あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愚花

2018-09-26 01:27:32 | 物語(小説)

 

 

 

 

 

 

 

一人の男が、空ろな眼をして柵の間からその奥を見詰めている。

午前三時過ぎ、ひっそりと鎮まり返った新興住宅地の一軒家の前で、男は何かを想い詰めた様な顔をして囁く。
「育花(いくか)…育花……育花……」
鼻息を荒くして苦しそうに喘ぎ、男は一階の窓の向こうに映る人影を柵の隙間から覗きながら下半身を頻りに摩る。
男は「育…花…っ」と力なく叫ぶと男の器から、白濁の種が落ち、その下にあったプランターの土の上に蒔かれた。

それから、四年の月日が流れた。
中秋の名月の晩、一人の男が、帰る道すがらふと、ある一角に目を留めた。
今までは何にも生えていなかった枯れた葉ばかりがそのままになっている長方形のプランターの中央部に、小さな芽が、ひょこっと顔を出していたからである。
男は反射的に朗らかに微笑み、プランターの前に腰を下ろすとその小さな弱々しい芽を見つめ、そっと右の人差し指でその芽の先に触れ、愛しげに微笑んだ。
そして満月を見上げて胸に下がった十字架を右手に取り、目を瞑ると囁いた。
「天におられますわたしたちの父よ。今夜は美しい月に人々はみな夜空を見上げあなたの御業に感謝しております。しかし誰も目に留めない涸れた地にもあなたは新しい生命を宿らせ、それを御覧になられて喜ばれていることをわたしたちに知らせ、そしてどれほどの喜びがそこにあるのかをわたしたちは知ることができます。あなたの祝福が、いつまでも絶えることなくわたしたちのうえに降り注がれますように。アーメン。」

男はその後も毎日、自分の家と教会のあいだの道筋にある家の前のこのプランターの芽に朝と晩、必ず目を留め、時に土が渇いている日には持参のペットボトルの水を上から注いでやるのだった。

そうして、一月もの月日が流れた。
或る夜遅く、一人の男が遣って来て、こう小さく呟いた。
「ちきしょう。」
そして男はがすっと気づくと蹴っていたものを見下ろした。
そこには長方形のプランターの中央部に、薄ピンク色の花が咲いていた。
男は力なく「はっ」と卑屈に笑って右手に持っていたカップ酒を飲んで大きくゲップした。
そして腰をこごめ便所坐りをするとカップ酒を左手に持ち替え、右の人差し指と親指でその小さな花弁を摘まんで、指先についた夜露を舐めて言った。
「或る、愚かな夜に愚かな女がいて、愚かな股を愚かに広げ、愚かな男を愚かに誘惑し、愚かな男は愚かな金を払って愚かな女を愚かに買った。愚かな女に愚かな男は愚かな恋をし、愚かな金の尽きた愚かな男から愚かな女は愚かに逃げた。或る、愚かな夜に愚かな家の中で愚かな女は愚かな入浴を済ませ愚かな裸体を愚かな椅子の上で愚かに曝し愚かな仮眠をとっていた。愚かな男は愚かなそれを愚かな情欲を抱いて愚かに見つめ愚かな妄想に耽り愚かな種を愚かな土の上に愚かに蒔いた。愚かな種は、愚かな土から、愚かな芽を出し、愚かに成長を続け、やがて愚かな花を咲かせた。愚かな薄ピンク色の花は、まるであの愚かな女の、愚かな花弁のようであった。愚かな男を誘惑した愚かな女の愚かな花弁にそっくりな愚かな花、愚かな御前の名を、愚かな男が愚かに付けてやろう。御前の名は、今日から、愚かな花と書いて愚花(ぐか)だ。精々、愚かな男を愚かに誘惑し続けて、愚かに枯れて逝け。」
言い終わると男は立ち上がり、人の居なくなった蛻の殻のその家を一瞥して夜のしじまの向こうに去って行った。
男が立ち去った後、花はそっと自分の名を囁いてみた。
「愚花…ぐか…あたしの…名前は…愚花……」
花弁から、夜露が垂れ落ち、その水玉に月光が反射していた。

翌朝、愚花は頬を優しく撫でられる感触を覚え、目を覚ました。
すると目の前に、大きく優しいあの手があり、あたたかい体温を感じた。
神父の男は愚花に向って微笑み、こう言った。
「なんて愛らしい花でしょう。花をあなたが咲かせるとは想いませんでした。」
愚花は嬉しくて瞬きを何度とし、朝露は神父の指先を濡らした。
神父は持っている黒い鞄の中からペットボトルの水を出し、その水を愚花に与えながら言った。
「さあお水ですよ。今日も良いお天気で、神が可愛らしい花を咲かせたあなたのことを祝福しておられます。」
青空から真っ直ぐに陽射しが神父と愚花を照らし、眩しく、世界は耀くようであった。
「あなたはなんという花なのでしょう。」
そう囁くと神父は身を起こしていつものように教会に向って歩いて行った。
神父が立ち去った後、愚花はそっと自分の名をまた繰り返した。
「あたしの名は、愚花…愚かな花と書いて、愚花…」
花弁から、朝露が垂れ落ち、その水玉に朝日がきらめいた。

それから、一週間後のことである。
教会の門塀に、「今日の聖句」と題した紙が貼られているのをちょうどそこを通りかかった男が目に留めた。
そこにはこう書かれてあった。

『あなたは姦淫を犯してはならない』と言われたのをあなた方は聞きました。
しかし,わたしはあなた方に言いますが,女を見つづけてこれに情欲を抱く者はみな,すでに心の中でその[女]と姦淫を犯したのです。

マタイ五章二十七-二十八節

男は空ろな目でその言葉をじっと眺めていた。
一本の煙草を吹かした後、吸殻を地面に棄てて足で火を消す。
男は教会の門を抜けてそっと教会の戸を開けると中を覗き込んだ。
そこには一人の若い神父が講壇に立ち、老若男女の前で聖書の説教を聴かせていた。
男は一番後ろの席に静かに腰を下ろすと神父の説教に耳を傾けた。
神父はゆっくりと、穏かに話し始めた。
「神はどのような理由からも、姦淫の罪を赦してはおられません。
モーセがエジプトから逃れシナイ山で授かった十戒の一つに、『姦淫してはならない。』という言葉を神は最初に、明確に示されました。
神は『殺人』の罪と『盗み』の罪とのあいだに、『姦淫』の罪を置かれました。
では姦淫の罪を犯すことは、わたしたちにどのような報いがあることを示されているでしょうか。
コリント第一の六章九節と十節にはこうあります。

『淫行の者、偶像を礼拝する者、姦淫をする者、男娼となる者、男色をする者、盗む者、貪欲な者、大酒に酔う者、罵り誹る者、略奪する者は、いずれも神の王国を受け継ぐことはないのです。』

さらに、ヨハネの黙示録の二十一章八節にはこうあります。

『しかし、臆病な者、信仰のない者、忌むべき者、殺人をする者、姦淫を行う者、呪(まじな)いをする者、偶像を拝む者、またすべて偽りを言う者には、火と硫黄の燃えている湖の中が、彼らの受くべき報いである。これが第二の死である。』

第二の死とは、肉体の死の後、永遠に神の光の届かない地で生きてゆくことを意味しています。
また、テサロニケ第一の四章では神がわたしたちを召されたその御心は、わたしたちをこのような不品行と情欲のままに汚れたことをさせる為ではなく、清くなる為であると示されています。
そして神を知らない異邦人のように、貪欲な性欲のままに歩み、兄弟の権利を害して侵すならば、神はそのすべてについて処罰を科すことを示されています。
ヘブライ十三章四節では『結婚はすべての人の間で誉れあるものとされるべきであり、夫婦の関係は汚してはならない。神は、みだらな者や姦淫する者を裁かれるからです。』と示されました。
マルコ七章二十節から二十三節では主イエスは人を汚すものとは、外側から人に入ってくるものではなく、内側から出る悪が人を汚すことを言われました。

『また言われた。「人から出るもの、これが、人を汚すのです。
内側から、すなわち、人の心から出て来るものは、悪い考え、不品行、盗み、殺人、姦淫、貪欲、よこしま、欺き、好色、ねたみ、そしり、高ぶり、愚かさであり、これらの悪はみな、内側から出て、人を汚すのです。』

人は多くの時間、何か悪いものが外から遣ってこないかと脅えることがあるかもしれません。しかし最も恐ろしいものは、実は自分の内に在り、それが自らを最も脅かすものであることを主イエスは言われています。
ですから自分の外に、つまり他者の内にどれほどの悪があるかを数えるのではなく、自分の内にどれほどの悪があるかを知り続ける必要があります。」
その時、静かにそれまで話を聴いていた男が右手を挙げて後ろの席から低い声で呼ばわった。
「神父さん。」
そしてすたすたと神父の立つ講壇の前に歩み寄り、神父の目の前に立ってこう言った。
「あのさ、言いたいことは解る。誰だって好き好んで、そんな悪業を積んでみずから地獄にくだってゆこうとしているように見えないよ。俺だって好きで、情欲をいだいて女の、淫らな妄想をして、女から誘惑され、金払わねえと、駄目だっつんで、あいつに、俺は何百万と、俺は払ってあの女と姦淫を繰り返してきたんだ。これはさ、罠だよ。狡猾で、あまりに汚い、最悪な罠じゃねえか。あの女が俺を誘惑さえしなければ、俺だって童貞のまま、可愛い処女の愛する女と結婚して幸せになりたかったさ。俺は好きで、こんな風になったわけじゃないんだ。誰だってさ、綺麗な道を歩むほうが、本当に幸福になれるってわかってる。たった一度の過ちで、もう二度と、その道を歩むことはできずに虚しく死んで逝くこともわかってる。なあ神父さん。俺は気休めの言葉なんて聴きたくねえんだ。人は神から罪を赦されても、もう二度と、死ぬ迄、神の喜びの道を生きることは赦されねえんだろ。俺はわかってるよ。俺はそれを、あんたに言いたかったんだ。俺はさ、あの糞売女(ばいた)女に誘惑され、罠にはまらなかったら、今頃、大学も落第せず、植物細胞生物学の大学院生になって、今頃、食虫植物の遺伝子研究遣って、世界中のアホで屑な人間どもを全員喰ってくれる巨大な食虫花の開発に勤しんでたろうよ。俺はこの世界の救世主になりたかったんだ。まあでもさ、今は落魄れて、大酒飲みだが、最近、店をこの近辺で始めたんだ。死んだ花を売り捌く店だよ。枯れない生きてるみたいな花だって評判なんだ。教会で花を飾るときなんかがあれば、どうぞよろしくお願いします。それじゃ。」
そう言い棄てて男は一枚の名詞を灰色のジャケットの胸元から取り出すと講壇の上に置いてまたすたすたと歩いて教会の外へ出て行ってしまった。
神父は胸の痛みを感じ、人からこのように率直に情熱的な反論を受けたことがなかった為、とても悲しい気持ちに心が塞いだ。
しんと鎮まり返ったままの教会内で、神父は神に問い掛けた。
「人は、もう二度と、戻れない道があるのでしょうか。」

神父はこの日の帰り道、まだ悄然としていた。
なんとなく、今日のあの男の言った言葉が、かつての自分の訴えと同じものであるように想ったからだ。
神父は児童養護施設で育ち、5歳の時に養子に貰われた神父である義理の父親の家で育ったが、義理の母親が神父の十歳の時に三十八歳で心筋梗塞で他界し、その後、義父は独りで神父が中学を卒業するまで育ててきた。だが高校に入学した年に、義父は仕事が忙しくなり家事手伝いの女性を雇った。義理の母と同じ生まれ年の、四十四歳の女性だった。
その女性と、義父の関係がどういうものであったかは、今でもわからない。
妾のような関係にあったのかもしれないし、何もなかったのかもしれない。
義父は四年前の夏の夜、道路の真ん中でこけて腰を痛めている見ず知らずの老婆を助ける為にその場に駆け寄った瞬間、余所見運転しながら速度を落とさず走ってきたトラックに跳ねられ即死した。
六十九歳だった。
二十九歳で、神父は義父の跡を継いで神父になった。
今は三十三歳。あの女性が行方を晦ましてから十四年が経つ。
ただ側で眺め、情欲をいだき、彼女を心のなかで犯し続ける時間が三年続いて、彼女は跡形もなくどこかへ消えた。

道端で、今夜も儚げにその花は月夜を見上げるようにひっそり咲いていた。
神父は歩き寄り、屈んでその花の弁に指先を触れ、まるでその冷たく清らかな夜露を吸い取ろうとした。
神父はいつもと違って憂いのある表情でじっと花を見つめた。
そしていつも声を最低でもひとつ掛けたり、微笑んだりしていたのが今夜は黙って立ち去ってしまった。
ひとり残された愚花は、こころに不安の露を湧きあがらせ、その水滴は花の真ん中から垂れ流れ、湿った土のうえに音もなく落ちた。

それから、また一週間が過ぎた。
神父はすぐに笑顔を取り戻し、愚花に微笑みかけたが、その顔はまだ、憂鬱な影が帯びていた。
愚花は一分一分、自分の身体から水分が抜け出て、枯れていることを感じ取るようになった。
強い陽射しは、もう前のように快いものではなくなり、苦しく時に焼かれるような熱さも感じるようになり、夜には夜で骨の髄まで染み入るような寒さに身をふるふると震わせ神父のあたたかい体温を前以上に求むようになった。
愚花はどれほど寒くてもいつも、神父に微笑み返した。
会う度に、神父への愛おしさが大きく膨らみ、愚花は神父の雄蕊によって受粉する夢を見た。
神父の雄蕊はあの優しく白く細いが同時に隆々としている右の人差し指であった。
その雄蕊によって愚花の雌蘂は愛撫され、その時、神父の雄蕊の先から金色の粉が湧き出て愚花の雌蘂の先に着き、受粉する。
愚花が恍惚な感覚に満たされたその時、花糸(かし)が一つ、下に落ちた。
今まで自分の元でそっと息づいていたそれが死ぬように土のうえに落ちたままであるのを見て愚花は自分の身体は日に日に、壊れゆくのだということを知った。
愚花はこころの中で静かに叫ぶように祈った。
このまま壊れゆくのならば、いっそのことあのかたに摘まれ、押花にされ、ずっと側に置かれたい。
その時である。
一筋の月光が、愚花の柱頭を光らせ、そこから声が聴こえた。

