その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

スタンフォード大学キャンパス 朝ラン

2019-07-31 07:30:00 | 日記 (2012.8~)

 先週の後半、米国西海岸シリコンバレーエリアの一角、パロ・アルトへ現地2泊で出張に行ってきました。梅雨空がまだ残る蒸し暑い東京を出発し、到着したパロ・アルトは、日中こそ30度近くになりますが、空気が乾燥しているので爽やかさ一杯です。

 日中帯・夜間は会議室に缶詰めになるので、ほとんどその爽やかさを感じることは出来ないのですが、唯一の自由になる朝に当地の気候を満喫できます。今回は、いつもより時差ボケがひどかったのですが、朝ジョギングは体のリズム調整には最適です。スタンフォード大学の前にホテルを取ったので、朝7時から40分程度キャンパス・ランを楽しみました。

 〈キャンパス入口。東京に比べると日の出が遅いので、7時でも日はまだ低いので、影が長いです。気温も朝は16度と少し肌寒いくらい〉

〈空の青さと広さが爽快〉 

〈キャンパスのランドマーク フーバータワー。一度上りたいのですが、まだ機会無し〉 

 〈大学の陸上トラック。自由に出入りできるので、私も一周走ってきました〉

〈8月末からはいよいよカレッジ・フット―ボールのシーズンが始まります〉

日中のがちんこ会議はとってもストレスフルですが、このジョギングはそうしたストレスをリリースしてくれます。

2019年7月25日


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バランス取れた良書: 西村 友作 『キャッシュレス国家 「中国新経済」の光と影』 (文春新書、2019)

2019-07-28 07:30:00 | 

先日、4年間の上海駐在から帰任した知人から、「近年の中国における国を挙げてのキャッシュレス社会への移行は凄まじいもので、逆に日本からの出張者や観光客は不便でしょうがない」という話を聞いたが、その中国のキャッシュレス化の光と影を紹介したのが本書である。

あとがきに詳細があるが、筆者は学生時代に中国に留学し、その後日本で社会人になった後、中国の大学院に転身し、当地で経済学博士号を取得し、当地で大学教授の職を得ている。欧米先進国とは異なったクローズドな中国人社会でのサバイバルには、相当な努力と困難があったと容易に想像がつく。本書の記載も、ジャーナリスティックな当世「先進」中国事情のご紹介に止まらない、光と影のバランスの取れた現状報告と分析になっており、信頼度も高い。

詳しい話は本書を読んでいただくとして、今の中国の新経済は、高度成長時代の日本で通産省と産業界がタッグを組んで産業育成に取り組んできたのと同じで、政府の強い政策推進力と民間の盛んな起業家精神が両輪となって、ドライブしているということが良く分かる。それにデジタルテクノロジーの特徴である「スピード」が掛け合わさり、60年代・70年代の日本では考えられなかったスピード感で、変化が加速しているのだろう。本書も事例紹介的な部分については、賞味期限は短いものにならざるをないはずだ。

偶然にも、出張の往路で読んだ「FINANCIAL TIMES」には1ページをまるまる使って、日本のキャッシュレス化の動きと困難が”Curing Japan of its cash addiction”という見出しで紹介してあったが、本書を読むと中国を「追いかける」立場となった日本がこれからどう進んでいくのかに思考が移る。労働力減を最大の社会課題とする日本でも、この1年で遅まきながらキャッシュレス社会に向けて猛烈なスピードでドライブがかかるに違いない。消費者としての自分自身の利便性向上もあるが、私個人としてはそれをどうビジネスで活かしていくかに思いが及んだ(もう遅いかな・・・?)。


《目次》

1「中国新経済」の二大プラットフォーマー(決済を制する者が、「中国新経済」を制すスマホの登場が勢力図を変えた)
2これが「中国新経済」のエコシステムだ(「買う」ネットからリアル店舗へ急拡大
「食べる」拡大するデリバリー・サービス
「移動する」新サービスの誕生で快適に
「遊ぶ」広がる余暇の過ごし方)
3「中国新経済」はなぜ発展したのか(中国政府が目指すイノベーション駆動型の経済成長イノベーションで社会問題を解決する)
4「中国新経済」を支える信用システム(「信用スコア」がもたらす様々な特典社会統治に組み込まれる「新経済」)
5「中国新経済」のゆくえ日本はどう向き合うか
「中国新経済」の影
キャッシュレスのメリットとデメリット
規制される「新経済」
日本の商機をさぐる



