あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

ジーザス・クライスト

2018-01-20 17:00:07 | 物語(小説)

神よ。わたしはもう生きていてはいけないのですか?
身体中が筋肉痛のような痛みに襲われ続けて寝返りを打つことすら困難です。
嗚呼、わたしの愛と死の神よ、わたしをお救いください。
できることならどうか、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。
しかしあなたのみ心にあるならば、わたしはこの杯を飲み干します。
わたしはこの全身に襲う原因不明なる痛みを和らげるため、外国人と知り合える出会い系アプリで麻薬の隠語を使い、バイヤー(麻薬密売人)とここ数ヶ月かけて取引をするまでの互いの信頼関係を気付くための対話をしてきた。
彼は28歳の日本に住むアメリカのニューオリンズ出身の優しい表情をした白人男性である。
優しいといっても、身体中に厳ついタトゥーを彫(い)れて口回りと顎には濃く髭を生やし、長く黒いウェーブのかかった髪の毛は浮浪者のようにも見える一見強面(こわもて)な観るからにバイヤー風の男だが、わたしは彼の写真を観たとき、人を騙して、粗悪でフェイクなドラッグを高い値で売り付けるようなバイヤーではないと確信した。
わたしは、今までドラッグ(麻薬)はやったことはない。
中毒性の低いと言われているマリファナなどのドラッグも遣ってみようと想ったこともない。
煙草さえ吸ったことのないわたしがマリファナを吸っている姿を死んだ父親が眺めて何を想うのか?そんなことを考えると実際にやろうという気にはなれない。
わたしは、やるつもりはなかった。
この断食も断酒もどの病院で出される薬も、漢方薬や鍼や灸などの東洋医療も合法ドラッグ(脱法ハーブ)の何をやっても、一向に治癒の兆しさえ見せぬ、一日一日微々たる重さで重くなっていると感じる自分の身体の恐ろしさを思い知るまでは。
わたしは決してドラッグなど、遣るつもりではなかった。
一体、何が原因であるのだろうか。
この何ヶ月と続く全身の痛みが、何者かに呪われ、呪殺を望まれているとしか想えないような確実に死へ至る病であることを、わたしは日々感じるのである。
この痛みを和らげるのならば、わたしは例え違法の麻薬であろうとも構わない。
ありとあらゆる鎮静剤を試したが、この寝返りを打つ度、軽い咳やくしゃみをする度に激震する激痛を緩和することはできなかった。
ドラッグという代物を、全く見知らぬ素性のわからぬ外国人から買うことに恐怖と不安は勿論なくすことはできなかったが、わたしはそれ以外で安心してドラッグを買うことの方法をとうとう見出だせなかったのである。
わたしはもうぴっちぴっちの女とは言えないが、一応は熟女の域に入らんかとされる36歳の体力の全くないか弱き女の身である。
もし、相手と会ってドラッグを買う段階になって、何かヤバイことをされるのではあるまいか。例えば、わたしの未経験のアナルセックスや、何か道具を使った恐ろしいことをされるのではないか?という心配はあったのだけれども、いや、もうさ、そんなこと、言ってられへんくらいにクッソ痛いんよ。マジで。特に、寝返りを打つときと咳やくしゃみをするときに。全身の骨が骨折しているのではないか?というほどの痛みなのである。
とにかく、相手の男の性奴隷に何日間かはされる覚悟で、わたしはバイヤーの男と会う約束をした。
当然の話、麻薬を郵便で送って見付かれば互いに監獄往きであるからだ。
相手の男の名は、皮肉にもChrist(クリスト)、膏(あぶら)を注がれし救世主〔メシア〕の名である。
Christは、心魂も優しいのか待ち合わせ場所をわたしの最寄り駅前にしてくれた。
車で、夜中に向こうを出れば早朝には着くだろうと言って、遙々遠くから遣ってきてくれるという。
わたしは片言の日本語を話すChristに「ありがとう。心の底からあなたに感謝します。」と言って、Christの到着30分前くらいに送ると言ったMAILを家で待ちのぞんだ。
Christは、違法ドラッグを日本で売り捌いて生活することに罪の意識があるのかないのか、電話の声もとても紳士的で穏やかな話し声であり、MAILやchatでは絵文字や「!!!」の感嘆符をたくさんつけて送ってくるようなCOOLで気を使う男であった。
わたしは「大丈夫だ。彼を信じよう。」そう脳内でrepeat再生をしていくうちに、勝手に「ジーザス・クライスト」というtitleで、「オレはカレを信じる。Yeah,Hey,オレはカレを愛する。Yeh,Hey,Oh,だってカレは、そう、YO、オレの、Yay(イエイ)、Christ(クライスト)、だからme、Don't cryスト、Ya(you)」という風に出鱈目で適当な韻のRapを奏でて緊張を酒で紛らせながら待った。
そう言えば、ChristもHIPHOPが好きだと言っていた。
わたしは今までは全く詳しくなかったが、最近、オレん、なか、Yeah、So、YA、hard、hit、hot、Hazard(ハザード)洋館、痔、切れて、THE end、Everything.っつって。
Christはそうだな、$UICIDEBOY$(スーサイドボーイズ)とか、聴いてそうな顔やな。とわたしは想った。
彼は、そう、目出し帽やIS(イスラム国)戦闘員みたいな黒のmask、黒の迷彩の戦闘服、手にはショットガンとか、似合いそうだ。
良いな、可なり、絶対似合うだろう。コスプレ頼みたいくらいだ、ははは。はすはすはすはすは。
そう空笑いを緊張のあまり震える口元で笑っているその時。
プリプリプリリリィン♪とふざけた着信音でMAILが届いた。
携帯を確かめると、Christからで、「たぶんことあと、20分かとのつくきがする。」とあった。
「たぶんこのあと、20分とかで着く気がする。」と打ちたかったのだろう。誤字だらけだが意味はわかったので今から家を出るという旨を伝えてわたしは五万円入れた財布をbagのなかにもう一度確かめてから家を出た。

