(1951/アルフレッド・ヒッチコック 監督/ファーリー・グレンジャー、ロバート・ウォーカー、ルース・ローマン、レオ・G・キャロル、パトリシア・ヒッチコック、ローラ・エリオット/101分)
原題は【Strangers on a Train】。邦題そのままの意味だけど、大昔、日曜洋画劇場で放送された時、淀川さんが『“Stranger”のGのあとにLを入れると、“Strangler=絞殺者”になるんですねぇ。怖いですねぇ~』なんて解説で仰有ってたのを思い出す。懐かしいなぁ。
ヒッチコックとしては「疑惑の影(1942)」、「サイコ(1960)」、「フレンジー(1972)」と同じように性格異常者が出てくる作品で、製作年代を考えると10年に一つずつ作っていった格好になる。50年代のこれは、ルネ・クレマンの「太陽がいっぱい」と同じパトリシア・ハイスミスの原作。
妻と不仲のテニス・プレーヤー、ガイ・ヘインズ(グレンジャー)は、旅の途中の列車の中で偶然隣り合わせた人なつこい男ブルーノ・アンソニー(ウォーカー)と知り合う。お金持ちのお坊ちゃんらしいブルーノは新聞のゴシップ欄でガイがニューヨークの議員の娘と交際中であることも知っており、食堂車が満室で断られたガイを自分の個室へ誘う。二人で食事を楽しんでいると突然ブルーノがこんな事を言い出す。
人は誰しも殺してしまいたい人間がいるものだが、実行に移さないのは逮捕されるのが怖いからだ。動機がある人間が一番に疑われる。だが、全然見も知らない人間が実行すれば動機がないので、疑われることはない。例えば、君が奥さんを殺したいと思っていて、僕が父親を殺したいと思っていたら、お互いに相手を殺す、つまり交換殺人をすれば捕まることはないんだ。どうだ、上手い考えだろう?
あり得ない話に馬鹿馬鹿しくなったガイは適当に返事をして別れるが、実はブルーノは異常な精神の持ち主だった。それから暫くしてブルーノはガイの妻ミリアムを見つけ出し、夜の遊園地で他の男とデート中の彼女を殺してしまう。
ブルーノがミリアムを見つけて彼女に気があるように見せかけて近づいていく遊園地のシークエンスが前半のハイライトで、その後は、『今度は君が僕の父親を殺す番だ』と、ガイに執拗につきまとうブルーノとの心理戦が中心になる。ガイはブルーノの犯行を知った時、警察に話に行こうとするが、そんなことをすれば自首するようなものだと牽制される。交換殺人なんて計画しなければ成立しない犯罪、警察は君を無実とは思わないさ、そうブルーノは言うのである。
恋人アン(ローマン)やその父親(キャロル)、アンの妹(ヒッチコック)などに助けられながらも、つきまとうブルーノのせいで、段々とガイの立場も危うくなる。やがてアンにも疑問が湧いてきて・・・というお話です。
性格異常者とそいつの犯罪に巻き込まれる“巻き込まれ型”のストーリー。そして、ヒッチコックならではの洒落たテクニックが随所に見られる見応えのある映画であります。
冒頭、二人の男がそれぞれタクシーを降りて列車に乗り込む。勿論、片方はガイでもう一人がブルーノだが、面白いのはカメラが男たちの下半身しか撮さないこと。ブルーノは遊び人らしく派手なツートンカラーのコンビの靴を履いていて、ガイはバッグと一緒に数本のテニスラケットを持っている。歩行方向が違う二人の足元だけを撮したマッチカットのカットバック。列車に乗ったガイがシートに腰掛けようとして、ブルーノの靴にコツンと当ててしまう所で、二人の全身を撮るアングルとなる。洒落てますなぁ。
離婚の調停に応じようと妻のミリアムを訪ねるも、彼女はテニスプレーヤーがお金になることを知って、前言を翻して別れるのは止めたと言い出す。怒りにまかせてアンへの電話中に、『(ミリアムを)絞殺したいよ!』と叫んでしまうガイのショットのその後に、両手を絞殺しようとしているかのような格好でいる自宅のブルーノのショットに変わる。ジワジワと凶行の予感を滲ませながらの語り口の巧さであります。
夜の闇の中で無言でミリアムの首を絞めていくブルーノ。彼女のかけていた眼鏡が落ち、犯行の様子はレンズを介して歪んで映される。まるで被害者がもがいているかのように。
後半のハイライトは、ガイに父親を殺させるのを諦めたブルーノが、今度はガイをミリアム殺しの実行犯に見せかけるべく、犯行現場に彼のライターを置きに行くシークエンス。
ライターはアンからガイへのプレゼントで、序盤の列車の中でブルーノの部屋に忘れてしまったものだ。小さなラケットとAtoGという文字飾りが付いている。
警察の尾行がついているガイは(不審に思われないよう)予定通りテニスの試合を行い、日が暮れてから遊園地に向かうブルーノに追いつこうと考える。しかし、3セットで片づけてしまおうとした相手は3セット目から俄然元気を出して、ガイは焦ってくる。一方、ブルーノは遊園地に向かう途中でライターを排水溝に落とし、必死で拾い上げようとする。このガイとブルーノのシーンがカットバックで構成され、サスペンスが盛り上がる。
中盤の、ブルーノとガイが何か関係があるのではと、アンが疑い出すニュアンスの積み重ねも上手い!