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デービッド・アトキンソン 『日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義』 東洋経済新報社、2019

2019-07-26 07:30:00 | 

日本に30年居住する外国人経営者であり、アナリストでもあった著者が、日本が抱える人口減少、高齢化に対する処方箋を提言する。同様の課題について研究した海外の文献を広く当り、そこでの知見を活用するというアプローチだ。

提言としては、「最低賃金のアップ」、「生産性の低中小企業の淘汰」、「女性活用」、「経営者の教育」など、飛び切り目新しいものは無いが、とかく「見たいものしか見ない」傾向が顕著な昨今の日本にとっては、「ホント」のことを書かれて、耳が痛い一冊となる人もいるだろう。(アマゾンのレビュー評価がめちゃ高いが、これは高すぎではないか?)

マクロ的な分析が中心なので、施策をどう実現するのかという意味で、やや欲求不満が残るところはあるが、読んでおいて損はない一冊ではある。

 

【目次】

第1章 人口減少を直視せよ―今という「最後のチャンス」を逃すな
第2章 資本主義をアップデートせよ―「高付加価値・高所得経済」への転換
第3章 海外市場を目指せ―日本は「輸出できるもの」の宝庫だ
第4章 企業規模を拡大せよ―「日本人の底力」は大企業でこそ生きる
第5章 最低賃金を引き上げよ―「正当な評価」は人を動かす
第6章 生産性を高めよ―日本は「賃上げショック」で生まれ変わる
第7章 人材育成トレーニングを「強制」せよ―「大人の学び」は制度で増やせる


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力籠る熱演!:オペラ夏の祭典 2019-20 オペラ「トゥーランドット」(指揮 大野和士) @新国立劇場オペラパレス

2019-07-22 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

 

久しぶりの「トゥーランドット」。物語としてはあまり共感できる話ではないが、美しいアリアと迫力の合唱が大好きなオペラである。今回の公演は、大野和士さんが音楽監督を務めるバルセロナ響を率いて、東京文化会館と新国立劇場で計7公演に加え、琵琶湖と札幌を巡るという。「オペラ夏の祭典」という名に相応しい大型企画。

私が見たのは20日の新国立劇場の公演だが、力の籠ったレベルの高いもので、舞台に釘付けの3時間だった。出演者の皆さんもインターナショナルなので、こうした表現もおかしいが、ワールドクラスの公演で圧倒的だった。

歌手陣では、リューを歌った中村恵理さんの熱唱とひたむきな演技が光っていた。一途の愛に生きる姿には涙なしでは聴いていられない、観てられない。ロイヤル・オペラでの若手研修プログラムの時から応援させてもらっているが、小柄な方だが舞台では存在感抜群。今回もMVP間違いなしの好演だった。カラフ役のテオドール・イリンカイさんは、やや硬質系のテノールが美しい。ただ、カラフ役としては意外と地味だった印象がある。一方で、題名役のイリンカイさんは、堂々たる歌唱で難役をこなしていた。毎回個人的に注目のピン・パン・ポンの3人衆は、衣装が似ていて最深部の私の席からは区別がつきにくかったのが残念。

中村さんと並んで、印象的だったのは合唱団。多数の合唱団のコーラスは全く乱れることなく、トゥーランドットの世界観を構成し支えた。美しく聞き惚れ、合唱だけでも効く価値があると思った。大野さん率いるバルセロナ交響楽団は初体験だったが、スケール大きく鳴らし、実力歌手陣との華のある共演だった。

舞台は、地域性、時間軸が曖昧で、仮想空間とも近未来世界とも言える世界。未来の地下の核シェルターとも見えるような、暗い色調をベースにして、舞台の両端に壁がそびえ、そこを狭く急な階段が掛けられる。(私は読んでないのでツイッター上の情報だが)プログラムノートには、映画「ブレードランナー」の影響を受けていることが書いてあるらしいが、私にはむしろテリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」の世界観を思い出させた。好き嫌いは分かれるだろう。本作独特の中華世界色は全くないが、かといって作品の雰囲気を壊しているかというとそうでもなく、異世界を楽しめた。驚きの結末についてはノーコメント。

満員の劇場からは大きな拍手が寄せられ、特に中村さんへの拍手、歓声はひときわ。この日は会場は家族連れの方もおり、普段より華やかな印象で、雰囲気も含めてオペラ観劇の楽しさを満喫した半日だった。

