テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

昼下りの情事

2008-11-08 | ラブ・ロマンス
(1957/ビリー・ワイルダー製作・監督・共同脚本/オードリー・ヘプバーン、ゲイリー・クーパー、モーリス・シュヴァリエ/134分)


 オードリーを“浮き世離れした”女優と表現した人がおられましたが、浮き世離れさんの恋愛映画は私ダメなんです。設定もストーリーも面白いのに、クーパーとのいちゃいちゃシーンがホントに浮き世離れしちゃってて・・・。
 「ローマの休日」とか「おしゃれ泥棒」みたいに恋愛以外の本筋があって、流れの中でそういう感情が沸いてくるっていうお話なら彼女の繊細さが生きてくるのに、モロに愛だの恋だのとなると『甘いなぁ』と思っちゃう。だから、これと「麗しのサブリナ」はずっと印象が薄いままの映画なんです。

*

 老いも若きも、恋人同士も既婚者も、そしてプードルさえも愛し合う恋の都パリ。中には秘密の恋もあり、嫉妬にかられる人も出てくる。今日も今日とて、私立探偵クロード(シュヴァリエ)は奥さんの浮気を心配しているX氏の依頼でホテル・リッツを見張り、夫人の浮気現場をカメラに収める。
 クロードの家族は音楽学校に通う娘のアリアンヌ(ヘプバーン)が一人。徹夜で帰ってきた父親を心配する優しい娘だが、父の留守中には事務所の資料を盗み見する好奇心旺盛なところもある。

 X氏が出張中のロンドンから帰って来てクロードの事務所を訪れる。勿論、奥さんに知らせている予定より一日早い帰国だ。クロードの説明では、お相手はアメリカの実業家で大富豪のフラナガン。世界を股に掛けてビジネスにも情事にもご熱心な“いけない男”である。銃を持ち出したX氏は、今夜リッツに乗り込んでフラナガンを撃ち殺すと言う。隣の部屋で二人の会話を聞いていたアリアンヌは、なんとか血なまぐさい事が起こらないようにと学校から警察に電話するが埒があかないのでホテルに乗り込む。フラナガンの部屋の前にはX氏が張り込んでいるのでアリアンヌは隣の部屋からバルコニーをつたって入り、なんとかフラナガンの危機を救う。
 フラナガンはバルコニーからやって来た不思議な娘を『おヤセさん(thin girl)』と呼んで、明日も逢えないかと言う。アリアンヌは、父親の資料から得た情報を駆使して恋多きプレイガールのフリをする。プレイボーイの実体はいかがなものか。ほんの軽い興味本位からフラナガンとの恋愛ごっこを始めたアリアンヌだったのだが・・・。

*

 ワイルダーのパリが舞台のラブ・コメディといえば、この6年後の「あなただけ今晩は」を思い出す。オープニングにナレーションを使って俯瞰的に話し始めるところが同じでした。
 殆どホテルが舞台であるというのはワイルダーの師匠ルビッチの「ニノチカ」も思い出させ、料理やお酒などの小道具の使い方もルビッチ流というか、間接的に人物の心情を表現する巧みさが似ておりました。
 大ベテランのクーパーと“アン王女”から4年後のオードリー。レモン&マクレーンの愉快なコンビとは違う、ぐっとロマンチックなコメディであります。


▼(ネタバレ注意)
 最初の夜に成り行きで交わしたキスにポーッとなり、背伸びをしつつアリアンヌは謎の女を装いながらフラナガンとつかの間の逢瀬を楽しむ。パリでの商用が終わり、フラナガンは去る。
 再びフラナガンがパリにやってきた時、偶然オペラ劇場で二人は再会する。アリアンヌの思いとは違ってフラナガンは彼女のことを忘れていたが、すぐに思い出したフラナガンは、次の日からアリアンヌと逢うようになる。プレイガールを気取るアリアンヌは父親の資料から拝借した男達を過去の恋人に仕立て上げ、だんだんとフラナガンもヤキモチを妬くようになる。
 アリアンヌがレコーダーに吹き込んだ男性遍歴を聴きながらやけ酒を飲んだフラナガンは、翌朝サウナでX氏と再会し、彼にクロードの名刺を渡される。アリアンヌの事を探偵に調べてもらおうというのだ。
 フラナガンの訪問にクロードは驚く。それまでのフラナガンの好みの肉感的な女性ではなく、やせて小柄だという女性の調査依頼にも更に驚く。ベルギーの銀行家、アルペンのガイド、スペインの闘牛士・・・、件の女性がつき合ったという男達はクロードにも覚えのある者ばかりで、やがて探偵の勘が働き出す。