ではおまえは行ってその通り、あの男に伝えるが良い。

ふと気づくと、愚花はひとつの長細いプランターの中央部に生えた一輪の薄ピンク色の花を見下ろしていた。
まったく同じ色をした、薄ピンク色のワンピースを着た自分が、自分を見下ろしていたのである。
愚花はすこしのま、忙然として突っ立っていたが、はっと我に返り、いっ、急がねばならんがな。と声に出して言うと、裸足のままでとにかく道の向こうを駆けてった。
たぶんこの道を、真っ直ぐに行くとあの神父に会えるであろう。
そう信じてとにかく全速力で愚花は走った。
すると目の前に、眩しき灯りが見えて、そこに向って走った。
どうやらそこは24時間営業のスーパーマーケットであるようだった。
長い黒髪が、汗ばんだ額や首筋にへばりついたまま、愚花はちょっとスーパーマーケットへ寄って行くことにした。
籠にとにかく、甘そうな果実を詰め込んだ。
それでレジカウンターで待っていると店員が愚花に向って言った。
「合計753円。」
「為口かっ。」
愚花は想わず声が出た。
金髪の若い男はもう一度ぶっきら棒に言った。
「合計で753円です。」
愚花はワンピースのポケットのなかを弄(まさぐ)った。
すると不思議なことに、そこにはちょっきし、753円のお金が入っていたのであった。
愚花はそれを払い、籠を持って台の上に移動し、そこで袋に買った果実を放り込もうと袋を開こうとした。
だがこれが、どうしたことか、開かない。開け口の部分を人差し指と親指で擦り合わせるのであるが、一向に、開こうとしないのである。
愚花は想わず、叫んだ。
「くわあっ。枯れる。涸れる。早くしないと。水分がぜんぶ抜けて、愚花は枯れてしまう。」
だがふと台の上に、水を沁み込ませたスポンジ状のものを見つけ、ときめいて愚花はそこへ指をつけた。
そしてその指で袋を擦るとすぐに、袋は開いたのであった。
果実をすべて放り込み、愚花はまた、郊外へ出て走った。
そして走って走って、とうとう神父の家を見つけたのである。
何故かはわからぬが、この家に絶対にあのかたが住んでいると、愚花にはわかった。
愚花はその戸を、想い切り叩いた。
時間は午前の三時過ぎであったが、愚花にはそれがわからず、焦眉の急を要する為、そんなことは言ってられなかった。
するとすぐに、戸は開かれた。
中から、神父が、驚いた顔で顔を覗かせ、そして何かを言おうとしたその時、
愚花は叫んだ。
「神父さま。愚花を、摘んで、それで押してください!」
「今すぐに!今すぐに!」
神父は目を大きく開いて丸め、開いた口が塞がらなかった。
愚花は地団駄をその場で踏み、神父を押し倒して、神父と愚花は玄関に倒れ込み、ドアは閉まった。
可笑しなことに、神父の家のなかへ入った途端、愚花は大人しくなって、何も話せなくなった。
神父は押し倒されたまま、困りに困り果て、この四十歳前後に見える女と、黙って見つめ合っていた。
そうやって見つめていると、神父はこの女がどことなく、自分が想いを寄せ続け、その情欲に身を焦がし続けたあの女性に見えて来るものがあり、生唾をごくりと飲み込み、股間に鈍痛を覚えた。
神父は心臓が高鳴るなか女を起こして玄関に座らせた。
女はこのもうすぐ十一月に入ろうとしている気温のなかに薄いワンピース一枚でしかも裸足で足が膝辺りまで泥だらけであった。
神父は落ち着いて、困った顔で見つめるばかりの女に向って落ち着いて訊ねてみた。
「貴女は、どこから来たのですか?」
愚花は落ち着かない様子でまごまごとして何を言えばいいのかわからなくなった。
「貴女は、どこのだれでしょう?わたしと、会ったことがありますか?」
愚花はうんうんうんうんうんっと首を縦にぶんぶん振った。
神父はどこで会ったかを中空に目を遣って首を傾げて目をきょろきょろさせながら想いだそうとしている。
だが想いだすことができず、その代わり想いを馳せていた女の顔が浮かんでしょうがないのであった。
愚花の顔を眺め渡し、観れば見るほど似ているように想えて胸が苦しくなるのだった。
神父は大きく息を吐いて、「ちょっと待っててくださいね。」と優しく言うと洗面所に言ってタオルをお湯に濡らして持って来て、愚花の足の泥を丁寧に拭いてやった。
愚花はどきどきする余り、足が震えて止まらない。
神父が「大丈夫ですか。」と訊ねるも、愚花は黙って神父を見つめ、それでまた苦しそうに言った。
「愚花を、摘んで、どうか押してください。」
神父はちんぷんかんぷんで一体この女が何を訴えているのかがてんでわからないのだった。
「”ぐか”とは、一体なんでしょう?」
神父がそう問うと愚花は自分を指差した。
「ああ、貴女のお名前が、”ぐか”というのですか。それはとても変わったお名前ですね。」
愚花は素直に自分の名前の意味を神父に告げた。
「愚かな花、と書いて、愚花なのです。」
神父は言葉に詰まり、一瞬、からかわれているのであろうかと訝った。
だが女の切実な潤んだ目を見つめると、嘘をついているようには見えなかった。
神父は小さく嘆息し、もう一度訊ねた。
「貴女の住んでいるおうちは、どこですか?」
愚花は考え込んだ。自分の家とは、一体どこなのかがわからなかったからである。
あの長方形のプランターが自分の家なのであろうか?
しかし家とは、屋根や壁があるものなのではないのか?
ということは、あれは家ではない。そうか、愚花には家というものがないのだ。そう想って愚花は素直に答えた。
「愚花は、家がない。」
神父はこの返事に、またまた困惑した。
家がなくて、一体この女はどこでどう生活をしてきたのであろうか?
それとも、もしかして、夫のもとを出てきたのではあるまいか。
もしそうであるなら、大変である。
この女は夫を騙して姦淫をしているなどと噂され、このわたしも姦淫神父野郎などと陰口を叩かれるかも知れぬ。
そうすると、どうしたら良いのであろう。
わたしもこの女も、この町を出て行かねばならないことになるだろう。
あの教会を棄て…また新しい町で、この女と遣り直すしかない。
神父は不安と胸のときめきが胸中で混濁となる感覚に、先のことを考え過ぎだ、主イエスは「明日のことまで思い悩むな。明日のことは明日自らが思い悩む。その日の苦労は、その日だけで十分である。」と言われたではないか。とみずからを叱咤した。
神父は毎夜の聖書の勉強で寝不足となった目でまた女の目を見つめ、「一先ず上がってください。あたたかい飲み物を淹れましょう。」と言って女の肩を支え女を家のなかへ上げた。
女を和室の客間へ案内し、淹れた豆乳チャイティーの入ったマグカップを二つ持って来て座った。
女は差し出されたそれに口をつけ、また焦燥のなかに壊れたA.I.ロボットのように同じことを言った。
「愚花をどうか摘んで押してもらえませんか。」
神父は落ち着いて、ひとつひとつ訊ねることにした。
「その、摘む、とは、一体なにを摘むのでしょう?」
愚花は目を瞬かせて、「摘むとは、根元から、くきっと折って、千切ることです。」
「どこを…?」
「だから、愚花の、根元らへんです。」
神父は俯いて、頭を悩ませた。
顔を上げると、次の質問をしてみた。
「では、押すとは、一体なにを押すのでしょう?」
「愚花を押すのです。愚花の全身を。重いものを載せて。」
「どこへ…?」
「手帖などがよろしいかと…。」
神父は空笑いをすると続けて言った。
「はは、愚花さんを押すにはとても大きな手帖を発注しなくてはなりませんね・・・。」
愚花はこのとき、初めて信じられない衝撃に満たされた。
果たしてあのプランターのなかに咲く愚花と今ここにいる愚花は、同じ存在なのであろうか。
愚花は神父に向って言った。
「あの…新しいビニール袋はありませんか?袋の開く口が開いていない…」
神父は、はて、何に使うのだろうと想ったが「ちょっと待っててくださいね。」と快く返事をするとすぐに新しいぺちゃんこの袋を一枚持って来た。
愚花は「ありがとう。」と御礼を言って、その袋の開き口を人差し指と親指でこすった。
やはり開かなかった。
愚花は絶望した。
あの愚花と、ここにいる愚花は、やはり同時に枯れて行ってるに違いない。
枯れ切る前に、神父さまに摘まれて押されなくては、愚花は、枯れた後も、神父さまのお側にいることができない・・・。
愚花は悲しくて、涙をぽたぽたと落とし、着ている薄ピンク色のワンピースが斑模様となった。
神父は焦って愚花に膝を擦って進み寄り、その右手を両手で握った。
「大丈夫ですよ。神はいつでも貴女のことを見つめて、貴女がどのような時でも変わらず暖かい光を照らし、時に雨を降らし共に泣いてくださる御方なのです。」
愚花はそんな言葉を神父から言われ、想いきり泣きたくなったのだが、此処で泣いては水分が流れ出て、愚花が枯れるまでの時間が早まってしまうと、必死に涙を堪えて我慢した。
だが神父は、「泣きたいときは、存分に泣くのが良いのですよ。さあたくさん泣いてください。たくさん泣けば、すこしすっきりとしますから。」と言った。
愚花は泣きたいのに泣けなくて、本当に泣きたくなった。
そして、「水を貰えませんか。」と愚花は言った。
神父は頷いて急いで2リットルのペットボトルの水とグラスを持って来て水を注いで愚花に飲ませた。
愚花は、ごくごくと、2リットルすべての水を、飲み干したのであった。
神父は、「そんなに喉が渇いていたのですか…気づかなくて申し訳ない…」と謝った。
しかし愚花は、黙って泣くばかりであった。
多分、これで1リットルほどは、泣いても大丈夫やろうと想ったからである。
神父は、懐かしく切ない想いでそんな愚花の泣いている姿を見つめて、愚花の痩せた冷たい手を握り締めていた。
そして愚花が一頻り泣き終わったと見るや、神父は愚花に、こう告げた。
「良かったら…貴女の新しいおうちが見つかるまで、此処で一緒に暮らしましょう。」
愚花は神父の目を見つめてこくんと頷くと、神父の右の人差し指を自分の右の目の下に当て、一粒の涙を神父の指先に落とした。
神父はそのとき、デジャヴュを感じた。

翌朝、ソファーの上で眠っている神父を朝早く、愚花は起こして昨夜買った果実を食べさせた。
皿の上には柿と蜜柑と梨が細かく刻まれて載せられてあった。
ふと、神父が愚花の左手の指を見ると、その指がまるで躊躇い傷がいくつも付いたようにずたずたな状態となっており、ショックの余りに神父は失神しかけた。
だが、その傷だらけの指が、どう見ても違和感を拭えないのだった。
何故なら、一滴も、赤い血が出ていないようだったからである。
その代わりに透明な粘液をともなった液体が、愚花の傷口から垂れているのを神父は見た。
神父はひとつひとつの愚花の傷に、手当てをし、もう決して刃物を使ってはならないと愚花に誡めた。
愚花は神父に、水をたくさん買ってきて貰えないだろうかと頼んだ。
神父はそれを疑問も持たず聞き入れ、2リットルのペットボトルを歩いて往復30分近くかけて十本買って来た。
愚花は不安気な顔でその十本のペットボトルの水を眺めていた。
神父は腕時計を見て、あと30分で教会に着かなくてはならない時間であるのに気づき愚花に言った。
「今日は夕方の五時半頃にはきっと帰ってきます。その時にあと十本のペットボトルの水を買ってきますから。それではいってきます。お昼ごはんは昨晩に作ったものを電子レンジで温めて食べてくださいね。電子レンジの使い方は紙に書いて電子レンジの開けるところに貼ってありますから。」
心許無い愚花を残し、神父は心配でならない想いで家を出た。

急いで神父が家から帰ると、時間は夕方の六時を少し過ぎていた。
家のなかを探しても愚花の姿がなかった。
「愚花さん。」と呼ばわりながら神父が裏庭の雨戸を開けて覗くと、狭い庭先に愚花が目を瞑ってうつ伏せに倒れ込んでいた。
神父は愚花の頬に触れると、その肌はとても乾いていた。
急いで水をグラスに入れて愚花に飲ませ、愚花は飲むというより、口許から吸い取るように水を飲み、2リットルの水を二本飲んだところでやっと目を覚ました。
安心して涙を流しながら神父は愚花を起き上がらせて縁側で抱き締めて言った。
「貴女を愚かな花と名づけたのは誰なのでしょう…わたしがどれほど貴女の元気な姿を見かける度に嬉しかったことも知らずに…」
愚花は一命を取り留めたが、その枯れ具合が、元の瑞々しい状態へと戻ることはなかった。
それでも神父は、愚花の枯れる前の美しさを愛するのだった。
その枯れ行く美しさは、四十七歳で自分の前から姿を消し去った愛する女性の面影があった。

その夜、愚花は縁側に置かれた、プランターと、自分の姿を見つけた。
神父がこの日の教会の帰りに、5本の2リットルのペットボトルの水の入った袋を左手に持ち、残りの5本のペットボトルの水をバックパックに詰めて背負い、そして右手に、愚花の咲いたプランターを抱えて家に連れて帰ってきたからである。
愚花は枯れかけている自分の姿を見るのが痛々しくてならず、そのことを、神父に話すことすらできなかった。
愚花はもう、ただ枯れる前に摘んで押花として神父の側に居られるなら、それで良いと諦めていた。
でも神父は、この日から毎日、どうすれば愚花を生き永らえさせることができるのか、そればかり考えていた。

次の日愚花は、神父が自分を摘んでくれない悲しみのなかにこんなことを言い放った。
「愚花は、ただ生きているだけです。毎日、神父さまは愚花のために重たい水を何本と買ってきて、力をなくした枯れかけの愚花は、もう本当に、生きているだけなのです。ただ枯れかけた見苦しい姿で、咲いているばかりなのです。なぜ、愚花を、摘んでは貰えないのですか?愚花は、これ以上枯れるまでに、せめて今の姿で神父さまの御側におりたいのです。」
気づけばまた、大事な水分が愚花の目から、垂れ流れて止まらぬのであった。
神父は神父で悲しみに暮れ、それでも愚花に向き合って話した。
「すべての花が、実を実らせる為に生まれて生きているのではありません。多くの花はただそこに、咲いているだけのものです。田んぼに出て、農作業をしたりもしない。畑へ出て、野菜や果実を捥ぎ取ったりもしない。工場のなかで働くこともなければ食事を運んだりもせず、誰かのクレームを聴いたりもしません。掃除も洗濯もお皿洗いもしません。それでも神は、その小さな誰も目に留めぬ花でさえ、これを綺麗に着飾らせて、その花に雨を降らせ、日を照らさせるのです。いつか枯れてしまうからといって、神は摘み取ることはしません。」
愚花は悲しくて泣いた。
神父は愚花の代りに泣くことを我慢し、ひたすら愚花の命が永らえる方法をネット上や本のなかに探し出そうとした。
「花を長持ちさせる方法」という本のなかに、「ドライフラワー」という言葉を見つけた瞬間、神父はあの男の言葉を想いだした。
確かあの男は「枯れない生きているような花」だと評判の花を売っていると、そのようなことを言っていたはずだ。
神父は廊下を走って椅子に掛けたままであったジャケットの内側から財布を取り出し、その中に仕舞ったままのあの男の名詞を取り出した。
そこには店の名前と住所と電話番号が書いてあった。
ネットで調べると朝の十時から開いているようだ。
神父は愚花のもとへ戻るとしょんぼりと縁側に座って月光に照らされている愚花を優しく抱き締めて言った。
「わたしはいつまでも貴女とこうしていたいのです。」