 

2019720日 新国立劇場オペラパレス
2018/2019シーズン
オペラ夏の祭典 2019-20 Japan↔Tokyo↔World
オペラ「トゥーランドット」/ジャコモ・プッチーニ ※フランコ・アルファーノ補筆
Turandot / Giacomo PUCCINI
3幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉 

スタッフ
指揮:大野和士
演出:アレックス・オリエ
美術:アルフォンス・フローレス
衣裳:リュック・カステーイス
照明:ウルス・シェーネバウム
演出補:スサナ・ゴメス
舞台監督:菅原多敢弘 

キャスト
トゥーランドット:イレーネ・テオリン
カラフ:テオドール・イリンカイ
リュー:中村恵理
ティムール:リッカルド・ザネッラート
アルトゥム皇帝:持木
ピン:桝 貴志
パン:与儀
ポン:村上敏明
官吏:豊嶋祐壹 

合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル
児童合唱:TOKYO FM少年合唱団
管弦楽:バルセロナ交響楽団
制作:新国劇場/東京化会館

Opera
SUMMER FESTIVAL OPERA 2019-20 Japan ↔ Tokyo ↔ World "Turandot"
2018/2019 SEASON
New Production
Music by Giacomo PUCCINI
Opera in 3 Acts
Sung in Italian with ENGLISH and Japanese surtitles
OPERA PALACE
18 Jul. - 22 Jul., 2019 ( 4 Performances )

 

CREATIVE TEAM
Conductor: ONO Kazushi
Production: Àlex OLLÉ
Set Design: Alfons FLORES
Costume Design: Lluc CASTELLS
Lighting Design: Urs SCHÖNEBAUM
Associate Director: Susana GÓMEZ 

CAST

Turandot: Iréne THEORIN
Calaf: Teodor ILINCĂI
Liù: NAKAMURA Eri
Timur: Riccardo ZANELLATO
L'imperatore Altoum: MOCHIKI Hiroshi
Ping: MASU Takashi
Pang: YOGI Takumi
Pong: MURAKAMI Toshiaki
Un mandarino: TOYOSHIMA Yuichi 

Chorus:
New National Theatre Chorus
Fujiwara Opera Chorus Group
BIWAKO HALL Vocal Ensemble
Orchestra: Barcelona Symphony Orchestra
Produced by: New National Theatre, Tokyo / Tokyo Bunka Kaikan


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不完全燃焼の7月3連休 ~山中湖、猿橋~

2019-07-17 07:30:00 | 旅行 日本

 まあ、こればっかりはお天道様がお決めになることだし、私だけが「残念組」ではないはずなので、どうしようもないのですが、今年の7月の「海の日」三連休はがっかりでした。昨年の同じ時期の三連休は過去に経験が無いほどの暑さだったのですが、今年は打って変わって完全な梅雨空と雨。2泊3日の山中湖滞在も全く富士山は見えることなく、恒例の山中湖一周ランニングもできず、常宿での入浴、マッサージチェア、昼寝、読書のループを繰り返す3日間となりました。 

 いつもは綺麗に富士山が湖越しに見える展望台からの風景も、厚い雲に覆われ気分も晴れず。

帰る3日目の午前中にやっと雨がやんだので、三島由紀夫記念館のある湖畔の「文学の森」を少し散歩。

上を見上げたり、足元みたり。雨に濡れて、緑は綺麗に輝いています。

 往路では雨降ってるからそんなに急いでもしょうがないということで、高速は途中で降りて甲州街道(国道20号線)を西へ。前から気になっていた大月市の「猿橋」を見学。この橋、「日本三大奇橋」の一つと言われているそうなのですが、確かに橋の脚がなく、変わっています。橋の下を流れる桂川が美しく、紅葉の時にでも訪れればまた違った良さもあるだろうなと思いました。

刎橋(はねばし)というそうです。「深い谷間のために橋脚はなく、鋭くそびえたつ両岸から四層に重ねられた「刎木(はねぎ)」とよばれる支え木をせり出し、橋を支えている」(Wikiより)。

 「古代・推古天皇610年ごろ(別説では奈良時代)に百済の渡来人で造園師である志羅呼(しらこ)が猿が互いに体を支えあって橋を作ったのを見て造られたと言う伝説がある」そうです。(Wikiより)

確かにとっても深い谷で、下を見ていると怖い。

早くも夏のイベントの一つが終わってしまった。
この梅雨空、いつまで続くのでしょうか。

2019年7月13日-15日

 