 若い娘がベテランのプレイボーイに憧れる、そんなありきたりなお話を私立探偵の一人娘をヒロインにしたのが面白く、父親の探偵の所にプレイボーイが相談に来るというラスト、そこを紹介するのがプレイボーイに奥さんを寝取られた間抜け氏という伏線の張り具合にも思わずニンマリしてしまいます。

 後半は今となっては予定調和的。それでもクロードとフラナガンの終盤のやりとりは面白かったし、まとめ方には期待したんですがねぇ。忘却の彼方に行っていたラストは、やはり『甘いなぁ』と思っちゃう。

 ラストシーンは、フラナガンはアリアンヌにサヨナラをし、一人列車で去っていく方がペーソスがあって私は好きですね。別れがたいけど、若い彼女の為にオジさんは身を引く。そっちの方が現実的な分、色々と余韻があってよろしいかと。だって、あの年の差じゃ、ニューヨークで上手くいくわけないでしょ。フラナガンが40歳前後くらいの中年男性なら、映画のラストも有りですが。
 例えば、トリュフォーだったら絶対に別れさせると思うんですけどね。
▲(解除)


 時にクーパー56歳。ヘプバーン28歳。どちらも10歳くらい若い役でしょうか。
 フラナガン御用達のカルテットの演奏する「♪魅惑のワルツ(Fascination)」が有名。
 原題は、そのまんま【 LOVE IN THE AFTERNOON 】です。
 「うたかたの恋」も書いたクロード・アネという人の原作があり、ワイルダーと一緒に脚本を書いたのはI・A・L・ダイアモンドでした。




・お薦め度【★★★★=クラシックファンの、友達にも薦めて】 テアトル十瑠

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4 コメント

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大好きな映画です (mayumi)
2008-11-08 23:37:42
十瑠さん、こんばんは!
これ、大好きな作品です。クーパー作品の中では上位にくるかなあ、というぐらい。ただ、元々ワイルダーはケイリー・グラントにフラナガンをやってもらいたかったけれど、断られちゃったんですよね。確かにクーパーがプレイボーイっていうのも珍しいですけど。あと、クーパーが10歳ぐらい若い時であったならば、もっとしっくりくるかも・・・と思ってしまいます。
ただ、十瑠さんが「甘い」と評するラストシーン、私はやっぱり好きなんですよね~。ハッピーエンドは幸せな気持ちになれますので(笑)。
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ケイリー・グラントは・・ (十瑠)
2008-11-09 07:53:20
同じ年に「めぐり逢い」を撮ってますからスケジュールが合わなかったのかも。

>ラストシーン、私はやっぱり好きなんですよね~。

当時としては至極当たり前のハッピーエンドなのかも知れませんね。基本、オブラートに包んだラブコメですから。可愛くって、お洒落で、スマートで。私のようなオジさんは、全て甘いまんまじゃすぐに忘れそうで、最期にしょっぱい後味が欲しくなっちゃうんですよね
返信する
幕切れ (オカピー)
2011-10-15 12:03:11
は僕もお気に入りなんですよ。
「結婚という終身刑に服することになった」なんてナレーションもね。離婚という手もありますが。

「真昼の決闘」でもそうでしたが、クーパー氏の年齢が気になるのは確かですね。
で、当時のスターで彼より一回り若い年代を探してみると、
カーク・ダグラス(41歳)
バート・ランカスター((44歳)
くらいしかいず、どうもダメです。

イタリアのロッサノ・ブラッツィは40歳ですが、アメリカ人のプレイボーイという設定では無理。
プレイボーイの似合うデーヴィッド・ニーヴン(46歳)はどちらかと言えば脇役で味を出す人なので、荷が重い。

クーパー氏は年齢を別にすると、少々真面目なところも見え、適役だったような気はします。
という意味で、上のmayumiさんの「10歳ぐらい若かったら」に全面的に賛同致します^^
返信する
あと10歳若かったら・・・ (十瑠)
2011-10-15 16:28:54
という部分には賛成なので、結末については似たり寄ったりの感じ方をしたと考えていいんでしょうね。

最近は日本の芸能界でも歳の差婚が流行り。
意外にもこの映画、今でも作れそうなお話だったりして・・・
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