その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、映画、本などなどについての個人的覚書。SINCE 2008

田尻望『付加価値のつくりかた』(かんき出版、2022)

2023-05-31 07:30:24 | 

仕事や事業を「付加価値」という切り口で観察し、その作り方のスキルを身に着けるための一冊。筆者が新卒で就職したキーエンス社での経験をもとに、「価値とはお客様が感じる(決める)もの」、「付加価値はニーズが源泉」という考え方からスタートし、付加価値を最大化するための具体的ノウハウが解説される。

キーエンス社は今を注目の高収益企業であるが、以前の職場で何度か打ち合わせをさせて頂いた。相手のニーズ、困りごとの本質を掴もうとする貪欲で粘り強い営業活動が印象的だった。数度の打ち合わせの結果、弊社は脈なしと見切られたのか、ぱったりと連絡が途絶えた。見込みが低い相手に時間を投入するのは生産性に見合わないと判断されたのかと、やや苦笑いではあったが、その営業ノウハウや仕事のプロセスはもう少し深く知りたいと思っていた。

私としてのおみやげは以下の点。

・付加価値を考えるトレーニング:「目の前の商品がどんな潜在ニーズを捉えて企画されているのか」を考えることを積み重ねていく
・現場を調査・観察して初めて潜在ニーズが見えてくる。サービスがどう買われ、使われているかを自分の目で確かめる。観察する。体験する。
・個人の判断や解釈ではなく、市場原理と経済原則に基づいて考える。企業側の個人の判断や解釈は、常に市場からずれている
・法人顧客へのアプローチは、「法人顧客が感じる価値」と「個人が感じる付加価値」を切り分けて考える。法人顧客が感じる付加価値は、エンドの「個人が感じる付加価値」から生まれる。目の前の法人顧客のニーズだけを見ていてはダメ。
・法人顧客を攻略する6つの価値:1)生産性のアップ、2)財務の改善、3)コストダウン、4)リスクの回避・軽減、5)CSRの向上、6)付加価値のアップ
・人は営業を受けるのが嫌いである。お客様が欲しいのは、「自分の成功」。業界の人は業界に詳しくないので、お客様はお客様の成功につながる市場の中の情報に気が付かない。お客様以上お情報を見つけて教えてあげるのが営業の役割。
・お客様のニーズのヒヤリングのポイントは「具体的にどういうことか?」「なぜそれが重要なのか?」「そのニーズを生んだお客さんの背景・状況」を把握すること

言葉として書き下してしまうと当たり前のことのように読める。マネジメントとしてのポイントは、「それが仕組みとして組織の中に落とし込まれているか」、「社員が理解し、実践することに拘っているか」に尽きる。キーエンスの強さはそこにあるのだと感じた。

簡単に読めるビジネス書であるが、大事なところが無駄なく書かれていて、まさに生産性の高い書籍であり、マネジメントや営業に携わるビジネスパーソンにおすすめです。

 

【目次】 

はじめに

第1章  付加価値における「価値」の話

「価値とは何か?」がわからないと報酬は低いまま
「価値の概念」を理解しないと、赤字確定!
「見切り発車」の新事業・新商品が利益を激減させる
「人の命の時間」をムダにする、価値のない事業
なぜ、お金を支払ったお客様から「ありがとう」と言われるのか?
「付加価値をつくる人」になるために

第2章  それは付加価値か、ムダか?

価値と付加価値の関係性
「それなら3倍以上支払ってもいい!」と思わせる価値
ニーズこそが付加価値の源泉である
付加価値には「仕組み=構造」がある
付加価値は「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」に支えられている
潜在ニーズをつかんでヒットしたあの商品
キーエンスではまず現場に「潜在ニーズ」を探しに行く
ニーズの裏にある「感動」こそが、付加価値の最小単位
付加価値の3種類

第3章  付加価値創造企業「キーエンス」

「構造」が成果=付加価値をつくる
最小の資本と人で、最大の付加価値を上げる
マーケットイン型企業「キーエンス」の思考法
市場原理と経済原則で考え「標準化」する
「世界初・業界初」で、付加価値戦略と差別化戦略を両立する
あなたの会社はなぜキーエンスになれないのか?
他社とは違うキーエンスの営業構造とは
キーエンスの構造に「ほころび」がない理由

第4章  法人顧客を攻略するための6つの価値

「顧客の先にいる顧客」にとっての付加価値を見定める
法人顧客が感じる付加価値は「個人が感じる付加価値」から生まれる
価値の王道「生産性のアップ」
変則的な手法「財務の改善」
最もわかりやすい価値「コストダウン」
理解しづらいからこそ価値がある「リスクの回避・軽減」
間接的な影響力を持つ「CSRの向上」
価値×価値で「付加価値がアップ」する

第5章  ニーズの見つけ方と付加価値の伝え方

付加価値をつくり出す組織の基本構造
「業界の人は業界に詳しくない」と認識すべし
お客様のニーズを「明確に、完全に、認識のずれなく」理解する
「現場」を見たことがない営業はお客様のニーズがわからない
「わかっている」と思った瞬間に二流になる
売れない人は「特長」を語り、売れる人は「利点」を語る
「だから何?」の先にある「お客様に起こる変化」を示せ
コストベースではなく「付加価値ベース」で価格決定する
高価格をつけるための3つの質問

第6章  つくった付加価値をいかに広げていくか

付加価値を最大化・最適化する「価値展開」
マーケターは「お客様が買う瞬間」を見なければならない
シーズは世界のどこかに落ちている
バックオフィスはどうやって付加価値をつくるのか?
「作業」ではなく「仕事」をする

おわりに

各章のまとめ


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おすすめ旅ラン @東京(お茶の水→ニコライ堂→神田明神→上野界隈→谷中→お茶の水)

2023-05-29 07:43:56 | 旅行 日本

今年のゴールデンウイーク後半は行楽地の混雑を避け、都内のお茶ノ水に宿泊しゆっくりしました。都民が都内にお泊りというのも贅沢な話ではあるのですが、普段とは異なった視点で東京を観るのも興味深いです。

今回はその旅ランコースをご紹介します。以前、2020年8月に水道橋→ニコライ堂→神田明神→湯島天神→根津神社→水道橋というルートでの朝ランを実施した記事をアップしました(こちら→)が、今回はその変形バージョンです。

朝、6時過ぎにホテルを出て、ニコライ堂横を通過。そのまま聖橋を通り、神田明神へ。


(ニコライ堂もようやく時間限定で入れるようになった様子です。もちろん朝6時では無理)