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思ってたのと違ったけど充実の展示! 〈ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道〉 @国立新美術館

2019-07-14 08:00:00 | 美術展(2012.8~)

国立新美術館で開催中の〈ウィーン・モダン〉展に行ってきた。「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」というサブタイトルだったので、てっきりウィーンの世紀末美術の展覧会と思っていたら、私の早とちりで、たしかに「世紀末『への』道」なので世紀末美術だけではない。18世紀後半から20世紀初頭までのウィーンの都市史・芸術史の展示だった。私は行ったことないが、当地のウィーン・ミュージアムが改修中ということで、同館の所蔵品をまとめて持って来てくれているらしい。

とにかく、広範囲の展示品に圧倒される。下に転載した本展覧会の構成を見ていただきたいが、まさにウィーン近代芸術史鷲掴みという感じだ。絵画だけでなく、椅子・食器などの生活用品、服飾なども含んだ総合展示である。一つ一つ丁寧に見ているときっとクリムトに辿り着く前にガス欠になる人も出てくるだろう。

私自身はクリムトら分離派などの世紀末美術をお目当てにしていたので、前半は軽く流そうとしたが、それでも見応え十分で面白いものがたくさんあり、どうしても足が止まる。シューベルトの眼鏡なんかもあり(精巧でかなり凝った感じの眼鏡だった)、興味を引いた。ウィーンが城壁に囲まれた城壁都市で、その城壁跡がリンク通りなんてことも初めて知った。

お目当ての分離派や世紀末美術の展示も楽しめた。個人的には、分離派の様々なPRポスターがお好みで、ポスターを集めたクリアホルダーも購入。数は多くはないが、分離派画家の諸作品もその類似や相違があり面白い。エゴン・シーレはこれまで意識して鑑賞したことが無かったので、その個性的な作品群に強く魅かれた。

今回嬉しかったのは、7月・8月の金・土は国立新美術館は21時まで開館してくれていることだ。丁度、19時ごろに入館したのだけど、通常の20時閉館ではとても見切れない質・量の特別展だっただけに、ホント助かった。夏だけと言わず、通期で21時閉館をお願いしたいなあ。

 

《構成》

 1 啓蒙主義時代のウィーン ̶近代社会への序章
1-1  啓蒙主義時代のウィーン
1-2  フリーメイソンの影響
1-3 皇帝ヨーゼフ2世の改革

2 ビーダーマイアー時代の ウィーン
2-1 ビーダーマイアー時代のウィーン
2-2 シューベルトの時代の都市生活
2-3 ビーダーマイアー時代の絵画
2-4 フェルディナント・ゲオルク・ ヴァルトミュラー̶自然を描く
2-5 ルドルフ・フォン・アルト ̶ウィーンの都市景観画家

3 リンク通りとウィーン ̶新たな芸術パトロンの登場
3-1 リンク通りとウィーン
3-2 「画家のプリンス」ハンス・マカル
3-3 ウィーン万国博覧会(1873年)
3-4 「ワルツの王」ヨハン・シュトラウス

4 1900̶世紀末のウィーン ̶ モダン 代都市ウィーンの誕生
4-1 1900 ̶世紀末のウィーン
4-2 オットー・ヴァーグナー ̶近代建築の先駆者
4-3-1 グスタフ・クリムトの初期作品 ̶寓意画
4-3-2 ウィーン分離派の創設
4-3-3 素描家グスタフ・クリムト
4-3-4 ウィーン分離派の画家たち
4-3-5 ウィーン分離派のグラフィック

4-4 エミーリエ・フレーゲとグスタフ・ クリムト
4-5-1 ウィーン工房の応用芸術
4-5-2 ウィーン工房のグラフィック
4-6-1 エゴン・シーレ   ̶ユーゲントシュティールの先へ
4-6-2 表現主義̶新世代のスタイル
4-6-3 芸術批評と革新

 

 

コメント (2)
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府中市制施行65周年記念 棟方志功展

2019-07-11 07:30:00 | 美術展(2012.8~)

府中市美術館で開催されている「棟方志功展」に会期最終日の午後にやっと訪れることができた。棟方志功の板画(棟方は自分の「木版画」を「版画」と呼んでいた)をまとめて見る機会は、15年以上前に青森に〈ねぶた祭り〉を観に行った際に、市内の美術館で観て以来である。戦前の中小の板画から戦後の晩年の大型作品に至るまで多種多様な作品が展示される充実の特別展だった。

