テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

危険な年

2006-04-29 | ドラマ
(1982/ピーター・ウィアー監督・共同脚本/メル・ギブソン、シガーニー・ウィーヴァー、リンダ・ハント/116分)


 1965年。インドネシア、ジャカルタ。空港に降り立ったシドニーのジャーナリスト、ガイ・ハミルトン(“007”の監督とは全然関係ないようです)を、現地のアシスタントとドライバーが出迎える。彼にとっては初めて掴んだ海外特派員のポストだった。
 前任者が引継もせずに出ていったために、ガイは他紙の記者の行動を見ながらの取材活動となる。何のコネもない彼に手を差しのべたのが、ビリーというカメラマン。オーストラリア人と中国人の混血だという彼は、ガイの前任者とも取材活動をしてきた男だった。身体の小さな男だが、何処で掴んでくるのか情報は豊富なモノを持っていた。
 当時、勢力を増しつつあったインドネシア共産党の議長への独占インタビューもビリーのセッティングだった。

 ビリーの紹介で、ガイはジルというイギリス人女性とも会う。彼女はジャカルタ在住の英国外交官のアシスタントをしていた。暫く前まではフランス人ジャーナリストと付き合っていたが、彼がサイゴンへ転勤となった為に今は独り身となっている。ジルも数週間後には本国へ帰る予定だった。

 何回か会っている内に、ガイとジルは愛し合うようになる。しかし、インドネシア国内には不穏な空気が流れてきて、やがて二人にも危険が迫ってくる・・・。


 映画の舞台となった時代はスカルノ大統領の失脚直前の時期で、65年は「9月30日事件」というのが発生した年。映画もこの事件の勃発前を背景にしている。
 「9月30日事件」とは、<急進左派軍人による国軍首脳部暗殺というクーデター、それに迅速に対応したスハルトを中心とする反クーデタ、そして、その後の国内での共産主義者狩り。>(出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)とのことである。

 映画は、ガイとジルのロマンスと政変を絡めているが、途中まで狂言回しになっているビリーにまつわる話も平行して語られていて、幾分散漫になった印象がある。
 クーデター絡みのシーンは緊迫感があるが、「キリング・フィールド(1984)」なんかに比べると迫力不足の感じ。「刑事ジョンブック/目撃者(1985)」、「いまを生きる(1989)」のウィアー監督らしい品の良さがマイナスに出たのだろうか。

 ラスト。「キリング・フィールド」と同じように、ガイはアシスタントを残して母国へ避難する。「危険な年」はここで終わるが、「キリング・フィールド」はこの後のアシスタントの苦難がリアルに描かれたモノだった。後だしジャンケンというだけでなく、事件そのものの過酷さが「キリング・フィールド」を際だたせ、「危険な年」に見劣り感を感じるのは私だけでしょうか。

 ビリーを演じて、翌年のアカデミー助演女優賞をとったのが、リンダ・ハント。最初は、ハンディを持った男優かなと思っていたら、身長145cmの女性でした。男装した女性ではなくて完全なる男性の役です。それでも、“女優賞”なんですな。(当たり前か・・・)

 「エイリアン」から3年目で、まだまだ若いシガーニー・ウィーバー。戦う女性のイメージがありますが、この映画はロマンス要素だけの出演でした。

 尚、音楽はデビット・リーン監督とのコンビでもお馴染みの、巨匠モーリス・ジャールです。

・お薦め度【★★★=一度は見ましょう】 テアトル十瑠

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
偶然、P・ウィアー作品でしたね。 (viva jiji)
2006-05-01 08:06:50
十瑠さんから「南佳孝」にコメントをいただきオジャマしましたら、今朝UPしました「刑事ジョン・ブック」と同監督の作品でしたのね。

私も本作はウィアー作品としてはインパクト薄い印象です。そうそうリンダ・ハントの存在感のみ覚えています。そういえばリンダ・ハントが主演級の他の作品観ましたが・・・女性二人の友情のお話がメインの・・良い映画として記憶してますが題名を失念しました。(笑)
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本当ですねぇ! (十瑠)
2006-05-01 08:47:13
リンダ・ハント。

彼女のフィルモグラフィーをチェックしましたら、そのお話は「月の出をまって(1987)」という作品のようですね。残念ながら、私は見ていませんが、viva jijiさんご推薦ということで記憶にとどめましょ。
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TB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2009-03-03 01:39:40
最近コメントが少ないので、弊記事へのコメントは嬉しかったです。

本作は誰を主人公と考えるか、ということで評価も変わってきますね。
表面的には、ガイとジル(と言っても「007/ダイヤモンドは永遠に」ではない・・・笑・・・ガイ・ハミルトンの監督でボンドガールがジル・セント・ジョンだった)のロマンスとインドネシアの政変が絡み合うように展開しているのですが、僕は出番は多少少なめながら、ビリーが本当の主人公であると思ったのですよ。

ビリー自身が後で言うようにガイ(とジル)は彼の傀儡であり、傀儡が言うことを聞かなくなった時彼は自分とスカルトの限界を知り悲劇に落ち込んで行くんですね。

見かけよりは複雑な文芸的レトリックが張り巡らされている作品と思いますが、僕の考え過ぎかもしれませんので、一般的には十瑠さんのご意見が妥当でしょう。

メル・ギブスンとシガーニー・ウィーヴァーが若いっすね。
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人間的葛藤 (十瑠)
2009-03-03 09:49:48
ウィーバーについて「この映画はロマンス要素だけの出演でした」と書いたように、政変に関して発生する葛藤はジルにはあまり感じなかったし、ガイとビリーとの関係も「キリング・フィールド」のようなモノではなく冷めた感じだったように覚えてます。
ガイとビリーの関係がもっと濃密であれば、ビリーの悲劇もガイの共感として強く印象づけられたんでしょうけどネ。

>ボンドガールがジル・セント・ジョンだった

ハハーッ♪
そこまでは考えなかったなぁ
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