神田明神の境内には、朝のラジオ体操のため地域の人たちが三々五々に集まってきてました。簡単にお参りし、次は上野に向かいます。不忍の池に朝日が反射して眩しい。


(今年は久しぶりに神田祭が開催されます(ました))


(朝日が眩しい不忍池)

不忍の池の西端を北上します。上野動物園の裏を走ると、能舞台もあるちょっと雰囲気の良いお寺を発見。江戸時代に建てられた護国院というお寺でした。本堂には大黒天様が祀ってありました。このあたりの谷中七福神の一つだそうです。

更に行くと、寛永寺の入口を通過し、浄明院というお寺が。所縁によると「八万四千体地蔵」の寺というらしく、境内にはお地蔵様が沢山。


(寺門はちょっと朽ちた感じ)


(お地蔵さんが並んでます)





(東京六地蔵というものがあるらしい)

さらに北上すると、谷中霊園へ迷い込みました。墓地内を走っていると、霊園内のご案内があり、なんとここには徳川慶喜公のお墓があるとのこと!きょろきょろしながら走り、無事、発見。さすが、武家政権を終わらせる決断をした歴史上の人物。立派なお墓でありました。

既にスタートして1時間近く。お腹もすいてきたので、ホテルへ戻ります。周回約1時間30分弱で約10キロの朝ラン。今回も未知の東京に触れることができた楽しい東京観光ランでした。徒歩でもゆっくりとブラ歩きしたくなるエリアです。立ち寄り処はまだまだたくさんあるようですので、またトライしてみようと思います。

2023年5月6日


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伝統の強さ: ルイージ、N響、ベートーヴェン交響曲第6番「田園」 @サントリーホール

2023-05-27 07:40:26 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

5月はA・Cプロを所用で行けず、チケットを家族・友人に譲ったので、本Bプロの一本勝負となりました。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンという古典派巨匠の三役揃い踏みプログラムです。

前半も良かったのですが、個人的には後半のベートーヴェンの「田園」交響曲が特に刺さりました。N響で何度も聞いている曲ですが、こうした定番名曲の演奏はN響ならではの歴史・伝統の重みを感じます。過去から歴代名指揮者たちの薫陶を受け、積み上げてきた土台があって、さらにその上に新しい指揮者と演奏者が新しい石を積み上げる。正統派なのですが、お決まりでない。そんな空気が音楽全体から感じられるのです。

ルイージさんの音楽はテンポや強弱の振りはあるものの、きわめてオーソドックスに聴こえます。N響メンバーの個人技とアンサンブルで、実に豊潤で繊細で時として剛毅な生きた音楽が生まれてきます。クラリネット、フルートのソロには痺れましたし、マロさん・郷古さんのダブルコンマスや、チェロも辻本さん、藤森さんのダブル主席が演奏し、弦のアンサンブルは重層的で張りがあります。若鮎のように、一つ一つの音が生きて飛び跳ねているのが見えるよう。至福の時間でした。

前半は、モーツァルトのホルン協奏曲第3番の福川さんのソロが素晴らしい。この曲、学生時代に思い出があり好きな音楽なのですが、実演に接するのは確か2回目。福川さんの柔らかで含みのあるホルンの音色とN響メンバーとのコラボを満喫しました。

1曲目のハイドンもアクセントある聴きごたえのある曲でしたが、昼間の疲れが溢れ、途中でダウン。ごめんなさいでした。

Twitter上で多く指摘されているとおり、ハプニングや問題もあった聴衆席であったのはその通りで残念でした。2000名前後の人が集まっているわけですから、なんかは起っちゃうでしょうが、最低限のマナーには気を付けて欲しいものです。




定期公演 2022-2023シーズンBプログラム
第1985回 定期公演 Bプログラム
2023年5月25日(木) 開演 7:00pm [ 開場 6:20pm ]

サントリーホール

曲目
ハイドン/交響曲 第82番 ハ長調 Hob. I-82「くま」
モーツァルト/ホルン協奏曲 第3番 変ホ長調 K. 447
ベートーヴェン/交響曲 第6番 へ長調 作品68「田園」

出演者
指揮:ファビオ・ルイージ
ホルン:福川伸陽

 

Subscription Concerts 2022-2023Program B
No. 1985 Subscription (Program B)
Thursday, May 25, 2023 7:00pm [ 6:20pm ]

Suntory Hall

Program
Haydn / Symphony No. 82 C Major Hob. I-82, The Bear
Mozart / Horn Concerto No. 3 E-flat Major K. 447
Beethoven / Symphony No. 6 F Major Op. 68, Pastoral

Artists
Conductor: Fabio Luisi
Horn: Nobuaki Fukukawa


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見仏はやっぱりお堂が一番!: 限定3時間奈良見仏

2023-05-25 07:30:07 | 旅行 日本

朝ランから7時半過ぎに宿に戻った後、シャワーを浴びて、すぐにチェックアウト。奈良を11時に出なくてはいけないので、8時から制限時間3時間の奈良観光をスタート。奈良と言えば見仏しかない。

【三月堂(法華堂)】

まず向かったのは、さっき横を走ったばかりの東大寺の三月堂(法華堂)。奈良の中でも個人的にもっとも落ち着くお堂であり、奈良に来たからには必ず訪れなくてはいけないところ。8時半からの拝観のはずなのだが、8時20分に到着した時にはもう開いていた。

753年創建とされる東大寺の中でも最古の建物は実に品の有る佇まい。そして、中の仏像群が素晴らしい。本尊の不空羂索観音像を中心に10体(国宝、奈良時代)の仏像が並ぶ。この静寂のお堂の中で仏像たちが放つそのエネルギーや気にあてられるだけで、心身が浄化される。

うれしいのは、このお堂には仏像と対面しながら座れる小上がりがあること。小上がりに腰かけながら、仏さまと対話する。

【不動堂】

続いて、三月堂脇の案内表示に導かれ、東大寺敷地の東端にある不動堂を訪れる。こぢんまりとして、言いようによってはどこにでもあるようなお堂は江戸時代の建物とのこと。お堂の外縁から中をのぞいていると、寺務所のお坊さんが「どうぞなかにおはいください」と言ってくれた。

恐る恐る障子をあけて、中に入る。誰も居ない。中央に護摩壇があり、その前は5名も入れるかどうかぐらいの大きさ。部屋にはお香の匂いが立ち込めている。護摩壇の奥には、五大明王像が祀られていた。護摩壇の前で正座し、静寂の中で明王様とご対面。