棟方の個性的な作品は、見るものを強力に引きつける磁力を持っている。作品に描かれた対象と個人的な共通項は無くとも、日本人の心性に根差した懐かしさを感じる。故郷の土であり、日本の八百万の神に触れている気がする。描かれた女性の姿が縄文期の土偶に似た気がするのも、日本人の原始的な感性が現れているようだ。

後半期の展示では、作品はぐっと大型化する。最大級は、2m×13mという<大世界の柵>。大きい絵は近くで見ても良く分からないが、離れてみるとその全体像が良く分かる。ピカソの〈ゲルニカ〉を見た時のような、圧倒的な迫力に押しつぶされそうになった。

実際に使われた絵筆(ブラシ)、彫刻刀が展示してあったがこちらも興味深かった。特に、展示してある作品の元板が感動的だった。彫が驚くほど深く、太い。あの迫力の板画はここから生まれているのだと深く納得した。

 ショップに立ち寄ったら、既に図版は売切れ。確かにこの展覧会の図版なら皆欲しくなるだろうと、入手できなかった残念さはあったが、これも納得だった。


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桐朋学園オーケストラ グリーンホール定期 vol.11

2019-07-07 08:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

先週、調布国際音楽祭を訪れた際に、同市にある桐朋学園のオーケストラが定期演奏会をやっているということを知った。一度聞いてみたいものだと思い、2週続けて調布市のグリーンホールへ出陣。

音楽専門課程を持つ学校のオケの演奏会とは言え、そんなにお客さんが来るものではないだろうと高を括っていたらとんでもない。開演40分前に着いたら、当日券売り場に人が列をなして並んでいる。残席も1階席は端っこの壁際の席しか残っておらず、2階席も殆どが一杯だった。幸い、おひとり様だったので、残った席では一番良さそうな1階席の前から4列目の左サイド端を購入(1000円也)して、会場入りした。

ホールに入ると、こちらにもサプライズ。大学オケの演奏会だから、友達とか家族とか奏者や学校関係者のお客さんが殆どなのではと勝手に思っていたのだが、いやいや見た風、地元の市民の方が殆どのようである。そして、それもかなり高齢者の方が多い。N響定期の平均年齢の高さは良く揶揄されるネタだが、(目視でしかすぎないが)平均年齢はN響定期をはるかに上回ると思われた。察するに、生演奏に行きたいが都心に出るのはちょっとしんどいが、地元なら気軽に行けるということなのだろうか。前週のBCJとは客層は全く違うが、BCJよりも入っているのではと思わせる盛況ぶりだった。

さて、前置きが長すぎたが、肝心の演奏の方もとっても満足するものだった。特に、後半のベートーヴェンの交響曲7番は熱演で、個々の技巧もさることながら、全体としてのアンサンブルのバランスも良く、熱量も高いもので、さすがプロの音楽家を志す人達であると感嘆させられた。私の席からは、管陣が全く見えないのが残念だったが、オーボエ、フルート、ホルンらがメロディをしっかり歌い、弦パートも安定した合奏で、7番の勢いやリズム感豊かに聞かせてくれた。あえて言えば、これは指揮の中田さん(この方、筑波大の医学課程から音楽の道に転向したというユニークな経歴である)の解釈だと思うのだが、第2楽章がすーっと流れてしまった感じがしたので、もう少ししっとり聞かせてほしかったなあとは思ったぐらい。

前半はスメタナの<わが祖国より>から2曲と、私は全く初めて聞くショーソンのヴァイオリン協奏曲とも言える<詩曲>。スメタナは1曲目の<高い城>で金管陣が不安定でちょっと不安になったが、<モルダウ>からは調子に乗ってきた感じ。モルダウはボヘミア風の土臭い演奏というよりは、重心が高めのスマートな演奏だった。

ショーソンの<詩曲>はヴァイオリン・ソロを吉江美桜さんという同大の卒業生でもあり現在も同大のディプロマ・コースに在籍中の方が弾かれた。プログラム・ノートによると、この曲はツルゲーネフの「勝ち誇る愛の歌」の影響を受け、男女間の三角関係の物語の音楽化を目指したが、最終的には純管弦楽曲として作曲されたらしい。が、その当初の思いの残像が残るロマンチックかつドラマティックな音楽で、吉江さんはそれを丁寧かつしっとりと聞かせてくれた。今後の活躍が楽しみだ。

