あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第八十五章

2021-11-14 23:21:33 | 随筆(小説)
死をも覆い、包み込んでくださる闇、エホバ。

こんなことになることがわかっていたなら、
ぼくはあんな言葉を彼女に吐かなかった。
ぼくの言葉が彼女を殺した。
この世界でぼくが最も愛する女性を。

だれかが手を差し伸べる。
打ち拉がれたぼくはその手を掴む。

ぼくは手を洗い、洗ったあとのその手を見た。
ぼくはその愛おしい手を見た。
彼女の手だ。
彼女が喪った、その手だ。

深夜の路上で冷たい雨に打たれ、胎児のように身を丸めて眠るぼくに、
だれかが手を差し伸べる。
あまりの寒さと寂しさに、ぼくはその手を掴む。
ぼくは頭にあたたかい水を注がれる。
闇のなかでぼくはぼくを見つめている。
とても悲しそうな顔で。
彼女は闇のなかでぼくを見つめる。
とても心配そうな顔で。
彼女はぼくにあたたかい手を差し伸べる。
ぼくは闇のなかに凍えながらその手を見る。
ぼくの手だ。
ぼくが喪った、この手だ。
ぼくが殺してしまった彼女の手だ。
ぼくの最愛の女性。
お母さんとお姉ちゃんはひとつとなって、
この闇の空からぼくを見つめ、心配している。
おお、わたしの愛する女神。
貴女を、わたしは殺した。
わたしの手が、あの夜、あなたに手をかけた。
この闇のなかに独りで凍えていた愛おしい貴女に。
わたしは手を差し伸べた。
あの夜。
人々が我を殺しつづけ、我をみうしないつづける、
あの夜。
この凍える闇の地上で。




















Fog - The Poor Fella + A Murder
 





























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