【四月堂】

不動堂を出て、二月堂の前の四月堂に立ち寄る。かつて旧暦の4月に法華経に由来する法華三昧会が行なわれたことから、四月堂の通称がある(東大寺HPより)とのこと。平安時代の治安元年(1021)に創建されたとの記録が残るらしいが、現在の建物は江戸期とのこと。不動堂よりも一回り大きいが十分に小ぢんまりとしたお堂の中に入ってお参り。

中には、十二面観音像や普賢菩薩騎象像が安置してある。小さいお堂にぴったりの小さな仏さまだ。これはこれで親近感を覚える。不動堂と同様、中にいるのは私だけなので、じっくりと仏さまを近くで拝見したり、座ってなんちゃって座禅を暫し試みたりした。落ち着くなあ~。

【東大寺ミュージアム】

 二月堂のエリアを離れ、大仏殿近辺に戻る。丁度、東大寺ミュージアムの開館の9時30分。仏像好きを自認するにはお恥ずかしい話だが、初めて東大寺ミュージアムを訪れた。

東大寺の秘宝を集めたミュージアムは見応え満載。とりわけ、仏像コーナーでの千手観音菩薩(木造 彩色 平安時代)の優しさと威厳が両立した美しさと両脇を固める日光菩薩立像と月光菩薩立像(いずれも塑像 彩色 奈良時代)の落ち着いたお姿は壮観だ。更に国宝の四天王立像や吉祥天像、弁才天像も見応えたっぷり。

ただ、ミュージアムでの見仏は東京の展覧会企画でもあるし、奈良である必要はない。国宝のお値打ち仏像ではあるが、やっぱりもともとあった法華堂にあったらまた全然違った雰囲気なんだろうなあと思った。

【興福寺 東金堂】

ミュージアムを出ると周囲の風景が全く違っていてびっくり。観光客がぞろぞろと現れていて、外国人観光客は鹿に餌を与え、狂喜している。これはこれで奈良っぽくて良いし、微笑ましい。

さ~て、残り時間は45分をどう使うか。荷物を預けたホテルに戻りがてら、興福寺の東金堂を訪れることにした。

見仏客が多く落ち着いてゆっくりという雰囲気ではなかったが、お堂の中に林立する仏像は見事としか言いようがない。中央に本尊の薬師如来座像、その脇を文殊菩薩座像と維摩居士菩薩坐像、日光・月光菩薩像が固める。そしてさらにその周りを十二神将像。四天王立像が睨みを利かせている。全てが国宝・重要文化財。

安寧と緊迫が混じった、微妙なバランスに満ちた空間。これはミュージアムでは味わえない空気である。できれば、朝の二月堂のように静寂の中で、ご対面できたらとは思う。そしたら、どんな感動があるのだろうか。無いものねだりをしてもしょうがないので、残り時間をフルに使って、仏さまを拝ませていただいた。

この日の3時間奈良見仏の結論。やっぱり、見仏はお堂に限る!

2023年5月13日


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おすすめ旅ラン @奈良: 東大寺、若草山、春日大社

2023-05-22 07:30:19 | 旅行 日本

先週末、所用で大阪へ。まわり道して、奈良に立ち寄り旅ランを楽しみました。過去に何度かご紹介してますが、朝の奈良ランニングは私のお気に入りアクティビティです。

JR奈良駅近くに取ったビジネスホテルを早朝6:00に出発。東大寺を目指します。いつ見ても南大門の壮大さ、金剛力士像の力強さには胸打たれます。


(東大寺南大門 大きさがなかなか伝わらないのが残念)


(仁王様。見上げるという表現がぴったり。怖すぎの表情)

(像高8.4m!このお兄さんも背高かったですが、それでも・・・)

東大寺大仏殿を廻りこんで、二月堂へ向かいます。この二月堂裏参道の風情が大好きです。堂内の階段もとっても趣たっぷり。こんなところを駆け足で上って良いもんだろうか?

お堂に上がると、奈良盆地が一望。気持ち良いです。周囲は観光客よりも、地元の毎日のお参りに来られている方が多いような印象です。お互い顔見知りのようで、朝のご挨拶をされています。


(二月堂裏参道)


(二月堂の階段。この間のNHKBSのドラマ「犬神家の一族」にも似たような階段出てたけど、あれは長谷寺かな?)


(二月堂から見下ろす奈良盆地)

続いて、若草山へ。奈良の鹿は毎度のことながら本当に不思議ですね。奈良公園の至る所をウロウロしてますし、人を全く恐れない。奈良に来ると、これが当たり前なのですが、これって相当凄いことですよね。


(山際から朝日が顔を出します)



そして、春日大社へ。個人的には、神社よりもお寺好みなのですが、神社にはお寺には無い空気を感じるのも確かです。風が流れている感じ、自分が浄化される感覚は神社ならではですね。








(春日大社の参道)


(朝日も大分昇ってきました。7:15頃です)

ホテルに戻ったのは7:30過ぎ。1時間半かけて8k弱のランなので、通常の半分ペースですが、静寂の奈良のラン、いつも素晴らしいです。是非、奈良にお出かけの際は、お試しください。

2023年5月13日 6:00-7:35


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伊藤穣一『テクノロジーが 予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』 (SB新書、2022)

2023-05-18 07:19:10 | 

元MITメディアラボ所長で現在は日本に帰国しデジタル庁「デジタル社会構想会議」のメンバーなどを務めている伊藤穣一氏が、Web3、メタバース、NFTなどの最新のテクノロジーの社会に与える影響を解説した一冊。働き方、文化、アイデンティティ、教育、民主主義へのインパクトが考察される。

例えば、個人の働き方はDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)によるプロジェクトベースになっていく。作業はブロックチェーン上で行われ報酬はDAOが発行するトークン、暗号資産で支払われる。仕事の内容・場所・時間も、自分主導で決めていくことになる。

また、教育分野においては、学び方は「プロジェクト・ベース・ラーニング」から「パーパス・ベース・ラーニング」になり、より目的が重要視される。クリエイティブ・コンフィデンス(自分の創造性に対する自信)を育て、DAOに代表される分散型社会で自分から手を挙げられる人になっていくことが大切である。

最終章で筆者は日本における法整備の遅れ、国内市場向きの日本企業に対する危惧が示される。が、昨今、安い日本をはじめ「いけてない日本キャンペーン」が絶賛推進中だが、確かにこうした新技術への姿勢にも「いけてなさ」は否定できない。