というわけで、とっても満足だったのだが、一つだけ気になったところがあった。舞台に団員の皆さんが入って来た時は「おー、みんな若いなあ~(いいなあ~)」と思ったのだが、どうも演奏中の表情が全体的に無表情で、何か若者らしい溌溂さや、(大谷君みたいな)ぴちぴち感や躍動感を感じない。う~ん、この若者たち、楽しんで演奏しているのだろうかと心配になってしまった。(私の席からは弦の人たちの一部しか見えなかったので、管の人たちはわかりません。あくまでも、私の視界の世界です。あしからず。)別に、「別に高校野球じゃないんだから勝手なイメージ押し付けてほしくないし、表情が無表情なのと表現される音楽は関係ないでしょ」と言われればそうなのかもしれないが、ちょっとそこは残念なとこだった。勝手な感想を書いているので関係の方が読んで気分を害したらとっても申し訳ないのだけど、一素人のたわごとして流してもらえれば良いと思う。(これも出羽守風で嫌われるの覚悟だが、ロンドンのプロムスで National Youth Orchestra of Great Britainが出演した際に観に行った演奏会は、緊張感の中にも音楽を演じる喜びに満ち溢れていて、見ているだけでこっちもHappyな感じだったというのもあった)

まあ小姑の小言みたいな話はやめておいて、全体としては、この高いレベルの演奏が1000円で聴けるなんて、先週の音楽祭と言い、調布市民は恵まれていることか。次回は12月にあるそうなので、こちらも時間が取れるようなら是非、Come backしたい。

 

桐朋学園オーケストラ グリーンホール定期 vol.11
公演日  201976日(土) 開場13:30、開演14:00
会場   グリーンホール 大ホール
出演者  指揮:中田 延亮
     ヴァイオリン:吉江 美桜
     管弦楽:桐朋学園オーケストラ

♪スメタナ:「わが祖国」より
      1.高い城  2.モルダウ
♪ショーソン:詩曲
※ヴァイオリン・ソロ:吉江 美桜
♪ベートーヴェン:交響曲第7番


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岡本 隆司 『世界史序説 -アジア史から一望する』 (ちくま新書、2018)

2019-07-06 08:29:00 | 

 西洋の視点・視座から世界史を捉える手法から、アジアを基点に世界史を捉える見方への抜本的な修正を訴える意欲的な歴史概説書である。歴史学的な正しさは素人の私には分からないが、本書を読んで、新たな歴史の捉え方を知り、見方を変えることで知っていたはずの世界史が随分と違った世界に見えたことはとても新鮮だった。

 20頁にもわたる「はじめに」は筆者の気合に満ち溢れている。私でも知っている西洋史・イギリス史の大家である川北稔氏までもが、批判の俎上に上がっていてびっくり仰天だった。読み進めると、全く忖度しない文章は気持ちが良いが、トンデモ本ではないのか、と思わせるところもある。

いくつか本書の記載と私のナイーブな反応の具体例を挙げると、

・シルクロードは東西をはるかにつないだ道というよりは、各地の北の遊牧と南の農耕の境界で生じた小取引(マーケット)・街が東西に連鎖展開したとみるべきである。遊牧・農耕・商業の三要素が交錯するところからアジア史は始まる。(PP4244) <私:これは納得。なるほど>

・ギリシャ・ローマもオリエントの外縁拡大の産物にほかならない。フェニキア・ギリシャ・およびその拡大であるローマ・カルタゴが一体となったのが、ローマ帝国であり、いわゆる地中海文明とはオリエントの一部であるシリアの拡大としてとらえるのが正当である。(PP5556) <私:ホントですか!?初めて聞いたわ!>

・なので、ギリシャ・ローマも独立の文明ではなくオリエントの文明の延長であり、地中海文明・ローマ帝国をヨーロッパの祖先としてとらえるのも、誤解である。もっともそうした誤解が欧州のアイデンティティとなり、以後の歴史を動かし、現代世界の礎になっている事実は、当時の客観的な史実とは別に認めなくてはいけない」(PP5556) <私:誤解が歴史を動かしてきたって、ちょっと言い過ぎてない?>

