テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

情婦

2007-06-16 | サスペンス・ミステリー
(1957/ビリー・ワイルダー監督・共同脚本/チャールズ・ロートン、タイロン・パワー、マレーネ・ディートリッヒ、エルザ・ランチェスター、ジョン・ウィリアムス/117分)


 「十二人の怒れる男」と同じ57年に作られた、同じく裁判映画の傑作。驚いたことに、ワイルダーは「翼よ!あれが巴里の灯だ」と「昼下りの情事」もこの年に作っている。
 ベルギー人の探偵エルキュール・ポアロが活躍する推理小説でお馴染みのアガサ・クリスティーが、自身の短編小説を戯曲化した物が原作で、映画用に脚色したのはワイルダーと、「おしゃれ泥棒」などのハリー・カーニッツ。裁判劇の面白さと共に、弁護士を演じたロートンの存在感ある老練な上手さ、彼の体調を心配する看護婦(ランチェスター)とのユーモラスなやり取りも所々に挿入され、味わい深い作品となっている。

*

 心臓発作の入院から回復したばかりの老弁護士ウィルフリッドの事務所に、資産家未亡人殺害事件の容疑者となっているヴォール(パワー)がやってくる。医者には過激な刑事事件はしばらく扱わないように言われていたが、ヴォールの無実を確信した弁護士は、不利な状況ばかりの事件に紹介しようとした友人の弁護士が乗り気でないのを見るに、自らが乗り出すことにする。
 年老いたメイドと暮らす未亡人が何者かに殺された夜、ヴォールも未亡人宅を訪れていたが、事件の起こった時間には自宅に居たと言う。しかし、アリバイを証明出来る者は、ドイツで知り合って結婚した妻のクリスティーネ(ディートリッヒ)しかいない。ウィルフリッドは、裁判では妻の証言は夫のアリバイ証明にはならないと言うが、その後事務所にやってきたクリスティーネは、「結婚はしたが、私には東ドイツに夫がおり、正式にはヴォールの妻ではない」と言う。しかも、夫のアリバイについても不確かな表現しかせず、弁護士は彼女を証人として呼ばないこととした。
 ウィルフリッドにとっては、心臓発作用の薬を用意しながらの裁判が始まる。目撃者のいない事件であり、弁護士には勝算があったのだが、最終日に思わぬ人物が現れる。クリスティーネ。しかも、ヴォールにとって決定的に不利な証言をする“検察側の証人”として・・・。【原題:WITNESS FOR THE PROSECUTION

 出だしの退院した弁護士と看護婦のタクシー内でのやり取りはヒッチコック風。ヴォールの話す過去が再現される所は如何にもなワイルダー調。過去のシーンでは、ヴォールと未亡人が知り合う経緯、クリスティーネとの馴れ初めなどが語られる。

 モノクロ撮影は「アラバマ物語」のラッセル・ハーラン。そういえば“アラバマ”も法廷シーンがある映画でした。

 この時ディートリッヒ、56歳。動いている彼女を見た最初の映画で、あの脚線美、色気はどう見ても40代にしか見えません。クールな前半と終盤でみせる情念。「モロッコ」や「嘆きの天使」も懐かしいです。
 かつての肉体派から見事な演技派に変身したパワーは、この翌年、新作映画の撮影中に心臓発作で亡くなっているので、これが遺作となるようです。

 アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞(ロートン)、助演女優賞(ランチェスター)、編集賞、録音賞にノミネートされ、ランチェスターはゴールデン・グローブ賞の助演女優賞を受賞したそうです。


▼(ネタバレ注意)
 終盤のどんでん返しが有名な作品。
 数十年ぶりの鑑賞で、どんでん返しの内容は忘れていたのですが、からくりはすぐに分かりました。小説はともかく、舞台や映画ではなかなか表現が難しそう。確か、最初に見た子供の頃は騙されたような気がします。

 呆気ない結末は、倫理上の観点からああせざるを得なかったのでしょうが、現代なら弁護士にとって極苦(ごくにが)のラストも成立するでしょうね。
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・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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10 コメント