Christは、わたしの望むドラッグを、二万五千円でいいと言ってくれたが、わたしはできれば五万円分を欲しいと頼んでおいたのである。
非合法のドラッグにしては安いと想うが、彼の売っているドラッグは高級なドラッグではなく、貧しい人間にもなんとか買える額でないと、実際にバイヤー専門で生活して遣っていけないと彼は、素直にわたしに話してくれた。
全身が酷い筋肉痛のような痛みなので猫背がちになってしまうのをわたしは無理に背筋を伸ばして駅前まで動悸と息切れの苦難のなかに歩いた。
幸いにも一雨か二雨か三雨か来そうな重たい鈍(にび)色の雲が空を覆い尽くしてくれていたお陰で苦痛の光線による光り責めには合わされずに済んだ。
雨が降ってきた時のための折り畳み傘の重さ、これっぽっちが、重くてバキバキに折って投げ棄てたくなるほど肩にのし掛かった。
わたしは駅前に着くまでにもしかして死ぬのではないか?そう心をどす黒い疲憊(ひはい)の非灰が満たし(って韻を踏んでる場合なのか)、目のまえがうっすらとぼやぼやとしてきたとき、わたしはふいに目眩を起こし駅前近くの人が行き交う広い歩道で、地面に手を着いて吐き気が少し沸き上がってきた。しまった。誰か水をくれないか。酒飲んできたしたぶん脱水症状とかで吐き気がする。そう助けを求めて目のまえを見た瞬間、わたしの両肩を、何者かが力強く後ろから抱え、わたしは乱れた髪で前が見えず、一体、誰に抱えられているかもわからずにそのまま抱き抱えられて黒いミニバンの後ろに優しく乗せられた。
わたしとわたしを抱きかかえた者が乗るとすぐに車は発車された。
そして車の後ろに乗っていた一人の男から「大丈夫、ですか?これ、楽する良いドラッグ、飲む」と片言の日本語で言われ、わたしは差し出された白い錠剤の薬とペットボトルの水を朦朧としたなかに飲まされた。
少し経つと、とても爽快な感覚になってきて、息苦しさも身体の痛みもまるで感じなくなった。
側にいた黒い目出し帽を被った男が、わたしにまた話し掛けてきた。
「今から、オレと、Christ泊まってる、ホテル行く、Are you OK?」
わたしは何がなんだか事情が全くわからなかったが、とにかく爽快でpositiveかつ、すべては自分という覚りの境地に達しているかのようなキラキラと世界中にダイヤモンドが散らばっているような光り輝く世界にいたので、断る必要も考えられず、指でgoodsignしながら、「Yeah!!(イェア)、OK! i-ight!(アーイ!all rightの略)」と最高の笑顔で返事した。
そしてChristではない知らぬ男に瞬間キス責めを受けたが、そのキスが、今まで味わったこともないたまらなく"美味しい"味がした。何にも例えられないが、とにかく甘美で切ないうっとりするような陶酔の”味”だった。
その時わたしは、あーそうか、キスっちゅうのんは、実は食べ物やったんやなあ、ほわははははははははははははははっっっっっっっはあばばばばばばばばばばっっっ。と笑ったら、その笑った声が鯲(どじょう)掬いのように小躍りしながら目出し帽の穴から見える相手の男の目の開いた瞳孔のなかに吸い込まれて行った。その3D映像のような世界が愉快で堪らず、わたしは腹を抱えて虫の入った幼児のように笑い転げた。
さらに彼の濁った薄蒼い綺麗な虹彩のなかから飛び出てきた、アニサキスが絡まり合いながら束になってわたしの口のなかに入ってきて、舌をアニサキスの一匹一匹が、ア、ニサ、キス!ア、ニサ、キス!ア、ニサ、キス!とものすごく奇妙な可愛い声で叫びながらちくちくと噛み付いてくるのだった。
それにはわたしはあまりの心嬉しさに悶絶昏倒しそうなほど笑い死にしそうであった。
わたしは気付けば何故か服を脱がされていて半裸状態で何かぶっとく硬いものを性器に突っ込まれている気はしたが、そんなことよりも、わたしの身体の上にのし掛かる男の被っている目出し帽のその黒い一つ一つの細かな繊維が踊りながら飛び出てきて、全員軽快なビープ音で痛快なテクノヒップホップみたいな音楽を真ん丸一つ目玉からバズーカ砲を手に持って飛ばしながら目出し帽の頭の周りにあるハイウェイを疾走し奏でていたのでわたしもそのbeatに合わせて激しく身体を揺さぶって動かし、腰も歓喜の奇声を発しながら夢中で振り続けた。
間もなくすると、車がホテルに到着したようで、わたしは目出し帽の男に服を着させられて抱き抱えられ、外へ出された。
ホテルだと聞いた気がしたが、小さな山小屋のような場所だった。
中へ入ると、紅い絨毯の上にソファーと小さなテレビとテーブル、奥にはパイプベッド、隅には空き瓶や空き缶、菓子袋やカップ麺などのゴミが積まれて散らばっていた。
わたしは絨毯の上に乱暴に降ろされ、両手を後ろで固い紐のようなものできつく縛られ、抱えられてソファーの上に座らされた。
左にはわたしを抱き抱えてきた目出し帽の男、わたしの正面には写真で見た通りの優しい表情をして髪の毛を後ろで束ねたChristが、二人とも黒い迷彩の戦闘服みたいな服装で、片手には大きなショットガンのような銃を持って立った。
二人とも、眼光をギラギラさせたまま黙り込んでいて何が目的なのかがわからない。
わたしはさっきまでの気が触れながら愉悦に浸っていた時間の感覚も想いだすことすらできなかった。