翌朝早くに、神父は眠っている愚花を残してあの男の店に一人で出掛けた。
開店の三時間前に、その店のガラス戸を叩いた。
すると奥のほうから、あの男がやって来てドアを開け、にやついた顔で笑って神父を見た。
「まだ開店前に申し訳ない。実はあなたに相談したいことがあるのです。」
男は頷き、「待ってたよ。」と言うと神父を店のなかへ迎え入れた。
神父はなかへ入ると、鮮やかな色彩の花々が芸術作品のように様々なオブジェとして飾られ、展示されているのを見て心が躍動するものを感じ、その独特な華やかさは生花に似てはいるのだが生花とは違う何かを感じるのだった。
「これって…みんな生きた花ではないのですか…?」
男は一緒になって部屋のなかを眺め渡して言った。
「さあ…どうなんだろうね。俺は生きていると感じるが、生きた花よりもね。」
神父は何か闇の光を感じているような感覚で言った。
「これはみんな、水を必要としたり、光が必要だったりしないのですか・・・?」
「うん、水も光も土もなんの栄養素も必要ではない。気をつけることは高温多湿と急激な温度変化を避け、適度な湿度管理、直射日光や強い照明光に当て続けないこと、そして一番重要なのは、”生きている花より美しい”と話しかけることくらいだな、ははは。」
「これは何か名称があるのですか?素材というのかな…」
「プリザーブドフラワー(Preserved flowers)ってやつだよ。特殊液に一、二週間漬け続け、そして乾燥させるだけだ。脱色してから着色するという作り方もあるが、うちでは全部生きたままの色を保存させることのできる特別な液体を使っている。だから死んでいるはずなのに、見た目は生きているのと変わりはない。」
「これは…」
神父は言葉が続かず、言うのを躊躇っていた。
「相当、想い詰めた顔しちゃって、深刻な相談なんだろう。金さえ積んでもらえるなら、俺にできることは遣ってやるよ、神父さん。まあ立ち話も疲れるから、ああ、その前に、あっちに水槽があるから、それを見せるよ。」
「水槽…?」
男のあとを追って神父が着いて行くと、一つの部屋に案内された。
部屋のなかには白いカーテンが壁の端から端まで引かれており、男はそのカーテンを一気に引いた。
そこには部屋の半分ほどの大きさの水槽があり、その中にはものすごい数の花々や葉が漬けられていた。
神父が言葉を失っていると男が平然な口調で言った。
「俺の本業は実はこれじゃないんだよ。俺の本業はさ、人間を強引に無理無体に、咲かせたままの状態にすることだよ。」
神父は目を見開いて左を向き、男の目を見た。
「聖書はそういえば、呪術者に近づくことすら禁じているよな。俺の本業は一種の呪術と言ってもいい。植物人間もこの液体に漬けると、目を開け、言葉を発することもあることに気づいたんだ。でも死んでるのか生きてるのかは俺にはわからない。でも生きているように、そいつは喋ることもできるし笑うこともできる、飯食って糞して寝て、性行為だってする。ただ記憶とか、人間の理性とか、愛とか、失くしちまってるように外からは見えるだけだ。」
神父は気が朦朧とし、気を喪うような感覚のなか虚脱状態に陥り、貧血も起こって立っていられなくなり蹲って、二の句が継げず、心臓がとてつもなく早く鼓動を打って死ぬのではないかと感じた。
すると男は呆れたように神父に向って言った。
「あんたさ、よりにもよって、愚かな花に恋をするなんて、どうしようもねえ神父だよな。」
神父は胸を押さえて男を見上げ、かすれた声を発した。
「何故、それを…?」
ははは、と男は渇いた笑いをしたあと深く溜息を吐き答えた。
「当たり前だろ、愚花は俺の蒔いた種から、芽を出し、そして花を咲かせたんだ。俺が知らないはずはない。あいつの名を付けたのも俺さ。あいつにぴったしの名前だろう。あいつの母親が、あの雌犬になるのかどうか、わからねえが、あの雌豚が俺を誘惑して、金を奪い取り、そして俺が情欲をいだいてあいつを求めなければ、愚花も、この世に存在してないんだぜ。神父さん。愚花はとんでもなく醜い女だよ。だって俺の最悪な姦淫の罪の、その種が咲かせた花なんだからなあ。穢ねえにもほどがある女だ。愚花はさ、生きててもしょうがないんじゃないかと俺には想えるが、というか早く死んでもらいたいが、でも俺はあんたに借りがあるから、神に借りがあるから、だから神父さんの願いを俺は引き受けるつもりだよ。枯れかけて死に掛けている愚花を、この液体に漬け込んで、そして生きた状態のままで、何十年、いや何百年、生き続ける術を、この際、無償で、俺が遣ってやるよ。神父さん。」
神父は意識の遠くなるなかに、時間がどれほど過ぎたかもわからないなかに、男に、「お願いします…」と、声を絞り出すように、言って、男の靴に頭を付けて拝むように懇願した。

家に帰ると、まだ午前十時過ぎだった。
愚花は、疲れているのかぐっすりと、まだ眠っていた。
神父は愚花の寝顔を見つめながら、途方もない永い時間を、愚花と過ごしてきたような感覚になるのだった。
「何故なのでしょう…。」
神父は、吐き気を感じるなか、同時に、今までに感じたことのない安心と幸福感のようなものを感じているようだった。
やっと、ずっと一緒にいられるのだと、想って、神父は眠る愚花の渇き切ったその口に、そっと接吻をした。

















Mirror box〈ミラーボックス〉Mirror box

2018-09-24 14:50:19 | 随筆(小説)
色々と、永い夢を見ていた。
夢のなかで俺は、ヴァーチャルリアリティゲームを体験している。
何かの器具を付けて、武器を持ち、向こうのほうにあるあの船まで渡る。
海の中を仲間たちと泳ぐ。濁った曇り空のような海。
俺は鮫を恐れ後ろ向きに泳いだが、鮫よりも、危険なのは、此処では人間だ。
沿岸から片手で持てるショットガンを持った男たちがぶっ放して来る。
ひゅんひゅんひゅんっ。すべて弾は海のなかに消える。
しかしその時、レーダーが作動する。
仲間の一人が撃たれたか。いや、撃たれたのは、あいつを此の世と彼の世で繋ぐ為のHMD、ヘッドマウントディスプレイ。VRヘッドセットの右目部分だ。
そこに敵の銃弾が当たり、あいつは目覚める。
エスカレーターを上っている。すると、上から、子供たちが降りてくる。
邪魔だなあ、なんで右に来んだよ、左行けよ左。
俺は子供が上から降りてくる度に、子供をよけて上らなくてはならない。
だがふと気づく。あれ?なんでこのエスカレーターは昇りのエスカレーターなのに、上から降りて来んだよ。
おかしいだろう。なんで昇ってるのに、あいつら餓鬼どもは平然として下に降りてゆくんだ。
つまりこういうことか。このエスカレーターは、上に昇っているのだけれども、同時に下にも降りてゆくエスカレーターで、上に昇りたい人も利用できて下に降りたい人も利用できる画期的な新開発の同時昇降エスカレーター。
な、あほかいや。そんなものを作るから、上に行きたい人と下に行きたい人でエスカレーターの階段部で人がげしゃげしゃになって迷惑しておるのだ。
迷惑なだけでなく危険極まりない、何故なら右の階段部分で上へ昇っていると上から降りてくる、その人間を避けるために左に移動する、と、左部にも上から人が降りてくる、おいいいいいいっ、で、また右部に避けるとまた、上から人が降りてくる。ええ加減にせえよ、おい、餓鬼、糞ガキどもが、おまえら、ルールを護れ、ルールを、おまえら降りてくる人間は、俺から見て左、おまえらから見て右に降りたら良いんだよ。俺らは右で昇ってくから。
しかしアホな餓鬼にはそれがわからない。頭の中は自分の所持金で、一体なんの玩具と菓子が買えるであろうか。そして釣銭は果たして如何程のものになるであろうか。そんなことで脳内が満員状態で俺の注意を聴き取る空間が残されておらないのでだ。
のでだ、どうする?
ま、とにかく、上へ上がるか。
しかしいつになったら、頂上に着くのだろう?
俺は延々と続いているかに見えるその上を、エスカレーターに乗りながら見上げる。
餓鬼らがライン作業の如くに、上から流れ込んでくる。
つまり在り得なきことが、在り得ている世界。物理的に不可能であることが、普通に可能である世界。
此処は、夢の世界ではないか。
俺はそう言う。
「ってことは、これは、明晰夢?」
もう一人の男が言う。
「そうだ。証拠に、おい。自分の手を見て見ろ。」
もう一人の男が言う。
俺ともう一人の男は自分の手を見る。
俺の手は、右手の小指が足の小指になっている。
もう一人の男の手は、指紋と爪がすべて、ない。
俺はいま、恐怖に打ち震え、見るところ、もう一人の男も青褪めた顔をして唇をわなわなと震わせている。
「おい、鏡を見るなよ。」
男が深刻な表情でそう言う。
「鏡を見たら、ど、どうなるんだよ…」
もう一人の男が言う。
「さあ、どうなるかがわからない。」
「何か恐ろしいことが起きるのか。」
俺は訊ねる。
男は顎をがくと小さく動かすと言う。
「それは、おまえさん次第さ…」
「どういうことだ?」
「忘れたのか。此処は夢だから。願望も恐怖も、瞬間的に実現化、具現化する。」
「そ、そうだったあっ」
俺は腰を抜かし、床に尻餅を着く。
「ひいいいいいいいいっっっっ」
俺は叫ぶ。
あ、足が…足先が…見えない…。
「おい、おまえ今、足先が消えてたらどうしようと恐怖しただろ。」
「そ、そうだったああああああああっっっっ。」
つまり見事、俺の恐怖は瞬間的、実現化、現実化したということだ。
「まあ落ち着け。おまえはちゃんと足があるじゃないか。おい、よく見ろよ。ほら。足が生えてるぜ。」
俺は「え、まじで」と自分の足を見る。
瞬間、「ふううううううううっ」とマイケル・ジャクソンのように叫んで飛び上がった。
俺の足が、ある。あったのである!
そうか、俺はさっき、そうだと良いな。俺の足、生えてると良いな!と強く願ったんだ!
その俺の願望が、瞬間的、叶った。そういうことか。
「違うよ。」
男が俺を鋭く見て言う。
「え?」
「俺が信じたからだ。おまえの足は実は生えている。と。」
「って…てことは…この夢は、もしかしてのまさかの、お、おまえが見ている夢の世界ってことおおおおおおおおおっっっっっ」
「違うよ。」
男は即答する。
「この世界はな。とにかく%、パーセントで何もかも動く世界だ。おまえの”足生えてると良いな”の願望よりはるかに、俺の”おまえの足は生えている”の信仰が、%的に大きかった。強い願いだったということさ。」
「な、なるほど…」
俺はもう一人の忙然と突っ立っている男と顔を見合して変に納得する。
「だからさ。ほんとに気をつけろよ。すべては俺たちの恐怖と願望に懸かっている世界だからな。」
俺は一安心してソファーに座り、煙草を吸う。
「で、この夢はいったいだれが見ている夢なんだ?」
「全員だよ。」
「何故そんなことがわかるんだ。」
「あのな…わかってないな。わかるんじゃないんだよ。願いが叶うんだよ。」
「どういうことだ。」
「だから…俺の願いは、この世界は俺たち全員で見ている夢だっていま俺が強烈に激烈に願ったから、いま、それが叶った状態にあるんだよ。」
「えっ、そういうこともできうるのか…それってつまり…」
「そうだ、俺たちが操れるのはこちらの世界だけじゃない。あちらの世界も同時に操れるんだよ。」
「でもなんでそんなこと知っているんだよ。」
「ハア……」
男は深く溜め息を吐く。
もう一人の男はきょとんとした顔で言う。
「いやだからさ、すべての願いも想像も、ほんとにそのとおりに叶う世界だっつってんじゃんか。」
「本当にすべてのすべてが、俺らの想い通りになるってわけ?」
「そうさ。」
「ほんとかなあ~。」
「おい。」
「なんだよ。」
「おまえ疑うと、俺の願望%から、おまえの疑い%の分が引かれるんだぞ。」
「そしたらどうなるんだ?」
「曖昧の、どっちつかずの、しょうもない世界になるんだよ。」
「それはおまえの恐怖だろ。そのとおりになるじゃねえかよ。ばか。そんなこと想ったら、だめじゃねえかよ。」
「ははは。」
「何笑ってんだ。何が可笑しいんだよ。」
男はぽそりと呟いた。
「女を、抱きてえなあ…」
「うわああああああああああああああああああああああっっっっっっ」
俺ともう一人の男は後ろに引っ繰り返った。
目の前に、突如、女が現れたからである。
女は眉を潜め、この部屋のなかを見渡している。
「あれ、どこだ、此処…」
「やっぱり…」
俺たち四人は、顔を見合す。
「おいいい、おまえが女なんかを願望すっから、ほんとに女現れちゃったじゃん。」
女を願望した男は、女を見つめ、言う。
「ちょっと違うな…」
「贅沢を言うなよ、贅沢を。おまえがしっかりと具体的に想像しなかったからだろ?だからこんな、なんつうか…曖昧な女が…」
女は深く溜め息を吐く。
「ふう。おまえらさ、皆殺しにされたいか。」
その瞬間。女の右手に、散弾銃。
「申し訳、ございませんでした。」
俺たち三人は、女の前で土下座し、平謝りする。
「ところでさ、オレは誰なんだよ。」
女は言う。
俺たち三人は顔を見合わせ、無言で女を見る。
「俺たちはさ、誰なんだろう。」
沈黙の時間が過ぎたかのように想える。
その時、俺は時間が経っているのか。ふと気になり、時計を見る。
秒針は進んでいる。
なんだ、時間は過ぎてるじゃねえか。午後の一時二十分。
秒針が、5週回る。
時間は、午後、一時二十分。
ってことは…ただ秒針が進んでるだけで、時を刻んでない…時間は流れてない…?
いや、この時計、壊れてんじゃねえのお?
「壊れてるよ。」
男が言う。
「壊れてるんじゃないか?っておまえいま心配しただろ。だからいま、この時計はおまえの心配どおりに壊れ、そしておまえの心配どおりに、この世界は、時間は過ぎていない。あほか。」
「あっ」
俺は笑おうかと想うが、笑えねえと想う。
全然笑えねえ。
笑えねえと想うから、マジ、笑えねえ。
もう一人の男はぽそりと呟く。
「腹、減ったなあ…」
瞬時、男は振り返り、ダイニングテーブルの上にある皿のうえに載っかったものを見て興奮する。
「うおおおおおおおおっっっ。」
俺たちはそこへ近づく。
その、皿のうえのモノを、見下ろす。
「えっ…んだよ、これ…」
「き、きめえっ…」
「動いてるぜ、こいつ…」
「かわいい~。」
皿のうえには、まっしろな得体の知れない平たく丸い見たこともない質感の気持ちの悪い物体がよく見ると微かに不規則に呼吸するように蠢いている。
「これ、食べ物じゃねえだろ、どう見ても。」
「おい、なんでもっと、具体的に喰いたいもんを想像しなかったんだよ…」
「す、すまねえ…なんかあんまり腹減ったんで、今すぐ喰えるなんか美味い奴って感じで想像しちまって…」
「これの、どこが、今すぐ喰える美味そうな奴なんだよ…」
「殺さねえと喰えねえだろ、しかも皮が硬そうだし…」
「あっ。団子!」
「え?」
「俺そういや真白な団子を喰いてえって…」
その瞬間、さっきまで蠢いていた白い奴は、三本の、三つの団子が串に刺さった串団子へと変化する。
「おいいいいいいいいいっっっっ。こいつ…さっきまで生きてた奴じゃねえのかよお…生きてたやつが団子に早替わりしたからって、喰う気しねえだろ、こんなもん…」
「そうだよな。見た目はただの何の変哲もない串団子だが、中身は、さっきの生きてた白い塊かもしれねえな。」
「どうすんだよ、こいつ。おまえ責任とって、面倒見ろよ。」
「あっ。」
俺たちの目の前で、その白い串団子はすっかりと消え失せる。
あるのは白い皿だけ。
「なんだよ。誰が願ったんだよ。おい、あいつが消えることを。」
「俺じゃないぞ」
「オレでもねえよ。」
「おまえかっ。」
しょんぼりとして、男は言う。
「俺だよ…俺はおまえを喰えねえから、来たところへ帰れ。って心の中で叫んだんだ。」
「来たところって、どこだよ。」
「海の中だよ。」
「どこの海だよ。」
「あそこだよ。」
「あそこってどこだよ。」
男は走って、窓に掛かっている白いカーテンを想いきり開ける。
「あそこの海だよ!」
窓の向こうには、真っ青な、海が広がっている。
俺は感動して、笑いが込み上げる。
「は、はは、はははは、そうだ、この世界は、無限なんだ!」
俺はそう叫ぶ。
「でも俺たちずっと此処で生きていくのか?」
「生きて行きたい奴は、生きて行ける世界なんだよ。」
「此処でずっと生きていきたくない奴は、帰れるのか。元の世界へ。」
「帰れるさ。」
女が言う。
「だってオレ…想いだしたんだよ。」
「何を?何を想いだしたんだ?!」
俺は女の肩を揺さぶって問う。
「オレさ、パソコンで文字を打ってた。でさ、気づいたら、此処にいた。」
「なんて打ってたんだよ。」
「遺書だよ。」
「いしょおおおおおおおおっっっっ?!」
「オレは遺書を書いてた。で、最後の文字を、その一文字を、キーボードで打ち終わる、打ち終わった、瞬間、此処にいたんだ。」
「って…おまえほんとに死ぬつもりだったのかよ…。」
「そうさ。もう終わり。終わりだった。本当の。」
「じゃ、じゃあさ、良かったじゃん?この世界に飛んで来られてさ。」
「なんで。」
「だって、此処なら、なんだって叶うんだぜ?最高じゃねえか、死にたいなんてさ、想う暇もねえよ。なんだって美味いもん喰えるし、おまえの好きそうなエドワード・スノーデン似の白人男とも結婚できちゃうし、可愛い色白のハーフの赤ん坊だってできるし、おまえの好きそうな童話に出てきそうな森林のなかに建つ家にも住めるし、鶏も飼えるし猫も飼えるし恐竜だって飼える、すべてが叶うんだから、おまえの想い通りの世界になる。なんで死ぬ必要があんだよ。そうだろ?」
「つまらねえ暮らしだな。」
「だったら、どうしたらおまえは幸せになるんだよ?」
「オレは倖せになんかなりたくない。」
「幸せじゃなかったから死にたかったんじゃないのか?」
「違う。オレは倖せ過ぎてもう何もかも、厭になったんだ。」
「そ、それじゃあ…この世界では、不幸になりゃいいじゃん。不幸なら生きてけんだろ?」
女は黙っている。
俺は女を自分の願いによって召喚した男に言う。
「おまえさ、ほんとどうすんだよ。この女。おまえが此処に来さしたんだ。どうにかおまえがしないと。」
男は言う。
「おい、女。つべこべ言ってねえで、裸になれや。」
「おまっ、おま、何言ってんだよっ、おまえ自分のことしか考えてねえのか。」
「違うだろ、俺は肉体のことを言ってるんじゃねえ。おまえの魂のことを言ってる。おまえの魂を、裸にしろやっつってるんだよ。」
女は真っ直ぐに、男の目を見る。
「オレはさ、オレは面白くなかったんだ。すべて、すべてこの世界では叶っちゃってるって想えて、オレの願いがすべて、叶ってしまってるって想えてならなくて、逃げ出したかったんだよ。すべて、オレのすべてが不可能な世界へ。」
「つまり何一つ、叶わない世界。ということか。」
女は黙っている。
「じゃあ…駄目だったな。おまえは、生きている。」
「そうだよ。ほんとに死にたいって想ったら、その願いは叶わなくて生きてるし、ほんとに生きたいって想ったら、その願いは叶わなくて死ぬし…すべてが不可能な世界ってことは、ほんとに生きたいって願うことも、ほんとに死にたいって願うこともできない世界。願うこともできない。怖れることもできない。何一つ、叶わない。何一つ叶わないということも叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。何一つ叶わないということも叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わないということも、叶わない世界。」
「おい、いい加減にしろ。」
「おまえは、駄目だったんだ。だからおまえは生きてるんだよ。いま。」
「この世界は、ミラーボックスなんだ。」
「その中にあるのは、自分の感覚。」
「どこまでもどこまでもどこまでも、自分の感覚だけが続いてゆく。」
「後ろを振り返っても、前を見ても、上を見上げても、下を見下ろしても、右を見ても、左を見ても、自分自身の、感じて、覚えたものが、延々と続いている。」
「俺たちは、何を感じるのか。何を覚えるのか。それがすべてで。それがおまえだろう。」
「俺はおまえに会いたかったよ。」
「それが俺だ。」