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検察側の証人 (オカピー)
2007-06-16 15:28:53
という原題は冷淡で良いのですが、邦題は情報洩れ気味ですし、思わせぶりすぎで、嫌いです。^^;
元来は舞台劇ですが、幕切れはどう処理しているのでしょうかねえ。残念ながら原作戯曲を読んでいないので、ちょっと解りません。

チャールズ・ロートンはさすがの貫禄。ディートリッヒの妖艶も素晴らしい。
パワーは若い頃に比べればぐっと表現力を増していますが、巧いというところまでは行っていない様子。
幻の遺作は「ソロモンとシバの女王」。撮影半ばで亡くなり、結局ユル・ブリンナー主演で作り直されたので【遺作】にはならなかったのですが。

小道具の使い方など、ワイルダーは巧すぎますね。
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いい写真、お選びになるわ~!♪ (viva jiji)
2007-06-16 15:53:35
ロートンとデートリッヒのこの写真、素敵ねぇ、十瑠さん!!
はじめてお目にかかりましたわ。^^

「翼」「昼下がり」もこの年に作ってるなんて、ほんと、ほんと、ワイルダー、凄過ぎる!

で~も、ロートンと看護婦さんの丁々発止のやりとりの面白さばかりを覚えていて、肝心のトンデンの印象がえらく薄い私の記憶は・・・どうかしてるのかなぁ~(^^;)
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オカピーさん (十瑠)
2007-06-16 22:34:38
戯曲もそうですが、小説の方も馴染みは無いですね。
ラストで何もかも分かって来るというのは、クリスティーの推理小説と同じパターンでした。

葉巻、ステッキ、リフト、メガネ、薬、帽子etc・・・
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viva jijiさん (十瑠)
2007-06-16 22:39:49
映画を思い出しやすいイイ写真でしょう。
ディートリッヒの仕草が撮影スナップみたいですけど、正真正銘、映画の終盤の1シーンです。

「翼」も好きなんですよねぇ。
「第十七」も見たーい!!
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大好きです (豆酢)
2007-06-22 23:50:24
はじめに原作の戯曲の方を読んでいたので、まさかこのオチを映像にするのかっ!という恐ろしさの方が先行していたのです(笑)。
実際映画を観るまでは半信半疑だったのですが、観終わって再び恐れ入ってしまいました(笑)。オチを知った後も知らずとも、この作品は名作の名に恥じないものです。
ディートリッヒの出演作の中では、「嘆きの天使」と同じぐらい好きですね。
ロートンとランチェスターは、さすが実生活でもご夫婦だけに息が合っておられました。
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オチ (十瑠)
2007-06-23 08:09:05
古い推理小説には、似たようなオチの名作がありますが、なかなか映像化された優れた作品は思い当たりませんね。

>ロートンとランチェスターは、さすが実生活でもご夫婦だけに・・

allcinemaにはその辺の情報が抜けてました。
結構年輩に見えたロートンは、まだ60前だったんですねぇ。
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トラックバックありがとう (wangchai)
2009-03-19 06:34:56
ありがとうございました。
写真の場面、終盤間近ですね。ディートリッヒの振る舞いにロートンが驚く場面

コメントに「おしゃれ泥棒」の話が出ていましたが、あの映画大好きです。
「小さな恋のメロディ」のころ、私が洋画に行き始めたばかりで懐かしいですね。「メロディフェア」が日本で大ヒットしましたね。

また訪問させてください。

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wangchaiさん、いらっしゃいませ (十瑠)
2009-03-19 07:55:49
>写真の場面、終盤間近ですね。ディートリッヒの振る舞いにロートンが驚く場面

そうですね。2転3転する終盤の最初の『えっ!?』のシーンです。

「おしゃれ泥棒」は私も大好きです。

宜しくお願いします。
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ディートリッヒ、56歳ですと!? (宵乃)
2010-09-17 11:30:27
どんでん返しにもすっかり騙されてしまいましたが、彼女にも騙されました(笑)
あの美しさで56歳は反則です。しかも、その彼女があれを演じてたというのも驚きです。

この作品のタイトルを聞くと、彼女と老弁護士がぱっと思い浮かびますね。
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宵乃さん、いらっしゃいませ (十瑠)
2010-09-17 13:41:13
再度確認しましたが、ディートリッヒは1901年生まれですから、間違いないですね。
今なら“魔女”ともてはやされてTV番組に出てきそうです。
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