・(7世紀のイスラームの地中海席捲について)ローマの内海だった地中海がムスリムに奪われたとみなすのは西欧中心史観であり、歴史的にはシリアと地中海は不可分であり、ギリシャ・ローマもフェニキア・シリアが拡大してできたものだから、元来はオリエントの一部であった。それがアレクサンドロス死去以後、シリア以西が東のペルシャとたもとを分かったので、いわゆる地中海世界も分立した。だとすれば、イスラームの地中海制覇とは、地中海世界がようやく東のオリエントに回帰し、分かれていた東西が統合したことを意味する。千年の間、分立と拡大を続けたオリエントがイスラームのもと、再統一を果たした事象として見た方が良い。(p83) <私:むむむ、そうくるのか・・・>

・オリエント・地中海の先進的な都市文明を「ルネサンス」で濾過して、農村ベース・封建制のキリスト教=ヨーロッパに伝播した。そうした視角からすれば、フリードリヒ大帝以前のシチリア、あるいはルネサンス期のイタリアの都市国家は、規模こそ異なっても、中央アジアのオアシス国家と似ている。(中略)…中央アジアがイスラームの西アジアと非モスリムの東アジアをむすびつける役割を果たしたように、イタリアはオリエントとヨーロッパを結合させた。(中略)・・・・地中海史はルネサンス以後、名実ともに西洋史となった。そして、地中海がオリエントからヨーロッパに転換したその時、地中海とイタリアが占めた世界史的な役割は、終焉を迎えようとしていた。大航海時代である。(PP203204)<私:ここで「普通の」西洋史に帰着するのか・・・。(´▽`) ホッ>

 専門家(筆者も大学の史学の先生だから立派な専門家だが)が読めば突っ込みどころは満載なのだろうけど、専門家でない人(少なくとも私)にはその視点の新しさが刺激的だ。首をひねりつつ、唸り、疑心暗鬼になりながらも、読み進めることができたのは、筆者の暑い思いが本書に宿っていて、それに引っ張られたからだと思う。

 

《目次》
はじめに 日本人の世界史を
第1章 アジア史と古代文明
第2章 流動化の世紀
第3章 近世アジアの形成
第4章 西洋近代
おわりに 日本史と世界史の展望


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山本 勉 『日本仏像史講義』 (平凡社新書、2015)

2019-07-04 07:55:56 | 

 ここ1、2年、静かなマイ仏像ブームが続いているので、仏像についてちょっと真面目に勉強しようかなと思い手に取った一冊。飛鳥時代から江戸時代に至るまで、日本の仏像の受容・変容が時代を追って解説されている。もともとは、雑誌『太陽』の別冊として刊行されたものを手直しして発行されたものとのことだ。

 系統的に学ぶには良いテキストだろうが、私にはやや教科書的すぎて、面白みに欠けた。巻頭にカラー写真、各章の中でも適宜白黒の仏像写真が載っていが、写真付きは紹介されている仏像の一部に過ぎないので、文章を読んでいるだけでは様子がわからない仏像がある。まぁ今の世の中なので、Google先生に聞けばすぐに画像が出てくるのでありがたいのだけど、一つ一つググるのも面倒。

 何を求めて本書を読むのかの目的意識が明確でなかったのがまずかったと思うが、初学者の私には少々レベル高すぎだった。

目次
第1講 仏像の黎明―飛鳥時代(仏像の渡来と飛鳥時代の開幕
法隆寺の造像と飛鳥時代前期の金銅仏 ほか)
第2講 古典の完成―奈良時代(平城京の寺と仏像
法隆寺の塑像 ほか)
第3講 転形と模索―平安時代1(遷都と仏教の革新
転形の時代 ほか)
第4講 和様と耽美―平安時代2(平安時代後期の盛期と定朝
平等院鳳凰堂 ほか)
第5講 再生と変奏―鎌倉時代1(鎌倉時代の開始
運慶の御家人造像 ほか)
第6講 伝統の命脈―鎌倉時代2・南北朝時代以後(鎌倉時代後期
南北朝時代
室町時代
桃山時代
江戸時代)



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バッハ・コレギウム・ジャパン 華麗なる協奏曲の夕べ @調布国際音楽祭

2019-07-02 07:30:00 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)


<休憩時間にオルガンの調律中〉

 調布音楽祭のフィナーレを飾るコンサート。ヴィヴァルディ、ヘンデル、バッハの協奏曲を中心としたプログラムはまさに「華麗なる協奏曲の夕べ」というにタイトルに相応しい華やいだ音の祭典だった。