わたしは恐怖と後悔で涙と鼻水が止まらなかったが、Christはわたしにショットガンを向けながらゆっくりと興奮と怒りを抑えたような言い方で言った。
「まず、どこを、撃ち抜かれたいか?言え。」
わたしはChristの目をじっと見詰めた。
その目は、義憤に満ちて何かを護ろうとしている目のように見えた。
わたしは素直に、何故このようなことをされるのかがわからなかったので、涙を流しながら、震える声で彼に答えた。
「わたしは、ドラッグが欲しくて、あなたと会いました。なぜ、わたしが、撃たれなくてはならないのですか?」
すると左にいた目出し帽の男が、わたしの髪の毛を強く掴んで思い切り絨毯の上にわたしの顔面を擦り付けたが、すぐにChristに「cool it(落ち着け)」と言われて手を離した。
絨毯の味は、土と血と腐ったような牛のレバーのような味だった。
しかしその匂いは、先程にわたしを犯したのであろう男の被っている目出し帽の強烈なエキゾチックな香水と煙草の交り合ったような匂いがした。
わたしはChristと、目出し帽の男にショットガンを顔面に向けられ、二人から「早く答えろ」と言われ、わたしがまずどこを撃たれたいのかという問いの答えを、まだ酒とドラッグが体内に残る脳に、要求された。
わたしはどうしても、無事に家に帰り、飼っているうさぎのみちたくんの世話を、ドラッグで楽になった身体で遣ってやりたい。
わたしは死ぬわけには行かない。
頭を、頭を使わなくてはならない。
どうすれば、赦してもらえるのか。
わたしはそのとき、一つの聖書の聖句が頭に浮かんだ。
これだ!この言葉を言えば、彼らはきっと想い直してくれるに違いない!
わたしは溜まりきって溢れかけていた生唾を音立てて飲み込むと、Christの目を、彼を信じる目で見上げながら叫び答えた。
「もしわたしの右の手が、罪を犯させるならばわたしの右手を撃ってください。魂をゲヘナへ投げ込まれるよりかは、わたしにとって益です。もしわたしの右の目がわたしを躓かせるならば、わたしの右目だけを撃ってください。全身を地獄で焼かれ続けるよりはマシです。」
少しの沈黙の間のあと、Christはショットガンを床に投げ捨てた。
そしてわたしの身体を起こしてソファーに優しく座らせた。
Christはわたしに向きながらおもむろに腹の下から取り出したものを被った。それは左の男と同じ黒の目出し帽であった。
するとChristと左の男は、二人でぐるぐると手を繋いで輪になって回り、わたしの正面に二人、こちらを向いてまた黙って立ち竦んだ。
二人の男が、わたしに同時に言った。
「さて、おまえが殺したのは、どっちのChristか。言え。」
そう言われて初めて気付いたが、二人の男はまるで、Christみたいだ。
つまり、目出し帽を被るだけで、どっちがどっちかもわからないほど、特徴的なものをわたしは掴めていなかったのである。
しかし、言われていることがおかしい。
いくら酒とドラッグで脳が麻痺していたとしても、わたしはChristを殺したことなどないことくらいはわかる。
相手たちもIce(アイス、覚醒剤の隠語)でKick(キメル)しているのたろうか。
たろうかって、わたしの言葉もおかしい。
何故わたしまで、片言になっているのたろうか。
一体、何をどう言えば、赦してもらえるのたろうか。
わたしは何を想ったのか。色仕掛けを仕掛けて赦してもらおうと想い立ち、彼らに向かって艶かしげな色目遣いの上目遣いで吐息交じりのロリ声で答えた。
「EAT ME」
二人は変わらず静かに立ち尽くしたままで反応がなかった。
もうこうなったなら、アナルだろうとバックだろうと掘られてでも、家に無事に帰りたいと想ったので、わたしはケツをぷりっと二人に向け(ワンピースは着たままで)、そしてもう一度、今度はお色気むんむん系の熟女の言い方で粘り着くようなセクシーボイスで「eat me 」と言った。
だがまたしても反応はunともsunともなく、わたしはそうしてケツを前に突き出すというきっつい体勢を何分間と取っていたのでとうとう現世界に完全に帰って来て(ドラッグの効果もすっかりと抜け)、すこし体勢を崩した瞬間にまたもやあの、寝返りを打つときに激しく響く激痛が走った。
わたしはもう、どうしたらいいか、何を言えばいいのかわからなかった。
ただこの痛みを、なんとかして、なくしてもらいたかった。ドラッグでhigh(ハイ)になって、普通の人間の気力というものを取り戻し、そしてすべての人間から見放され、全宇宙の生命体からも呆れ返られるようながんがんなくだらない小説をごんごんに書きたかった。
いったい、いつ、いったい、いつに、わたしはChristを殺したんだ。When?
わたしはあまりの激痛で身体をほんのちょっと動かすことすら叶わず、ソファーの背凭れにケツはプリケツ体勢のままで顔面を窒息しそうなほど突っ伏し、息が苦しくなり、心のうちでChristに声を上げて救済を激切に求めた。
助けてくれ。Christ。クリスト!
あなたを信じて、あなたに救いを求めて、あなたと会ったわたしが間違っていたのか。
わたしはあなたを本当に信じているんだ!
今でも!あなたはわたしを救い、わたしはあなたに救われる!あなた以外に、助けがなかったんだ。
何も、何も。あなたのDrugs(ドラッグ)以外に。