水の子

2018-09-23 18:05:13 | 随筆(小説)
水子とは、何も堕ろした胎児の母親、その夫、その子供たちばかりに憑くものではないらしい。
どうやら水子の霊とは、肉体関係(性交渉)を通して、その人間にとり憑いていた者が、転々と、憑くと安心する人間を追い求め、渡り歩くという。
わたしはこれまで、(故意に)子を堕ろしたことはない。
だが小さな胎児とは、自然と流れていることもあるという。
わたしはこれまで、十人との性交渉を行ったことがある。
処女でなくなったのは、22歳の、晩夏の夜である。
相手の一つ年下の大学生の男は、童貞ではなかった。
互いに身勝手であり、行為のあと、彼は土砂降りの中、傘も差さずに帰った。
彼の帰りしあと、わたしは実家の寝室で布団に顔をうずめて想いきり泣き叫んだ。
処女膜は破れ、鮮血が敷布団に着いていた。
水子は、母親の愛をひたすらに求め彷徨い続けている。
あの晩、わたしが処女を喪ったあの雨の晩、わたしにひとりのちいさな水子の霊が憑いた。
彼の元恋人の女性に憑いていた水子である。
その女性は、まだ大学生であった為、自分の将来を案じて彼の子を、彼に黙って堕胎した。
その時、胎児は約4センチほどであった。
そのちいさな水子は自分を拷問処刑にした母親の元に居ても、何一つ、慰められることがなかった。
夜はそっと、水子は寂しくて母親の胸に顔を突っ伏すのだが、母親は「うぜえ」と寝言で言って果ては「邪魔だ」と言って冷たく手で払い除けるのだった。
水子はいつも、ひとりぽっちであった。
おまけに母親は、自分を堕ろした約三ヵ月後には、もう新しい男を見つけ、その男との性行為を自分に見せ付けるのだった。
或る日、部屋のチャイムが夜遅くに鳴った。
母親がドアを開けると、そこには父親がやつれた顔で突っ立っていた。
まだ大学生であるというのに無精髭を生やし、見た目は森山未來に似た塩顔だが髭の濃いイケメンツであった。
母親は言った。
「なんだよてめえ、何の用だよ。ふざけんなよ。今何時だと想ってんだよ糞が。」
すると父親は言った。
「新しい彼氏が、出来たんだってな…ぼく聴いてないけど…」
母親はそんな父親にめんちを切りながら怒鳴った。
「はあああああああん?なんでおめえにいちいち連絡しねえといけないわけえ?今、小説書くのに忙しいからっつって、あたしを何日もほったらかしにしたのてめえだろうがっ。殺すぞてめえ。」
「で、でもあの小説は、きみに読ませるためにも…」
そう父親の言う言葉も聴く耳を棄てた母親は、怒りに任せ、父親の塞ぐ手を引き剥がしてドアを想いきり閉めようとした。
その時である。
ひゅーん。と水子は飛んだ。
そのドアの微かな隙間を、水子はものすごい速さで、ひゅーんと飛んだのである。
母親の背中から、父親の背中に、水子は乗り移ることに成功した。
つまり水子は、我が母親を見棄て、父親に乗り換えたのである。
その時、水子はちいさく、微笑った。
まだ若い、21歳の父親の背にしがみ付き、水子は言った。
「父ちゃん」
「母ちゃんのことなんか、忘れちまえ」
無論、霊感の皆無な父親に、その声が届くことはなかった。
また水子は普通では目には見えなかった為、いくらずっと父親の背にしがみついていても誰も何も言わなかった。
父親は肩を落とし、死人のような顔で家へと帰った。
帰りにコンビニエンスストアで酒瓶を買い、自宅の団地のドアを開けた。
中は暗くひっそりとしていた。
父親は襖をゆっくりと開けた。
するとそこには一人の中年の親父が静かに寝息を立てて寝ていた。
どうやら父親の、父親、自分の祖父であるようだ。
そう、この父親は子供のときに母親に棄てられ、それから父親と二人で暮らしていたのである。
母親は水商売を遣っている強気でいかにも蓮っ葉で派手な身なりの女であった。
一方、祖父は無口で、子育てにも家事にも不器用な仕事一筋の男であった。
風呂場の隅にはいつも、カビが生えていた。
父親の得意な料理は、冷凍野菜で作るチャーハンであった。
作るときが面倒な日はコンビニの弁当、冷凍食品、レトルトやカップラーメンなどで夕食を済ませた。
親父はいつも帰るのが遅かった為、父親はいつも一人で黙々と狭いダイニングキッチンで夕食を食べ、酒を飲む。
この夜は、父親は冷蔵庫から豆腐を一丁取り出すと、それを皿に開けぬまま、そこに醤油と山葵を垂らしてスプーンで掬い、それを宛てに焼酎を飲んだ。
目が赤く、潤んでいた。
洟を啜って父親は、ガラケーをジーンズのポケットから取り出し、ボタンを虚ろな眼差しで押している。
水子はそっと父親の肩の上に顔をひょっこりと出し、覗き込んだ。
父親は何かを探しているようだ。
その時、父親は何かを見つけたのか。つと、その手を止めた。
そして、何か言葉を打ち込んでいる。
「はじめまして。ザゼンボーイズのライヴいいですね。ぼくもザゼン大好きです。もし良かったら、一緒に行きませんか?」
そう打ち込んで送信ボタンを押した。
どうやらこれは出逢い刑、いや、出会い系サイトとかなんとかいうもので、そのサイトで色んな異性や友人と出会うことができるらしい。
父親は、或る一人の、一つ年上の冷蔵庫でコンビニ食品の仕分け作業の正社員をしている22歳の女にそのメッセージを送ったのである。
なんでもその女は、去年の末に、父親を亡くしたらしい。
悲しみに打ちひしがれて、少しでも元気を取り戻そうと、好きなザゼンボーイズのライヴチケットを二枚購入して、誰かと行こうと想ったのである。
父親とその女は、メールで一週間ほど遣り取りをして意気投合し、すぐに会う約束をした。
場所は、女の家からバスで30分ほどの駅前である。
父親の家からは少し離れていたが、父親は快く承諾し、その日、女に会いに行った。
女は少し遅れて遣って来た。
父親がスターバックスの前にいると電話で告げると、女は息を切らして顔を赤くして父親の前に現れた。
ニキビ面で、痩せ細って長い黒髪を後ろで無造作に束ねて結んだおぼこい田舎娘のようなその女は、父親を見てはにかむように笑った。
どうやら、女は父親を一目見て、気に入った様子である。
そして父親もまた、気に入ったのか、満面の笑みで女に笑い返した。
二人はスターバックスで、茶を飲みながら互いに好きなもの、好きなアニメ、などの話で酷く盛り上がった。
特に、新世紀エヴァンゲリオンの惣流・アスカ・ラングレーが風呂場に浸かって廃人のように項垂れているシーンがすごく好きだと女が言うと、父親も、「あ~っ、あのシーン最高ですよね。ぼくもあのシーンはエヴァの中でも特に印象的に残ってますよ。」などと返し、さっき初めて会ったばかりだとは想えないほど二人が話す様子は楽しげであった。
気づけば何時間と、時間は過ぎていた。
父親は、「どうします?どっか違うところ行きます?」と女に訊いた。
女は「そうですね。どこ行きましょう?どっか行きたいところありますか?」と父親に訊き返した。
父親は、うーんと呻った後、こう女に答えた。
「もし良かったら、これからこず恵さんちに行って、一緒にお酒でも飲みませんか?」
女は少し不安げな顔で悩んでいた。
だがすぐに、「うん、良いですよ。うちあまり綺麗じゃないですけど(苦笑)」と言った。
そして二人は並んでバスに乗り、距離が近い為か照れ臭そうに今度は話し始めた。
西日のきつく反射するバスの車内で、水子はその二人の様子をじっと、父親の後ろから眺めていた。
微笑ましい若い男女の姿であった。
そしてこの女を、水子は気に入った。
それはこの女は、密かに子を欲しがっていることを、水子は感じ取ったからである。
水子は無垢な目で、父親の背中から女を見詰め、想った。
「うまく行くと、ええな。」
二人は女の実家のマンションに着き、その中へ入った。
ほんとは途中で父親は酒を買う予定であったが、女が「うちに紫蘇焼酎の鍛高譚(たんたかたん)があるし、宛ても適当に作る。」と言ったので何も買わなかったのである。
女はキッチンで適当な宛てを作り始め、その後姿を父親はダイニングテーブルの椅子に座って眺めている。
出来上がったのは、じゃが芋と葱のチヂミであった。
それに醤油と酢とラー油と摩り下ろしにんにくと生姜を入れたタレに付けて二人は食べ、鍛高譚を互いに酌み交わした。
アルコールは20%、二人はすぐに酔いが回り、また話は火の付いたように盛り上がるのだった。
BGMもなく、テレビも付けず、それでも「こんなに楽しい時間はいつ振りだろう。」と二人は笑い合った。
水子も、こんな嬉しそうな父親の顔を観るのは初めてであった。
気づけば、時間はもう夜の十一時過ぎであった。
父親は、時計を見て「そろそろ帰らなくちゃ。」と言った。
女は寂しそうであったが、「うん。」と言って、父親をドアの前まで見送った。
父親は元気に微笑んで、「また来るね。」と言って帰った。
しかし数時間後のことである。
「今日ずっと一緒に居たかった。」と父親は女にメールを送り、女も同じ残念な想いをすぐに返してきた。
この日に、互いに恋に落ちた運命の出逢いであった。
翌日に、父親はまた女に会いに行った。
その夜も女の家で飲み明かし、父親は夜明け方、帰ると言った。(女の兄が仕事から夜明け過ぎに帰って来る為)
女は駅まで送ると言い、まだ開いてもいない駅前のベンチに、二人座って話をしている。
女は父親に向って言った。
「実はまだ…忘れられない人(男)がいるんだ…」
女は処女であることを父親に伝えていたが、以前、最近二人の男に襲われかけたことがあることを告げ、その一人の男に、まだ未練があると言ったのである。
だが父親は、それでも良いと言った。
「ぼくだって、普通のそこらの大学生みたいな平気な顔して生きてるけど、色々と辛いことがたくさんあるんだよ。」と続け、
それでも構わないから「付き合おうよ。」と女に告げたのである。
こうして父親と女は、この日から、互いに想い合う恋人同士となった。
水子は、恐るおそる、このとき女の子宮の上に、ちょこなんと座った。
そしてその快さに、うっとりとなるのだった。
駅の入り口が開き、父親は寂しげに女に手を振って「ばいばい。」と言った。
女もずっと寂しそうに、手を振っていた。
水子は父親の背中で、父親とあの女がうまく行くように祈った。

しかし、そのたった、約一ヵ月後のことである。
或る事件が起きた。
その晩、いつものように女の家に泊まり、竟に父親は、女と交わったのである。
どこか、苦行のような交わりであった。
女は痛い痛いと苦しげに叫び、父親は仕方なく、やめようと言うのだが、女はそれを嫌がり、女は父親の上に覆いかぶさるようにして無理矢理行為を行い、果てた父親は悲しい顔をしてそれでもどこか満足げであった。
父親はトイレから紙を持ってきて、寂しそうに一人で陰茎に付いた精液まみれの血を拭いていた。
女は痛みとショックからか、褥の上で放心している。
そして、父親はぼそっと、冷たく小さな声で女に言い放った。
「今日はきみの願望どおり、避妊なしでしたけど、今度からは避妊しないとできない。セックスできないなら付き合うのはオレ無理だから。」
女は絶望に、打ちひしがれ、鬼のような顔で真っ赤な目をして父親に言い返した。
「だったらもう別れるしかない…わたしは絶対に、避妊しないから。」
父親もこの言葉には絶望し、まだ電車の始発まで何時間もあり、外は雨が土砂降りだというのに「わかった。」とだけ女に言い残し、走って女の家を出て行った。
水子はこの時、父親に憑いては行かなかった。
女のほうが心配だったのである。
父親が帰った後、女は褥に顔を突っ伏して大声で「うわああああああああああああああああっっっっっっっっっ」と泣き叫んだ。
水子はその瞬間、女を慰む為、女の背中にちょこなんとしがみ付いた。
まだ6センチ足らずの水子が、ひとりで女を励まそうとしたのである。
不思議と、女は大声で泣き叫んだからか、気持ちが落ち着き、自分の股間を拭いた紙と褥に付いた生々しい真っ赤な血を苦々しく見つめたる後、倒れ込むようにして眠り込んだ。
この日、水子は我が父親を見棄て、この女に乗り移り、生涯を通して、この女に憑こうと想ったのであった。
それはもしかすると、仄かな初恋であったのやも知れぬ。
母親に愛されぬ水子は、父親にも愛されず、だがこの女には、何故か愛され続けるような気がしたのである。
血が繋がっているわけでもない、自分を産んだ母親でもない、それでも母親の愛を、水子はこの女に求め続けた。
このどうにもならぬほど孤独で、鬼のように暗い(父親が別れる際にこの女に向って言った棄て台詞である)女には、自分がどうしても必要な存在であることを、水子はわかっていたのである。
その後、父親が「やっぱり寂しい…」と女にメールを送り、その後、父親と女は寄りを戻して付き合ったが、数々の事件(祭りの晩の女の甥っ子の交通事故事件など)、女の浮気、女の嘘、勘付く父親、女の父親をわざと嫉妬させる厭味、前のように求めて来なくなった女、セックスなしの恋愛(父親からのフェラチオの要望を嫌がる女)…等々の理由から、とうとう父親は、女に別れを告げた。
女はその後、自分の処女を奪って簡単に棄てた父親を恨み続け、本気で父親を刺し殺す為、父親に「もう一度会いたい」と泣きじゃくりながら電話をした。
父親は煩いプラットホームで、女に向って冷たく嗤って言い捨てた。
「あははっ。依存されてもさァ、困るんだよねェ。」
女はこの言葉で、この父親に心から絶句(失望)し、以後、言い寄ることはなかった。
水子はこの時、7センチ以上に成長していた。
女の痩せた胸に、きゅっと抱き着いて水子は離れなかった。
「俺がいるよ。ママ…。俺がママを護るよ。」水子は女に向って言った。