その「いけてなさ」は私自身にも大いに当てはまる。本書を含め、Web3らの次世代技術については数冊の入門本を読んで、いわゆる概念やその革新性は少しづつ理解が進んだ。ただ、正直、まだ私自身の肌感覚的にはピンとこない。暗号資産やNFTとかもまずは一回自分で使ってみないといけないのだろうなあとは思うのだが、どうも怪しさがぬぐいきれない。いけてない日本のいけてない自分を見るようでちょっと情けないところでもある。

内容的には同類書でも触れられているようなものが中心で、取り立てで伊藤氏だからという箇所は少なかった印象だが、まあ後は如何に自分の経験知としていくかなのだろう。DAOへの参加など、突破口を見つけてみよう。

 

【目次】

序章 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる
・Web1.0 、Web2.0、そしてweb3は、どんな革命を起こしたか
・web3のキーワードは「分散」
・世界はディストピア化する?
など

第1章 働き方――仕事は、「組織型」から「プロジェクト型」に変わる
・ビジネスは「映画制作」のようになる
・プロジェクトは「パズルのピース」を組み合わせるものへ
・より手軽に、より強く結びつき、成し遂げる
など

第2章 文化――人々の「情熱」が資産になる
・ブロックチェーンで実現した真贋・所有照明
・「NFTバブル」の次に来るもの
・「かたちのない価値」が表現できるようになる
など

第3章 アイデンティティ――僕たちは、複数の「自己」を使いこなし、生きていく
・人類は、「身体性」から解放される
・ニューロダイバーシティ――「脳神経の多様性」が描く未来
・バーチャル空間の「自分の部屋」でできること
など

第4章 教育――社会は、学歴至上主義から脱却する
・学歴以上に個人の才能を物語るもの
・学びと仕事が一本化する
・学ぶ動機が情熱を生む――web3がもたらす「参加型教育」
など

第5章 民主主義――新たな直接民主制が実現する
・ガバナンスが民主化する
・衆愚政治に陥らないために
・既存の世界は、新しい経済圏を敵視するか
など

第6章 すべてが激変する未来に、日本はどう備えるべきか
・最先端テクノロジーが、日本再生の突破口を開く
・「参入障壁」という巨大ファイヤーウォールを取り払う
・デジタル人材の海外流出を防げ
など


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本能で聴いた!: ジョナサン・ノット/東響 R.シュトラウス:歌劇「エレクトラ」(演奏会形式)

2023-05-16 07:34:01 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

昨年のサロメに続くノット/東響のR.シュトラウスのオペラシリーズ。当然、高い期待があったものの、歌手陣・オーケストラともにその高い期待の更にはるか高く上回った圧倒的なパフォーマンスで、打ちのめされた1時間40分だった。

歌手陣のレベルの高さは誰もが出色だったが、中でも題名役のクリスティーン・ガーキーは異次元の歌い手だった。第一声が発せられた時から、ホールの空気がガラッと変わる。まず声量が半端ない。前列8列目に陣取った私にも空気圧が感じられるとてつもないヴォリューム。しかも声質も柔らかく伸びやか。演技も迫真で、まるでエレクトラが乗り移ったのではと思わせるほどであった。

クリテムネストラ役のハンナ・シュヴァルツも歌声が安定していて、威厳を感じるほどの存在感があった。舞台が非常に引き締まるのである。驚いたのは、終演後にTwitterで知ったのだが、今年80歳になるとのこと。驚愕である。

待女役の日本人女性歌手陣も素晴らしかった。冒頭、侍女たちのおしゃべりで始まるのだが、緊張感あふれ、これからの悲劇を予感させるような表現豊かな歌唱とコーラス。あっという間に「エレクトラ」の世界に引っ張り込まれた。メンツを見れば、日本のトップクラスの女性歌手陣たちで、それも納得である。

男性陣では、オレスト役のジェームス・アトキンソンも私好みの歌声だった。細身の体躯から発せられる低音はずしっと落ち着いて安定感がある正統派。エレクトラとの再開場面は、コンサート方式ではあるものの二人の熱演に痺れ、涙した。

ノット監督と東響の集中力も尋常ではなかった。プレイヤー夫々が120%の力を出し切っている集中度で、ステージから発せられる爆音も普通ではないレベル。正直、どこの誰の演奏が良かったというような判別が困難なほど、オケが一体となった火の玉演奏だった。熱意と気合に満ちたプロの演奏がまとまった時はどんなパワーが出るのかを見せつけられた演奏でした。

作品としては物語的にも音楽的にも私には複雑すぎで、私はその深みを縁から覗いているに過ぎない。それでも、この物語と音楽が否が応に突きつけてくる迫力に本能的に立ち向かって全身で格闘した1時間40分だった。

終演後の聴衆からの狂乱的な拍手と声援もクラシックのコンサートとは思えない程。この場に居合わせた自分の幸運を祝いたくなる。ノット監督を初め、歌手の皆さんも、何事かと驚きながら、喜んでいるように見えた。

一生に何度も無い音楽体験、演奏会体験であったことは間違いない。

 

東京交響楽団特別演奏会 R.シュトラウス:歌劇「エレクトラ」(演奏会形式)
サントリーホール
2023年05月14日(日)14:00 開演

出演
指揮=ジョナサン・ノット
演出監修=サー・トーマス・アレン

エレクトラ=クリスティーン・ガーキー
クリテムネストラ=ハンナ・シュヴァルツ
クリソテミス=シネイド・キャンベル=ウォレス
エギスト=フランク・ファン・アーケン
オレスト=ジェームス・アトキンソン
オレストの養育者=山下浩司
若い召使=伊藤達人
老いた召使=鹿野由之
監視の女=増田のり子
第1の侍女=金子美香
第2の侍女=谷口睦美
第3の侍女=池田香織
第4の侍女/ クリテムネストラの裾持ちの女=髙橋絵理
第5の侍女/ クリテムネストラの側仕えの女=田崎尚美

合唱=二期会合唱団

曲目
R.シュトラウス作曲、歌劇《エレクトラ》
(演奏会形式/全1幕/ドイツ語上演/日本語字幕付き)※途中休憩なし


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寄席最高! @浅草演芸ホール

2023-05-14 07:35:13 | 日記 (2012.8~)

ゴールデンウイークに浅草演芸ホールに落語鑑賞に行きました。地元のホールで開催されるホール落語にはちょくちょく足を運ぶのですが、寄席は数十年ぶり。

いや~、楽しかったですね。お昼の部の途中から夜の部の途中までまるまる5時間、たっぷり笑いました。一人15分枠で入れ代わり立ち代わり芸人が変わりますから、集中力が途切れません。また、3~4人の落語のあとには、紙切りや漫才などが入りますから、それはそれでちょっとした気分転換にもなります。