Christ、Jesus!(ジーザス!)JESUS CHRIST!
その時である。見よ。
Christは、わたしの顔面を両手で左に向け息を吐かせ、わたしの顔を横から覗き込んだ。
そして、わたしの顔に、生臭い真っ赤な血の滴る生肉を近付けてこう言った。
「喰らえ。これは、わたしの、血と肉。My、喰らい使徒よ」
わたしの頭の上に、もう一人のChristが、ショットガンを突き付けていた。
「ジーザス・クライシス」
二人のChristはそう声を揃えて言うと、わたしの頭の上で手を叩き合った。
どうやら、この得体の知れない生肉さえ喰らえば、わたしは無事に帰してもらえるようだ。
わたしは、その血だらけの、ぬめぬめ、ぬめぬめ、ぬめぬめぬめぬめした、生きている内臓みたいな匂いの、生肉を、Christの手から、喰らい、噛み尽くして味わった。
味わったことのない味だった。たぶん、さっきまで生きていた人間の肉ではないか。
すべて飲み込んだあとに、わたしは目出し帽の隙間のChristの目を見詰めた。
その目は、光と闇に満ち、どこまでも、わたしを不安にさせる何よりも美しい目であった。
そして、わたしは涙を落として言った。
「ジーザス・喰らい使徒。Jesus・Cry(暗い)死す。」



















$UICIDEBOY$ - RAG ROUND MY SKULL















 


(今朝の8時6分から書き始めて、16時58分に完結。心血注いだる我が誇りの、作品である。)