それから、十四年の月日が過ぎた。
十四歳の水子は、今は女よりも7センチ身長の高い169センチまでに成長し、今でも女をじっと側から、見詰めている。
一途に母の愛を求む、嬰児の眼差しで。
























ZAZEN BOYS - 自問自答 (Soliloquizing)



















わたしの知らない父

2018-09-21 20:32:03 | 想いで

今日は、お父さんの七十七歳の誕生日。

生きてたら…多分いまも一緒にあの家で暮らしていたんじゃないかなと想った。

わたしのお父さんは2003年12月30日に肺の病気でこの世をあっけなく去った。

享年六十二歳だった。

もしお父さんが生きていたら、この十四年と十ヶ月余りの時間を、どんな風にお父さんと過ごしていたのだろう。

わたしはお父さんを独りにすることが考えられなかった。

お父さんは当時から鬱症状のあったわたしを独り残して死ぬことが心配で、「一緒に連れてゆきたい」と言っていた。

いつかの夕食の後、確かわたしの手を取り、お父さんはわたしに訊いた。

「こず恵もお父さんと一緒に行くか?」

わたしは何の躊躇いもなく、「うん」と答えたことを憶えている。

そんな父と娘だった。

最近、またふと想うことがある。

母はわたしが四歳の時に乳がんでこの世を去り、その後わたしは車で一時間ほどの場所にある祖母の家(祖母と叔父夫婦とその息子二人も住む家)に一年ほどか預けられた。

父は大きな会社で営業の仕事をしており、残業を断ることが難しかったからだ。

しかしそこの奥さん(叔父の妻)が、わたしをとても可愛がって、是非養子に引き取りたいと父に言った為、父は慌ててわたしを迎えに来た。

五歳のわたしは、父の仕事に行っている間、幼稚園にも行かず、ずっと家で退屈に独りでお絵かきなどして、近所のともだちが幼稚園から帰ってくると家に遊びに行ったりする毎日だった。

六歳上の兄は小学校から帰っても、すぐに遊びに行ってしまう。その頃、兄と仲良く遊んでいた記憶がない。

色んな近所の知り合いの家に転々と、わたしは少しの時間預けられたりもしていた。

父が保育園や幼稚園にわたしを預けなかったのは、姉から聞いた話では、「変な教育をされたくはない」という理由からだったらしい。

父からの教育はとくに何もなく、放任主義であったからその理由には少し驚いた。

その為か、わたしは世の常識というものがさっぱりと、未だに身にはついていないように想う。まったくこの年になっても、非常識者である。

いや父を恨んでなどいない、むしろその育て方には感謝している。

母親にろくに育てられなかった(母はわたしが二歳のときに乳がんが末期であることがわかった)子供が、まったくの他人に教育をされることはそれは大変なストレスであっただろう。

話を戻すと、最近、ふとよく想うのは、父は本当に母の死んだ後、女性関係はなかったのかということだ。

たった一度だけ、5歳のころに、父に連れられて一人の若い(うろおぼえだが)女性に合わされ、一緒にどこかへ遊びに行ったことがある。

その時にその女性から貰った、手作りの緑の毛糸の女の子の人形をわたしはとても喜んで、大事にしていた。

優しくて、おっとりした女性だったと記憶している。顔などは記憶にない。

それで後になって、父から聴いた話では、その女性から、結婚してこず恵ちゃんを育てたいと言われたのだが、それをお父さんは断ったのだと言っていた。

断った理由は、今でも亡き妻のことを愛しているからだと女性には話したという。

だが、わたしには、こず恵がもし、その女性に虐待とか、良くないしつけ(教育)をされることが嫌なのもあったからだと話してくれた。

それから、「お母さんのように愛せる人はどこにもおらん。」と、お父さんはお母さんを恋しがるように話した。

この言葉に、わたしはどれほど救われてきただろう。

お父さんはあんなに苦労して、営業の仕事も辞めてわたしのために小さな看板会社に転職して看板をせっせと作って設置しに行く仕事をしながら必ず定時には帰って来て、友人と飲みにも行かず遊びもせずにわたしと兄を育てて来てくれた。

仕事帰りに買い物をして、帰ったら夕食を作り、幼いわたしと兄と三人で食べる毎日。

平日はその繰り返し。休みは一緒に三人でよく釣りに出掛けることもあった。

兄もわたしも、まだこどもの時から、できる家事は遣ってきた。

わたしが小学校に入れば兄は中学に上がって、兄のお弁当も毎日父は作っていた。

中学に上がればわたしが夕食を作るときも多かったように想う。

さっき観た松山ケンイチ主演の「うさぎドロップ」という映画で、風吹ジュン演じる母親が、突然小さな女の子を自分独りで育てると言い出した松ケンに向って、子育てがどんなに大変であって、どれだけあんたの子育てに「自分を犠牲にしてきたか」という風な台詞を言っていた。

兄が小さくてわたしがまだ産まれていなかったとき、少し鬱症状のようなものが出てきて医者に視てもらっていた時期がお父さんはあった。

中卒で人付き合いが苦手で頑固者なお父さんが、慣れない営業の仕事をどれほど自分を犠牲にして頑張ってきたのか考えると、自分も同じようにできるとはとても想えない。

当時、四十五歳くらいであった父にとって、あの女性は、どれくらい助けになっていたのかと考える。

うちのお母さんに罪悪感を抱えながらも、あの女性と二人で会っていた時間が、きっとあったのではないかと想像した。

では、お母さんが死ぬ前はどうだったのか。

お母さんが、兄が幼い頃にクリスチャンとなったのは、どういった苦しみからだったのか。

宗教にしか、当時の母の助けはなかったのだと感じる。

わたしは、本当に何も知ることはできない。

何もなかったのだと想いたい。

しかしあの女性は、本当に透明な感じの人だった気がする。

自分を無くしてでも、わたしの母となろうとしていたのだろうか。

わたしを養子に引き取りたいと言った義理の叔母さんも、やんちゃ盛りの男の子二人抱えながらもわたしの母となろうとしてくれた。

それでも父は、どうしても独りで育てると言って、それを断り、いつでもわたしの傍にいてくれた。

その為か、わたしはどうしてもお父さんが必要な娘となり、お父さんは、どうしてもわたしという娘が必要な父親となってしまった。

そして未だに、わたしという人間は、お父さんと、お母さんを求めている。

お父さんと、お母さんを、この腹を痛めて産みたいと願っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


鴻鳥先生の言葉

2018-09-20 02:58:39 | 物語(小説)

鴻鳥先生は、優しい御声で仰有られた。
『赤ちゃんもお母さんも、助けるよ。』
そして鴻鳥先生は、その母親の、御腹にメスを入れ、その子宮を切られた。

だが、一時間後。
その近くの公園のベンチに、ポツンと独りで座る、鴻鳥先生が其処に、居られた。

はて、どうしたのであろう。
わたしは傍へ近寄り、訊ねた。
「此れはこれは、今晩はで御座います。鴻鳥先生では在られませんか。一体、こんな夜更けに、どうしたので御座います?もう午前の、一時半で御座います。」
すると、鴻鳥先生はさぞ、首が重たいと謂わんばかりに、ゆっくりと、その頭を上げられ、寂しげに微笑むのだった。
わたしはその左に、静かに腰を下ろし、こう言った。
「今夜は、とても静かで、穏やかだ。でも鴻鳥先生は、哀しげな御顔をしていらっしゃる。わたしは、いつも貴方を観ています。しかしそのすべてを、わたしは観ることはできない。そう、ついさっきも、夜中に目が覚めて、ふと想ったのです。わたしは、鴻鳥先生の、あの台詞が、好きだ。『お母さんも、赤ちゃんも、助けるよ。』あの言葉が、本当に好きだ。何故か幸せになるのです。あの言葉を、鴻鳥先生がそう言うと。でもね、ふと、さっき想ったのです。でもあの言葉を、言ったあとに、その両方を、助けられない日も、きっとあったろう。そしてこれからも。其れなのに...それでもきっと、鴻鳥先生は、あの言葉を、きっとこれからも仰有られるだろう。それは、わたしたちの為に。わたしたちを、強く、安心させる為に。」
そう言うと、鴻鳥先生は、ふっと息を吐いて、俯いてまた小さく笑った。
鴻鳥先生は、穏やかに仰有られた。
「『最初に、言葉が在った。』『言葉は、神であった。』『言葉のうちに、命が在った。』そう、この世界のすべては、本当に、言葉によって、創られたのだと、そう感じるのです。『光が在るように。』神がそう言うと、『すると、光が在った。』ふと気付けば在った。そんな風な世界なのだろうなって。この世界とは、普く、神が言葉を発したその時の、息が吹き掛けられている。世界に存在するすべて、神のBabyなのです。赤ちゃんの誕生が奇蹟で、年を取れば、奇蹟ではなくなる。そんなことは誰が考えたのでしょう。赤ちゃんの誕生が奇蹟なら、その後もずっとずっと、生命は奇蹟なのです。一秒、一分、一時間、一日、わたしたちは奇蹟の連続を生きている。赤ちゃんの誕生の瞬間の、あの喜びが、感動が、絶える瞬間も来ないほど、本当はわたしたちは奇蹟の時間を生きている。でも人は、時に絶望もするのです。何故、助けることができなかったのか。何故、彼らは助かり、彼らは助からなかったのか。何故、ぼくは助かり、彼らは助からなかったのか。何故...」
虫の音が、気付くと鳴っていたのだった。
車の通り過ぎる音、ひっそりと、生命が息をしている音。
鴻鳥先生は、言葉をまた発せられた。
「そう、言葉とは、神の息吹きであり、そして、その音。例え聴こえなくとも、神は音を発しつづけている。とても、とても、優しい音を。まるで子守唄のような。音楽。言葉とは、神の願いなのです。神の切実な、願いが詰まっている。『光が在るように。』神がそう強く、強く、願って、すべては存在するようになった。」
ふと気付くと、今度は雨の音がしてきた。雨が降ってきたのである。
わたしたちは雨に濡れながら、まだ此処に座っている。
雨は激しくなってくる。
すると鴻鳥先生が、深く息を吐いて、言われた。
「ぼくは今日、言ったんです。いつものように。『お母さんも、赤ちゃんも、助けるよ。』って。不安そうな、お母さんの目を見つめて...それはぼくの、願いだから。どちらか片方じゃなく、両方を助けたい。そう強く願って、お母さんの御腹を切って、お母さんの子宮のなかから、赤ちゃんを取り出した。お母さんはとても、とても、嬉しそうに、涙を流しながら微笑んでくれました。...でもその、一分ほど後、お母さんは静かに息を引き取った。実は赤ちゃんは、死産でした。ぼくはお母さんを騙したんです。赤ちゃんが、無事に、生きて産まれたように、赤ちゃんを取り出した。お母さんは末期の、癌でした。無事に出産できる確率は、10%以下でした。ぼくはお母さんから、死んだ赤ちゃんを取りだし、お母さんに向かって微笑んだ。『おめでとう。元気な男の子ですよ。』そう言って...」
気付けば雨は、やんでいた。
わたしは、夜空を見上げた。
ふと、右隣を見ると、鴻鳥先生は、いつの間にか、何処かへ消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒューマンドラマ「コウノドリ」

 

 

 

 

 

 

 

 


快楽に依りて、死す者たち。

2018-09-19 17:00:50 | 随筆(小説)

『価値観を押し付けるな』という言葉をよく聞きます。

でもその時に、何故、相手がそのようなことを押し付けてくるのかを考え、想像する必要があります。

例えば拷問を受けている民族が、『わたしたちを拷問にかけるのをやめてください』と訴えるのはこれは価値観の押し付けになるでしょうか。

『もうこれ以上、わたしたちの民族(兄弟)を殺すのをやめてください』と訴える人たちに対して、彼らの民族を殺し続けている人たちが『価値観を押し付けるな』と言っていたらどうでしょうか。

その民族は必死に訴え続けます。
わたしたち民族を拷問にかけ、虐待し、最後に殺すのはあんまりではないですか。
あなたたちはそのようなことをしなくとも、生きていけるのです。
世界を見渡してください。
あなた方のように殺し続けなくても生きている人たちはたくさんいます。
わたしたち民族を殺し続けることは、あなたたちにとってどのような益になりますか。その益は、わたしたち民族を殺さないことよりもあなたたちにとって素晴らしいことですか。

しかし民族を殺し続けている者たちは言います。


そんなことは知ったこっちゃない。価値観を押し付けるな。俺たちはおまえたちを虐待などしていない。おまえたちが勝手に苦しんでいるに過ぎない。俺たちは虐待が目的ではない。いや、そもそも、おまえたちよりも俺たちの方が上の立場なんだ。おまえたちを利用して、好きに扱い、殺して何が悪い?悪いがおまえたちの苦しみは、俺たちには届かない。おまえたちと俺たちは、違う人種なんだ。俺たちに偉そうな口を叩くな。豚ども。おまえたちだって、地の上を歩く度、無数の虫たちを踏み殺してきたではないか。俺たちの遣ってることと、おまえたちの遣ってることの一体なにが違う?何も違わないさ。蟻んこたちだって、おまえらに訴えるだろう。わたしたちをどうか踏み殺さないでくださいってな。はははっ。笑える話だ。おまえらは彼らの訴えを無視しているではないか。虫だけに。笑止千万だ。俺たちは、おまえたち民族を殺すことをやめないよ。おまえたちが、どれほど助けを乞うて泣き叫ぼうとな。喚け。叫べ。俺たちは、おまえたちを殺すことが快楽なんだ。生きるために、必要な快楽なのさ。確かにおまえたちを殺さずとも、俺たちは、生きていけるのかも知れねえなあ。遣ったことがないんでね。俺たちは子供の頃から、おまえたちを殺すことが当たり前だったから。おまえたちを殺さずに生きていけるのか、わからねえのよ。おまえたちはそれを遣れと言うが、俺たちの言い分はこうだ。俺たちは"快楽"を奪われたくはない。おまえたちの快楽とは何だ。食欲、肉欲、物欲。酒と煙草と薬。殺戮。ほらあの国、あの国の人間たちはなんでも牛や豚や鶏なんかを好きなように扱って、それで殺して喰ってるというではないか。人間とはな、野蛮な生き物なんだよ。あいつらと俺たち、変わらないさ。動物を殺そうが他の民族を殺そうが、同じだ。何が違う?生きるために、殺してるなどと嘯く奴がいたら、俺はそいつの首を切り裂いて言ってやろう。そうだ、生きるために、俺はおまえを殺してやる。どうだ、同じ理由で、殺されて行く気分は。つまりこういうことさ。おまえにとっても、俺にとっても、生きる=快楽。快楽を喪うなら、俺たちは腑抜けのようになって生きて行くということだ。くだらない、豚野郎だ。おまえらを殺しても、俺はなんとも想わねえよ。おまえらが、俺と、同じ種族でも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Near the Park

2018-09-17 03:04:57 | 日記

昨夜の23時過ぎ、羽化した蛾を近くの公園に放しに行った。

 

ピーマンのヘタの近くにいた幼虫なので、多分タバコガの仲間だと想う。

これまでハスモンヨトウは何度か育てたことがあり、羽化に成功させられたのは確か一度だけだと想う。

今回は冬でなく晩夏であった為か、羽化するまでがとても早かった。

 

 

 

 

本当は見つけた15日の夜に放してやりたかったが、しんどくて酒をたくさん飲んで寝てしまった。

わたしのマンションから、徒歩5分ほどで着く場所には、大きな緑地公園がある。

その入り口から少し歩いたところに、丁度良さそうな暗い樹の根元に、放してやった。

蓋を開けるとほんの少しだけわたしの指に止まり、彼(彼女)はすぐに飛び立った。

そして、去年の9月にうちのマンションの階段に居た雌のクワガタも、放してやった。

彼女は去年の冬の寒い日か、今年の春になって、死んだ。

わたしがすぐに放してやらなかったからだ。

気づくと裏返って死んでいた。

どんなに苦しかったのかと想うと、あの時すぐに、マンションの側の樹にでも放せばよかったと後悔した。

 

 

 

 

 

 

帰りに、写真を幾つか撮った。

Near the Park

 

 

Tree fell down in the typhoon

 

 

The trees are crowded.

