海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

埋め立てとくい打ち

2010-05-11 01:09:05 | 米軍・自衛隊・基地問題
 10日に普天間基地「移設」に関する関係閣僚会議が開かれた。これまで報じられてきた通り、辺野古浅瀬にくい打ち桟橋方式で新基地を建設するという案が、政府原案として確認されたようだ。同時に、鳩山首相はこれまで言ってきた「5月末決着」を断念したという。
 わざわざオスプレイに対応した1800メートルの滑走路を建設するのだから、ヘリ(オスプレイ)の部隊も沖縄に残るということであり、いよいよ鳩山政権は「国外、最低でも県外」と言った公約を投げ捨て、普天間基地の「県内移設」=たらい回しを強行しようとしている。沖縄の「負担軽減」のために在沖米軍の訓練を全国に分散するというのも、自衛隊基地の米軍との共用化を拡大し、日米の軍事的一体化を進めるためのものであり、沖縄をダシに使って防衛省・自衛隊・米軍の元からの狙いを実現しようとするものだ。
 鳩山政権はこれから政府原案で米政府や沖縄県、名護市などと交渉するわけだが、5月15日に予定されていた鳩山首相の再度の来沖は延期となった。まだ準備不足ということのようだが、注意しなければならないのは、鳩山首相や閣僚らによって表で進められる交渉の裏で、別の”交渉”が進められることである。
 例えば、鳩山政権の意向を受けてそのブレーンが、名護市で新基地建設を推進してきた地元有力者に働きかけを行っていないか、注意をする必要がある。これまでV字形滑走路を持つ現行計画の沖合移動を求めてきた人たちに対し、くい打ち桟橋方式への協力を要請するために密かに”交渉”を始めてはいないか。
 埋め立て利権を追求してきた名護の新基地建設推進派(以下推進派)からすれば、くい打ち桟橋方式のみでは工事の受注はヤマトゥの大手企業に持って行かれ、メリットがない。しかし、次ような工法ならどうか。5月9日付琉球新報1面トップに〈普天間移設 政府あす原案〉という見出しの記事が載っている。その中に次の一節がある。

〈原案は現行計画を変更し、1800メートルの滑走路1本の代替施設を南西沖合500メートル前後の浅瀬に造る。現行の埋め立てより環境への影響が小さいとして、桟橋方式に一部埋め立てを組み合わせる工法を想定。日米実務者協議で、その実現可能性や工期について具体的な検討に着手する〉

 政府原案が〈桟橋方式に一部埋め立てを組み合わせる工法を想定〉とされるのは、埋め立て利権を追求してきた名護や県内の推進派をからめ取るためではないか。完全なくい打ち桟橋方式なら、県知事の埋め立て許可は必要ないので着工しやすい※。しかし、それでは埋め立て利権を求めてきた推進派の協力を得られない。そのために〈一部埋め立てを組み合わせる工法〉を提案し、地元業者にも仕事を回すことを強調して、推進派に協力を求めようとしているのではないか。
 辺野古浅瀬へのくい打ち桟橋方式でも、辺野古に回帰したことへの批判が湧き起こっている。鳩山政権からすれば、自公政権が進めていた現行計画に戻ることは不可能であり、位置や工法を変えてごまかすしかない。しかし、それに対しても名護市の稲嶺市長は、海にも陸にも新しい基地は造らせない、と強く反対している。
 このような状況の中で、鳩山政権にとって、名護市、沖縄県の内部から「県内移設」=新基地建設推進の動きを作り出すことが火急の課題となっているはずであり、そのために埋め立て方式とくい打ち桟橋方式の折衷案が考え出され、一定の埋め立て利権を満たすことで、名護や県内の推進派との協力体制を作ることを目論んでいるのではないか。そのために、これまで自公政権下で「県内移設」を進めるために動いてきた人物が、今度は鳩山政権の下でどこかのスナックで”交渉”を行っているかもしれない。
 比嘉ー岸本ー島袋と推進派の市長が三代続き、この1月に新しく稲嶺市長が誕生したが、推進派の元市長たちの影響力は今でも大きい。また、市長選挙で稲嶺氏を支持していた市議会議員の一部が与党から中立に回り、議会の与野党の力関係は拮抗している。来る9月には名護市議会選挙があり、推進派は市議会での野党多数を狙って取り組みを進めている。
 そういう状況をにらみながら、稲嶺市長の足下を揺さぶる動きを作り出すことを狙い、名護の推進派の有力者たちに政府から働きかけが行われることに注意をする必要がある。新基地建設は数千億円の金がからみ、表の政治の動きだけでなく、裏でも様々な工作がなされる。鳩ポッポ首相などと揶揄して甘く見るのは大きな間違いだろう。


※5月13日付琉球新報に〈知事同意が必要 政府「くい打ち方式」で説明〉という見出しの記事が載っている。

〈【東京】米軍普天間飛行場の移設問題で、政府は12日、名護市の辺野古の現行計画修正の工法として検討している、くい打ち桟橋(QIP)方式の実施には、県知事の許可、同意が必要であることを明らかにした。
 同日の参院沖縄北方特別委員会で国土交通省の日原洋文官房審議官は国有財産法を挙げ、「海底に工作物の新設や掘削などを行う場合は知事の許可が必要だ」と指摘した。
 同法は「公共財産使用協議書」の知事同意が必要としている〉

 以上のような内容である。拙文の※印部分の一文は事実認識が誤っていたことを付言する。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 資料:鳩山首相と稲嶺市長の... | トップ | 5・15平和行進ほか取り組み »
最新の画像もっと見る

米軍・自衛隊・基地問題」カテゴリの最新記事