この日は、林家時蔵、三遊亭白鳥、柳家三三、林家正蔵、古今亭菊之丞、林家木久蔵、林家木久扇などなど、私も聞いたことある、知っている落語さん達が多数出演し、夫々の個性を楽しみました。新しい落語さんとの出会いもあり、カタログ的に一度に多数の芸風にぐれることができるのは寄席の楽しみですね。

ゴールデンウィーク真っ只中ということもあり、会場は立ち見も多数で満員御礼状態。芸人さん達も、コロナで苦しい時期を振り返ってはネタにして、とっても嬉しそうでありました。私もこんな密なホールで、もうコロナ本当に大丈夫と言えるのか、と少々不安ではありましたが、こうした興行は満員の熱気に勝るものなしと得心。

17:00過ぎにホールを出て、せっかく浅草まで来たのだから仲見世や浅草寺にも寄っていこうかと思いきや、周囲は観光客らで凄い人出。完全にコロナ前に戻った感じです。人に酔ってしまうと、後に差し支えますので、この日は演芸ホールの一本勝負で留めました。



2023年5月4日


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大人にもお勧め: 田中 孝幸『13歳からの地政学: カイゾクとの地球儀航海』(東洋経済新報社、2022)

2023-05-12 09:59:57 | 

中高生に分かるように書かれた、ストーリー仕立ての地政学入門であるが、大人にとっても勉強になる内容だ。

既知のことも含めて、以下のような内容を確認したり学ぶことができた。(※は本書より、☆は個人的つぶやき)

・現代世界にあっても、海の支配の重要であること(※世界貿易の9割以上は海運による)
・核兵器は①原子力潜水艦、②海中からのミサイル発射、③深くて安全な海の3条件が揃って最強のアイテムとなる(※中国の南洋進出)
・大国の侵略的な行動は自国を守ろうとする心理が強く働く(☆まさにウクライナ進攻のロシア)
・小国は遠交近攻で近くの大国に圧倒されないよう必死でバランスをとる(☆ウン十年前だが、日米中の三角関係は学生時代に国際関係論の授業で少し勉強したな~)
・選挙が有効となる前提は、負けた側も結果を受け入れ、勝った側も負けた側の論理を一定程度重んじることにある(☆前回の米国の大統領選が良い悪例)
・アフリカが貧しいのはお金が大量に欧米に流れ自国に残らないことが大きい(☆これも学生時代に開発経済学で少しかじった)
・1)大国に挟まれ、2)他国との境界に川や山などの自然障害物がない、3)天然資源や港などがある、半島は攻められやすい(※クリミア半島、朝鮮半島。古くは山東半島?)
・地球温暖化を天然資源の開発を助けるとしてポジティブに捉える国もある(※北極海が溶ければ、北の資源を掘りやすく、海路も開け、ロシアにとっては都合が良い)

あくまでも地政学の話に限定しているので、宗教や民族といった他の要素については殆ど触れられていない。なので、中高校生にはこれだけで世界が読み解けるわけではないことは分かってほしいなあと思った。また、これも地政学であるが故に、現実主義に徹しているので、現状の世界を見るための視点は学べるが、未来を創るための視点は弱いのは、これからの時代を担う中高生向けとしてはやや歯がゆい所ではあった。無いものねだりとも言えることでもあり、2時間程度あれば読めるので忙しい大人にもお勧めします。

余談だが、筆者の田中孝幸さんが謎である。著者紹介には、国際ジャーナリストとは書いてあり、特派員経験とかがあるようだが、派遣元がどこか書いてないし、書いてあることは検証不可能な経歴ばかりなのだ。本書の「カイゾクさん」に見立ててるのだろうか?

 

【目次情報】
プロローグ カイゾクとの遭遇
1日目 物も情報も海を通る
2日目 日本のそばにひそむ海底核ミサイル
3日目 大きな国の苦しい事情
4日目 国はどう生き延び、消えていくのか
5日目 絶対に豊かにならない国々
6日目 地形で決まる運不運
7日目 宇宙からみた地球儀
エピローグ カイゾクとの地球儀航海

 


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親鸞の足跡を辿って京都1日旅(3/3):法界寺・日野誕生院・六角堂

2023-05-10 07:27:31 | 旅行 日本

【法界寺】

東山駅から地下鉄東西線を使って、親鸞生誕の地の日野の里に向かいました。日野エリアは京都駅から見て南東方向に当たります。東山駅から石田駅まで20分弱乗り、そこから徒歩で20分ほどで到着(路線バスもありますが日中帯は1時間に1~2本ほどしかありません)。(グーグルマップは、現在地からどういう経路が最短か地図付きで教えてくれるので、本当に助かります。便利な世の中になりました)

辺りは親鸞の実家の下級貴族日野氏の居住エリアだったそう。今は、京都郊外の住宅地の趣です。法界寺は日野氏の菩提寺となります。


(入口)

訪問者は私一人。藤原時代に建てられたという阿弥陀堂は国宝です。お坊さんにお堂を開けて頂き、中で建物や仏さまについて一通りの説明を頂きます。説明を受けた後は、お堂に一人残り、静寂の中、仏さまとの対話タイム。宇治の平等院の阿弥陀如来と同じ時期につくられたという大きな阿弥陀如来様はなんとも大らかな御尊顔(こちらも国宝)。そして、周囲にはかなり色あせてしまっていますが、天女さんの絵が壁や柱に描かれているのも平等院と似通っています。暫しこの贅沢な空間を独り占めし、身を委ねていると、自然に気持ちが落ち着いてきます。


(国宝の阿弥陀堂)

阿弥陀堂の隣には薬師堂があります。こちらは 室町期のもので重要文化財です。法界寺は日野薬師とも言われているのもこの薬師堂が由来とのことです。本尊の薬師如来は秘仏とのことで残念ながら見られませんでした。境内には池があり、ベンチに腰掛けぼんやりと時間を過ごしました。


(薬師堂)


(何を撮っているのだが良く分からないですが、池から阿弥陀堂を望んだ絵)

【日野誕生院】

法界寺の隣に日野誕生院という日野氏所縁の寺院があるとのことで、そこにも立ち寄りました。江戸時代後期に建立され、西本願寺の飛び地の扱いとなっているとのことです。ただ、現在の建物は昭和六年に建てられたのとのことで、特筆するようなものはありませんでした。