 

 

Tenjikugawa

 

 

Nearby apartment

 

 

 

 

 

Neighborhood school

 

 

My apartment

 

 

 

マンションの隣の空き地にはいつも雑草が生い茂り、そこから虫の音がよく聴こえていた。

だが最近、そこは埋め立てられ、どうやら3階建ての一軒家のようなものが建つようだ。

砂利で埋め立てられたその端には、また草が生えて来ており、そこからとても大きな虫音が響いていた。

わたしの住むマンションの5階までも、彼らの音は涼やかに今も聴こえてくる。

 

My shadow

 

 

Entrance front of my apartment

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


愛と死

2018-09-15 10:26:19 | 

積さん。どうしてるんですか。
人を心配させるのは、良くないことだ。
俺は貴方が生きているだけで、ホッとする人間なんです。
更新してください。
どんなに悪態吐いても、陰からずっと真剣に、貴方を観ている人間が此処にいるんです。
すべてに、無料で作品を公開し続けることには、それだけの意義がある。
書くことの、書き続けることの、報酬はなんですか。
僕は何だって、何だって書き続ける。
例え人を傷付けても。僕は表現をやめない。
例え人に下らないと想われても。僕は書くことをやめない。
例えすべてを、どん底に引き摺り込んでも。
僕は遣り続ける。此の命、絶えるまで。
貴方を信じて、俺は貴方を傷付けた。
俺が世界一の、卑怯者で、裏切り者だってことを、俺は死ぬまで、伝え続けて生きたい、世界中に。
俺みたいに捻くれている人間、俺は本当に好きなんです。
捻くれているとはつまり、遣っている事と、言っている事、想いと言葉、信念と諦め、願いと虚無、苦痛と幸福、愛と死、殺しと母性、必要悪と無意味、老女と胎児、偽りと存念、不具と全能、渇きと溢れ、血と青空、無限と消滅、焔と湖、屁泥と空気、灰と果実、糞便とキリスト、地獄と揺籠、微睡みと拷問、存続と破壊、存在と永眠、赦しと処罰、因縁と解放、自縛と非我、抱擁と解体、神はすべてを求め、すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてに耐え、神は不義を喜ばず、愛されぬ者、愛求め、神は彼に、剣を与えん。
映し鏡に、剣を振り翳し、言葉を紡ぎ続ける者は災い。
それでも紡いで行くことを喜びとする者に、神は求めん。
剣を振れ。
真剣を。
汝の脳天に。
其のつらに。
剣を振れ!
面!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


卵胎生の子

2018-09-13 18:02:31 | 物語(小説)

独りで僕は、この教室で湧き上がる怒りをぶちまけている。
クラスメイト達に、辺り構わず怒鳴り、咆哮し、机や椅子を思いきり投げ付け、何かを必死に訴えている。
でも誰も聴いていない。
僕の絶叫が、彼等には少しも、届かない。
机の上に、小さな水槽、その中に、たくさんのメダカ。
それを、窓際に投げ付ける。
何故か無事だ。その水槽は机の上で。
メダカたちは、気持ち良さそうに泳いでいる。
可愛いな...でも僕は、お前たちが苦しむなら...


高校生活最後の秋、修学旅行の帰りに、僕たちの乗ったバスは事故に合う。
山道を走っていると、目の前で、土砂崩れが起きて、ハンドルを切り、運転手はブレーキを踏んだはずが、踏んだのはアクセルだった。
バスは山の中を突っ切った。そして崖の前の折れて倒れた大木の上で回転して、バスの後部座席半分が、宙ぶらりんの状態となった。
みんなは急いで、悲鳴をあげながら前部座席に移動し、一番後ろの座席に座ったままの僕を、脅えて見つめている。
担任の先生が、手を差し出しながら言う。
「おい...何してんだ、早く、こっちに来るんだ。そっと、静かに、早くこっちへ...」
僕は、ゆっくり立ち上がると、座席の間の通路の真ん中に突っ立って、笑う。
「なんで助けなくちゃいけないんですか。あなたたちを。」
先生は穏やかに、目を見開いて答える。
「何を言っているんだ。みんなを助けるために、お前がこっちに来るんじゃないだろ。お前が助かるために、こっちに歩いてくるんだ。」
僕は、力なく、声を出して笑う。
「助からなくていいですよ。僕が死んでも、誰も哀しまないですから。あの時だって...誰も僕の言葉を、声を、叫びを、訴えを、聴こうともしなかった。みんな僕を、馬鹿にして、笑ってた。僕、独りで苦しんで、哭き喚いて、みんなは平気だった。なぜ僕が、そっちに歩いてかなくちゃならないんですか?そうだ、僕が休んだあの日の放課後、みんなは修学旅行のもしもの緊急避難時の行動と心掛けについて、先生から大事な話を聴いていましたね。でも僕には誰もその話を、教えてくれなかった。廊下でこっそり、僕は聴いていたんです。僕には知らせる必要なんてなかったんですよね。僕だけは、生き残る必要なんてない。みんなそう想ってるんだって、僕知ってますよ。あなたたちと同じところになんて行きたくない。僕だけは別々の場所に行く。あなたたちとは此処で御別れです。さっさとドアを開けて、車外に避難してください。あとはこのバスと、僕が下に、墜ちるだけです。」 

目をそっと開ける。重心はまだ、傾いていない。
いや重心は、傾くことはない。
みんなは、避難した。でも一人だけ、まだいる。
誰だろう。運転席の後ろの座席に静かに座っている。
声を一番後ろから掛ける。
「早くバスの外へ避難してください。誰かと一緒に墜ちるのは、嫌なんだ。」
その人間は静かに立ち上がると、通路の真ん中に立ち、俯いた顔をあげる。
笑みを湛えて、僕を見つめる。
もう一人の、僕...
声を発する。
「一体お前の人生はなんだったんだ。たった十七年、何一つ、学んでこなかったんじゃないか。何か面白かったことはあったか?誰かを真剣に、愛したことはあったか?」
僕は静かに答える。
「憶えてないのか...?僕にだって、色んなことがあった。愛と呼べるかは...わからないけれど、とても好きな女性がいたんだ...彼女の為なら、人を殺すことだってできた。」
もう一人の僕は、笑いながら言う。
「父親を今でも恨んでいるんだろう?あいつから、彼女を奪えなかった。お前は腰抜けの糞野郎だ。」
目を瞑ると、目の前に実家のキッチンがある。
彼女はそこに立って、何か作ってる。
僕はいつも、その様子を後ろからそっと覗いて、眺めている。
十四歳の夏から、彼女は僕の、母になり、母を知らない僕は、彼女のすべてだけが、知りたいすべてだった。
親父が帰るのが遅い日はいつも、先に二人で夕食を食べる。
彼女はあまり、話さない人で、僕も無口で、本当にいつも静かな、静寂の食卓だった。
でも何も、彼女の作った料理の味を、想いだせない。
味なんて、何でも良かったんだ。
親父が彼女を妻として愛する日は決まって、金曜の夜と、土曜の夜だけだった。
それ以外の日、彼女は自分の夫に、愛されていなかった。
僕にはわかるんだ。彼女はまるで、金曜の夜と土曜の夜だけ女として必要とされ愛される僕のうちに住んでる父親の愛人みたいな存在。
キッチンから振り返る目の前の彼女を、見つめて言う。
「此処を出て、僕と二人で暮らしませんか。高校は退学して、何処かで正社員として雇われたら、何とか二人で生活して行けるはずです。最初は安くて古いアパートにしか住めないけれど、すぐに良い部屋を借りられるように頑張ります。貴女を愛しているのは、父親よりも、僕のほうです。」

重心が少しずつ傾く。いや、傾いているのは重心じゃない。
何が傾いているんだ...?
少しずつ、少しずつ、後部座席の方が、下に傾いている。
前部座席の方には、もう一人の僕。
目を瞑る。
僕は下半身を露出して、彼女の髪を思い切り引っ張り上げ、彼女に迫っている。
顔面を殴られたくなかったら、舐めろ。しゃぶれ...
僕は、泣き叫んでいる。
彼女はその日から、大人しく僕の言うことを聴くようになる。
彼女を脅し続けた。僕の言いなりにならないなら、僕は死ぬと言って。
親父は知っていた。知っていたんだ。すべて...
だからそれからは、父親は彼女を二度と、必要とはしなくなった。
僕は憶えている。
彼女は本当に、僕を愛したことはなかった。

目を開けると、教室はメダカの水槽の中に沈んでゆく。
バットで水槽を殴る。
水槽は割れて、水滴と共に、メダカがバスの天井から落ちてくる。
バスの床に、一匹のお腹の大きなメダカが跳ねている。

妊娠しているらしい。
彼女は何者かの、子どもを。
産婦人科から出てきた彼女の後を着ける。
薄暗い雑木林の間を縫うように、彼女は足早に、何かに追われるように行き急ぐ。
胸に手を当て、地面にしゃがみこむ彼女の前に、錫杖を左に、赤子を右に抱いた小さな水子地蔵が、寂しくぽつんと一つ建っている。
一体、何を拝んでいるのだろう。

目をそっと開ける。
さっきより、傾いている。
床に、跳ねたメダカは、卵胎生メダカで、腹から一匹の、稚魚が産まれ、苦しそうに独りで跳ねている。母親は既に息絶えている。
バスの天井から僅かに滴る水滴だけで、この赤く半透明な稚魚は泳ごうともがいている。
もう一人の僕が、哀愁たっぷりな顔で、囁く。
「殺してやれよ。苦しそうだろう。お前の割った水槽の、その中の教室の、その中の水槽の、その中のメダカの、その中の胎内にいた稚魚の、その中の、このバスの中にいる、お前。」
僕の視界に、バットが映る。
このバスは今、僕を産み落とそうとしている。
穴を、穴を、開けないと。
僕が無事に、生まれ墜ちる穴を。
バスの後ろのガラス窓をバットで叩き割る。
破片がいくつも、僕の身体に突き刺さる。
血が流れる。血が流れる。血が、羊水となって、バスの中を赤い水で満たす。
バスは大きく傾く。
僕を産み墜とす準備をしている。
もうすぐ、もうすぐ、僕は産まれる。
下に、墜ちて、鉄の器具で、頭をトマトのように潰される。
そのあと、そのあと、そのあと、僕は赤い海を漂い、そして生まれ変わる。
今度は、彼女と血の繋がらない、母と息子として。
バスは静かに落下してゆく。
四十二年前に、僕を堕ろして崖から身を投げた、彼女(母)のように。
美しく、静寂な、夕暮れ。
















映画『ソレダケ/that’s it』 俺様の狂器はこの眼だ。

2018-09-13 01:36:32 | 映画

『爆裂都市 BURST CITY』の石井岳龍監督(ex石井聰亙)の2015年公開の映画『ソレダケ/that’s it』をAmazon Primeで観た。

 

 

 

 

 

 

アマゾンプライムビデオはどうやら月額400円払ってアマゾンプライム会員になるとプライムの印が付いたプライム映画を無料で鑑賞できるということを今更知ったのだった…(何年も前から会員やったのに…あほか…)

ま、そういうことでゲオオンラインで借り損ねてしまっていたこの映画を観ました。

綾野剛祭りなんでね、今月は…

脳内、綾野剛祭り。彼の出演作ばかり観ていますぜ(途中、突然恐竜熱が熱くなりジュラシック・ワールドに浮気しちまいやしたがね…へっへっへ)

いやぁこの映画、俺の大好きな映画の『爆裂都市 BURST CITY』の監督、石井岳龍(がくりゅう)監督の映画で、期待して観ました。

1982年(俺の一歳時)公開の『爆裂都市 BURST CITY』はね、我が師匠である町田康が町田町蔵時代に出演している映画で、最高にかっこいい泉谷しげるも観れた印象に残る映画です。

でね、町田康原作の『パンク侍、斬られて候』の映画をまたこの石井岳龍監督が、なんと、綾野剛主演で撮って下すって、今月に尼崎の劇場に独りで観に行く予定でござる。

いやぁ、初めての独りでの映画館での映画鑑賞、ドキドキ、そわそわ、まごまごしています。

誰かと一緒に行こうかと想って募集かけても、誰もいないんだす…

ま、つうわけで、『ソレダケ/that’s it』のレビューに行くと、これはね、綾野剛を観る為の映画だった…(笑)

かっけえ綾野剛をね。今月、彼の出演作を何本と観ましたが、今までで一番に切れてる(人間の或る一線を越えちゃってるという意味の)役で、一番、最高にかっけっかったっすよ。

日本で今一番美しい俳優と言えるんじゃないでしょうかね。マジで。

ではね、その証拠と言えるこの映画の写真を、貼り付けようと想います…

 

全国の綾野剛を愛する皆しゃ~ん!(笑)

この顔、脱糞必至!!!!(笑)ちょっと盛り上げたくなるくらい好い顔してるんですよ。

 

あのね、彼の目を剥く白目がちの眼がね、うちのわたしに暴力を振るう寸前のいつもの兄の眼にそっくりなんですよ。(ほんとにこういう眼だった、怖いのなんの…)

恐ろしくもあり、同時に美しい、そんな震えるような眼です。

彼が竜型人間(爬虫類系)であることを確信した眼です(笑)

 

 

 

 

 

 

連続で行きますよ。

 

てめえら、このかっこよさに脱糞しろやあ!!!!!By千手完(せんじゅかん)(苦笑)

(なお、写真の下の台詞は映画の台詞ではありません)

 

 

 

 

 

 

 てめぇ、なに言っとんじゃこらぁ。

 

 

 お?なんどよその顔は。

 

 

(ケケケ)おめぇの喉にたこ焼き返し突き刺して目玉焼き作ってやろうか。(意味不明)

 

 

 

 

 あん?氷の上にション便かけた後の温度を知ってんのか?おいこら(イミフ)

 

 

 

 

 お、おお…そうか。し、知ってんのか…(やるなてめえ)

 

 

 

 

 

 くっそー俺だって、知らなかったのにぃ…(悔しーぜまったく)

 

 

 

 へっへえっへっへっへっへっへえっへっへへっへへへへ…っくぅぅぅぅぅぅぅっ。この髭、ど、どう…?

 

 

 

 てめえがいくら喚いても、俺の魚顔(ぎょがん)には勝てねえぜ。(自虐的)

 

 

 

 

 

 じらふ!!!!!ジラフ踏んでんじゃねえよ!!!!!(イミフ)

 

 

 

 

 

 う~ん、弁天祭りって行ったことあったっけかなぁ…

 

 

 

 

 

 あるんだろ?てめえ!!しらばっくれてんじゃねえぞこらぁ!!

