その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

城山三郎『雄気堂々 (上)・(下)』 新潮文庫、1976

2022-02-26 07:30:25 | 

 

今さらですが、昨年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』は、久しぶりに(『篤姫』以来?)のめりこんだしと大河ドラマでした。武蔵の国の百姓の家に生まれ育ちつつ、時機を得て武士として一橋家に仕え、幕臣として欧州に渡り、維新後は新政府の役人として国の基礎作りに貢献し、更には、野に下り実業家として日本の資本主義の礎を築く。幕末・維新期のドラマとなると、志士・政治家を扱った作品が多い中、異色な渋沢のダイナミック人生(もちろん志士の一人でもありますが)が吉沢亮の名演と併せて、活き活きと描かれました。

ドラマが終わったのがあまりに残念で、学生時代に読んだ本書を書棚から取り出して読み返してみました。驚いたのは、決して本書がドラマの原作やタネ本だったはずはないのですが、取り上げられているエピソードはドラマと丸被りで、ドラマを一から追っていくような感覚で読み進めました。俳優さんたちが脳裏に浮かんでしまうので、普段「観てから読む」はやらないのですが、今回は逆にドラマのエピソードの背景を詳しく知ることが出来て、より楽しめる所もありました。いずれにしても、以前読んだとは思えない程、新鮮でしたね。

改めて、渋沢の人間としてのスケールや偉大さが実感できます。そして渋沢を囲む人々もまたエネルギッシュでアクが強いこと。幕末・維新の時期はこうした日本人がうごめいていたんですね。現代との単純な比較はできませんが、元気を貰える小説であることは間違いありません。


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貴田 正子『深大寺の白鳳仏: 武蔵野にもたらされた奇跡の国宝』春秋社、2021

2022-02-21 07:30:20 | 

国宝にも指定されている深大寺の釈迦如来倚像。私が大好きな仏様である。端正で優しい表情、凛とした佇まいが、心を落ち着かせてくれる。深大寺で何度か見ているし、東京国立博物館での仏像展で展示されていた。

本書のタイトルを見て、地域活性化目的のPR本かと思ったのだが、中身は「仏像伝来の謎解きルポルタージュ」である。香薬師像(昭和18年に新薬師寺から盗難にあって以来行方不明)、法隆寺の夢違観音と並んで「白凰三仏」と称せられる深大寺の仏様が、畿内の工房で作られ、どのようにして関東、深大寺に渡ったのか。筆者の文献調査、フィールドワーク、関係者への聞取り調査などを通じて、筆者の仮説が構築される。

推理小説を読むように一気に読ませる。白鳳時代の時代背景、政治状況も踏まえながら、仏様の伝来を巡る謎解きは歴史の想像力を駆り立ててくれる。物的証拠類・史料が乏しいことが、さらに妄想を拡大させる。

初めて知ったことも多い。伝来の鍵となる渡来人(高句麗王族)の末裔であり、武蔵の国の国司を2度も務めた高倉(肖奈)福信なる人のこと。また、狛江市の狛江が高麗から来ているという話は聞いていたが、調布の深大寺付近が渡来人によって開拓された土地であるということも初めて知った。

何となく図書館で手に取った本であったのだが、私的にはツボにはまった一冊であった。奈良時代マニアや白鳳仏が好きな人は、是非、読んで見て欲しい。

 


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N響 2⽉B定期、指揮 尾高忠明、金川真弓Vn、圧巻のイギリス・アメリカ・プログラム

2022-02-18 07:30:06 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

パーヴォさんのさよならコンサート、しかもソリストにヒラリー・ハーンという今シーズンの目玉公演だったはずが、コロナ影響で無念の来日キャンセル。失意のお知らせとともに舞い込んだのは、代役が尾高忠明さんと金川真弓さん、しかもプログラムがイギリス・アメリカ作品のプログラムとのご案内。不幸中の幸い、災い転じて福となす、瓢箪から駒・・・何と呼ぶかは人それぞれでしょうが、落ち込んだ気持ちを切り替えるには十二分の布陣となりました。

期待通りどれも素晴らしい演奏だった中で、私的に超特筆は金川真弓さんソロによるバーバーのヴァイオリン協奏曲でした。初めて実演に接する方ですが、周囲の空気が変わるようなその存在感に圧倒されました。

まず、演奏姿の美しいこと。P席の私からは後ろ姿しか見えないのですが、姿勢の良さ、凛とした佇まいに魅せられます。そして、発せられる音の奥深さが印象的。しっかりとした芯がありつつ、潤い豊かで、抒情たっぷり。自らの音を主張しつつ、音がオーケストラのアンサンブルの中に溶け込んでいきます。ハーゲンダッツのクッキー&アイスクリームを食している感覚です。