隣接して誕生院保育園という保育園があり、その敷地内に、親鸞の胞衣塚と産湯の井戸があるということでしたので、こちらが親鸞フリークにとっては本丸かもしれません。保育園の敷地に入るので、寺務所にお願いして入れてもらう必要があるとのことでしたが、無人の寺務所から人を呼び出しお願いするにはちょっと疲れていて断念しました。


(親鸞聖人御誕生之地)


(親鸞銅像。6歳の時らしい)

【六角堂】

いよいよ駆け足の親鸞ツアーも最終目的地へ。京都に戻り、閉門間近の紫雲山頂法寺(六角堂)を訪れました。このお寺、なんと聖徳太子が建立し、初代住職は遣隋使で有名な小野妹子とのことです。親鸞が20年間の比叡山生活の後に参籠し、ここで観音菩薩の姿になった聖徳太子から夢告を受けたとされる聖地です。

夕刻の陽が傾きかけた時間帯に、ビルに囲まれた六角堂は独特の趣を感じます。ビジネス街に位置しながらも、ひっきりなしに参拝客が訪れ、人々の生活に根付いた庶民的な雰囲気を感じます。お堂も賽銭箱や鐘が設置してあって、神社のような雰囲気もありました。お堂の奥には如意観音様が見えます。庶民にとってのビルジャングルの中の心身の休憩所といた感じです。








(隣のビルのエレベーターから。しっかり六角)


(網の奥には如意観音様が)

境内を巡っていると、親鸞とのご縁よりも池坊いけばな発祥の地とか聖徳太子のゆかりと言ったところが強調されている感じがしました。やっと帰り際に、お寺の脇に佇む親鸞像を発見。笠が深く、お顔が影になってわからなかったのは残念。午後5時、閉門のアナウンスが流れ、本日の親鸞ツアーは終了となりました。


(本日3体目の親鸞聖人)

1日限りの親鸞の足跡を辿る駆け足京都旅でしたが、これまでの京都旅行とは違った角度で京都を知ることが出来て、私としては十分満足。

今回は、親鸞特集を組んだ旅行雑誌「時空旅人」を参考にルートを組み立てました。京都以外にも越後、常陸での縁の地が紹介されていますし、京都もまだまだご縁の地があります。親鸞についてももう少し勉強し、時間を見つけて未踏の地を訪ねていきたいと思います。


(今回の旅のガイド「時空旅人」)

 


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親鸞の足跡を辿って京都1日旅(2/3):青蓮院・大谷祖廟

2023-05-07 07:46:57 | 旅行 日本

【青蓮院(しょうれんいん)】

親鸞展の鑑賞に想定以上時間がかかってしまったので、京都国立博物館を出たのは正午を廻っていました。「こりゃ、昼飯抜きだな」と観念し、次なる目的地である東山にある青蓮院へ。


(知恩院の脇道から青蓮院門跡へ向かいます。新緑の楓が美しい)

天台宗総本山比叡山延暦寺の三門跡の一つとして古くから知られた名刹です。親鸞は九歳の時に慈圓についてここで得度しており、まさに坊さん親鸞の始まりの地です。


(門跡入口横の楠がとっても大きい)

外国人観光客を筆頭に観光客で溢れていた京都中心部でしたが、ここは人も疎らで、落ち着いた京都らしい寺院の佇まいが味わえました。つい先ほど鑑賞していた「親鸞伝絵」でも、得度の場面が描かれていましたが、まさにこの場であったと思うと感慨もひとしお。


(宸殿。親鸞が得度をしたのは焼失前の宸殿であり、この部屋は「お得度の間」と呼ばれてます)


(華頂殿から庭を眺めます)

綺麗に整備されている庭園も散策し、子どもの親鸞像とも面会。一部工事中なので電気工具の音がやや興ざめでしたが、新緑が 目にしみる素晴らしい季節を堪能しました。


(得度した少年親鸞)

【大谷祖廟】
続いて、比叡山を降りた親鸞が法然のもとで教えを受けた吉永草庵の跡(現在は安養寺)を目指します。ただ、残念なことに私のグーグルマップの設定もしくは読み方がまずかったのか、いっこうにお目当ての安養寺には辿りつけず。代わりにあったのは大谷祖廟(真宗大谷派の御廟)。これも何かのお導きと思い、親鸞の御廟へお参り。

(本堂)

この日も大谷派の御廟として、多くの信者さんがお参りや納骨にいらしていました。鎌倉期とはもちろん大きく信仰の姿は変わっているはずですが、今も生きている信仰であることに、改めて過去と現在のつながりを強く感じました。


(親鸞の御廟)

さて、いよいよこの後は、親鸞生誕の地、日野の里へ向かいます。


(大谷祖廟から東山駅へ。白川沿いに少し歩きました)

(つづく)


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親鸞の足跡を辿って京都1日旅(1/3):親鸞聖人生誕850年特別展 親鸞─生涯と名宝 @京都国立博物館

2023-05-06 07:30:55 | 旅行 日本

新緑眩しい4月下旬、親鸞の足跡をたどって京都の1日旅行に出かけました。子供の時分、信徒であった同居の祖父母とともに家での念仏に一緒し、意味も分からないまま正信偈だけは暗唱していた私にとって、系統だった学びは全くないのですが、親鸞聖人は何となく特別な存在でありました。一緒に念仏に唱えた祖父母や父が逝って、今や私が念仏を唱えるのも法事の時ぐらいになりましたが、今年が親鸞聖人の生誕850年と知り、一度、日本史上の人物として一度、親鸞について触れてみようと思い立ったわけです。

一番の目玉は、生誕850年を記念して京都国立博物館にて開催中の親鸞展。朝7時過ぎの新幹線で東京を出発し10時前には目的地に到着。京都国立博物館を訪れるのは初めてです。

浄土真宗は10にも及ぶ宗派がありますが、夫々の宗派が持ち寄ったお宝を中心とした展示は質・量ともに目を見張るものでした。個人的に一番の注目だったのは、直筆の『教行信証』の展示。「坂東本」と言われる東本願寺に伝わる国宝です。普段、東本願寺に行ってもこんな秘宝はお目に掛かれないと思います。整った字体で、読み下しの記号やカナがふってあります。これが親鸞聖人のものかと思うと850年の年月を飛び越えて、お知り合いになった気分。

また、親鸞が書き写した経典「観無量寿経」にも魅かれます。親鸞が書写し、注釈などのメモが紙一杯に記されています。直筆の手紙なども多く展示があり、親鸞の勉学のプロセスや様子、考えなどが伺われ、身近でリアルな人物として感じられます。