ラストは遊園地での警察やら沢山の客を巻き込んだスペクタクル場面になります。
撮影はロバート・バークス(アカデミー賞にノミネート)、音楽はディミトリ・ティオムキン。脚本はレイモンド・チャンドラー&チェンツイ・オルモンドとなっていますが、「allcinema-online」によると、<脚色家の筆頭に作家チャンドラーの名がみえるが、実際の所、何もしないに等しかったそうである>とのことです。
※ネタバレの追加記事~その他の「見知らぬ乗客」たち。
原題は【Strangers on a Train】。邦題そのままの意味だけど、大昔、日曜洋画劇場で放送された時、淀川さんが『“Stranger”のGのあとにLを入れると、“Strangler=絞殺者”になるんですねぇ。怖いですねぇ~』なんて解説で仰有ってたのを思い出す。懐かしいなぁ。
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![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/a8/348e86bdb25b4cf3c19eb112f69ea698.jpg)
妻と不仲のテニス・プレーヤー、ガイ・ヘインズ(グレンジャー)は、旅の途中の列車の中で偶然隣り合わせた人なつこい男ブルーノ・アンソニー(ウォーカー)と知り合う。お金持ちのお坊ちゃんらしいブルーノは新聞のゴシップ欄でガイがニューヨークの議員の娘と交際中であることも知っており、食堂車が満室で断られたガイを自分の個室へ誘う。二人で食事を楽しんでいると突然ブルーノがこんな事を言い出す。
人は誰しも殺してしまいたい人間がいるものだが、実行に移さないのは逮捕されるのが怖いからだ。動機がある人間が一番に疑われる。だが、全然見も知らない人間が実行すれば動機がないので、疑われることはない。例えば、君が奥さんを殺したいと思っていて、僕が父親を殺したいと思っていたら、お互いに相手を殺す、つまり交換殺人をすれば捕まることはないんだ。どうだ、上手い考えだろう?
あり得ない話に馬鹿馬鹿しくなったガイは適当に返事をして別れるが、実はブルーノは異常な精神の持ち主だった。それから暫くしてブルーノはガイの妻ミリアムを見つけ出し、夜の遊園地で他の男とデート中の彼女を殺してしまう。
ブルーノがミリアムを見つけて彼女に気があるように見せかけて近づいていく遊園地のシークエンスが前半のハイライトで、その後は、『今度は君が僕の父親を殺す番だ』と、ガイに執拗につきまとうブルーノとの心理戦が中心になる。ガイはブルーノの犯行を知った時、警察に話に行こうとするが、そんなことをすれば自首するようなものだと牽制される。交換殺人なんて計画しなければ成立しない犯罪、警察は君を無実とは思わないさ、そうブルーノは言うのである。
恋人アン(ローマン)やその父親(キャロル)、アンの妹(ヒッチコック)などに助けられながらも、つきまとうブルーノのせいで、段々とガイの立場も危うくなる。やがてアンにも疑問が湧いてきて・・・というお話です。
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性格異常者とそいつの犯罪に巻き込まれる“巻き込まれ型”のストーリー。そして、ヒッチコックならではの洒落たテクニックが随所に見られる見応えのある映画であります。
冒頭、二人の男がそれぞれタクシーを降りて列車に乗り込む。勿論、片方はガイでもう一人がブルーノだが、面白いのはカメラが男たちの下半身しか撮さないこと。ブルーノは遊び人らしく派手なツートンカラーのコンビの靴を履いていて、ガイはバッグと一緒に数本のテニスラケットを持っている。歩行方向が違う二人の足元だけを撮したマッチカットのカットバック。列車に乗ったガイがシートに腰掛けようとして、ブルーノの靴にコツンと当ててしまう所で、二人の全身を撮るアングルとなる。洒落てますなぁ。
離婚の調停に応じようと妻のミリアムを訪ねるも、彼女はテニスプレーヤーがお金になることを知って、前言を翻して別れるのは止めたと言い出す。怒りにまかせてアンへの電話中に、『(ミリアムを)絞殺したいよ!』と叫んでしまうガイのショットのその後に、両手を絞殺しようとしているかのような格好でいる自宅のブルーノのショットに変わる。ジワジワと凶行の予感を滲ませながらの語り口の巧さであります。
夜の闇の中で無言でミリアムの首を絞めていくブルーノ。彼女のかけていた眼鏡が落ち、犯行の様子はレンズを介して歪んで映される。まるで被害者がもがいているかのように。
後半のハイライトは、ガイに父親を殺させるのを諦めたブルーノが、今度はガイをミリアム殺しの実行犯に見せかけるべく、犯行現場に彼のライターを置きに行くシークエンス。
ライターはアンからガイへのプレゼントで、序盤の列車の中でブルーノの部屋に忘れてしまったものだ。小さなラケットとAtoGという文字飾りが付いている。
警察の尾行がついているガイは(不審に思われないよう)予定通りテニスの試合を行い、日が暮れてから遊園地に向かうブルーノに追いつこうと考える。しかし、3セットで片づけてしまおうとした相手は3セット目から俄然元気を出して、ガイは焦ってくる。一方、ブルーノは遊園地に向かう途中でライターを排水溝に落とし、必死で拾い上げようとする。このガイとブルーノのシーンがカットバックで構成され、サスペンスが盛り上がる。
中盤の、ブルーノとガイが何か関係があるのではと、アンが疑い出すニュアンスの積み重ねも上手い!