オーケストラも気合入っていました。金川さんが時折送るアイコンタクトに応えるように芳醇な音を奏でる木管陣。シナジーという言葉がぴったりのソリストと寄り添いながら+αを生み出す弦陣。お見事でした。第2楽章の美しさには思わず涙が零れました。至福の時間でした。

前後に演奏されたブリテン、エルガーの両曲も圧巻でした。「英国的な音楽」というのが果たして存在するのか、私には理解を超えていますが、両曲から感じたのは私自身4年弱生活したイギリスの香りでした。ターナーやコンスタブルの絵を見るようにイギリスを感じます。ブリテン「ピーター・グライムズ」からは寒村や荒れた海。エルガー「謎」からはイギリス全般に漂うまったりと穏やかな空気や人たち。尾高さんの指揮がそうしたイギリス要素を浮かび上がらせてくれている。そんな気がしました。

この1,2月はオミクロンに振り回された形のN響定期でしたが、振り返ってみると、反田恭平さん、服部百音さん、小林愛実さん、そして今日の金川真弓さんと、錚々たる日本の若手音楽家の演奏を聴かせてもらったことになります。この人たちが今後、年月、経験を重ねていって、さらにどんな音楽家になっていくのかが本当に楽しみです。三者三様の成長を遂げて欲しいですね。

 

第1953回 定期公演 Bプログラム

2022年2月17日(木)開演 7:00pm
サントリーホール

指揮:尾高忠明
ヴァイオリン:金川真弓

ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」- 4つの海の間奏曲 作品33a
バーバー/ヴァイオリン協奏曲 作品14
エルガー/変奏曲「謎」作品36

 

No. 1953 Subscription (Program B)
Thursday, February 17, 2022 7:00p.m.
Suntory Hall

Conductor: Tadaaki Otaka
Violin: Mayumi Kanagawa

Britten / "Peter Grimes," opera − Four Sea Interludes Op. 33a
Barber / Violin Concerto Op. 14
Elgar / Variations on an Original Theme Op. 36 "Enigma"


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N響 2⽉C定期、鈴木雅明 指揮、ストラヴィンスキー・プログラム

2022-02-13 07:30:36 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

今月はパーヴォさんの首席指揮者としてのさよなら演奏会シリーズのはずでした。それが、恨めしいコロナで来日叶わず、本当に残念なパーヴォ時代の幕切れとなりました。

そんな中、C定期のピンチヒッターは鈴木雅明さん(以下、パパ鈴木)。このコロナ期間に何度も登壇頂いていますが、今回は意表を突いたストラヴィンスキープログラム。パパ鈴木と言えば、バッハを初めとしたバロック音楽の第一人者イメージが強いので、どんな演奏になるのかと、期待と不安を入り混ぜて芸劇へ足を運びました。

1曲目の「プルチネッラ」は、私の薄学ぶりを露呈した格好でした。ストラヴィンスキーって、こんな音楽を書いていたのですね。新古典主義に作風をシフトした時期に創られた本曲は、バッハのような優雅で明確な音楽。「ナポリ・バロックのスタイルでアレンジ」(プログラムノートから)された楽曲で、パパ鈴木の指揮を見ていると、BCJの演奏会に居るような錯覚が。明るく、雅な音楽に酔います。ただ、ここは「新」古典主義だけあって、随所にストラヴィンスキーらしい仕掛けがあって、その「新しさ」も楽しめました。「なるほどこういうことだったのか」、パパ鈴木の選曲も納得です。

2曲目は「ペトルーシカ」。これはバロックとのつながりは分からずじまいでしたが、パパ鈴木がこうした「民族派モダニズム」(プログラムノートより)の音楽を振るのは初めて聴きます。これが、期待を大きく上回る素晴らしい演奏で、パーヴォ・ロスがどっかに行ってしまうほどでした。冒頭からキラキラと輝くような煌びやかな音がオーケストラから発せられ、ぐーっと引きつけられます。そして全曲通じて、聴かせる管のソロ、緊張感一杯の弦のアンサンブル、そして打楽器陣の切れ味が秀逸。個力とチーム力が掛け合わさって、人々の鼓動までが聞こえて来るようなライブ感満載の音楽でした。演奏に釣られて体が自然に動き始めてしまうほどで、隣席への迷惑にならないよう、体を抑えるのに一苦労(私の斜め前方の男性は完全に揺らしてました・・・)。終演後は会場から大きな拍手が寄せられました。

幸か不幸か、パーヴォさんの来日中止で実現したこのプログラム。音楽との一期一会を感じるご縁でありました。

 

第1952回 定期公演 池袋Cプログラム
2022年2月11日(金・祝)開演 7:30pm(休憩なし)

東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:鈴木雅明

ストラヴィンスキー/組曲「プルチネッラ」
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「ペトルーシカ」(1947年版)

