海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

先島諸島への陸自配備に反対する。

2010-07-20 23:55:28 | 米軍・自衛隊・基地問題
 7月20日付琉球新報1面に〈宮古、石垣に陸自配備/「国境警備」数百人/防衛省検討 与那国は沿岸監視100人〉という見出しの記事が載っている。

〈沖縄県の先島諸島周辺での中国海軍の活発な活動などを踏まえ、防衛省が宮古島や石垣島に陸上自衛隊の国境警備部隊(数百人)を、与那国島に沿岸監視部隊(約100人)を、5~8年後をめどに段階的に配備する方向で検討していることが、19日、複数の同省幹部の話で分かった〉

 中国が海軍力を強化しているのは事実だ。しかし、それに対応して先島諸島の三島に陸自部隊を配備するというのは飛躍がありすぎる。いったい今時、宮古島、石垣島、与那国島、あるいは尖閣諸島に中国が〈武装ゲリラ侵攻〉する可能性がどれだけあるというのか。そういうことをすれば日本と中国の全面戦争になるわけだが、それによって中国が失うものは、得るものよりはるかに大きい。「中国の脅威」を過大に煽り、あり得ない想定のもとに先島地域に陸自の配備を図ろうとするのは、軍事的合理性とは別の思惑があるとしか思えない。
 田岡俊次著『北朝鮮・中国はどれだけ怖いか』(朝日新書)に次の一節がある。

〈防衛省は、「中台紛争の際、中国軍が琉球諸島の島を占領する」ことを想定して、「中期防衛力整備計画」(05~09年度)でも、「島嶼部に対する侵略防止」をうたい、そのため佐世保の相浦に西部方面総監部直轄の普通科(歩兵)連隊を設け、米海兵隊との共同訓練も行っており、C130輸送機にヘリコプターへの空中給油装置を付けるなど、装備も導入する計画だ。だが、これは滑稽な想定だ〉(238ページ)

〈防衛省でも島嶼防衛に対しては、「あれは陸上自衛隊が、北海道にソ連軍が侵攻するという想定が消えたため、存在価値を示すために無理矢理考えたこと。護衛艦1隻を哨戒させればすむ話ですよ」などと、笑い話の種になる〉(239ページ)

 田岡氏は〈滑稽な想定〉の理由として〈中台間の戦争が起きる公算がそもそも小さい〉〈もし日本の島を占領すれば、日本はもちろん日米安保条約により米軍も参戦せざるをえなくなる〉〈制空権、制海権のない海域の離島に上陸することは、補給、増援、救出の可能性がないから自滅が必至〉であることなどを挙げている。
 田岡氏の本が出たのは2007年3月で、大江・岩波沖縄戦裁判を傍聴するため大阪に行ったとき、電車の中で読んだのを憶えている。同裁判の背景に、沖縄における自衛隊強化の問題があると考えていたので、参考にするため手にした一冊だった。
 あれから3年余が経ち、自公政権から民主党を中心とした政権に替わったが、沖縄における自衛隊強化は一貫して進められている。国民新党の下地幹郎議員が進めてきた先島地域への自衛隊誘致運動に加えて、与那国島で自衛隊誘致の動きが活発化していること、宮古島市、石垣市の首長が保守に替わったことなど、防衛省や自衛隊内部では先島地域への陸自配備の条件が整ってきたと読んでいるのだろう。そこには当然、下地島空港の軍事利用も絡んでくる。
 絶えず危機や脅威を作り出し、存在意義を示さなければ、軍隊は部隊や予算を維持、拡大できないだけでなく、逆に縮小されてしまう。特に陸上自衛隊にとっては、「ソ連の侵攻」という危機が消えたあと、新たに陸上侵攻の危機、可能性を作り出さなければ、国の財政状況が深刻化しているなか、大幅な人員削減案が出かねない。中国の脅威をあおって先島地域に陸自部隊を配備しようとするのも、第一の目的は陸自の生き残り=組織維持であろう。
 そこに部隊配備と基地建設に伴う工事や装備品調達などの利権が絡み、政治屋と建設業、防衛産業、防衛官僚などが、自らの利益追求のために暗躍する。その結果、宮古、石垣、与那国などの島々に自衛隊が配備されていけば、自衛隊の存在は5年、10年と経つうちに島の政治、経済だけでなく生活全般に影響を及ぼしていく。そうやって先島地域の住民の意識を「国防」を担うものへと変えていくのも大きな狙いだろう。
 中国の軍事強化に反対するのは当然のことだが、その脅威を過大に描き出し、あたかも〈武装ゲリラ侵攻〉があり得るかのような「想定」を強調して、先島地域に陸自を配備しようという動きには強く反対する。先島地域の住民と連帯した反対運動を沖縄島でも作りだしていく必要がある。

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