ラストは遊園地での警察やら沢山の客を巻き込んだスペクタクル場面になります。
撮影はロバート・バークス(アカデミー賞にノミネート)、音楽はディミトリ・ティオムキン。脚本はレイモンド・チャンドラー&チェンツイ・オルモンドとなっていますが、「allcinema-online」によると、<脚色家の筆頭に作家チャンドラーの名がみえるが、実際の所、何もしないに等しかったそうである>とのことです。
※ネタバレの追加記事~その他の「見知らぬ乗客」たち。
・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 ![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
![テアトル十瑠](http://8seasons.life.coocan.jp/img/TJ-1.jpg)
異常性もさることながらまさにハマり役の
ロバート・ウォーカー。^^
同年、お亡くなりになっていたとか。
この方ご自身もいろいろあったみたいね。
ヒッチさんの中でも好きな作品です。
映像もカッコ良くてね~(^ ^)
どうせリメイクしたいのなら「サイコ」より
こちらのほうがしやすいんじゃなかったのかな
って私などは思ったりもしてますが、
十瑠さんはいかが?
(本音は、して欲しくないけれどね)^^
バチって決まっていますね~
ヒッチコックのような監督は、もうこの先、出てこないかな・・って思いますね
サスペンスなんだけど、小道具でおしゃれに
ホラーなんだけど、少し笑えたり
「フレンジー」でも料理をネタに盛り込んだり
やっぱし
出てこないだろな~
童顔で気味悪い・・というのは「サイコ」のトニ・パキと似たような感じですね。
>映像もカッコ良くてね~
終盤の、ブルーノが遊園地で日が暮れるのを待っているシーンの不気味な美しさ!
リメイクというよりは、交換殺人以上に、動機の曖昧なビックリするような事件が現実に起きてますからねぇ。作り話がそうで無くなっちゃうから、イヤーな気分になりそうな気も。
「サイコ」のリメイクは観てませ~ん
でも、それをこれ見よがしにしつこく見せない。サラッと・・。
あと、俯瞰の入れ方とか、会話の切り返しのタイミングとかが、的を得ているし品がある。
なかなか出そうにないですなぁ。
それもあって、すごく印象に残ってるし、ヒッチコック作品ではベスト3の1本に入れたくなっちゃう作品です。
>ベスト3の1本
華麗なテクニック、ロバート・ウォーカーの名演技、どこかしらイギリス時代の雰囲気も残し、お色気たっぷりのキスシーンまで観られる。
さもありなん
ヒッチコックのベスト3を選べと言われても(誰も言っていませんが)、困っちゃうんだなあ。
戦前の「バルカン超特急」「三十九夜」、40年代の「海外特派員」「疑惑の影」、50年代の「見知らぬ乗客」「裏窓」「めまい」「北北西に進路を取れ」、60年代の「鳥」、70年代の「フレンジー」「ファミリー・プロット」・・・皆それぞれの良さがありまして。
これだけでも11本になっちゃう。
その代わり、「見知らぬ乗客」のテニスの試合とライターのカットバックは、ヒッチコックのベスト3に上げられる名演出かもしれません。
その(↑)カットバックのシーンは超有名ですが、私は前半の遊園地での“ブルーノ、ミリアムに接近す”のシーンも巧いなぁと思いましたね。
今やサイコものなんて珍しくありませんが、ヒッチコックの映像マジックがこの作品を色あせないものにしてますよね~。
ロバート・ウォーカーの演技も印象的だし、母親の描いた絵もインパクト大!
殺されるとも知らず、ブルーノの熱い視線にまんざらでもないミリアムのシーンも、仰るとおり上手かったと思います。
確かに、こういう作品は時間を置いて観ると、また新しい発見があったりして楽しめるかもしれないですね。
>母親の描いた絵もインパクト大!
最初のドッキリは記憶にあるんですが、<息子が殺人犯だと言われても笑っている異常な母親>の顔は忘れてますね。
僕はオープニングのマッチカットがお気に入りです♪