 

No. 1952 Subscription (Ikebukuro Program C)

Friday, February 11, 2022 7:30p.m.
Tokyo Metropolitan Theatre

Masaaki Suzuki, conductor

Stravinsky / "Pulcinella," suite*
Stravinsky / "Pétrouchka," burlesque (1947 edition)


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これは必見! ポンペイ展 @東京国立博物館

2022-02-10 07:30:45 | 美術展(2012.8~)

2011年の1月に訪れて、衝撃的な感動を得たポンペイ。その展覧会ということで、迷うことなくトーハクへ足を運んだ。
現地を訪れる迫力には及ばないが、その魅力を余すことなく伝える必見の展覧会である。



ギリシャ・ローマ文化の影響を受けた当時のポンペイの高い文化水準や発展した人々の社会生活が生き生きと伝わってくる。
モザイク絵画、彫像、生活用具などなど、当時の人々の息遣いが聞こえてきそうな展示は、想像力が掻き立てられ、脳のいろんなところが刺激を受ける。



私は展示品のひとつひとつを丹念に鑑賞するというよりも、むしろ11年前の旅と2000年近くの人々や社会に思いをはせながら、当時のポンペイ風に装飾してある会場自体の雰囲気を楽しんだ。それだけでも1時間は優にかかる。

広大な博物館は人影もまばらなように見えたが、この展示会場だけは賑わっていた。必見の展覧会と断言できる。お勧めします。


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N響 2⽉A定期、下野竜也 指揮、小林愛実ピアノ、オール・シューマン・プログラム

2022-02-07 07:30:27 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

N響 、下野竜也によるオール・シューマン・プログラム。

昨年のショパン国際ピアノコンクールで4位入賞した小林愛実さんが出演されるためか、蔓延防止期間でありながらも会場は8割がた埋まっていました。客層も、普段よりも若い人が多いような気が。

プログラム2曲目のシューマンのピアノ協奏曲。ワインレッドのドレスで現れた小林さん。小柄ながらも、落ち着いた所作に穏やかなオーラを感じました。この曲、2020年11月に真央君とN響で聴きましたが、小林さんのシューマンは、また一味違った印象でした。

第1楽章はスケール感あるがっちりした演奏。意思を感じる音色です。第2楽章は一転して柔らかで優しく美しい。ロマンティックなメロディをじっくりと聴かせてくれます。そして第3楽章は一気呵成に畳み込みます。一貫して装飾的なパフォーマンスなく、楽曲の良さをそのまま聴衆に届けてくれる音楽です。オケとの掛け合い、息の合わせ方もぴったりで、「フランツ・リストの2作品とともに19世紀前半の展開を総括する重要な作品」(プログラムノートより)というこの曲を堪能しました。

アンコールはショッパンからワルツ変イ長調 作品42。「おー、これぞショッパン」と感じる伸び伸びした演奏で、ヨーロッパの宮廷の一部屋でピアノを聴いているような感覚を味わいました。

「オミクロンが暴れている中、池袋まで来た価値あった。これだけで十分」と思っていたところでしたが、後半の交響曲第2番は、そうは問屋が卸さんぞと言わんばかりの、前半を上回る興奮でした。

下野さんの熱量高い指揮の下、優しく美しく響くオーボエ、フルート、クラリネットらの木管陣、重心しっかりした厚い弦陣のアンサンブルが絶妙に組み合わさって、スケールあり、緻密さありの音楽。単純な比較はすべきではないのでしょうが、昨年、同じ曲を下野さん指揮で聴いた東響の演奏も良かったのですが、N響は一枚上手と唸らざる得ない感じです。シューマンの交響曲2番を聴いてこれほど胸打たれたのは初めて。喜ぶべきか、悲しむべきかわからない、ピアノ協奏曲の余韻が上塗りされてしまった素晴らしい演奏でした。大ブラボー。

ありそうでない「シューマンの創作上の充実期を証する作品群」(プログラムノート)の儒実のプログラムと演奏。満足感一杯でホールを後にしました。

 

第1951回 定期公演 池袋Aプログラム
2022年2月6日(日)開演 2:00pm
東京芸術劇場 コンサートホール

指揮:下野竜也
ピアノ:小林愛実

シューマン/序曲、スケルツォとフィナーレ 作品52 —「序曲」
シューマン/ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
シューマン/交響曲 第2番 ハ長調 作品61

No. 1951 Subscription (Ikebukuro Program A)
Sunday, February 6, 2022 2:00p.m.
Tokyo Metropolitan Theatre

Tatsuya Shimono, conductor
Aimi Kobayashi, piano

Schumann / Overture, Scherzo and Finale Op. 52 − Overture
Schumann / Piano Concerto A Minor Op. 54
Schumann / Symphony No. 2 C Major Op. 61

 


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