 前半の最後の曲ヴィヴァルディの「四季」(の「夏」)はBGMとして聴くことはよくあるものの、演奏会で生演奏に接するのは、私の記憶では2回のみ。スピーカーからのディジタル処理された音ではわからない、強弱のつけ方や演奏の激しさなど、現場で聞いて初めて体で分かるところが多く、新鮮だった。

 後半の、バッハ〈ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲〉は寺神戸さんのヴァイオリンソロと三宮さんのオーボエのコラボが何とも優しく美しい。また、ヘンデル〈オルガン協奏曲第5番〉は微笑ましいほどのオルガンのふくよかで可愛らしい音が気持ちを和ましてくれる。ラストのバッハの〈管弦楽組曲第4番〉は初期稿ということで私が聞いたことがあるはずの4番と随分違った印象があったが、フィナーレを飾るにふさわしい華麗な音楽だった。

 今年も音楽の楽しさを存分に味あわせてれた調布国際音楽祭。自治体のイベントだから限られた予算の中で、ますます上がる期待値に応え続けるのは簡単ではないだろう。一定レベルの規模と質まで引き上げた今、これからこの音楽祭がどのような発展を見せるのか目が離せない。音楽祭エグゼクティブプロデューサーの鈴木優人さんによると「
来年は6月の第3週を予定」ということなので、さっそく手帳にマークしておいた。


余談:
余談で片付けるのはあまりにも失礼だが、この音楽祭が良いのは有料プログラムだけでなく、市民音楽家や同市にある桐朋学園の学生さんたちによる、2日間にわたる様々な無料公演プログラムだ。今年は、日曜日の14:00-16:00の2時間、4つのプログラムを拝聴した。どの演奏もレベルも高ければ、選曲も興味深い。リッラクスした雰囲気で、いろんな音楽が楽しめる貴重な機会である。、個人的には、例年あるパーカッションのプロが無かったのは残念だったが、面白かったのは東宝の学生さんが作曲した現代音楽のセッションが良かった。


〈市民音楽家によるオープンステージ〉


〈桐朋学園大学学生・卒業生によるミュージックカフェ〉


バッハ・コレギウム・ジャパン 華麗なる協奏曲の夕べ
Bach Collegium Japan: An Evening of Festive Concertos


日時:6月30日(日)17:00 Sunday, June 30 at 17:00
場所:調布市グリーンホール 大ホール  Chofu City Green Hall, Large Hall

曲目:
ヘンデル:合奏協奏曲第6番 ト短調 作品6-6 HWV 324
George Frideric Handel: Concerto Grosso in G minor, Op. 6, No. 6, HWV 324
ソロ・ヴァイオリン:寺神戸 亮、山口幸恵

ヴィヴァルディ:2つのヴァイオリンとチェロのための合奏協奏曲 ニ短調 RV 565(「調和の霊感」作品3より)
Antonio Vivaldi: Concerto for Two Violins and Cello in D minor, RV 565 from “L’estro armonico”, Op. 3
ソロ・ヴァイオリン:山口幸恵、木村理恵 チェロ:懸田貴嗣

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲「夏」ト短調 RV 315(「四季」より
Antonio Vivaldi: Violin Concerto in G minor “L’estate”, RV 315 from “Le quattro stagioni”
ソロ・ヴァイオリン:寺神戸 亮

J. S. バッハ:ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060
Johann Sebastian Bach: Concerto for Violin and Oboe in C minor, BWV 1060
ソロ・オーボエ:三宮正満 ソロ・ヴァイオリン:寺神戸 亮

ヘンデル:オルガン協奏曲第5番 ヘ長調 作品4-5 HWV 293
George Frideric Handel: Organ Concerto in F major, Op. 4, No.5, HWV 293
ソロ・オルガン:鈴木優人

J. S. バッハ:管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV 1069(初期稿)
Johann Sebastian Bach: Orchestral Suite No. 4 in D major, BWV 1069 (First Version)

出演
指揮:鈴木雅明 Masaaki Suzuki, Conductor
ヴァイオリン:寺神戸 亮  Ryo Terakado, Violin  
ヴァイオリン:山口幸恵 Yukie Yamaguchi, Violin
ヴァイオリン:木村理恵 Rie Kimura, Violin
チェロ:懸田貴嗣 Takashi Kaketa, Violoncello  
オーボエ:三宮正満  Masamitsu San’nomiya, Oboe
オルガン:鈴木優人  Masato Suzuki, Organ
管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン Bach Collegium Japan


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