さらに、曾孫の覚如がまとめた親鸞の一生を追う絵巻物「親鸞伝絵」は個人的に心を打たれました。子供のころ、祖父母に読んでもらった絵本の一つに、親鸞の生い立ちや布教活動を追うものがあったのをうっすら覚えているのですが、なるほど、あの絵本の種本はこの「親鸞伝絵」だったのです。昔の朧げな記憶がふと蘇り、今更のように膝を打ちました。

展示に関して言うと、本展に限った話ではないのですが、古文書を展示にコンテンツそのものの紹介が無いのは残念です。せっかくの手紙や諸文書もここに何と書いてあるのか、何を言おうとしているのかが殆どわからないままに終わってしまうんですね。一つ一つの展示物の内容を詳細解説をつけるのは時間も手間も無いのは分かるのですが、なんか工夫はないものなのかなあ。

思想的なところや教えの部分については、私自身、十分な理解を持ってないので多分に誤解を含む可能性ありですが、阿弥陀仏にすがって念仏を唱えれば極楽に行けるという、とっても分かりやすい教えが今の世よりも遥かに自力の範囲が限られた中世の時代、多くの庶民に受け入れられていったのでしょうね。

そして、それが脈々と現代にまでひきつがれているって、ある意味凄いです。一方で、「自己責任」論が幅を利かせ、ライフハックによる自己啓発が盛んな今の世において、この親鸞の教えは両立しうるのか、その教えは今の世の中でどういう意味を持ちうるのか、世俗にまみれた私にはなかなか答えの方向性すらつかめません。

自分史との照合とともに、様々な思いがよぎった展覧会でした。無理して来て、本当に良かったです。

【構成】

第一章 親鸞を導くもの—七人の高僧—
第二章 親鸞の生涯
第三章 親鸞と門弟
第四章 親鸞と聖徳太子
第五章 親鸞のことば
第六章 浄土真宗の名宝—障壁画・古筆—


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骨太な歴史フィクション: 小川哲『地図と拳』集英社、2022

2023-05-05 07:30:49 | 

日露戦争前からアジア・太平洋戦争後の時代における、満州の架空の都市仙桃城を舞台にした大河小説。満州を巡って、国としての日本、現中国、ロシアの国としての進路、そして日本人、漢人、満州人、ロシア人の生き様が描かれる。

歴史的事実・背景を抑えた上で、ミステリー小説のような手に汗握るストーリー展開、個性豊かな登場人物たち、地図・建築・都市の歴史といった知的要素が絶妙に組み合わされて、物語に没入する興奮の600ページだった。作者の強い課題意識や思いが伝わってくる。

「地図」は、太古の時代に獲物探しの情報ツールとして人類が発明して以来、人の歴史と共にあった。そして、国家のものとして、徴税、戦争に活用される。本書は、満州という国、仙桃城という都市が地図を起点に描かれる。「国家とはすなわち地図である」と主人公とも言える細川は言う。

「拳」は暴力、争いであり、これも太古の時代から人類の歴史と共にある。「世界から「拳」がなくならないのは、地図上の人類が住む居住仮可能な地を求めて戦う」とも細川は言う。

「坂の上の雲」を追いかけつつ、日本史上、国としての最大の危機を招いた明治後期から昭和の時代における、様々な日本人の考えや行動、そして侵略される側であった現中国の人たちを通じて、国家、戦争、個人の幸福、夢について考えさせられる。

ウクライナでの戦争をはじめ、現代は第3次世界大戦の入り口に差し掛かっていると言うのは、過言ではないだろう。その中で、本書に触れることは、日本や世界の置かれた立場への視座を得ることができるし、そこで生きる人々への想像力の面からも意義は大きい。お勧めできる一冊だ。


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バレエって本当にいいですね~: 新国立バレエ、シェイクスピア・ダブルビル 〈マクベス〉/〈夏の夜の夢〉 

2023-05-03 07:20:25 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

 

ここ数年バレエとはご無沙汰していたのですが、今回はシェイクスピアのダブルビル。それも私の一番好きなシェイクピア悲劇でしかも世界初演の「マクベス」と私の一番好きなシェイクピア喜劇「夏の夜の夢」の2本立て。これは何が何でも行かねばということで、新国立劇場オペラパレスに見参。

2作品で、悲劇と喜劇、暗と明、陰と陽のバランスが絶妙に取れた充実のシェイクピア・バレエ公演でした。

前半は「マクベス」。芝居で見ると3時間近くはかかる戯曲が、テンポよく場面が入れ替わり1時間のバレエで表現されます。戯曲の台詞を思い出しながら、各場面でのバレエでの振付や原作との変更点などバレエの「マクベス」を楽しみました。

マクベスとマクベス夫人の愛を中心に描いたという振付は、マクベス夫人を踊った米沢唯さんの圧倒的存在感とパフォーマンスが印象的でした。唯さんの表現が艶めかしくてドキドキしてしまうほど。表情豊かが群を抜いていました。

音楽はジェラルディン・ミュシャさんの組曲版をこの日の指揮者でもあるマーティン・イェーツさんが編曲したもの。「マクベス」の世界観をイメージどおりに緊張感あふれ、スコットランドの曇り空を象徴するような重めの音楽です。

ただ、「マクベス」はバレエの題材としてはどうなのかと疑問が湧いたのも事実。殺人シーン多く、血で赤く染まる舞台など、どうも血が滴るバレエって、個人的にバレエに期待したいものとは多少違います。

また、戯曲や芝居の刷り込みが強すぎるせいか、「きれいはきたない。きたたないはきれい。」、「マクベスは眠りを殺した」、tomorrow speechの無い「マクベス」って、クリープの無いコーヒー的な感は否めませんでした。この辺りは、何度か見れば、バレエならではの発見があるかもしれません。唯さんの素晴らしい表現は感動したものの、物語をバレエで追ったレベルに止まってしまいました。

後半は前半と180度逆を行く夢話。アシュトンの振付によるバレエは、ダンサーたちの踊りや舞台演出など完成度高いもので、流石と唸らせる好演でした。

個人的に最も目を引いたのは、パック役の山田悠貴さんです。躍動的な身体性に加え、騒動のきっかけになる影の主役を表現豊かに演じていました。とっても華あるダンサーとの印象です。

ティータニア、オーベロンをはじめとする3組のカップルもそれぞれ魅力的だし、ボトムもコミカルに舞台を盛り上げてくれて、本当に楽しい。観ていて幸福感が増す気にさせてくれるバレエの典型でした。