 

 

 

烏賊焼き喰ってたら殺すぞこらぁ!骨を、骨を喰え!(危ない)

 

 

 

いやあの時さぁ、俺はてめえを観掛けたはずなんだよ。

 

 

 

その時、てめえは俺を振り返って確かこう言ったんだよ。

 

 

 

「黄な粉臭え」ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっふ…ん、んふ…

 

 

 

え、それ言うなら「きなくせえ」だろ。俺は確かそう返した。あん時。暗時。

 

 

 

 

って俺、焦げてねえし、漕げても、扱げてもねえよ。扱(しご)いてんじゃねえぞこらぁ…(力弱)

 

 

 

 

し・語・居・手・ン・じゃ・ね・ェ・ぞ・子・ら・ァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ビブラートに世界を包むぞ。

 

 

 

 

木擦れ(きずれ)の音がするぜ。気、っきっきっきっきっきっ紀、ず、ず、ず、ず、、れ、れ、れ、…

 

 

 

 

のお、この感じぃ、知ってる知ってる知ってるよ、なあ、ペシンが俺に来てる。ペシンが。

 

 

 

お、尻を、ペッシーン。ズッキーン。コッジャーン。自由の斧。自由の斧を、掲げろよ、おい。

 

 

 

わかってんだろ?これからこの先に、てめえに起こることを…知ってるよ、俺はなあ。

 

 

 

 

 

 


映画「たとえば檸檬」 わたしたちの終らぬ叫び

2018-09-12 19:56:58 | 映画

片嶋一貴監督の2012年公開の映画「たとえば檸檬」を観た。

 

 

 

 

 

非常に重たい映画で(すごく良かったですよ)、パン喰いながら観れなかったので、止めて深い溜め息を付きながら観ていました。

観終わった後も色々と考えています。

母と娘の愛憎と共依存(相互依存)のテーマであって、劇中に出てくる精神疾患とわたしが同じ障害を抱えているからです。

 

 

 

 

 

 

 

若い女性に特に増えてきていると言われているパーソナリティ(人格)障害です。

自傷行為(放埓な性的な行動も含む)の果てに、実際に自殺を遂げる人の多いのは鬱病や統合失調症に比べて約二倍と言われている。

自殺を遂げる若い人のほとんどが、この障害である可能性は高いということです。

現実の深刻な社会問題のテーマなので、とても重いテーマです。

それなのにこの障害はネットでは特に差別されやすく、「メンヘラ」や「キチガイ」などと言った言葉で終らせてしまう人が多い。

 

 

 

 

わたしも最近でもこのブログに嫌がらせを続けてくる人間から「狂人」だと言われてしまいましたが、まさに狂人的な行為に走ってしまい、人々から”怖れられ”てしまうのがこの障害の苦しみです。

人を信じるあまり、人を愛する(依存する)あまりに壊れてしまう精神障害です。

何故このような人が増えてきているのか?

未成年者の自殺者増 全体では8年連続減

個人(家庭環境)の問題なのでしょうか。

わたしが今生きていることは奇跡です。

本当に自虐と自罰と自責ばかりのある世界に自暴自棄に、自堕落に生きてきて、未だにそれは続いています。

この障害を少しでも理解する為に鍵となるのは「愛憎」という心理です。

この感情が異常に激しく起こり、最悪すべての人を巻き込んで破滅してゆく。

すべてを破壊せしめんとするほどの「愛」と「憎しみ」によって自分自身と自分以外のすべて(自分を映すすべて)に、本当に全力で特攻隊や自爆テロの如くに突っ込んでゆく。

愛する人間に愛されないのなら、すべてが0(ゼロ)となる世界。

0(ゼロ)か100しかないグレーゾーンの存在しない世界。

異常に極端で、感情を押し殺し続けることが困難で破壊的行動に出る。

散々、相手を褒め称えてきたかと想えば、今度は相手の非を責め苛み、扱き下ろし続ける。

自分の理想の愛によって愛されていない自分が憎い、酷い目に合わされている自分が憎い、その自己憎悪で、全力で世界を憎み、何年経っても、本当の意味で自分自身を受け容れる(赦す)ことができない。

あまりに苦しい為、その精神的ストレスから現実を現実として実感することの出来ない感覚で生きてゆくことになります。

そうすると犯罪を犯しても、罪悪感が薄く、罪悪感以上に、「何故わたしは愛されなかったのか」という苦しみによって、すべてを自分と同じ苦しみの底へ突き落とそうとする。

いつから、時間は止まったままなのか。

母はわたしを愛していたはずだ。(何故わたしは愛されなかったのか)

父はわたしを愛していたはずだ。(何故わたしは愛されなかったのか)

いつからわたしは、死んでいるのか。

自分の求めるものがあまりに大きすぎて、その求めるものに、自分が飲み込まれ、殺されそうになりながら生きている。

生きてゆく。

これからも。

ずっと、ずっと、ずっと、死ぬ迄。

これがわたし(たち)の、叫びです。

愛を求めることの、愛です。

 

理解してくださいとは言いません。

ばってん、「殺さないでください」。

生きてゆく居場所(わたしにとっては表現の場)を、どうか奪わないでください。

 

 

 

現ボーダーのあまねより

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Unknown Route

2018-09-09 21:17:06 | 随筆(小説)

まずは此方のサイト様方の情報源をお借りいたします。

【哺乳類の進化の歴史】その過程を振り返る!

恐竜の謎

 

簡略に書き直しました。

 

 今から約138億年前、この宇宙空間は誕生した。

そして今から約46億年前、この地球は誕生した。

約38億年前、海の中で最初の生命が誕生した。

細胞が一個の「原核生物」である。

今から約25億年前~約5億4千2百万年前。

この「原生代」に、「真核生物」が誕生した。

当初、真核生物は細胞一個からなる生物だったが、

のちに真核生物から多細胞を獲得する者が現れ、それが大きな生物へと進化してゆく。

原生代は終わりを迎え、「古生代」に入る。

約5億4200万年前~約4億8830万年前の「カンブリア紀」。

この時代に生物種の多様な変化が爆発的に起こる。

陸地は存在せず、地球の表面は一面海に覆われていた。

その海の中で、原核生物と真核生物が多種多様に分化し、その過程で様々な動物が誕生した。

ハルキゲニア学名Hallucigenia)は、約5億2,500万- 約5億500万年前、古生代カンブリア紀の海に生息していた動物

ハルキゲニアは、1970年代に初めて特定された。

最も近い現存する近縁種は、歯のないカギムシだ。

(ニュージーランドの資料写真)

カギムシは「脱皮動物」と呼ばれる分類に属している。

脱皮動物には、多くの昆虫や線虫、ロブスター、クモなどの外骨格を脱皮する動物などがいる。

ハルキゲニアの歯を新たに発見したことで、スミス氏とカロン氏の研究チームは、脱皮動物の祖先も歯のある口と食道を持っていたに違いないと結論付けた。


約4億8830万年前~約4億4370万年前、「オルドビス紀」。

この時代に生物の大量絶滅が起こったが、地球上の生物のほとんどはまだ海の中にいた。

約4億4370万年前~約4億1600万年前、「シルル紀」。

この時代に生物の本格的な上陸が始まる。

植物や動物の多くが陸地へ上がり始めた。

約4億1600万年前~約3億5920万年前、「デボン紀」。

この時代の終わりに、両生類(現生両棲類)が誕生する。

約3億5920万年前~約2億9900万年前、「石炭紀」。

今から約3億1200万年ほど前に、

両生類(現生両棲類)の中から「有羊膜類(ゆうようまくるい)」と呼ばれる分類が誕生する。

「胚(受精卵が細胞分裂を繰り返し、ある程度の生物構造が出来上がった状態のもの)」が「羊膜(生物の受精後の過程で見られる胎児を包む膜)」というものに包まれている構造を持つ生物群である。

有羊膜類は、

  • 竜弓類(りゅうきゅうるい)
  • 単弓類(たんきゅうるい)

という2つのグループに分かれ、

    • 「竜弓類」は現生の爬虫類や、既に絶滅した恐竜、さらに鳥類へと分化して行くグループ。
    • 「単弓類」は、その後「獣弓類」という過程を経て、哺乳類へと進化して行くグループ。

つまり人間と恐竜の共通祖先は、約3億年前に分化したことになっている。

「単弓類」と「竜弓類(双弓類)」は古生代石炭紀には分岐して別々の進化をして行く。


  • 竜弓類(りゅうきゅうるい、Sauropsida )は四肢動物有羊膜類分類群の一つ。蜥形類とも。有羊膜類の二大グループの一方で、哺乳類よりもワニトカゲに近縁な生物の総称。他にカメ恐竜鳥類ヘビなどを含む。恐竜類(絶滅)と爬虫類に分岐。
  • 単弓類(たんきゅうるい、Synapsidあるいは単弓綱/単弓亜綱、Synapsida)は、脊椎動物のうち、陸上に上がった四肢動物のグループ(分類群)の一つである。哺乳類および、古くは哺乳類型爬虫類とも呼ばれたその祖となる生物の総称である。共通する特徴としては、頭蓋骨の左右、眼窩後方に「側頭窓」と呼ばれる穴がそれぞれ1つずつあり[1]、その下側のが細いアーチ状となっていることである。この骨のアーチを解剖学では「弓」と呼んでおり[2]、このグループではこれを片側に一つ持っているために単弓類と呼ばれる。爬虫類以上の四肢動物のうち、片側に「弓」を二つ持っているものは双弓類、一つも持っていないものは無弓類と呼ばれる。

 

約3億年前、石炭紀において単弓類は「哺乳類型爬虫類」と呼ばれ、蜥蜴(トカゲ)のような姿をしている。

 

古生代ペルム紀(今から約2億9,900万年前から約2億5,100万年前)前期に生息していた肉食単弓類のディメトロドン (Dimetrodon) の全身骨格標本。

学名:Dimetrodon limbatus 

分類「単弓綱(たんきゅうこう)、単弓亜綱(たんきゅうあこう)」、「爬虫綱(はちゅうこう)」、「盤竜目(ばんりゅうもく)」、「真盤竜亜目(しんはんりゅうあもく)」。

恐竜ではなく、哺乳類型爬虫類である。

 

 

最初はトカゲのような形状だった単弓類のグループでは、その後ペルム期後期には獣弓類が登場する。

獣弓類
キノグナトゥス
キノグナトゥスの復元想像図
地質時代
ペルム紀後期 - 現代
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
上綱 : 四肢動物上綱 Tetrapoda
: 単弓綱 Synapsida
: 獣弓目 Therapsida
学名
Therapsida
Broom1903
亜目 , 下目
本文を参照

獣弓類(じゅうきゅうるい、Therapsidまたは獣弓目、Therapsida)は、四肢動物単弓類分類群の一つ。

盤竜類から進化したグループで、初期においては盤竜類と大差ないトカゲの様な姿であったが、その後期においては体毛恒温性を獲得していった。

哺乳類はその唯一の現生群である。

 

 

単弓類のグループはこうして次第に現生哺乳類に近い形状に進化し、この時代の覇者となるが、


ペルム紀末

古生代後期のペルム紀末、P-T境界(約2億5100万年前)に地球の歴史上最大の大量絶滅がおこった。

海生生物のうち最大96%、全ての生物種で見ても90%から95%が絶滅した。

すでに絶滅に近い状態まで数を減らしていた三葉虫はこのときに、とどめをさされる形で絶滅した[5]

この大量絶滅は化石生物の変化から実証されているが、絶滅の原因にはいくつかの仮説がある。

  1. 全世界規模で海岸線が後退した痕跡がみられ、これにより食物連鎖のバランスが崩れ、大量絶滅を引き起こしたという説がある。
  2. 巨大なマントルの上昇流である「スーパープルーム」によって発生した大規模な火山活動が、大量絶滅の原因になったという説もある。超大陸であるパンゲア大陸の形成が、スーパープルームを引き起こしたとされる。


実際、シベリアにはシベリア・トラップと呼ばれる火山岩が広い範囲に残されており、これが当時の火山活動の痕跡と考えられている。

火山活動で発生した大量の二酸化炭素温室効果による気温の上昇を引き起こした。

これによって深海のメタンハイドレートが大量に気化し、さらに温室効果が促進されるという悪循環が発生し、環境が激変したと考えられる。

また、大気中に放出されたメタン酸素が化学反応を起こし酸素濃度が著しく低下した。

このことも大量絶滅の重要な要因となった

古生代に繁栄した単弓類(哺乳類型爬虫類)はこの際に多くが死に絶え、この時代を生き延びて三畳紀に繁栄した主竜類の中で、気嚢により低酸素環境への適応度を先に身につけていた恐竜が後の時代に繁栄していく基礎となったとされる。

なお、単弓類の中で横隔膜を生じて腹式呼吸を身につけたグループは低酸素時代の危機を乗り越え、哺乳類の先祖となった。



大量絶滅の後、地球を支配し始め出したのは、

この時すでに呼吸機能を発達させていた、

竜弓類をルーツとする「双弓類(そうきゅうるい)」


 

その後、三つの中生代に入る。

 

  • 三畳紀 (約2億5100万年前~約1億9960万年前)
  • ジュラ紀(約1億9960万年前~約1億4550万年前)
  • 白亜紀 (約1億4500万年前~約6600万年前)

 

 

単弓類と入れ替わるように進化し始め、双弓類が大型の恐竜へと進化して行く。

 竜弓類(双弓類)は単弓類の衰退と入れ替わるように三畳紀辺りから多様化し始め、恐竜の他、翼竜や魚竜、首長竜、カメやワニ、トカゲといった現生爬虫類の先祖も誕生する。(ヘビの派生は白亜紀)

鳥類の出現はジュラ紀中頃であり、系統的には恐竜に近い。(ティラノサウルスも遺伝子的にはニワトリに近い)

分岐学観点から、翼竜は恐竜とは近いグループではあるが恐竜ではない。

首長竜や魚竜に至っては、系統的にも随分と離れている。

 

(サイト様方の転載のまとめ終わり)


 前置きが非常に長くなりましたが、実は今日の午後3時過ぎからずっと、綾野剛は実は魚類、両生類、爬虫類、どれなのか?ということについて、真剣に考えています。

本人の言うところでは、どうやら実は「魚類」であるそうです。

冗談で言っているのではなくて、実は人間という種も、魚類、両生類、爬虫類、恐竜類、哺乳類、鳥類、などという風に、ものすごく派生しているのではないかということなんです。

でね、自分は「恐竜類型人間」だと感じてるんですよ。

哺乳類型人間じゃないんですよね。

もう少し厳密に言うとね、「恐竜型人間」とは、「竜型人間」です。

恐竜が祖先なわけではなく、あくまで血を引いているのは「竜型人間」です。

だから竜弓類というグループがね、実は「竜型人間」のDNAを使って高度文明によって何者かが作り出したグループであって、竜型人間のルーツが竜弓類ではなく、竜弓類のルーツを辿れば竜型人間に行くのではないかと想っています。

で、竜弓類(双弓類)、単弓類からたくさんの種が派生して行ったのですが、そこでは竜型人間と哺乳類型人間として、別の存在によるDNAの意図的、計画的な操作が行なわれていると考えられる。

地上には、竜型人間の遺伝子操作で誕生している竜型人間の血を引く人間と、哺乳類型人間の遺伝子操作で誕生している哺乳類型人間の血を引く人間に分かれて存在(誕生)しているということです。

でね、もし綾野剛が、魚類だったなら、それは魚竜ではないかなと想像しています。

血が、魚竜型に一番濃いということですね。

勿論、彼も人間です。でも実は「人間」は、「一種類」ではないという話です。

自分は「鳥類」に、一番血が濃いのかもしれません。鳥類に血が濃い竜型人間です。

綾野剛も、竜型人間です。(ちなみにエドワード・スノーデンも完全に竜型人間ですね)

スノーデンは、蛇に血が濃い竜型人間だと踏んでいます。

うちの両親、姉兄も竜型人間であるのは確かでしょう。

似ている人間を挙げると、母は吉永小百合、父はクリント・イーストウッド、ヴェロキラプトル、姉はアンネ・フランクとモナリザ、上の兄(一歳時に母の姉の家に養子に貰われた)はロバート・ルイス・スティーヴンソン、下の兄はオダギリジョーと浅野忠信などです。


ヴェロキラプトル(Velociraptor)


似ている人間も全員が竜型人間ですね。想うに「ユダヤ系」は竜型人間であります。

竜型人間が、哺乳類型人間と結婚した場合、竜型人間と哺乳類型人間のハーフ(混血)ができます。

血が薄くなってしまうわけですね。

だから竜型人間は、自然と竜型人間と結婚し、哺乳類型人間は自然と哺乳類型人間と結婚してきた。

本能的に、それを嗅ぎ分けることができるのです。プログラミングされているわけです。(そういえばわたしの小学生時代の夢は恐竜の化石の発掘研究者でした)

竜型人間は、竜型人間に何故か魅力を感じ、哺乳類型人間は、哺乳類型人間に何故か魅力を感じてしまう。

綾野剛は、最初彼を知ったとき竜型人間であるということはもう自然と感づいていたのですが、

何故かものすごい敵対心を感じていたんですよ。この感覚はエイフェックス・ツインに対してもそうでした。

エイフェックス・ツインも間違いなく竜型人間ですね。


Aphex Twin


顔や雰囲気的なものを観ただけでわかるものがあるんですよ。

最初は凄く気に入らなかったのに、その後、よく知れば大好きになってしまった。という展開が

エイフェックス・ツインと綾野剛、同じなんですよね。

だからね、例えばわたしがティラノザウルス時代だったとき、

彼らは魚竜だったのかもしれないと考えたんです。

ティラノザウルスのわたしは、ある日、水辺でぼんやりしていた。



ちょっと腹減ったなあ、いや待てよ?これはちょっとの空腹と言えるのであろうか?

