テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ネタバレ備忘録 ~ 「マッチポイント」

2020-12-27 | サスペンス・ミステリー
 allcinemaでエロチック・サスペンスと紹介された「マッチポイント」の息苦しいまでのドキドキが展開する終盤について書いておこうと思います。
 未見の方には当然“ネタバレ注意”です。

*

 クロエと結婚するもノラの事が忘れられないクリス。
 美術館で再会した後、二人はホテルで密会を続け、時間の無い時にはノラのアパートで情事を重ねます。クリスはただ肉欲に溺れているだけですが、ノラにとっては略奪もいとわない逢びきでした。離婚するつもりだと言いながら全然事が進まないのに業を煮やしてイライラを隠さなくなるノラ。クロエの不妊治療が続く中、ついにはノラが妊娠してしまいます。
 一人の時間に耐えられないとノラはますますクリスに不満をぶつけ、それでもクロエへの不倫告白を先延ばしにするゲス男は帳尻合わせに行き詰り、ついにある計画を実行に移してしまいます。

 冒頭でドストエフスキーの「罪と罰」をクリスが読んでいるので、何か事件が起こるんだなという予感はしていた訳ですが、まさかそれが殺人事件にまでいくとはねぇ。
 離婚をしてノラとの新生活に入るのはあまりにも失うものが多いと計算したんでしょう。ま、そんな事は最初っから明白な事なんですがね。
 ヒューイット家の別荘の地下室から猟銃と銃弾をテニスバッグに詰め込み、仕事帰りにノラのアパートに向かうクリス。ノラには良い報告があると嘘の電話をして帰宅時間まで計画に当てはめていきます。
 クリスは一度見かけた事のあるノラの部屋の向かいに住む老婦人の部屋のドアを叩きます。幸運なことに老婆は彼の事を覚えていて、ノラの部屋のテレビの受信具合が悪いのでこちらのテレビの設定を確かめさせてくれと言って、まんまと中に入ることに成功します。
 観ている僕たちはクリスは一体何を始めるんだろうと思うわけですが、老婦人が別の部屋に移ったのを待っていたかのように彼はテニスバッグの中から猟銃を取り出し、組み立て、弾を込めて婦人の居る部屋に向かい、あっという間に撃ち殺してしまうのです。
 はぁ?!ってなもんですが、この後クリスはまるで強盗が入ったかのように部屋中を散らかし、装飾品をポケットに入れ薬の瓶をバッグに詰め込んでいきます。なんとなく計画が分かってきますね。事件の本筋がこの老婦人の殺害に見せかけて、ノラは巻き添えをくった二次被害者にしようとしているのです。

 猟銃を組み立てるのがスムーズじゃない所を凝視するようにカメラが捉えているのでハラハラしますし、殺人を犯した後の震え慄く殺人者の様子もリアルです。
 帰宅の途についているノラの姿や、この後クリスとオペラ鑑賞を予定しているクロエが会場に向かう様子も挿入され、緩急のリズムが見事なモンタージュですね。

 マンションの上階に住む黒人男性がクリスが銃を持って隠れている老婦人の部屋のドアをノックする(何か買う物はないかという親切な声掛けの)お約束のシーンも入り、その男性が諦めて一階に降りた所でノラと逢って会話するシーンも入ります。
 老婦人の部屋の前で隠れるように待つクリス。
 エレベーターで上がって来るノラ。殺害シーンはあくまでも加害者のショットのみの表現でした。
 その後、クリスはタクシーを拾ってクロエが待つ劇場へ行きオペラを鑑賞するわけです。



 以上が終盤の犯罪シーンですが、この後は僕が結末がどうしても承服できない訳を綴ろうと思います。

 まずは犯罪の杜撰さですね。
 あんな住宅街の真昼間に猟銃を使うっておかしいでしょ。ロンドンの昼間の喧騒が如何程のモノなのか知りませんが、消音器も付けていない銃を使うって大胆ですよね。上の方の階だから通りの人には聞こえないかもしれませんが、同じマンション内や隣の棟には聞こえるでしょうに。
 この通りでは強盗事件が頻発しているとノラが言っていたのはクリスの計画が理にかなっていると思わせる伏線ですが、逆にそんな場所なら住民の危機感も強いわけですから、なにも騒ぎが起きない方がおかしいですよね。
 そもそも麻薬常習者の犯罪に見せかけるのなら道具が猟銃と言うのも変です。例えばサバイバルナイフの方がらしいです。音もしないし、持ち運びの簡単さも猟銃とは雲泥の差。貧乏人が猟銃って・・・。

 犯罪の多い通りということからも一つ気になるのは、あの通りに防犯カメラは無かったのか?
 今の日本なら数十メーターおきにカメラがあって、大きなテニスバッグを抱えてビルに入っていく男の姿は確実に映っていただろうし、犯行後に慌てたようにして走り去っていく所も捉えていたでしょう。
 2005年のロンドンだって防犯カメラはあったはずなんですが、アレンのこのお話の時代設定はいつなんでしょうかね?
 まるで、ヒッチコックの映画のお話の様です。

 クリスが犯行を済ませた後に、僕らはノラのお腹の赤ん坊が決め手になるんだろうなと思うわけですが、警察のクリスの事情聴収の際に明かされた彼女の日記の存在にそれ見た事かと思ったのもつかの間、担当刑事からノラの妊娠の話は出てきません。
 つまり、あの妊娠の事はノラの作り話だったという事ですね。
 ま~、これもクリスの計画の穴の一つですよね。
 たまたま妊娠はノラの嘘だったけど、あれが本当だったら、しかも日記に二人のやりとりが詳細に書かれていたらどうなっていたでしょう。

 鋭そうでなんか間が抜けている感があるのがあの警察ですね。
 なんで犯行時間のクリスのアリバイを確認しない?
 被疑者ではなくとも、少なくとも日本の犯罪ドラマでは『念のためですが、この(事件が起こった)時間、あなたは何をされていましたか?』ぐらいは聞くでしょう?
 『テニスをしていました』何て言えばすぐに嘘だとバレるし、アリバイは無いのですから。

 なんか重箱の隅をつついたような印象を持たれるかもしれませんが、それもこれもアレンさんの本の結末がクリスの罪が何の疑いもなく過ぎ去ってしまっているからです。
 「陽のあたる場所」のような裁判で死刑を申し渡されるシーンが無いにしても、彼の人生が音を立てて崩れていく明確な予感を残して終わってくれてたら、上記の疑問はチャラになってしまうはずなんですけどネ。

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