私的に嬉しかったのは、やっとメンデルスゾーンの劇音楽とバレエをセットで鑑賞できたこと。演奏会で何度か聴いているこの音楽ですが、劇付きで観ることで初めて。この音楽はこの場面だったのね、と納得すること多数。マーティン・イェーツ指揮の東フィルの演奏もふくよかで、合唱も美しくて素晴らしい。もともと好きな音楽がより立体的、視覚的に楽しめて嬉しかった。

前半と後半で好対照の作品をダブルビルとしてまとめることで、作品の特徴を相互に浮き上がらせる効果も抜群。スケジュールが合えば小野絢子さんのマクベス夫人の公演も行きたかったのですが、久しぶりのバレエを堪能できた連休谷間の夜でした。

(5月2日観劇)

 

[余談:この日は3階席最前列に陣取り。いつもオペラは4階席なので、1フロア降りただけでこんなにも舞台の近さ、見やすさが違うのかと驚き。これだけ違うとなると、普段のオペラもお財布と相談して、席考えねばならんなと思った次第]

 

シェイクスピア・ダブルビル
マクベス<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>/夏の夜の夢<新制作>
Shakespeare Double Bill
The Tragedy of Macbeth / The Dream
公演期間:2023年4月29日[土・祝]~5月6日[土]
予定上演時間:約2時間30分(マクベス60分 休憩30分 夏の夜の夢60分)

『マクベス』
【振付】ウィル・タケット
【音楽】ジェラルディン・ミュシャ
【編曲】マーティン・イェーツ
【美術・衣裳】コリン・リッチモンド
【照明】佐藤 啓

『夏の夜の夢』
【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】フェリックス・メンデルスゾーン
【編曲】ジョン・ランチベリー
【美術・衣裳】デヴィッド・ウォーカー
【照明】ジョン・B・リード

キャスト
『マクベス』
【マクベス】福岡雄大(29, 2, 4, 6)、奥村康祐(30, 3, 5)
【マクベス夫人】米沢 唯(29, 2, 4, 6)、小野絢子(30, 3, 5)
【バンクォー】井澤 駿(全日)
【3人の魔女】  奥田花純、五月女遥、廣川みくり(29, 2, 4, 6)
         原田舞子、赤井綾乃、根岸祐衣(30, 3, 5)

『夏の夜の夢』
【ティターニア】柴山紗帆(29, 2, 4, 6)、池田理沙子(30, 3, 5)
【オーベロン】渡邊峻郁(29, 2, 4, 6)、速水渉悟(30, 3, 5)
【パック】山田悠貴(29, 2, 4, 6)、石山 蓮(30, 3)、佐野和輝(5)
【ボトム】木下嘉人(29, 2, 4, 6)、福田圭吾(30, 3, 5)

【指揮】マーティン・イェーツ
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【合唱】東京少年少女合唱隊

PROGRAMME

"The Tragedy of Macbeth"
New Commissioned Work by the NBJ, World Premiere

"The Dream"
Company Premiere

OPERA PALACE

CREATIVE TEAM

"The Tragedy of Macbeth"
Choreography by: Will TUCKETT
Music by: Geraldine MUCHA
Music arranged by: Martin YATES
Set and Costume Designer: Colin RICHMOND
Lighting Designer: SATO Satoshi

"The Dream"
Choreography by: Sir Frederick ASHTON
Music by: Felix MENDELSSOHN
Music arranged by: John LANCHBERY
Set and Costume Designer: David WALKER
Lighting Designer: John B. READ

CAST

"The Tragedy of Macbeth"
Macbeth: FUKUOKA Yudai (29 Apr, 2, 4, 6 May), OKUMURA Kosuke (30 Apr, 3,5 May)
Lady Macbeth: YONEZAWA Yui (29 Apr, 2, 4, 6 May), ONO Ayako (30 Apr, 3,5 May)
Banquo: IZAWA Shun (All days)
Three Witches:
OKUDA Kasumi, SOUTOME Haruka, HIROKAWA Mikuri (29 Apr, 2, 4, 6 May)
HARADA Maiko, AKAI Ayano, NEGISHI Yui (30 Apr, 3,5 May)

"The Dream"
Titania: SHIBAYAMA Saho (29 Apr, 2, 4, 6 May), IKEDA Risako (30 Apr, 3,5 May)
Oberon: WATANABE Takafumi (29 Apr, 2, 4, 6 May), HAYAMI Shogo (30 Apr, 3,5 May)
Puck: YAMADA Yuki (29 Apr, 2, 4, 6 May), ISHIYAMA Ren (30 Apr, 3 May), SANO Kazuki (5 May)
Bottom: KINOSHITA Yoshito (29 Apr, 2, 4, 6 May), FUKUDA Keigo (30 Apr, 3,5 May)

Conductor: Martin YATES
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra
Chorus: The Little Singers of Tokyo

コメント (2)
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ゴールデンウイーク前半戦(2): 小田原城へ

2023-05-02 07:30:14 | 旅行 日本

4月30日(日)

土曜日の夜から雨が降り始め、翌朝は嵐と言って良い程の雨と風。とても外出できる天気でないので、チェックアウト時間ギリギリまで宿でダラダラして待機。運よく、丁度チェックアウト時間頃にようやく小降りに。箱根の山を下山し、小田原へ向かうことにしました。

小田原では未踏の小田原城址公園へ。お城そのものは戦後に再建されたコンクリート城ですが、発掘調査が進み、城門なども復旧が進んでいます。天守閣内は階段多いので母を置いて、私一人で入場。


(本丸への入口 常盤木門)


(立派な本丸天守 日本のお城高さランキング7位とのこと)

城内は小田原城や北条氏についての博物館になっていて、秀吉の小田原攻めや歴代の北条氏の系譜や業績が紹介されています。ビデオコンテンツなどもあって見どころ十分です。そして、天守からの眺望が抜群。丁度、曇り空から陽ざしが覗き始めたタイミングで、秀吉軍に取り囲まれた様子を想像したり、太平洋の海の景色を楽しみました。


(甲冑・刀剣・絵図・古文書などが展示されてます)


(眺望がすばらしい!)





(山側)

遅めの昼食を地魚系で頂いて、おみやげ買って、東京へ戻ります。絵にかいたような保養旅行でゴールデンウィーク始まりました。母も喜んでくれて、嬉し。月・火は仕事ですが、後半戦は都内で楽しむつもりです。

 


(地魚の海鮮丼 @小田原バル)

<終わり>


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