海鳴りの島から

沖縄・ヤンバルより…目取真俊

「防衛利権」に群がる者たち

2009-12-26 03:19:41 | 米軍・自衛隊・基地問題
 『中央公論』2010年1月号に〈地元利権に振り回される普天間、日米同盟ーー守屋武昌・元防衛次官、沖縄問題の真相を語る〉という15ページにわたるインタビューが載っている。橋本政権下で普天間基地返還が政治目標として浮上してからの経緯や、沖縄および自民党中央の埋め立て利権の問題、〈沖縄の特殊性〉などについて守屋氏が語っている。辺野古新基地建設に絡む利権の問題を考える上で一読の価値はある。ただ、〈地元利権〉という形で沖縄側の問題をあげつらう一方で、自らのやってきたことは棚に上げ、さも〈地元〉住民の苦しみを理解しているかのような口調には、読んでいて呆れると同時に怒りが湧いてくる。
 12月22日に東京高裁は、収賄と議院証言法違反(偽証)の罪に問われている守屋氏に、懲役2年6月、追徴金約1250万円の実刑とした一審判決を支持する判決を下し、控訴を棄却している。守屋氏は即日上告しているが、23日付琉球新報には以下の記事が載っている。

〈防衛装備品の納入をめぐる汚職事件で22日、二審も実刑とされた元防衛事務次官の守屋武昌被告(65)は、東京・霞ヶ関の司法記者クラブで会見。小声で「全国の自衛隊員に大変迷惑を掛けた」と反省の弁を述べていたが、防衛行政に話題が及ぶと一転能弁となり、持論を展開した。普天間飛行場移設問題の話題では気持ちが高ぶったのか、日米の交渉経緯を延々と説明する〃独演会〃に。「両国が必死になって合意にこぎ着けた経緯を(政府に)考えてもらいたい」と注文を付けた。〉

 〃独演会〃の内容は『中央公論』のインタビューから推して知るべしなのだろうが、辺野古への新基地建設という「日米合意」を推し進めようとする執念は今も消えていないようだ。「アメとムチ」と言われた沖縄に対する政府の基地政策の「アメ」の部分のみを取り上げ、さらに「アメ」に群がる沖縄側の利権の問題を強調する。その一方で沖縄に振るってきた「ムチ」については無視してすませる。何と虫がいいことか。かつて自らが握っていたムチに打たれた者が味わった痛みと苦しみを守屋氏は考えたことがあるだろうか。被告人となって一見殊勝な様子を見せているが、その傲慢さに変わりはない。



 野田峯雄・田中稔著『「憂国」と「腐敗」 日米防衛利権の構造』(第三書館)は09年3月に刊行された本である。その中に次の一節がある。

〈守屋が防衛庁装備局航空機課長に就任したのは90年である。
 守屋自身によると(07年の国会における証言)、〃山田洋行の宮崎〃と知り合ったのはそれよりもっと前の防衛課課員のころ(84年前後)で、宮崎のゴルフ接待を受けるようになったのは、航空機課長の次に就任した防衛局防衛政策課長のころ(94年就任)だという。
「守屋は若いころ先輩から『ブローカー・モリヤ』なんて呼ばれていました」(前出OB)
 それかあらぬか……、守屋は山田洋行以外にも、例えば88年(防衛局運用課長時代)~04年(事務次官時代)に富士通と富士通特機システム(富士通子会社)から、また01~04年(防衛庁長官官房長、防衛局長、事務次官)、90年代の初めころ(航空機課長時代)に知り合った伊藤忠商事の関係者(のちに副社長)からゴルフ接待を受けていたことが判明した。ところで「ブローカー」だが、これは守屋だけにあてはまるあだ名だろうか。そうではない。最近、防衛省(庁)では業者とのゆ着が、上下を問わず、背広組・制服組を問わずかなり蔓延していたことが明らかになっている。軍需関係企業による接待攻勢は防衛省(庁)関係者の間では周知の話。としたら、「ブローカー・モリヤ」は、守屋にしてみれば〃いわれなき汚名〃ではなかったか〉(136~7ページ)。

 沖縄県民が基地問題で苦しんでいる間も守屋氏は、軍需関係企業の接待でゴルフを楽しんでいたわけだ。若いころから「ブローカー・モリヤ」と呼ばれていたという守屋氏が、沖縄の〈地元利権〉をあげつらうのは天に唾するものであり、目糞が鼻糞を笑うようなものだ。
 本書は山田洋行、日本ミライズ、守屋武昌氏をめぐる贈収賄事件の解明を通して日米防衛利権の構造を明らかにしようとしているが、日米の政・官・財・軍に広がるその根は深い。軍需関係企業として山田洋行はせいぜい中堅レベルであり、防衛利権の本丸にいるのは三菱重工業、川崎重工業、三菱電機、日本電気、石川島播磨重工業といった大企業である。それらの企業と歴代の自民党政権、防衛族と言われる政治家たち、防衛省(庁)の制服組、背広組がどのように結びつき、利権を貪ってきたのか。現在、ミサイル・ディフェンスが巨額のビジネス(利権)としてアメリカ側から日本を巻き込んで進められていることなどを、野田・田中氏は細かく取材・調査し、論じている。
 言うまでもなく防衛族とは自民党議員に限らない。本書には自民党の瓦力氏、久間章生氏、額賀福志郎氏、石破茂氏をはじめ、民主党の前原誠司氏や小沢一郎氏、末松義規氏、公明党の赤松正雄氏ら数多くの議員の名前が出てくる。沖縄選出の議員としては、下地幹郎氏の名前が山田洋行から40万円の寄付金を受け取ったとして出てくるのが目を引く。
 11月29日に開かれた沖国大祭の講演会でも本書を紹介・推薦したのだが、日米の防衛利権の実態を知ることは、沖縄の基地問題を考える上でも欠かせない。本書と関連して『週刊金曜日』編『国策防衛企業 三菱重工の正体』(金曜日)もお薦めしたい。



 1873年に三菱商会として設立して以来、佐賀の乱や台湾出兵、西南の役、日清戦争、日露戦争、第一次・第二次大戦と戦争とともに成長し、日本の戦争、軍隊を支えた最大の企業であり、現在も日本の防衛利権の中心となっている三菱グループの歴史や実態が追究されている。

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