実はものすごい空腹ではないのか。しかし俺は、この空腹感を、すこし楽しんでいるとも言えよう。

まあ狩りはしんどいしな。体力すっごい使うもん。楽しいもんではないね。

そう言いながら俺は、みずからの羽毛を繕っていた。

美しい午後の光が反射する水辺で。

その時であった。

一頭の10メートルほどのクロノサウルスが俺の近くの浅瀬まで泳いで来た。

 

「おい、そんなところで何してんだ」

俺は考え事をしていた為、その言葉を聴き取らなかったのである。

するとそこへ、また1頭、泳いで来る者があった。

全長26メートルもありそうなショニサウルスである。

俺はかなり、びびった。やたらにでかかったからである。

彼は最大級の魚竜で、みんなからも怖れられていた。

しかし性格は穏かで、烏賊が好きな奴だった。

俺はその巨大さに怖れたが、ショニサウルスがティラノザウルスを喰うた。などという話は聞いたことがなかったので、まあ大丈夫やろと想って水辺を離れることはしなかったのである。

だがそんな巨軀のショニサウルスが浅瀬まで遣ってきたものだから、彼はその場で身動きが取れなくなり、

「う~ん、これは困ったものだなあ。ぼくはどうしたら良いのだろう」などと暢気なことを言っていた。

そこへ側で見ていたクロノサウルスが座礁しているショニサウルスに向って言った。

「おい、そんなところにでっかいおまえがいたら邪魔ではないか。さっさと戻れよ」

しかしショニサウルスはもうどうにもならないという絶望のなかにも、それでもポジティブに優しい笑顔で笑っていた。

「おい、何笑ってるんだよ。どけっつってるだろ」

その時である。

ショニサウルスは、地上に大きく跳ね、その刺激と飛沫は、大量絶滅の発端となる巨大隕石を、この地球に引き寄せたと言われている。

 

Aphex Twin - T69 Collapse


蜿蜒の乳

2018-09-08 06:23:55 | 物語(小説)

彼は、目を細めて微笑うと言った。
「ご安心ください。わたしは、貴女の知る者ではありません。」
加菜恵は静かに、彼が後の言葉を発するのを待っていた。
彼はもう一度困ったような顔で微笑んで、キッチンに紅茶を淹れに行くとそこから彼女に向かって、
「お金はほんと、いつでも構いません。厳しい月には分割の支払いも無しで、翌月の後払いで大丈夫です。無理はしないでください。」と言って彼独自の、複雑な営業スマイルで微笑む。
加菜恵は彼と、あるSNSアプリで知り合った。
彼は自分のことを、『何でも屋』と称し、加菜恵のゴミ屋敷寸前のこのマンションの部屋の片付け、掃除、ゴミと不要物の処分を、月々三千円の分割払いで引き受けると言って今日の午後に遣ってきたのだった。
彼とはこれまでチャットと通話で三ヶ月ほど、色んな相談に乗って貰っては良いアドバイスを聴いてきたので、多分大大丈夫だろうと、彼のことを信用してはいたが、それでも一縷の不安を取り除くことはできなかった。
しかしドアを開けた瞬間、そこに立っていたのは想像以上の繊細で優しげな風貌の好青年であった。
とても華奢で観るからに、草食系男子といった感じで、何かにつけて控え目で、上品な彼の存在を、加菜恵はとても安心してかれこれ、三時間以上、一緒にいる。
年齢は二十七歳、加菜恵の十五歳下だ。
「まずは、要るものと要らないものに、分けて袋に入れていきましょう。」と彼が言っても、加菜恵はなかなかそれが決められないのだった。
例えばこのリュック、兄が住む実家に四年前に行ったとき、その様子があまりに酷かったことから、自分一人で掃除用具を持って電車を乗り継ぎして片付けに行くために買ったものだが、その後、兄からの承諾のメールの返事は来なかった為、未だにタグが着いたままで埃を被ってずっとそこにある。
これを捨てるか、捨てないか。その一つに、加菜恵はもう十五分以上悩んでいるという始末だ。
値段は二千幾らとかだった、大して高くない。
彼はちゃんと使えそうなものはリサイクルショップに持って行くと言ってくれた。
勿体無いという気持ちはこの際棄てましょうと彼は何度も違う言い方で加菜恵に伝える。
しかし加菜恵は、鬱症状が酷いため、決断能力を人の何倍も、喪ってしまっている。
横殴りの雨が、突然遣ってきて、この部屋のドアに当たり続ける音と、雨の降り頻る音、その時、彼が加菜恵に言った。
「では、わたしが決めます。これは、リサイクルショップに売っちゃいましょう。売値が付いたら、その分は御返済致します。物が多すぎるので、いつか使えるかもしれないと想って何でも取っておくとなかなか片付けて行くことが難しいです。」
彼はまた、加菜恵を見つめてどこか寂しげな営業スマイルで微笑んだ。
加菜恵は、彼の目を見つめ返し、こくりと頷いた。
そうして三時間以上経って、なんとかゴミ袋一つ分の物を、捨てる決断を二人で出来たことに、紅茶の入ったマグカップを持って祝い、加菜恵は溜め息を深くつき、彼は窓を見やって「疲れたでしょう。今日はここまでにしましょうか。外の雨がもう少し小降りになったら帰ります。」と言って紅茶を啜った。
加菜恵は蚊の鳴くような声で訊ねる。
「本当に後払いで良いんですか。」
彼は頭の中で想った。
あれ...これ何度目だろう...。
彼は目の前の加菜恵を見つめて「ははは」と力なく笑うと言った。
「ぼくのこと、まだ信用できませんか。」
加菜恵は彼がそう言い終わる前に言った。
「後でいかついヤクザを数人連れて来さして、おい姉ちゃん、身体で払ってもらうでぇ、んなもん、ははは、そんなうまい話、この世界にあるわきゃあらひんでっしゃろ、馬鹿正直のアホは損するて、覚えとっきゃ。って言われて...」
「ありません。そんなこと。」
彼は少し怒った顔をしてすぐさま答えた。
「ごめんなさい...」加菜恵は気まずくなり顔を伏せた。
「加菜恵さん、どうしたらぼくのこと信用できますか?」
彼は悲しい顔でそう問い掛けた。
加菜恵は頚を傾げ半笑いで「さあ...だって今日会ったばっかりですし...」
「ね?」
「ね...?」
「そのあと、"ね"を付けたら、"今日会ったばっかりです。死ね。"ってぼくに言ってることになります。」
加菜恵はドキドキした。何を言ってるのかしら、この人...
加菜恵は怖くなって、なんと言い返したら良いかわからなくなった。
気づくと雨は、もうすっかりやんで虫の音が、涼やかに聴こえている。
「雨...止みましたね。」
彼は寂しそうに窓を見て言った。
加菜恵は黙って、彼の横顔を眺めている。
「蛙とか...好きですか、爬虫類とかは...」
出し抜けにそんなことを訊ねられ、彼は困惑の顔を隠さず答えた。
「いえ、特には...何故そんなことを訊いたんですか?」
加菜恵は半笑いの顔のまま、小さな木目塗装のテーブルの右端を目で固定し、何も返さなかった。
彼はそんな加菜恵を、半分泣きそうな顔で見つめることしかできなかむた。
どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
気づけば午前、三時半を過ぎていた。
あのあと加菜恵は、おもむろに立ち上がると一人で赤ワインの瓶に残っていた半分を飲み干し、万年床の上に無言でダウンした。
彼はじっと座って、加菜恵の寝顔を見つめていた。
加菜恵は喉の渇きに目が覚め、寝返りを打って屁をこくと、そこに彼が、まだ座って居たので、ぎょっと目を見開いた。
「なんでまだ、居るんですか。」
加菜恵が恐怖の内にそう言うと、彼は傷ついた顔をして言った。
「黙って帰って、加菜恵さんが、ぼくがいないことに寂しがるとダメですから...」
この言葉に、加菜恵はグッと来るものを覚えたのだった。
しかし同時に、こうも想ったのだった。
「俺やなくて、おまえが寂しいんやろ。」
「来いよ。こっち。来いよ。来てえんだろ?」
加菜恵はハッとしたが、時既に遅し。脳内でだけの、言語であったはずが、酒を飲みすぎたからであろうか、その言葉を加菜恵は、はっきりと発声してしまっていたのであった。
彼はその言葉を素直に受け止めたのか、もじもじとし出した。
加菜恵はずっとその様子を冷静に見つめていた。
蛇の脱皮を観察するように。
「ちんこ立ってるのか。」
「えっ...?」
「ちんこ、立ってんのか。」
加菜恵は最早、後戻りは出来ないと想った。
もう終りだ。御仕舞いだ。せっかく好都合で便益、便利で利便性に優れた能率的で機能的な重宝な道具、いや人を見つけられたと想ったのに...
加菜恵は悲しくなって涙を音もなく流し、枕を濡らした。
「何故...泣いているのですか...?」
彼の問いに、加菜恵は答えなかった。
彼は呼吸を荒くして、「お水持ってきます。」と言い、立ち上がった、その時である。
「待って!」
加菜恵は叫んだ。
吃驚して彼が振り返る。
「子、子、子、子、子、子、子、子、子、子...」
「加菜恵さん、お、落ち着いてください。どうしたんですか...?」
「子、子、子、子、子だ、子種...い、一億、積みますから...きみの子種を、わたしに、どうか売ってください。」
彼は強い眼差しを光らせて加菜恵を見つめ、そのまま水を汲みに行って戻ってきた。
そして加菜恵の身体を起こし、水を飲ませた。
「ありがとおおきに。ほんまにきみは、気が利く子だこと...」
加菜恵は感心して素直に言った。
彼は加菜恵の肩を支え、小さく言った。
「それはつまり、ぼくと子作りに励む為の一億を積む、ということですか。」
加菜恵は頚を振った。
「いいえ、どのような方法でも良いのです。わたしが子供を授かるならば...」
「人工授精や体外受精でも構わないということですか。」
「ええ。」
彼は一瞬、顔を翳らせたが、いつもの複雑極まりない営業スマイルに戻り、加菜恵に向かって微笑んだ。
「わかりました。ぼくで良ければ、ぼくの子供を産んでください。一億円は、後払いの分割払いでOKです。」
加菜恵はホッとし、彼の胸に頭を預けて目を瞑った。
寝息が聴こえている...
彼は彼女の耳に、まるで母親が子に、絵本を読み聴かせるように囁き始める。
お母さん...ぼくのこの...苦しみが、痛みが、貴女に伝わりますか。貴女は十五歳でぼくを産み落とし、流したのです。厠へ...ぼくはそこから、独りで這い上がってきた。貴女の糞尿と羊水と胎盤まみれの汚水槽が、ぼくの揺り籠でした。貴女の新しい糞尿と経血が、ぼくの大切な栄養分だったのです。あたたかかった。貴女の汚物は何より、ぼくを安らかにしました。ぼくは誓ったんです。一生を、貴女の汚物にまみれて生きたいと。貴女の中にある穢いすべてが、ぼくを育ててくれたのです。紛れもなく、わたしだけの貴女の愛は、貴女の汚物、そして貴女の汚水。貴女の穢いすべてこそ、美しい...ぼくを何より苦しめる貴女は、貴女の排泄する糞尿より、血より、穢く、おぞましい...わたしの子供が、そんなに欲しいですか?貴女が便所に、雪隠に、堕として糞便と共に流したわたしと貴女の子供が、貴女は欲しいとわたしに言った。もし、わたしの子供を貴女が産んでくださるなら、その子供は、貴女はわたし以上に可愛がる御積りですか。わたしはもう、用の無い、排泄物と変わりはありませんか。貴女の中から、出てきたのです。わたしは貴女の中から、生まれ堕ち、今、貴女はわたしを、自らの排泄物以下としています。貴女はいつもわたしに相談していましたね。男など、信用できない。どのような男も。だからわたしは、わたしの愛する子供がいればそれでいい。男など、子種を着けるだけの価値しかない。どのように、わたしは望む赤ん坊を産めるのでしょう。どのように、わたしの可愛い可愛い赤ちゃんの父親の遺伝子として認める男に出逢えるのでしょう。子種だけ貰えれば、あとは何も、必要ありません。男など、皆、馬鹿ですから。母親の代わりを探しているに過ぎません。母親に似た女しか、愛さない男を、わたしは探しています。その男の母親はきっと、わたしでしょう。例え息子のようにしか想えない男でも、わたしが認めるなら、わたしのたった一人の愛する我が子の父親の遺伝子として相応しい。わたしはどうすれば彼と、出逢えるのでしょう。
わたしは愛しています。今はまだ、どこにも存在しないわたしの子供だけを。わたしは彼だけを愛するのです。まるで、母親のように...

気づけば彼の目からは白濁と、涙は母乳となって、彼の胸に抱かれる小さな母親の口許に垂れ落ちた。
彼の母乳は、それから蜿蜒と、垂れ落ち続けて渇くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Hold The Baby

2018-09-07 21:49:16 | 

ナオさん、本当にごめんなさい。

gooID取得者だけ、コメントを許可の形にしようと想っていたのですが、

あいつが、gooID取得して、ブロックしても何度も繰り返し作り直して嫌がらせのコメントして来たら嫌だと想って、

それが怖くて、やっぱりコメント欄を誰からも拒否することにしました。

当分の間…一年、二年、いつまでこの設定を続けるかはわかりません。

毎日、本当に孤独でなりません。誰とも、話す人はいないのです。

ナオさんだけが、唯一わたしにとってまともに話せる、まともな関係を保てて行けそうだと、希望を感じられる人でした。

わたしは本当に、他の誰とも、まともに話せる人がどこにもいなくて、ずっとずっとパソコンの画面を見つめて眠る毎日です。

ナオさんのように、例え傷つけられてもあたたかい気持ちでずっと見つめ続けてくれる人は他にもいてくれるのかもしれません。

でもそんな人は、この世界にほとんどいないのです。

わたしはこの世界で、一番汚い人間だと感じています。

遣ること、言うこと、考えること、すべてが汚いのです。

「リップヴァンウィンクルの花嫁」の彼が、わたしの本性のように想えました。

いいえ、あの倍、わたしは狡猾です。

分かる人にはそれが分かるでしょう。

そうです。彼は同類なのです。彼のことです。

だからわたしはどうしてもずっと、彼のことが気に入らなかった。

でも今は、彼のことがとても好きになりました。

もし彼に逢ったなら、彼はわたしのことを母親としてしか想わないだろうと、何故かそう感じるのです。

彼に対する想いは、恋愛感情ではありません。

母と息子の感情なのです。

わたしは彼に何もした憶えもないのですが、彼に対して負い目を感じています。

「ごめんなさい」という気持ちで、彼のことを観てしまうのです。

きっと、難しい縁があるのでしょう。

毎日がとても、虚しい想いです。

昨日も今日も明日も、わたしは誰一人幸せにできないことがわかるからです。

誰も、実はわたしは幸せにしたいなどと想ってはいません。

この世界のほとんどはあまりに虚しく、退屈なものばかりで、彼らが幸せになったところで、わたしはちっとも嬉しくありません。

わたしは自分を信じています。

これほど日々寂しく、虚しく、だれひとりとも深く話すこともない。

そんな日々にわたしが生きているということだけが、奇蹟なのです。

この世界に、本当は誰も生きていない。そんな感覚でわたしは生きています。

わたしが愛しているのは、誰かでもなく、わたしでもない。

すべてでもなく、特別なだれかでもない。

わたしの声が聴こえますか。

わたしはこの星に、生きていない。

どの星にも、生きていません。

今度こそ、嘘の愛を信じて死ねるだろうか。

わたしの課題です。

目が覚めるまでのLimited Holdが、この世界に迫っています。

わたしは、あなたの知る者では在りません。