ただWikiによると、関東大震災での消失とのことで、これは致し方ないですね。

土・日・祝日は大成殿のなかも覗けるそうです。あいにく平日だったので、叶いませんでしたが、次回は土日に来てみようと思います。


〈門の屋根から私を見下ろす動物たち。怖い〉

 

2020年8月18日


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夏の東京史跡巡り(4) 近藤勇墓所 @板橋

2020-09-01 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

記事タイトルは「東京史跡巡り」になっているのですが、今回は全くの偶然で「巡った」わけではありません。8月のお盆週間の日曜日、私用で埼京線の板橋駅なるところに初めて降り立ったのですが、駅前ロータリーの奥に只ならぬ雰囲気の一角がありました。引き寄せられるように足が向いたのですが、何とあの新選組局長近藤勇の墓所でした!


〈JR埼京線 板橋駅東口ロータリーの奥にあります〉

 

調布市の近藤勇の生地近くにある墓所、龍源寺(住所は三鷹市)には訪れたことがあります。近藤勇の遺体は、処刑された板橋にあるという説と、そこから生地に運んだという龍源寺説があるのは聞いたことがあるのですが、板橋の墓所とはここのことだったのか!と感激。

正面にある近藤勇と土方歳三の名を刻んだ慰霊碑は、側面に沖田総司、芹沢鴨などその他の亡くなった新選組隊士の名も刻まれています。これって、多少なりとも新選組の小説や映画・ドラマに馴染んだ人にはかなりの感激です。しかもこの慰霊碑の建立は新選組の名物剣士永倉新八と言うから泣けるじゃないですか。


〈慰霊碑〉

 

慰霊碑の周りには、近藤勇の墓石や龍源寺は胸像ですがここは全身像、そして永倉新八の墓碑も建っています。暑い夏の夕刻、この場にはひんやりとした不思議な冷気が漂っているような気がしました。

〈埋葬当初の墓石〉

 

 

 新選組は、歴史的な評価としては決して高いとは言えない集団(ありていに言えば、権力(幕府)側のテロリストグループともいえますし・・・)だったとは思うのですが、歴史的に滅びゆく武士階級の棟梁を支えようとする意地、多摩の半農民が見た武士の夢、もしくは歴史のあだ花と言った、何か我々庶民を引付ける磁力があるのは事実です。

 

所要もあり、じっくりと見物と言うわけにはいきませんでしたが、あまりにも偶然としては嬉しい出会いでありました。


〈永倉新八の墓〉

 

2020年8月16日


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